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第十六話 初心者は惑う


 ギルド窓口でギルド証を受け取る。


 「あの…これって…」


 受付のタイナ嬢がニヤリと笑う。


 「メルカス様から伺った話では、ユウジ君はウルムを単独で三匹を倒したと…ギルドとしては実力のある冒険者には相応の働きを期待してますので」

 「それでいきなりランクDからですか…問題有りませんかこれ…」

 「ギルドとしては問題有りません…あとはユウジ君個人の問題は起きるかも知れませんが、ギルドは関知しません」


 シレっと恐ろしい事をタイナさんは言う。つまり、他の冒険者の妬みや嫉み等は、実力で撥ね退けろと言う訳だ。

 実力主義が冒険者の生き様とはいえ、ギルドがそれを煽るのは如何なものかと思うが、一旦決まった事を覆す苦労を考えれば、実力を示して他を黙らせる方が楽なような気がした。

 俺は諦めて受け取った冒険者タグを首に下げた。

 アニメや小説のように、ランク毎に色や素材が違う訳では無く、金属タグに刻印されたラインでランクを判断する様だ。

 縦に一本がFランクで、三本でEとなりDランクからは横に一本となりBで三本となる。

 Aランクの冒険者は斜めにラインが入るらしい。

 ギルド内に入って来た時に、ヤジを飛ばした冒険者がいたが、受付け嬢の態度から警戒してるようで今の所絡んでこない。


 (あー…良く見れば彼等のタグには縦線が三本…つまりEランクか。俺のタグには横線が一本だから彼等より上位になるわけか…)


 流石になんでも屋のギルドとはいえ、この時間では残っている依頼書も少ない。

 取り敢えず泊まる場所を決めようとギルドを出たが、直ぐにギルドの中に戻った。


 「…ユウジ君どうしました?」


 受付窓口に立つ俺にタイナ嬢が声をかける。


 「ギルドで聞くのもなんですが…お勧めの宿屋有りませんか?」


 一瞬キョトンとしたタイナ嬢が微笑みながら、お勧めの宿屋を教えてくれた。

 サージュの町には五軒の宿屋があるようだ、俺がタイナ嬢に説明した条件に合う宿屋は二軒。湯浴みができ、深夜でも開いている事だ。

 タイナ嬢が勧めたのは、一泊銅貨四枚で朝と晩二食(セット)付き、体を拭くための湯の用意もして貰える若草亭。

 もう一軒は一泊銅貨三枚で朝食(セット)と、こちらも湯浴みの用意をしてくれると言う青い兎亭。

 タイナ嬢のお勧めは青い兎亭らしい。冒険者生活では夕食は必ずしも必要では無いらしく、大概は他の冒険者達と酒場等で飲み食いするし、時間もバラバラで宿屋の夕食時間に間に合わないのは良くある事らしい。

 タイナ嬢曰く。夕食を宿屋でとる冒険者を見た事も聞いた事も無いのだそうだ。

 初心者の冒険者だと日に稼げる額はせいぜい銅貨十枚程。これは討伐系の依頼をした場合の話で、お使いや薬草採取等の依頼だとせいぜい銅貨五枚位だと言う。

 薬草採取も、魔獣等が生息してる地域に自生してる薬草は依頼料も高いが、その場合魔獣を倒せる実力が必要なので初心者には向かない。

 となると、安い宿屋へ…となるそうだが、湯浴みが出来る宿屋は間違いなく高い料金らしい。


 (そう言えば若い頃残業で良くカプセルホテルに泊まったが安くて四千円はしてたな…)


 ネットカフェ等は俺がマンションを購入した後に現れたから、宿泊した事がない。実の所、宿泊施設の料金が平均いくら位なのか俺は知らなかったのだ。

 モーズラント家からの謝礼があるので、俺は青い兎亭を宿に決め、タイナ嬢に御礼を述べて冒険者ギルドを後にした。

 説明を受けた俺は、青い兎亭に十日分の宿泊料を払い寝床を確保した。

 青い兎亭は家族経営のアットホームな宿屋だ。


 (うん、良い宿屋を紹介されたな…)


 モーズラント家で、充てがわれた部屋に逆立ちしても敵わないが、ヨーロッパのアパートメントの様な感じでなかなか気に入った(一部屋しかないが…)

 

 まだ日が傾くにはだいぶあるので、俺は宿屋の主人に武器などを扱ってる店を教えて貰い大通りに出た。

 暗くなるまで、まだまだ時間がありそうなので、俺は大通りを観察しながら歩く。


 (店の看板の文字は問題なく読めるな…)


 この国の識字率がどの程度なのか分からないが、店の看板は扱う商品によってその形を変えてるようだ。

 例えば宿屋は横長の楕円の看板。食料品等は真円。衣類は縦長の長方形といった具合だ。

 大概はそれに加え商品の図案(デザイン)が表示されていたので、仮に文字が読めなくても何となくわかる。


 (そもそもわからなければ誰かに尋ねれば良いだけだが…)


 大通りから伸びるやや狭い道には、店舗を持たない屋台等が並んでいた。

 香ばしい匂いにつられ屋台の前で立ち止まる。


 「いらっしゃい」


 少しふくよかなおばさん(俺認識)が声をかけて来た。

 謎の骨に挿した謎の肉を謎のタレを付けながら焼いている屋台だ。


 「一本いくらですか?」

 「一石だよ」


 石貨一枚のようなので、ものは試しで食べてみる事にする。


 「ニ本下さい」

 「はいよ」


 おばさんが謎肉が刺さった骨をニ本大きめの葉に包んで差し出す。

 石貨二枚を渡し受け取る。

 立食いはそこ等で見ていたので、禁止はされていないだろう。

 俺は包を解き一本取り出す。


 (ジャンボ焼鳥って見た目だが…)


 齧り付き咀嚼すると、かなり野性味の強い肉で、例えれば猪肉に良く似ている。

 辛味のあるタレだったが、ピッザにタバスコをヒタヒタにして食べる俺からすれば辛さの程度はレベル三程度だった(意味不)。


 (…いやまて…五十代の俺なら色々刺激に鈍くなってるのはわかるが、この身体はまだ若い筈だから刺激に強いのは変じゃないか?)


 身体能力もそうだが、何らかの耐性もあるのかも知れない。

 食べ終えた後の骨や葉をどうしようかと迷っていると籠を背負った子供が近付いて来て骨と葉を回収してくれた。

 話を聞くと、骨や葉は洗ってから纏めてどこかに売ってお金にするらしい。


 (…なんと言うエコ…まるで江戸時代のようだな。あの籠一杯でいくらになるんだ?)


 宿屋で教えてもらった店のドアを開けると、武器防具を扱う店…と言うよりは、冒険者御用達萬屋といった感じの店だった。


 「いらっしゃい。何が欲しいんだね?」


 カウンター奥の椅子に腰掛けていた老齢の男が声を掛けてきた。


 「冒険者に必要な物を一式見積もって貰えませんか?」

 「……貴族様かね?」


 俺は首を振り違うと答える。


 「ふむ…最近のDランク冒険者は必要な物を全部店に用意して貰うのが流行りかね?」


 俺は慌てて事情を説明する。Dランク冒険者の質を疑わせる訳には行かなかった。

 事情を話すと老人は納得して笑い出す。


 「良くわかった。ふむ…では初心者に必要な装備を選ぶかな…見た目強そうには見えんが魔獣を倒した実力が有るなら装備は良いものを選ぶか……しかしお主珍しい物着とるな…」

 「やはり珍しいですか…」

 「珍しいな。まぁその素材を見抜く奴は儂ら位年を重ねた商人か、余程の金持ちくらいじゃろう」


 そう言いながら謎の背負袋を持ってくる。


 「タグロの皮を使った背嚢じゃ。水を入れても漏れぬし丈夫だ」


 次々俺に質問をしながら品物をカウンターに乗せていく。

 血止め薬。解熱薬。解毒薬。大きな厚布と巻布。解体用のナイフ二本。火起こしセット。水袋。金属製カップニつ。ロープ。


 「小物類はこんなところだろう。効果の高い薬は専門店に行けば良い。後は武器と防具だが…」


 店の棚に掛けてあった剣の中から黄色っぽい材質の剣を選んでカウンターの上に置いた。

 

 「刃こぼれしにくいセレン鋼を使ってる。軽いからお主の好みに合うかわからんが初心者にはこれを薦めてる。防具はお主の着けとるそれなら上に皮の軽鎧で十分だろう。チェーンメイルは必要無いからな」


 革鎧の着け方を教わりながら着込んで行く。

 最後に鞘に収めた剣を腰に下げた。


 「ふむ、初心者ではなかなか全部は揃えられないが、お主は金を持ってそうだから、惜しみなく良い装備はしとくに限る」

 「わかりました。全部でいくらでしょうか?」

 「二金と銀五じゃな」


 二十五万、高いのか安いのか分からないが革袋からお金を取り出しテーブルの上に置いた。

 背嚢を背負い店を出て衣類を扱う店を目指す。

 下着や町中で着る服を買わなければならない。


 (ギルドで見た冒険者は、御世辞にも小綺麗では無かったし、かなり汗臭かった…ギルドの受付け嬢も大変だな…)


 もしかするとこの時代、その手の匂いは気にしないのかもしれないが、現代日本のサラリーをしていた記憶がそれを良しとしなかった。

 日本人は特に僅かな匂いにも敏感に反応したからだ。

 夕食は宿に併設してる酒場で取ることにしてそれまではこの町を周って色々買い揃える事にした。


 (あ、携帯食も買わなきゃな…やはり干し肉とかだろうか?)


 そう言えば時間は何で判断するのか疑問を持ちつつ俺は町を歩き回った。

 

 

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