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第十五話 冒険者ギルド

 

 (綺麗な町だな…)


 町を貫くような大通りは、結構な広さがある。馬車が余裕で四台並んで走れる程だ。


 (家屋は煉瓦造りと木材の家屋が半々だな…)


 木材の家屋と言っても、大通りに面する家屋は木骨に漆喰の壁と言った様式で、中には砂岩壁や煉瓦等を使っている。

 確かに大通りから外れた小道の奥には、全て木材で造られた家もチラホラ見えるが、大抵の家は木と漆喰壁で出来ているようだった。


 (いやーこの町並み懐かしいな…フランスのストラスブールを思い出す)


 大学生時代ストラスブール大学に一年間の交換留学をした記憶が甦る。


 (は!いかんいかん。想い出に浸ってる場合じゃないな…町の探検はギルド登録した後で出来るしな)


 中央の大通りを進んだ突き当たりにある、宿屋の二軒横に冒険者ギルドがあると執事のセバスチャンから聞いていたので情報通りに歩く。


 (街道を歩く人は殆どいなかったんだが…町の中は賑やかだな…)


 大通りを突き当たった先に目印となる宿屋があった。


 (マルトの宿屋…のニ軒横……おー!ゴツい男が出入りしてるしてる)


 マルトの宿屋より大きな建物の正面のドアは、開け放たれていて冒険者だろう者の出入りが忙しい。


 (…さて、ギルドで絡まれると言うお約束だけは回避したいものだな)


 俺は当然の様な態度でギルドの中へ入っていく。

 おどおどするほど人生経験浅くない。こう言う場合当然の様に振る舞うのが絡まれない秘訣だ…と思っていました…


 「おいおい。ここはガキの来る場所じゃねーんだよ!」


 ギルドに併設されてるテーブルに座る、頭の弱そうな三人の男達が俺を見て笑い出す。


 (…さて、どうしたものか…)


 一般的にこう言う輩は、無視も対応も無効なのは人生経験上わかっているが、暴力沙汰になれば警護兵に確保されかねない。

 余り気が乗らないが、ここは無視を決め込み目的の受付けカウンターに向かう。


 「けっ!無視かよ」

 「ガキはお家で母ちゃんのオッパイでも吸ってやがれ(笑)」


 (なかなか言うじゃないか……いかんいかん。無視無視)


 長年のサラリーで習得した鉄仮面の如き無表情を維持しつつ、カウンターの前に立つ。


 「こんにちは。どのような御用でしょうか?」


 カウンター越しに座る若い女性がにこやかに声を掛けてきた。


 (うーん…受付はやはり若い女性なんだな……)


 俺はメルカス伯から渡された書類を取り出し受付嬢に見せる。


 「此方で身分証を受け取る事になっているのですが」


 受付嬢が証明書を受け取り目を通すと慌てて立ち上がる。


 「し、失礼しました。メルカス伯爵様から通知が有りました。ギルドの責任者の部屋にお越し願いますか?」

 「え?…いや、俺は身分証を貰いたいだけなんだが…」


 受付嬢が立ち上がったおかげでギルドの中にいた冒険者達の目が俺に集中した。


 (……何となくこう言う展開も予測してたが…ここは大人しく受付嬢に従っとくか…)


 「あ、分かりました…何処へ行けば?」

 「御案内します」


 受付けの女性が、隣の女性に窓口を閉じる事を伝えギルドの奥へと俺を案内する。

 受付けカウンター裏にあるドアを通り階段を上る。

 二階に上がるとそれ程広く無い通路があり、いくつかのドアが両壁にあった。

 通路を進んだ先に今迄のドアとは違う、少しだけ上等なドアがあり、受付けの女性がそのドアの前で立ち止まりドアをノックした。


 「マスター。メルカス伯爵様から連絡が有りました御方をお連れしました」

 「入れ」

 (ん?女…なのか?)


 ドアの向う側から聞こえてきた声は間違いなく女性のものだった。

 受付け嬢がドアを開く。

 開いたドアの先は十畳程の然程広く無い部屋で、中央にはテーブルとソファー、その先に少し大きめな机があった。

 椅子に座っていたのは間違いなく女性だった。

 俺は一瞬息を止め失礼かも知れないがその女性を凝視してしまった。


 (これは……ここが異世界だと改めて実感したかもしれないな…)


 この世界に来て ウルム と言う魔獣に遭遇した以外は人間の姿形をした者としか出逢わなかったのだから、どちらかと言えば海外に来た様な感じでしかなかったのだ。

 目の前の椅子に座る女性‥


 (漫画かよ…)


 真っ赤なロングヘアーに吊り上がった目尻。猫科独特の縦長の瞳孔…いや、確か人間でも五万人に一人は縦長の瞳孔を持つものがいるらしいが……らしいが、猫耳はいなかったのだ。


 「君がメルカス伯から連絡があった…確か…」

 「ユウジ タカシナです」


 猫耳の女性が肯く。


 「そう言う名前だったな。どうも馴染のない名前なので…失礼した。私はサージュの冒険者ギルドを纏めているエティナ・ブラウズだ」


 そう言い立ち上がると俺にソファーに座る事を進め、自分も向いのソファーに座った。


 「メルカス伯から身分証を預かっている。その際ある程度の事情は聞いているのだが、君は冒険者として生きて行くつもりかな?」

 「…どの程度メルカス伯爵が話されたかわかりませんが、俺には記憶が有りません」


 女性が肯く。


 「この状況では冒険者で身を立てる以外の方法が、今の俺には思いつきません。モーズラント家のアネリア嬢が言うには、俺の身体能力は人よりは秀でてると言われましたのでやってみようと思いました」

 「なる程。モーズラント家の仕事を断ったそうだが?」

 「記憶が無い俺では取引に必要な常識が足りませんので」

 「…そうか。まぁ冒険者になる理由等どうであろうと構わんが、命の危険が常にある事は覚えておけよ?まぁ、町中の仕事なら然程危険は無いがな」


 エティナがニヤリと笑いドアの横に立つ受付け嬢に声をかける。


 「タイナ。預かり物とギルド証の書類を持ってきてくれ……ああ、飲み物もだ」


 タイナと呼ばれた受付け嬢が会釈して、部屋にある別のドアを開けて入っていった。

 

 「さて、特別に私が君のギルド証の発行をしてやろう。メルカス伯から色々面白い話を聞いてるからな」


 (…わざわざメルカス伯爵がギルドに出向いたのか?…それとも何らかの連絡手段が有るのだろうか?)


 「君は ウルムを単独で三匹倒したそうだな?」

 「総数は三匹ですが、最初は別の場所で一匹。後の二匹は初撃で一匹を始末しましたから、二匹同時に対峙はしてません」

 「なかなか詳しく誇張もせず話すものだな。冒険者の中には自分の武勇を盛大に誇張して話す者が多いと言うのに…育ちが良いのか、話し方にも教養が見えるか…まぁ君なら困った冒険者にはならないか」


 タイナと呼ばれた受付け嬢が部屋に入って来て、持ってきた飲み物と書類をテーブルの上に置いた。


 「さて、これが君の身分証だ。そしてこれが冒険者ギルドへ登録する為の書類だ。名前だけ書いてくれれば良い」

 「名前を書く前に質問が有るのですが」

 「ん?なんだ?」

 

 怪訝な顔をするエティナの顔を見て受付け嬢のタイナが溜息を吐く。

 

 「マスター…先ずは冒険者の義務と権利の説明をしないと…」

 「……ああ!そうだったそうだった」

 「ではユウジ様には私から御説明致します」

 「……あの、様は止めて欲しいのですが…」

 「え!でもユウジ様は…」

 

 どうやらタイナは俺の事を貴族階級の子息と思っているらしい。

 俺は自分の事を説明し納得して貰う。

 結局はユウジ君と呼ばれる事になるのだが、これが一般的な冒険者に呼び掛ける言い方なのか甚だ怪しい。

 タイナの説明を聞く限り冒険者が負う義務とは冒険者ランクC以降から課せられる。

 Cランク冒険者からはギルドからの指名依頼を受ける事になるそうだ。

 受けれない事情がある場合、事情を説明し、それが正当と判断されれば罰則は無く、認められない場合罰金が課せられると言う訳だが…こんな事は現代日本のサラリーをやっていればお馴染みである。

 罰金は無いが間違いなく印象は悪くなり出世に響く。

 指名依頼もそうそう有るわけでは無いらしく、ギルドも無理な指名依頼をしないと言う。

 後はかなり自由で会社勤めを数十年もやってきた俺からすればストレスを感じる要素が見当たらないのだ。

 つまる所個人業…今時の言葉だとフリーランスと言うわけだ。

 現代日本と違う所があるとすれば、犯罪に対する罰則が命に直接関わりやすいと言う事だろうか。


 (まぁ中世ヨーロッパを知ってれば当然だし、近代でも国によっては死刑は日常的に行われているしな…)


 権利に関しては、冒険者は国に縛られない…つまり何の保証も無いので自分の身は自分で守れ…と言う訳だが、国民では無いので人頭税さえ払えればわりと自由のようだ。


 「……まぁサラリーよりは楽だな…」

 「?サラリー?」

 「あ、何でも有りません。ここに名前を書けば良いんですね」

 

 名前を書き込んだ書類を持ってタイナは部屋を出て行った。

 エティナが立ち上がる。


 「ともあれ冒険者ギルドへようこそユウジ君(笑)メルカス伯から色々聞いている…期待してるよ」

 

 こうして俺は拍子抜けする程簡単にギルド登録が出来たのだった。


 (……おかしいな…適正とか魔力量を測るとか……)


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