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第十二話 一室で


 暫くして正門横の兵士用の通用門が開き、ナイスミドルな男が現れた。


 「アネリア様。昨日トーンへルブへご出発された筈ですが…何故こちらに?」


 アネリアは周りを見渡し、何人もの兵士がいるのを確認する。


 「グレイズ殿。この場で説明出来る話では無いのです」

 「……なる程。…報告ではそちらの少年…が、俄には信じられない様なスピードで「全責任は私が負います!」…」


 被せる様なアネリアに驚いたグレイズは、アネリアの真剣な瞳を見て肯いた。


 「わかりました。ではこちらからお入りください。説明は私の執務室で伺いましょう。ロラン!」

 「はい!」


 城壁の上に立つロランと呼ばれた兵士にグレイズは命令する。


 「すぐさまモーズラント商会へ出向き、アネリア様のご帰還を伝えてくれ」


 「了解しました。急ぎモーズラント商会へ出向き、アネリア様ご帰還の報告をしてまいります!」


 そう言うと城壁に立つロランは消えた。


 「さ、どうぞアネリア様」


 アネリアが肯き、ユウジの横に立ち手を引くように門を潜って、サージュの町へと入るのだった。

 (うん異世界物定番の"門番と揉める"は回避…したよな…)



 ユウジはお上りさんよろしく辺をキョロキョロと見渡す…事は流石に50男の経験に基きあからさまにはしない。

 さり気なく…さり気なく室内の調度品をチェックしていたのだ。

 若い兵士に案内されたグレイズ隊長の執務室は案外質素だった。

 大きな机と装飾の無い簡素な椅子。

 来客用のテーブルとソファーにも、何の装飾も無い。

 アネリアと一緒に座ってるソファーの前のテーブルには、後から来た兵士が青色の液体が入ったカップが置かれている。


 (…何かしら危険な色だな…飲むべきか?)


 喉が渇いていたがアネリアが手を付けてないので、ここは倣って手を付けるのを我慢した。

 しかし、この怪しい飲み物が何なのか非常に興味がわきアネリアに尋ねる。


 「…アネリア、この怪しい青色の液体は何ですか?」


 アネリアはユウジの顔を見て目をパチパチさせる。


 「ああ…これはユーリアの樹液に砂糖を混ぜた飲み物でコッサと言います。兵士の疲労回復には良いそうですね」

 「へー…とても斬新な色してますね…」

 「とても甘い飲み物ですよ。私はこの甘味が苦手なので…ユウジ様お試しになります?」

 「…甘いの?」

 「私の味覚基準では気持ち悪いほどです」

 「……………止めときます…」

 (甘い咳止め液みたいなものかな…)


 たとえ冷してあったとしても咳止め液をこの量飲めば問答無用で俺は吐く自信がある。

 

 ノックの音がして、グレイズが部屋に入ってくるなりアネリアが経緯を説明しだすと、グレイズの顔付きが変わった。

 一通り説明を聞いたグレイズが俺の顔を見る。


 「ユウジ君と言ったか…不躾なのは重々承知した上で尋ねるが、馬車を襲った賊と君は無関係だろうね?」


 俺は肯き"無関係です"と答える。


 「襲われてる場面を君は見たかね」


 俺は再び肯く。


 「そうか。君から見て襲撃者はどんな感じだったかな?」

 「どんな感じ……この辺りの賊がどうなのかは知りませんが、主犯格の男の命令に的確に反応してましたね。訓練を受けた戦闘集団と言うのでしょうか?」

 「ふむ……ありがとう。君の身元がわからないのは記憶の障害とアネリア様から聞いているが、本来は色々手続きが必要なのはわかっているね?」

 「なんとなくはわかってはいます」


 グレイズはアネリアに顔を向ける。


 「アネリア様が全責任を負う、で宜しいですか?」

 「はい。構いません」


 アネリアがグレイズの顔を見てはっきり宣言した。


 「レスター」


 グレイズの呼び掛けにドアが開き金髪の男が入ってくる。


 「お呼びですか」

 「賊の捜索隊を編成しろ!出発は十五分後だ」

 「メルカス様の許可を取らずに宜しいのですか?」

 「構わん。我々はアリア様の救出と賊の殲滅に出るとだけ報告しておけ。クックックッ…この町の人間に手を出した事を後悔させてやる」


 そう言うなりグレイズと金髪の男は部屋を後にした。


 「……見かけによらず…随分と攻撃的…アクティブな人ですね…」


 アネリアは俺の感想に苦笑する。


 「ええ、見かけは思慮深いおじさんですが…ああ言う方です」


 アネリアは深くソファーに身体を預け少し目を閉じる。

 「ユウジ様の今後は私が保証致します。それと先程のユウジ様の話で賊が訓練を受けた様な集団のように見えたとおっしゃいましたが…」

 「そう見えたってだけだよ。ただ、剣の振り方は多分訓練を受けた感じがしたよ」

 「そうですか……もしそうなら多分狙われたのは私でしょうね」


 俺は驚いてアネリアの顔を見た。


 「えーと…それは…」 


 そこまで言って俺は口を閉じた。理由を知ると言う事は間違いなく何らかの事態に巻き込まれるからだ。これが知った世界ならある程度の覚悟を決める事が可能だが、右も左も分からない場所で無闇に口を出すのは自分にも相手にも不具合を生じさせるのは明白だったからだ。

 つまり、この世界の俺は見た目の年齢に合わぬ程の無知なのだ。


 「狙いが私なら…多分アリア姉様は殺されている可能性があります…」

 「…………………」


 俺は何も言えなかった。アネリアの言う事は多分間違い無いだろう…

 

 "コンコン"

 ドアをノックする音がした。


 「アネリア様アネリア様いらっしゃいますか」


 ドアの向こうから声がした。


 「アネリアです。セバスチャンですね?」


 アネリアが返事をした瞬間ドアが開き老齢の男がアネリアに向かって突っ込んでくる。

 俺は瞬間的に構えたが突っ込んできた男の顔を見て構えをといた。


 滂沱(ぼうだ)の如く涙を溢れさせた、老齢の男がアネリアを抱き締めた。


 「おお!アネリアお嬢様、よくご無事で。セバスはセバスは報告を聞いて、後少しで天に召されるところでしたぞー!!!」

 (……執事さんかな?…)


 見た感じで判断したのだが、多分あっていると思う。


 「セバス私は無事です。アリア姉様は攫われました。お父様は…」

 「はい、わかっております わかっておりますとも。モーズラント家に手を出した者は一族郎党例外なくすり潰してやりますとも」

 (怖っ!この爺さん怖っ!)


 暫くして感動の御対面(セバス主導)が済んだのか、アネリアから俺に視線を移した老紳士が、じっと俺を見詰めた。


 「兵士の説明で大まかな事しかわかりませんが、アネリアお嬢様を御守りしてお連れいただいたと聞いておりますが」

 「その認識はあっています…」


 セバスは肯いた。


 「ああ、失礼致しました。わたしはモーズラント家の執事を務めるセバスチャン・ルイ・セバスチャンと申します」

 「……ユウジ・タカシナです」

 「ユウジ様、アネリアお嬢様をお守り頂き有難う御座います。モーズラント家に仕える者として心より感謝を」

 

 老紳士が深く頭を下げ感謝を表した。


 「セバス、ユウジ様は私の賓客としてモーズラント家に留まって貰います。宜しいですかお母様」


 "えっ"


 俺はアネリアの視線の先に視線を移すと、開いたドアの側に立つ女性がいた。 

 (……いつからいたんだ…) 


 女性の存在をユウジは感じ取れなかったのだ。


 (敵なら殺られてたな…)

 「ええアネリア、構いませんよ。当然モーズラント家の賓客として滞在して頂きます。所でユウジ様は何方のご出身かしら?」


 俺が答えるより先にアネリアが答える。


 「御母様。詳しいお話しは家に戻ってからお話ししたほうが良いかと。ユウジ様もお疲れですので」

 「そうね。ごめんなさいユウジ様。私はシレミナ。シレミナ・リジェ・モーズラントと言います。セバスチャン、ユウジ様を丁重に我が家に御招きして下さい」


 シレミナの言葉に、深く頭を下げるセバスチャン。


 「畏まりましたシレミナ様」

 (……奥様と呼ばないんだ…)


 それにしても先程のグレイズといい、執事のセバスチャンといい、モーズラント商会の当主を失った事にそれ程関心を持っていないように見え、違和感の様な物を覚えた。

 (……仮面夫婦?……うーむ…)


 セバスチャンの後を付き、歩き兵舎の外に出ると立派な馬車が2台止まっていた。

 俺は2台目の馬車にセバスチャンと一緒に乗り込んだ。

 一台目にはアネリアと母親が乗っているのだろう。

 馬車が動き出す。

 海外で乗った馬車より、やはり乗り心地が悪いのは、多分板バネが付いていないのかもしれない。

 元の世界では、西暦500年位には板バネを利用した投石機等に使われていた記録もある。

 異世界とはいえ中世的な世界に板バネが無いと言うのは考えづらいのだ。

 馬車に揺られ十分程走りモーズラント家の屋敷に着いた。


 (……………いや、予想はしていたが…)


 目の前にそびえ立つのは、さしずめフランスのシャンボール城のような屋敷だった。


 (屋敷じゃ無いよな!これ城だよな!)


 せっせと働き、やっと購入した俺の城は三LDKのマンション…

 (いやいや、わかってはいたよ…でかい家を持ちたいなら、自分で事業でも起こさなきゃ無理だって事は…)


 俺は只々馬鹿デカい屋敷を見て溜息を吐くのだった。

  

 

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