第7話 人を探そう その1
昨日の夜は大変な目にあった。
死ぬとこだったからな……
俺もミキも無事で良かったが、これからどうしよう??
「昨日の夜、謎の生物に襲われた!
…………。
…………。
うん……
こっちに来てから大概、謎の生き物じゃねぇか。
いや、だから、そう言う事じゃなくてアレだ、解んないかな?
……兎に角、強制的に拠点を追い出されてしまった訳だが、大事なのは、これからの……
おい、ちゃんと聞いてるのかミキ?」
クマのような獣から逃げるために飛び込んだ川で、流されつつも必死に泳ぎ、辿り着いたこの場所で朝を迎えた健一達。
安全?な拠点を放棄する事になった健一は、これからの事を仲間であるミキに相談したのだが……
健一の相棒である獣は、後ろ足をプルプルさせながら、うんこをしていた。
「まあ、このタイミングでとは思うが…… 自然現象だから。
……。
と、兎に角、俺が言いたいのは悲観するなと言うことだ!
ほら、たとえばさ、丸一日頑張って作業して、完成間近だった家、少しづつ集めた食料、試行錯誤して作った石器、それらが一瞬でパーになった訳だが!
うっ……。
自分で言ってて、思わず少し泣きそうになった。
駄目だ、そうじゃない! 俺が言いたいのは、俺達はツイてるって事を言いたいのだよ、ミキ。
だって、僕達、生きているんですもの!
まあな、現状を悲観するより、大切なのは、生き残った事を喜びましょうって事だ。
なっ?
そうだろう?
そして、それより大切な事は、これからの事さ!
ミキ!
これからも協力して、また頑張っていこうぜ!
……。
まだ終わんないの? うんこ長いな、ちゃんと聞いてる?!」
横で健一が、ごちゃごちゃ言うから気が散って、排泄行為に時間がかかっていると思われるが……。
「ここは…… 元居た場所から大分流されてきたんだろうな。
相変わらず森の中だけど、もしかしたら…… 人が住むエリアに近づいたのかもしれないな……」
そもそも、この世界に人間が居るのかも解らないが、ここが何処なのかを知りたい健一は希望的観測が口から出ていた。
自分でも意識せずに出ていた言葉。
その言葉にハッとする健一。
「ハハッ、そうだよ。
別に日本じゃなくたって、この世界に人くらい居るだろう?
そうだよ! きっと居るに決まってる!
それに、俺以外にもあの日、飛ばされてきた学校関係者が居るかも知れないしな!」
「ワオ!」
「ん? スッキリしたか、ミキ。
フフフ」
何が可笑しい? そうキョトンとするミキ。
「ミキ! 人を探しに行くぞ!
どうせ、やる事なんて無いんだから俺達。
立ち止まって死を待つくらいなら、目標を持って前進すべきじゃないんですか?」
「ワォワウ!」
何か健一がやる気満々なのでミキも嬉しくなって吠えた。
「そうか! お前もそう思うか! 俺達なら、どんな困難にも負けないよな!」
ミキを抱え上げて健一が言っ
ガサガサ……
「ヒィィィイイイイ!!」
藪から音が聞こえた健一は、ミキを抱えたままダッシュした。
・
・
・
無我夢中で森の中を走り回った健一。
四つん這いでハァハァ言ってる健一。
心配そうに健一の顔を覗き込むミキ。
ペロペロと健一の顔を舐めるミキ。
「ちょ、うわぁ、べちょべちょじゃねぇか」
四つん這いのままの健一が顔をあげ、腕で舐められた顔を拭う。
そして、そのまま辺りをキョロキョロと見渡す。
「……どこだここ?
大分走ってきたからな…… 道に迷った?」
膝に手をやりながら立ち上がる健一、そして!
「遭難です」
ミキにドヤ顔で言った健一。
「……」
ジッと健一の顔を見るミキ。
「いや、今のは、そうなんですって答えと、遭難をかけたダジャレなんだけどね」
この期に及んで、説明を始める健一。
「……」
ジッと健一の顔を見るミキ。
「……」
ジッとミキの顔を見る健一。
「休憩は、終わりだ。
行くぞ、ミキ。
気をつけろ、森を舐めるなよ!」
キリっと言って、無かった事にした健一が歩き出す。
理不尽で可哀相だが、ミキは嬉しそうに健一の後を追った。
健一とミキは歩く。
藪を掻き分け、獣道を進む。
暗くなると、焚き火を囲む。
デカい芋虫やバッタのような虫を焼いて食った。
最初は抵抗があったが、先入観さえ克服すれば味は悪くなかった。
エビや白子に近いとさえ思えた。
夜は冷えたが、ミキと寄り添って寝ると暖かかった。
そして、朝が来ると歩き出す。
道中拾った木の棒を杖替わりに進んだ。
そして、夜がきて、朝が来る。
夜がきて、朝が来る……
夜がきて……
・
・
・
健一が咥えていた人差し指を出す。
汚れたシャツに無精ひげ、ボサボサに伸びた髪の健一。
頬もかなりこけて、みすぼらしさに磨きがかかったかのような風貌。
だが、その目は死んでいないようだ。
珍しく決意とやる気が伝わってくるような目をしているのだから。
「……あっちが風上か」
呟くと、先端を尖らせた棒をもって健一は、移動を開始する。
急ぎながらも出来るだけ音をたてないように……
地面に生えた草を食べている獣。
トナカイのように見えるが、ダチョウのような二本の足をしていた。
その獣の風下へと向かった健一。
二本足のトナカイが顔をあげた。
辺りを見渡すように、ゆっくりと右に、そして左に顔を振ったその時!
「ガルルルル!!」
白い毛をなびかせ、走るミキ!
健一と最初に出会った頃より、一回り大きく成長したミキが、自分よりずっと大きな体の二本足のトナカイに飛び掛かった!
バッ!
二本足のトナカイは地面を蹴って、ミキの一撃を躱す。
着地したミキが牙を剝き、二本足のトナカイを睨む。
一歩後ずさりした二本足のトナカイは、逃走しようと走り――
ドッ!
泥だらけの健一が手にした槍が二本足のトナカイの首に突き立てられた。
匂いで気づかれないように風下から、更に迷彩効果と匂いを消すのを狙って、体に泥をつけていた健一。
作戦通り、ミキが注意をひきつけている間に二本足のトナカイのすぐそばまで来ていた健一が渾身の一撃を与えたのだ!
「ブッ、ブモォォォォオオオ!!」
激しく首を振り、槍を掴んでいた健一は、そのまま首の動きで持ち上げられ、吹き飛ばされる!
そして、そのまま二本足のトナカイは、バランスを崩し倒れ、激しくのたうち回った。
地面に叩きつけられた健一は、衝撃で息が出来ず、苦悶の表情を浮かべる。
土を掴み、必死に立ち上がろうとする健一……
「ガルルルーー!!」
暴れる二本足のトナカイに飛びかかるミキ。
だが、激しく暴れる二本足のトナカイの足がミキ目掛けて伸びる!
鋭い爪の付いた足の一撃がミキの脇を通り抜ける。
数センチずれていたら、ミキの体を貫いていたであろう一撃だった。
次の瞬間、ミキの鋭利な牙と逞しい足から延びる爪が、二本足のトナカイの体に突き立てた!!
更に激しく暴れようとする二本足のトナカイだが、その牙や爪が深く突き刺さって振りほどけない。
断末魔の悲鳴のような声をあげ、もがく二本足のトナカイの動きが、どんどんと鈍くなっていく。
そして、二本足のトナカイが見上げると――
「うおおおおおおお!!」
グシャ……
健一が持ち上げていた石が二本足のトナカイの頭部に投げつけられ、辺りは静かになった。
「ハァハァ、ハァハァ…… や、やった」
両膝をついた息遣いの荒い健一が言った。
「ワォン!」
「おわっ!」
ミキに飛び掛かられ覆いかぶさられた健一。
ペロペロと健一の顔を舐めるミキ。
「や、やめ、えぇーーい!」
グイっと大型犬サイズのミキを押し上げる健一。
「もうっ! べちょべちょじゃねぇか」
健一が言ったが、ミキは嬉しそうに尻尾を振っている。
そして、健一が笑った。
「今日のは今までで一番の大物だよな、ミキ!
肉、食い放題!
栄養失調でくたばるくらいならって、賭けに出たが良かった。
無理して頑張った甲斐があったってもんですよ!
食えるかどうかも解らない葉っぱとか、虫や蛙以外の物が食える! 最高だぜ!」
ミキを抱きしめて喜ぶ健一。
「ワォン!!」
嬉しそうに吠えるミキはさらに強く尻尾を振るのだった。
取り敢えず、人に出会うと目標を立ててみたが、全くいない。
体が消耗していくだけだ。
本当に体が動かなくなる前に、大物に挑戦したが、結果良かった!
死ぬとこだったけど……