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第6話 拠点に家を作ろう!

いやぁー、昨日の夜は久しぶりに魚を食えた。

こっちに来てから初めてのまともな食事になったな。

うん。

俺ってツイてる! ……ん~~、そうなのか?

拠点の河原、朝――



 ここが日本では無い事を受け入れた健一。

 昨晩、彼は悲観した。

 だが人間、悲しもうが喜ぼうが、腹は減る。

 悲観した健一も同じだ。

 だから飯を食った。

 お腹が多少膨れると悲観するのを忘れた。

 そして、朝が来て目が覚めた。

 今日も生きる為にやる事が沢山ある。

 いちいち喜んだり悲しんだりしている余裕など、今の俺には無いと健一は思った。




「素材も集まってきたし、そろそろ、やるか……」


 ここで生きていくしかないと悟った健一が取り掛かったものとは?


 『 家 』


 である。


 まあ、家と言っても、立派な物ではない。

 円錐形のテントのような簡易的な物だ。

 テレビのサバイバル系の番組やアウトドアの達人なら一日もかからず作ってしまうような物だ。

 素人で道具も知識もない健一。

 教科書に出てきたソレを校外学習でいった博物館や、教科書でチラッと見た事がある程度だ。

 作りの詳細など知らない。

 やってみてダメなら直す。

 兎に角、行動あるのみ! その精神でやる気満々の健一。


「ワォワォ!」


「うん、邪魔」


 何かやるの? そう興味津々で近づいてきたミキだが、健一にとって作業の邪魔以外何者でもないので、健一は近くに落ちている木の枝を拾い上げると、ミキの鼻先に近づけ、遠くにぶん投げた。


「そうら! 取ってこーい!」


 嬉しそうに投げられた木を追って走っていくミキに声をかける健一。


「さてと、作業開始!

 今日の夜は屋根のある家での就寝になりますな!」


 健一は作業を開始した。




「……こ、今度こそ大丈夫だよな?」


 何度かの崩壊を繰り返しながらも円錐形の家を作った健一。

 当初の想定より大分小さい物になったが、一応それらしいものが完成した。

 時間はかかったがやり遂げた満足感に満ちた顔の健一。

 そのそばには、さんざん作業の邪魔をしてくれたミキがいる。


「どうだミキ。

 俺がやる気をだせば、こんな立派な家を簡単に作ってしまうんだぞ!

 凄いだろ!」


 立派でもないし、だいぶ苦労して作った家を前にして健一が言った。

 

「……」


 無言のミキをよそに、喜び勇んで家へと健一は、


「……うん。

 ち、ちょっと…… 小さいか?」


 中に入ろうとした健一だが、大人の男が入るには小さいその家。

 無理に入ろうとしたが、体の接触で崩壊の危険がある為、断念した健一。


 少し泣きそうになりながらも、空を見上げ悲しみをこらえる健一。



「……よし。


 喜べミキ! お前の家が完成したぞ」


「ワォ?!」


 満面の笑みで言ってきた健一に驚くミキ。


「フフフ、良かったな、この幸せ者め。

 ささ、早くお入り、ウフフ」

「ワ、ワォ! ウウ!」


 後ろからぐいぐい押してくる健一に抵抗するミキ。

 目の前の家を見上げたミキ。


ミシミシ……


「ワ、ワワワォワォ!」


 家と後ろから押してくる男の顔を交互に見ながら、ミシミシ言ってんじゃねぇか! やめろ、バカ!と言わんばかりに吠えるミキ。

 その声もむなしく、頼りない作りの家に押し込まれたミキだったが……


「うん! 思った通り、ミキのサイズにピッタ」

ガラガラガラ!!


 ミキを押し込んだ健一が、満足そうに言ってる途中で家は崩壊した。


「だ、大丈夫か?!」


 慌てて崩壊した家からミキを救出した健一。


「……なんだよ? その目は。

 助けたんだし、無事だったんだから……」


 健一に抱きかかえられたているミキの目が、思った通りじゃねぇかと語っていた。



「もうそろそろ、機嫌直せばいいのに」


 一生懸命作業する自分から距離をとって、こっちを見ているミキに呟いた健一。

 だが、ミキの邪魔が入らずに作業に専念出来るから良いとポジティブに考えるようにして作業を続けた。


 組んだ木の棒をツタのロープで固定していく。

 失敗を繰り返し、少し慣れてきた作業。

 決して器用とは言えない健一だが、最初の頃に比べればずっと手際が良くなっている。

 それでも失敗したりしたが、健一は黙々と作業を続ける。

 失敗、改良、失敗、改善。


「少しくらいの失敗がなんだ。

 人間やる気と根性があれば、何だって出来るさ。

 時間はあるんだ。

 わらびモドキの干したのもあるし、昨日の焼き魚も残ってる。

 ずっとここに住むんだろ、健一。

 諦めるんじゃない、俺!」


 挫けそうになる。

 心が折れそうになる。

 そんな気持ちになりそうになる自分に言い聞かせながら健一は作業を続けた。


「……」


 作業する健一を黙って眺めていたミキは、飽きてきたのか立ち上がると、昨日の焼き魚の残りのところへ行った。



ドサッ!


「ん?」


 健一が音のした方を見ると、ミキがいて、そばに焼き魚が落ちていた。


「ワウ!」


 ミキは一吠えすると、持ってきた焼き魚を食べ始める。


「ああ…… そうか。

 うん、ありがとな」    


 作業に集中していて食事する事を忘れていた事に気づいた健一は、ミキの横に腰かけると、持ってきてくれた焼き魚を持ち上げて齧りついた。


「不格好だけど、最初のに比べたら全然ましだろ?」


 骨組みだけだが、形になってきた家。

 焼き魚を手にミキに言った。

 ミキがワオと答えると、健一は満足そうに笑った。



 辺りが暗くなるまで作業が行われた。

 ミキも木や大きな葉を持ってくるなどの手伝いをしてくれたが、暗くなった事や材料の不足もあり完成には至らなかった。

 それでも天井は骨組みだけだが、床や壁の方はほぼ完成した。

 木の骨組みに草や葉っぱを下から貼り付けていった壁に、草や枯れ葉等を敷き詰めただけの床。

 それでも風に凍えない、硬い石の上で寝ないで済む、それだけで健一は嬉しいのだ。


「こんなに暗くなってしまった! 急がなきゃ」


 急いで焚き火の準備に取り掛かろうとする健一。

 焦る健一をよそにミキは家に入り、丸くなって眠りに入った。


「もう、呑気な奴め」


 焚き火をしていてもミキの親から襲われた事もあったが、あの時以外は、火を焚いていると襲われる事が無かった。

 使い捨てライターの残量が心配だが、闇夜から動物が襲ってくるんじゃないかという心配が勝る。

 家の前のいつも焚き火をしている場所に立った健一だったが、焚き付け用に集めていた枯れ葉も家の床ように敷き詰めていた事に気づく。


「少しだけ持ってくぞ」


 家に戻った健一は、寝床にしている枯れ葉を一掴み焚き付けにするため取った。


「ウ゛ーー!」


 ミキが牙を剝きだして唸り声をあげる。


「なっ! お前なぁ、こーんなちょっと持っていくだけじゃん、それを……」


 子供でも迫力あるなと思いつつ、掴んだ枯れ葉を突き出す健一。

 だが、ミキは明後日の方向を見て唸り声をあげている。

 何かあるのかと健一がその方向を見ようとした時、ミキが健一の横を掠めて家を飛び出した!


「あっ、ミキ?!」


 慌てて健一も家の外に飛び出すと、森の方に向ってミキが吠えていた。


「ワオッ! ワオッ!」


「どうしたんだ?! おいっ、ミキ!」


「ワオッ! ワオッ!」

 

「ミ、ミキって! 一体……」


 狂ったように吠えまくるミキにアワアワしながら健一は、ミキが吠える先に視線を移す。

 凄く嫌な予感がしつつ……


「……ああぁぁ、やっぱり」


 明らかにヤバめなのがいた。 


 距離があるが、デカいのがいる。

 クマに見えるが…… 近くに寄って確認しようという気になどなる訳もなく健一は吠えるミキを抱き上げた。


「逃げるぞ!」


 クマのような獣に背を向け走り出す健一。


「ワオッ! ワオッ!」

「ええぇいっ! うるさいぞ、お前! 暴れるんじゃない!」


 腕の中で暴れるミキに言いながら走る健一。

 後ろから聞こえる足音がだんだんと大きくなっている。

 それだけで凄いスピードだと解った。

 バシャバシャと音をたてながら川に入った健一の耳に、大きな音が! 思わず走りながらも後ろを見た。

 見たと言っても、ほんの一瞬だったのだが、健一の目に入ったのは、家の残骸が飛び散り宙を舞い、そして、すぐ近くまで迫っていた獣の姿だった!

 口を大きく開け、腕を振り上げている獣!

「クソっ!」

 健一は、目の前の川に飛び込む!

 その頭の上スレスレを獣の腕のスイングが通ったのを感じた健一。


 獣は、流されていく健一を追う仕草をしたが、鼻の辺りが動く。

 クンクンと嗅ぐ動作のあと、ゆっくりと川から離れた。

 そして、健一達の獲り干して置いた魚やぜんまいモドキを見つけるとモシャモシャと食べ始めるのだった。



 そんな事を知らない健一は、一日家作りをして疲れた体をむち打ち、必死に泳ぐ。


 遠くへ、遠くへと。


 ミキを抱きながら健一は、必死に手足を動かす。 

 一瞬見えたデカいクマのような獣の姿。

 月夜に光るサーベルタイガーのような、そいつの牙。

 そして赤い目、振りかぶった腕、手の爪、それらが健一の脳裏に浮かぶ。

 少しでも遠くへと、健一は、必死に手足を動かし続けるのだった。



 

「ハァハァ!!」


 大分流されながらも対岸まで泳ぎ切った健一。

 ミキも健一も大量に川の水を飲んだ。

 それにより溺れ死にそうになったが、健一とミキは、何とか生きているようだ。


「ハァハァ、だ、だいぶ流されてきたけど……

 か、川で俺達の匂いを追ってくる事も、で、出来ないだろうし……

 た、助かったんだよな? もう、しばらく動けないぞ、俺、ハァハァ」


 大の字になって言った健一。

 ミキもぐったりしているが、生きているようだ。

 異世界と認めて、やる気になって、それで頑張って作った家。

 それが、完成間近でぶっ壊された。

 だが、今の健一には…… その顔を見る限り、悔しい気持ちよりも生き残った喜びが大きのかもしれない。

怖かった!

何だったんだアレ?!

死ぬとこだった!

でも…… 生きてる俺。

生きるって素晴らしい!

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