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第5話 国道は何処ですか? その4

扶養すべき仲間が増えた俺。

大変になったが、孤独に比べれば、どうってことないや。

さてと…… 此奴に名前でも付けてやるか。

 健一が獣の子を仲間にして数日が過ぎた。



朝、拠点の河原――



「ミキ、好き嫌いは駄目だぞ! モシャモシャ」


 現在の主食であるクソ不味いぜんまいモドキを食しながら、健一が獣の子に注意した。

 この狼か犬のようなモフモフの獣の子が女の子ということで、健一は好意を寄せていた仲の良かった後輩の女性教員の名前を名付けていた。

 気持ちの悪い男である。

 ちなみにその女性教員は、健一の事を単なる同僚、先輩、としか思っていなかった。

 健一が一方的に好きだっただけだ。

 自分より背の高いムチっとしたタイプの女性が好みだった健一にとって、その女性教員はまさに、理想の女性であり一目惚れした相手なのだ。

 そして、彼女のサバサバした性格も、とても好感をもっていた。

 本当に健一は、体育教師の遠藤美紀の事が見た目も中身も大好きなのだ。

 この過酷な環境下でも頑張れている健一のモチベーションを維持させているのは、彼女に早く会いたい、それが一番大きいと言えた。



「ワォ!」


 ミキは一吠えすると、目の前に置かれたぜんまいモドキを前足で、健一の方へと押しやる。


「……お前な、俺がせっかく試行錯誤の結果、不味いがちゃんと食えるレベルにまでした食料を粗末にするんじゃないよ。

 モシャモシャ。

 それに食わないと、大きくなれないよ。

 モシャモシャ。

 ホントに不味いけど、お腹は満たされるからな」


 どこかで聞きかじった、うろ覚えの知識で灰を使って灰汁抜き出来た事を思い出した健一が、失敗を繰り返して何とか食えるまでもってきたぜんまいモドキ。

 灰を揉み混み熱湯をかけ一晩置くという手間がかかるのが難点だが、灰汁がだいぶマシになったそれをモシャモシャと頬張る健一をよそに、ミキは森の方へと歩いて行ってしまった。



「ミキー、あんまり遠くに行くなよー。

 後で、国道の探索に行くんだからなー!」


 ミキの後ろ姿に声をかける健一。

 そんな健一に振り返る事なく「ワォ」と答えてミキは森に消えた。


「全然食べてないけど、大丈夫か?」


 自分の用意している食事をほぼ食べていないミキを心配する健一。


「確かに……」


 自分の作った煮ただけのぜんまいモドキに視線を移すと、溜息をついた。

 クソ不味いから。


「い、家に帰ったら、うまい物沢山食わせてやるからな!

 近くのホームセンターかドラックストアにドックフード売ってたし!

 ドックフードで良いのか解らないですけどね!

 たまにスーパーで肉買ってやってもいいし」


 何の言い訳か解らないが、必死な健一。

 だが、彼は未だに国道があると思っているようだ。



 否。


 健一は気づいている。

 この場所に来てから見て触れた植物、動物、昆虫達は、見た事もないものがほとんど。

 そう、いくら健一といえど、当然ここが日本では無いという事を薄々と…… だが、健一は、その考えを必死で否定した。

 現実を受け入れてしまえば、片思いの遠藤美紀に、もう会えないではないか! ……だから、ここは日本なんだ! と……

 国道に出れさえすれば、元居た場所に戻れるんだと、そう自分で自分を騙しているだけに過ぎないのだ。



 食事を終えて片付けを済ませた健一は、次の日の為に灰を使った灰汁抜き作業を進める。

 お湯が沸くまでの間に、集めておいた木やツタなどの資材を一通りチェック等を行う。


 日中は炎天下になり、日陰の無い河原で過ごすのは体力を著しく奪われる自殺行為。 なので健一達は日が高くなる時間は森で過ごしていた。



「よし、明日の仕込みも終わったし……

 探索と材料集めに行きますか!」


 明日の分のぜんまいモドキの灰汁抜きの仕込みや、今日食べて残ったぜんまいモドキを干す作業を終えた健一は、石を砕いて作ったナイフを手に立ち上がる。

 健一が石と石とをぶつけて作った簡単なナイフ。

 切れ味も良いとは言えない代物だが、無いよりずっとマシである。

 素材の加工も行えるようになった。

 生活する上で全てが足りていない健一にとって、不格好で切れ味も悪いとはいえ、とても重要なアイテムといえた。


 ナイフを腰のベルトに差し、木の先端を尖らせた槍を装備する健一。

 ここで過ごす数日で、安全ではないと身に染みて分かった健一は、出かける時には武器を携行する事にしているのだ。

 幸運な事にまだ、使用したことはない。

 



「ワォワォ!」


「おっ! ミキ、おかえりなさい!

 タイミングばっちりだな。

 俺の方も用意が済んだから、そろそろ出発すっか!」


 戻ってきたミキを連れ、健一は北の方角を探索すべく森へと入っていった。


「……元気だな」


 生きる為に、不味いと解っていてもぜんまいモドキを食している健一。

 その健一の周りをワンワン言いながら走り回っているミキ。

 最初の頃は、単発で「ワォ」だったのが、一緒に生活する内に回数が増えた。

 野生で生きている時は、むやみに吠えるのは外敵や獲物に自身の場所がバレる危険がある為に出来るだけ短く吠えていたのが、現在は健一と一緒にいるために、健一へ伝達する事を優先しているために吠える回数が増えていた。

 そんな事知らない健一は、うるさくなったなくらいで気にも留めていなかった。

 そんな事より、食べてるのに常に腹が減っている自分と、元気いっぱいのミキの事を不思議に思った。


 一人と一匹は、奥へ奥へと森を進んだ。


 アスファルトどころか、人工的な物すら見つからない。


 途中で、何かフルーツのような実がなる木を発見。

 健一がそれを採取。

 ミキと一緒に食べて、喉の渇きと飢えをしのいだ。


「どうだミキ、俺は頼りになるだろう!

 今回は、一回しか木から落ちなかったからな!

 珍しく旨いしな!

 もう獲りに登りたくないけど

 落下地点がもう少しズレてたら死んでた」


「ワォ!」


 少しボロボロになり言った健一。

 木の実をとるのに結構苦労したようだ。


「久々に甘味を感じたけど…… あー、肉か魚が食いてぇな!」


 食べ終わった実の殻をポイっと捨て、ベトベトになった指を舐めながら言った。

 少し満たされた健一が辺りを見るとミキがいない。


「あれ?」


 健一がキョロキョロしていると、近くでミキがモゾモゾしていた。


「? 何してんだアイツ」


 モゾモゾ、ゴソゴソしているミキのそばにそっと近づく健一。


「は?」


 ミキが、捕まえた蛙を食べていた。

 健一に気づいたミキが蛙を咥えて走りだす。


「ちょっ! 俺にもくれよ!」


 ミキに言ったが、すでに健一の遥遠くまで走り去ってしまっていた。

 久々のたんぱく質だった。

 ミキの元気の秘密がわかった健一。


「アイツ~、一人で狩りしてやがったんだな。

 だから、あんな元気だったんだ。

 獲物がなかった時だけ、俺のぜんまいを食ってやがったんだ。

 ……俺だって」


 闘志を燃やす健一。


 それから国道探しを中断し、健一は、雄々しく猛々しく、槍を持ち動物を追いかけ森を走り回り始めるのだった。



 辺りが少し暗くなり始めた時、拠点にフラッフラの健一とミキが帰ってきた。


「ぜー、ぜー。

 こんなもん、素人が簡単に出来るかよ!」


 獲物を取るどころか、今日の目的であった探索も素材収集も出来ず、無駄に体力を使っただけの男がキレ気味に言った。

 走り回ったが全然動物に近づけなかった健一。

 生徒に偉そうに指導していた自分だが、大自然の前では、なんと無力な事か……

 大工さんや料理人だったのなら、知識を使ってもっと上手く生活出来るのだろうなと思った。


「自分に出来る事……


 うん。

 生徒もいないのに、ある訳あるか!」


 無性に腹が立った健一は、河原の大きな石を両手で持ち上げてぶん投げた。


ガッ!


 川の中の石に当たって音がした。

 

「ワォ! ワォワォ!」


 驚いたミキが吠える!

 頭を抱える健一。


「うるせぇ! どうせ、帰れないんだ!

 国道なんていくら探したって、ある訳ねぇ!

 だって、日本じゃねぇんだから!

 うん、知ってた。

 知ってたよ!

 目がいっぱいついた鹿みたいな生き物や、デカすぎる虫とか、見た事ない植物とか!

 どこだよ、ここぉ!」


 完全に一杯一杯の健一。

 今日の狩りの失敗で何かが切れた健一。

 

「ワォワォ! ワォワォ! ワォワォ! ワォワォ!」


「何だよ! うるさ……」


 川に向って吠えるミキに声を荒げた健一だが、その目の前には……


「さ、魚!」


 次の瞬間、健一は川に飛び込んでいた。

 大量の魚が川に浮かんでいたからだ!


 健一が投げた石が川の中にあった石に当たった。

 偶然「ガチンコ漁」を行った形となったのだ。


「うひょーー! 魚だぜ!

 大漁、大漁! 俺ってツイてるぜー!!」


 大喜びで魚を獲っていく健一。

 さっきまで泣いていたのに、感情の起伏が激しい健一。



「うまい!」


 焚き火で焼いた魚に舌鼓を打つ健一。


 焚き火の周りには枝に刺さった魚達が並んでいる。


ガッガッガッガッ


 焼き魚にがっつくミキ。


「ミキはホントに食いしん坊だな!

 しかたないか、旨いもん! うひょー!」


 テンション高く魚を食う健一。

 今まで食べた魚の中で一番おいしく感じた健一。

 そして、ここは日本じゃない事を受け入れ、前に進もうと思う健一だった。

日本じゃない。

そんな事は、初日に気づいてた。

だが、もしかしたらって希望をもっていた。

うん。

違うなら、別にいっか。

帰る手段を探すだけの事だ。

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