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第4話 国道は何処ですか? その3

遭難初日で結構疲れた。

肉体的にも、精神的にも。

なぜ俺がこんな目に合わねばならぬ?

でも、疲れたから眠い、だから寝た。

 異世界にきて、最初の夜。

 無防備に睡眠をとる健一。

 昨日まで平和な日本で生活していたのだから、誰であっても危機意識が低くなるのは仕方がない事かもしれない。

 まして健一は、ここが異世界だという事にまだ気がついていないのだから、ぐっすり寝ている事に違和感など全くもって感じないのだ。


 そして現在、クマのようにデカい、狼のような獣が間近まで近づいている事に気づく事無くアホ面で睡眠続行中の健一。

 青い目のその獣が、健一を見下ろしている……




「グルルルルオオオーーーン!!」


 狼のような獣の闇を切り裂くが如き咆哮が響いた!!

 

「なんぞ?!」


 流石の健一もその声に飛び起きる。

 そして、飛び起きた健一の目の前にはもふもふの真っ白な壁が――


「何だ…… !」


 見上げると、そこにあったのは大きく開かれた獣の口。

 刃のような歯が月明りを受け光っていた。

 健一は、叫ぶ事も出来ず、ただじっとそれを凝視している。

 恐怖で体が硬直し、ただじっと獣の口内を見ている事しか出来ないでいた。



 次の瞬間――


「……え?」


 その大きな獣が、ゆっくりと受け身を取ることもなく横に倒れたのだ。

 何が起こったのか解らない健一。


 倒れた拍子に頭を河原の石に打ち付けた獣は、そのまま息絶えてしまった。


 寝起きで目の前にいた獣が突然倒れて死んだ。

 健一は、ただただ意味が解らなかった。

 しかし、獣の死骸を前にして冷静さを取り戻していくと、恐怖が全身を包んでいくのを感じた。

 安全な街中ではない。

 ここは森の中で、野生の動物が徘徊する危険な場所なのだという事を強烈に認識させられたのだ。 



「あ、危なかった。

 何故か解らないが、助かった…… うん、助かったんだよな?

 火があれば良いだろうって軽く考えてたけど……」


 健一は、倒れている獣から距離を取って、小石をぶつけてみた。


「……よ、よし!」


 獣が動かない事を確認し、勇気をもって近づいてみた。

 指先でつついてみた。

 両手で押してみた。

 体を叩いてみた。

 顔を覗き込んでみた。

 口に頭を入れてみた。


「……やっぱり、死んでる」


 十分すぎるくらい確認した健一は、ようやく安堵の表情を浮かべる事が出来た。


「何故か助かった!

 この野郎! 教師を舐めるな! 伊達に教員免許もってると思うなよ!」


 別に教員免許が役にたった場面でもないだろうに…… 混乱しているのか、どうかしているのだろう。

 巨大な獣に勝利?した健一は、祝杯として煙草を一服しようとポケットに手を……


「ん?」


 健一の手が止まった。


 視線の先に動く者の気配を感じたからだ!


「フッ、仲間がいたのか……」


 そう呟くと即座に死んだ獣の陰に隠れた。


( 怖いよッ! 何なの?! もう、やだ!

  怖すぎだろ! ふざけんな! どうか気づかれませんようにぃぃぃ!! )


 両手で口を押えて必死に祈る健一。

 

「ワォ!」


( ヒィィィイイイイ!! )


 口を押える両手の力を強め、声が出ないように必死に耐える健一。

 鳴き声が聞こえ、失禁待ったなしの構えだが……


「……」


 健一の耳に川のせせらぎが聞こえる程の静寂。

 その静けさに恐怖を募らせる健一。

 自分の心臓の音が大きく聞こえた。

 この音が、近くにいるであろう獣に届くのではないか? そう思うほど彼の心臓は激しく鼓動した。





「……クウゥーーン」




「?」


 最初の鳴き声と違う、寂しそうな声が聞こえた。

 モゾモゾという音が聞こえた。

 そして、寂しそうな鳴き声が続けて聞こえてきた。


「……」


 もう自分の心臓の音など気にはならなかった。

 でも、その寂しげな声をほっとけなかった。

 そう思った時には、普通に隠れていた獣の陰から出ていた。


「……」


 突っ立っている健一の前にいる彼女は、死んだ獣に額を擦り付け、鳴いて、前の両足で倒れた獣の顔を押して、また鳴いていた。

 その様子を見ていると健一は、なんだか凄くいたたまれなくなった。


「……お、おい。 もう死んでるよ」



「ウゥゥゥゥ!!」  


 声を掛けられ、健一に気づいた彼女は、鼻に皺を寄せ歯を剝きだしにして威嚇した。


「おっ、おいっ。 何もしないから、威嚇するんじゃない」


 慌てて健一が両手を突き出して言ったが、彼女は「ワォ!」や「ガルルルル!」と敵意剝き出しで伝わらなかった。


「だから、吠えるなって!」


「ワォ!」


「……

 ……まぁ、言っても、しかたないか。

 ……お前、このデカいのの子供…… だよな?

 同じ白色の毛だしな。

 親が突然死んじゃって、お前も混乱してるんだろう……」


「ガルルルル!」 


「わぁ、解った! 離れるから! 好きなだけそこで吠えてろ!」


 嚙まれそうになったのを寸前のトコで躱した健一は、子供の狼のような獣から距離をとった。

 子供の獣は唸り声をあげていたが、健一が離れると安心したのか、母親である死んだ獣の元へと戻り、必死に起こそうとするのだった。



 

「可哀相に。

 突然死だったんだろうな。

 ありゃ、親の死を受け入れられてないんだろう。

 あんな小さいのに可哀相に。

 ……うん、まあ、突然死が無ければ、俺があの親子のご飯になってたんだろうけど」


 可哀相って気持ちと、助かった喜びで少々複雑な健一は、ポケットから煙草を一つ取って口に咥えると、右手で風よけを作り、左手でライターの火を点けた。


「……」


 小さくなっていた焚き火に、薪をくべる健一。

 ふと横を見ると、煮てあったキノコがほぼなくなっているのが見えた。


「……え?」


 その横に大きな獣の死骸がある。

 齧られたような跡の残るキノコもある。


 うん。


( 怖ッッッッ!!!

  キノコで?!

  はっ?!

  そっ即死ってか?!

  あんな大きなのが、即死ぃ!!

  俺、食おうと…… 怖あああッッッッ!!! )


 大量の汗が噴き出す健一。

 夕食の人体実験でキノコを食べなくて助かった健一。

 鳴いている子供の獣の親を殺害した健い

「俺の性じゃ無いぞ!

 そりゃ、獲ってきて調理したの俺だよ、でも、俺があの大きなのに食わせたか?

 違うだろ?

 死んで可哀相だけど、勝手に食べたのが悪いでしょ?!」


 健一は、また大量の汗が出てきた。

 確かに健一は、どちらかと言えば悪くないのだが……





次の日――


「おい。

 先に言っとくが、俺は俺で、いっぱいいっぱいだ。

 お前も、親がいなくなって、いっぱいいっぱいだろうけど、俺に期待してもらっちゃ困るからな!

 お前と俺で、協力しあうんだ。

 この過酷な森で生き抜く為に…… って、聞いてんのか?」


 ほぼ一日仕事で大きな獣を埋葬した健一が、子供の獣に言い聞かせている。


 この白いモフモフは、親が死んだ事を理解している。

 埋葬の時は小さな手足で土を掘るのを一生懸命に手伝った。

 獣に埋葬の習慣は無いのだろうが、健一が弔おうと思う気持ちが伝わったのだと思う。

 埋葬を手伝う彼女を見て、とても賢い子だと健一は思った。


「……おい。

 お前、一応さ、女なんだから」


 健一が協力して頑張っていこうって話をしていたのだが、彼女はうんこをしていた。 

相棒が出来た。

これで生存率が上がるな。

……ホントに上がる?

この小さなモフモフをみていると…… 不安でいっぱいになるのは気のせいか?

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