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第33話 違うんです!

まさかカッサルに拒否られるとは…… まあ、ベルリアが賛同してくれりゃあな。

うん。

ベルリア……

どうせダメだろうなあ。

駄目だと何か不味いか? だってアレって詐欺師だろう?

 領主の家で勝手に学校を始めようとしている健一は、魔法の教師であるベルリアの協力を得るべく授業中のアレスの元へと向かった。


「なあ、どうせダメだろ?

 あいつって守銭奴っぽいじゃん、同じ給金でアレス以外を教えろって言っても断るに決まってるよ」


「聞いてみる前から諦めてどうすんのよ?

 前に偉そうに諦めたら終わりとか何とかいってたくせに。

 子供達に声をかけているんだから先生の確保しなきゃいけないんじゃないの?

 言っとくけど、私を頼っても専門家じゃないんだから教える事なんて出来ないからね」


 嫌々ベルリアが授業をしている部屋に向かっている健一を冷たく突き放すようにアリサが言った。


「ふん。

 心配するな、お前になど頼むわけが無い。

 大切なお子さん達を預かるんだ、貴様などのような素人に任せられる訳が無いだろう、馬鹿め」


「あ、そう。

 どうでもいいけど、着いたわよ」


「どうでもいいとは何だ、どうでもいいとは」


 部屋の前に着いたのに健一がグダグダいうので、健一の頬を抓りあげるアリサ。


「行くの? 行かないの?」


「い、いきますから、離してくださいアリサさん」


 素直に答えたので、手を離してもらえた健一。

 心の中では、当然の如くアリサの事を


「馬鹿力のゴリラ女め」


 と、思った事が自然と口から出ていた。



「授業中にすまん。

 ちょっといいか?」


 アレスの魔法の授業が行われている最中に入ってきた健一が声をかけた。


「ちょっと何?

 今授業中なんですけど?」


 露骨に不快感を示すベルリア。

 教卓の上にはシルクハットがあり、その中から紐につながった旗のような物が出ているのが見えた。

 魔法の授業と言いつつ、またマジックやってんだなと健一は思った。


「健一先生、凄いですよ!

 何もない帽子からアレが出てきたんですから!」


 興奮気味に教えてくれるアレスだが、凄い見た事ある奴だとしか思えない健一は冷めた視線で、あとはシルクハットから鳩が出たりすんだろ? とジッと帽子を見つめる。


「ところで、なんでケガしてんのよ」


 商売道具をジロジロ眺められて余計な事を言われたくないベルリアが健一の顔の話を振る。


「……いや、ちょっと」


 腫れあがった顔の健一は、後ろに立つアリサをチラリと見て言葉を濁した。

 健一の分際でも一丁前にプライドがあるらしく、女にボコボコにされたなどと言えないようだ


「俺の事はいいんだよ。

 心配なのは解るが、気にしないでくれ。

 そんな事より、生徒が増える。

 給金は変わらないですが、やりますか?」


 どうせダメだと思っているからか、投げやりに聞いた健一。


「ああ、心配?

 考えた事も無かった。

 アンタがケガしようが、死のうが、どうでもいいから。

 そのどうでもいい存在であるお前が、いきなり、私の授業中にやってきて、何て?

 生徒、増える?

 意味が解らないんだけど。

 ちゃんと説明もせずにやりますか? って聞かれても困るでしょ?」


 困惑するベルリア。

 それはそうだろう、何の説明も無しで「はい、やります!」などと言う奴は稀なのだ。


「だから、生徒が増えるんだよ」


「は?」


 説明してるのに、なんで解らないのかな! みたいなノリで来られて少しカチンときたベルリア。


「は? じゃねぇよ、アンタも一応先生なのに理解力が無いな、だから、生徒が増えるんだよ」


 全然気にせず、自分が説明しているのに理解力の無い相手が悪いと言わんばかりの健一。

 健一とベルリアが険悪な雰囲気になっていく。


「すいません、ベルリア先生、実は……」


 健一が残念な説明を繰り返すばかりで先に進まないので、見かねたアレスが二人の間に割って入る。


「なるほどね。

 領地の発展を図る為にも教育が重要。

 だから学校をつくるって事ね」


「だから、俺がさっきからそう言ってただろ?」


 アレスから説明を受けたベルリアが言った言葉に健一がムッとした顔で答えたが、よくムッとした顔が出来るなと逆に感心するアリサとアレスだった。


「給金が変わらないんでしょ?

 じゃあ、無理ね。

 仕事としてやるなら、ちゃんと報酬をもらわないと出来ないわ」


「なんだよ、お前もカッサルも!

 子供達が可愛くないのか?

 確かにお金も大事だよ、でもお金よりも大切な事ってあるだろう!

 こっちが下手に出てると思っていい気になりやがって……

 お前たちは、この俺がこんなにも真摯にお願いしているってのに、ホントに困ったもんですよ!」


 憤る健一。

 アリサもアレスも健一のどこがどう? どこか真摯な態度だったの? と不思議な物を見る目で健一をみている。


「はい、解りました。

 授業の邪魔だから出てってください」


 憤って言われたベルリアだが、既に興味をなくしているので淡白なものである。

 これ以上居座られても邪魔なだけなので健一に退場を願った。


「なんだ、その態度!

 なあアリサ、どう思うよ!」

「え? 私? ……どうって諦めたらいいとしか」

「そうか!」


 ベルリアに聞く前は諦めてたんだから、素直に諦めたらいいのにと思うアリサ。



「どいつもこいつも……

 後悔するなよ、お前らが悪いんだからな。

 ……さてと、助っ人の登場と洒落こむぜ!

 ヘイ、カモン! 助っ人!」


 大きな声で叫んだ健一がパチンと指を鳴らす!


「……」

「……」

「……」


 突然の健一の行動に、何事かと固唾をのんだアリサ、アレス、ベルリア。


 静まり返る部屋の中。


 何も起こらずいたずらに時は過ぎる。


 健一は不敵な笑みを浮かべる。


 何も起こらない。







「うん、健一?」


ダッ!


 アリサが話しかけると同時に健一が部屋を飛び出していった。


「……ねえ? アレって、なんだったの?」


 健一の出て行ったドアの方を眺めてベルリアが呟く。


「どうしましょう? ベルリア先生」


「アレス、授業を再開するわよ」


 健一の思わせぶりからの逃亡があり、何が何やら解らないアレスがベルリアに助けを求めたのだが、ベルリアは無駄な時間を過ごしたとばかりに授業の再開を宣言するのだった。


「あうあうあう」


 あの馬鹿と一緒に教室にやってきた手前、なんだかとても申し訳ない気持ちのアリサ。

 あの野郎、逃げやがって、後で殺すと思いながらも、無言で頭を下げたアリサが部屋を出て行こうとした、その時だった!


バァアアアアアーーーーン!!


 激しく開かれたドア! そして!


「また来た!」


 ベルリアが叫ぶ。

 そう、健一の再登場である。

 ただ先程と違う点がある。

 それは、ぐったりしたカッサルを咥えるミキの姿があった事だ。


「助っ人を交えた話し合いの末、カッサル君は快く新設する学校の先生になってくれると承諾してくれたぞ。

 ……まあ、早くここに戻りたかったから少々会話を省略した面もあるがな」


 健一の視線の先にいるミキに咥えられているカッサルは、無言でただグッタリしている。

 助っ人とは、ミキの事であった。

 先程、読んだ時になぜミキが来なかったのか?!

 それは、打ち合わせもしないでいるかどうかも解らないのに、名前でもない助っ人カモンと言われて誰が来るかって話ですよ。

 簡単に言えば健一の頭がおかしいだけなのだ。


「ん?

 で、ベルリア。 お前はどうなんだ?

 考えが変わった?

 このクッタクタになってるハゲのようになりたくな…… いや、失礼。

 なりたくないよね。

 うん。

 俺は脅しとか嫌いだし、ベルリアは賢い女の子だから解るよね?

 この、カッサルのように快く学校づくりに賛同してくれたら誰も傷つかないで済むんだけどなあ」


 最低最悪な説得方法である。


 健一がベルリアに微笑みかける。

 明らかに暴力を背景にした恫喝以外の何物でもないのだが…… サイコパスか何なのか、健一の笑顔にアレスもアリサもドン引きである。


「け、健一先生…… いくら何でも、人を傷つけるなんて……」


「アレス……」


「そうよ、落ち着いて。

 ミキも、そんなの咥えてないで離して。

 暴力では、何も解決しないわ」


「アリサ……」


 とうとう一線を越えた行動に出てしまった健一を止めようとアレスとアリサは説得を試みた。


「いや、俺の目をフォークで突こうとしたり領民をイジメてたくせに、「人を傷つけるなんて……」なんてよく言えるな」


「う゛っ」


 痛いところをつかれて黙り込むアレス。


「健一、アレス様は、過去を悔いて変わろうと必死にもがいているところなんだから……

 確かに、エロい事しようとしてくるし、狂暴だし、ロクな人間じゃないけど、アレス様に謝りなさい。

 暴力からは憎しみしか生まれない。

 悲しみの連鎖を断ち切るのよ!」

「黙れ、貴様!

 さっき、俺をボコボコにした癖に、よくもまあ!

 お前が一番頭おかしいよ」

「なんだとこの野郎!」


 アリサと健一が互いの胸倉を掴み合った。



ガタッ!


 物音にハッとするアリサと健一。

 ボロクソに言われて魂が抜けたようになっているアレス。


 物音の主はベルリアだった。

 健一達の茶番にイラついたのか、教卓をずらして前に出た。

 相当怒っているのか、目がマジな感じである。

 健一は、チラッとミキを見る。

 カッサルがグッタリして白目をむいている。

 死んでるんじゃねぇか? と少し怖くなってきた健一。


「ま、待て!

 落ち着こう、ベルリア。

 一旦、落ち着こう。

 うん。

 進むな、一旦そこでストップして、そう。

 そこで、落ち着いて、うん、運落ち着いてそのまま話を聞け」


 怖い顔をしてベルリアが近寄ってこようとするので必死に止めた健一。

 そして、ベルリアの進行がストップしたのを確認した健一は、深呼吸をして話始める……


「確かに…… 明らかにやりすぎの感がある」


 チラッとカッサルを確認。

 うん、変わりなくグッタリとしている。


「違うんだ、ベルリア」


「何が違うのよ?」

「うん、黙れアリサ。

 今、俺はベルリアと会話してんだから」


「……やったのは、



 ミキであって俺じゃないんだ!!」


 大きな声でミキを指さして健一が言った。


 アリサとアレスは、やっぱお前が一番頭おかしいと驚愕の表情で、僕も被害者なんですみたいな表情をしている健一をみた。




 ゆっくりとベルリアが歩きはじめる。


「?!

 いや、だから、俺の話きいてました?

 だから、俺じゃないって」


 黒いオーラが見えるようなベルリアに慌てる健一。

 ミキがあまりに不憫でアリサとアレスは、あの馬鹿、早くボコボコにされちまえと意見が一致した。


 そして、健一へと歩くベルリアが口を開く。


「貴様…… 何時から気づいていた」

俺は何も悪くないが、カッサルが偉い事になっている。

興奮してた時は特に何も考えていなかったが…… 完全にoutだろう。

学校とか教師とかどうでもいいが、人を傷つけちゃやっぱ後味が悪いって言うか、慣れないものだ。

平和が一番。

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