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第32話 非協力的!

さあて、生徒も出来たし学校が出来たも同然だな。

俺とネッガルスの他の先生にも話をしてやろう。

俺は優しいから、仲間外れにはしないのだ。

ドンッッッ!


「納得いかん!」


 領主の屋敷、使用人食堂で健一が激しくテーブルを叩き、その音が響き渡る!


「……」


 自分で自分の手をテーブルに叩きつけた癖に、悶絶している健一を冷ややかな目で見るアリサ。


「ワオン!」


 モフモフの毛を揺らしてミキが食堂に入ってきた。

 イノシシのような獣を口に咥えて堂々と食堂の中を通り調理場の方へと向かって歩いている。

 健一と違いこの屋敷の為に働くミキ。

 健一やアリサより、よっぽど役に立っているのだが……


「クッソ~!

 俺がこんな痛い思いをするのも、みんなあいつの性だよな」


 上目遣いで言われたが、「知らねぇよ、お前が自分でテーブルを叩いて手を痛めたんだろ?」と言うのも面倒なので引き続き冷たい視線を向けるアリサ。



「あら~~、今日も立派なの獲ってきてくれたんだね!

 こんだけ立派なのだと、ご主人様達の食卓に出しても恥ずかしくないよ。

 ホントにミキはお屋敷の為に役に立ってくれてるわね。

 ロクに働きもしない癖に、食事の文句言ってくる誰かさんと違って、本当にお利口!」


 ミキから食材となる獲物を受け取った食堂のおばちゃんが、これ見よがしに大きな声で言った。

 当然、健一に向けたものである。


「なんだ、あのババァ。

 黙って仕事すりゃいいのに、なあ?

 仕事中におしゃべりするってどうよ? なあ、アリサ」

「黙れよ、お前」

「しっかし、プッ!

 働きもしない癖に食事に文句言うなんて厚かましい奴がいるなんてな!

 俺だったら、恥ずかしくって死んじゃうよ! プププ」


 笑いをかみ殺しながら言ってきた健一に、だったらお前、死ななきゃなと思うアリサだった。


「……どうでもいいけど、諦め時じゃないの?

 肝心の先生が反対しているんじゃ詰んでるでしょ」


「あのな、ハァ。

 バカバカしくって説明する気力も失われるが、ホンっと、しょうがない奴だな、お前は。

 良かったなお前、俺が優しい人物で。

 いいか?

 詰んでるってなんだ?

 失敗したって事か?

 そう思ってるならバカ。

 真正のバカだぞ。

 失敗したってのはな、諦めたって時だ。

 挑戦している時は失敗でも詰んでもねぇ。

 途中なだけだ!

 よって、今現在挑戦中の俺は何一つ失敗も詰んでもないって事だ、バカ」

「……だって、ベルリアさんは仕方が無いとしてもカッサルにも拒否られたじゃない」


 他に色々と健一の発言に言いたいところがあるアリサだったが、根幹のとこに言及した。

 バカバカと言った事については後でまとめて締めとけばいいかと思うアリサだった。


「……まあ。 確かに」


 その通りなので力なく答える健一。


「ワオン!」


 屋敷の為に働いているミキが健一達の元にやってきて一吠え。

 やはり、屋敷の為に働いているという自負があるのか、どこか自身に満ちている吠え声であった。


「コラッ!

 ミキ、無駄吠えはいけない。

 食堂に食いに来てる人の迷惑になるだろう」

「そうよ。

 みんな激務の休息に来ているんだから、落ち着ける空間を保たなきゃね」


 健一とアリサがミキを窘めたが、お前らが言うなという視線が二人に集まった。

 しかし、流石と言うか健一もアリサもその視線に気づいていないのかへっちゃらな顔をしているのだった…



2時間前――



「今日の授業を終わります」


 何時ものように自動音声が如く授業内容を喋り終えたカッサルが告げた。

 昔と違ってアレスがちゃんとその話を聞いている違いはあるのだが、何時ものように授業を終えたカッサルが帰り支度をしている最中に健一が満面の笑みで近づく。


「お疲れ!

 喜べ!

 生徒が増えるぞ」


「?

 何の話ですか?」


 いきなり生徒が増えると意味不明な事を言われて困惑するカッサル。


「学校つくるんだよ!

 フフフ。

 凄いだろ? ん?

 学校だもん、生徒増えるよな? な?

 そういう事」


「いや、何がそう言う事なんですか?

 話が見えないんですけど」


「お前も鈍いね。

 だ・か・ら、アレス以外の生徒を受け入れて、学校を始めますって話ですよ」


 ハァ、ヤレヤレと健一があまりにもざっくりとした説明をした。


「そんな話聞いていませんが?

 どこの貴族のご子息ですか?

 その分の給金はどうなっているんでしょうか?」


 顔が曇り困惑した表情のカッサルが疑問と思った事を聞いた。


「あ?

 いやいやいや、誤解するな。

 別に、カッサルをのけ者にしようぜって話をしていなかった訳じゃないから安心しろ。

 アレだ。

 サプライズと思ってくれ。

 お前も、教える生徒が増えて嬉しいと思ったからさ。

 ほら、やりがい的な?

 お前も先生なら、な、解るだろ?」


 最後まで言わせるなよ的に、はにかむ健一。

 

「全くわかりませんが……

 生徒が増える。

 解りました。

 で、給金はどうなるかと、どこの貴族のご子息かを教えてもらえませんか?

 身分の高いお方のご子息ならば、それ相応の対応というものがございますので……」


「ん?

 給金?

 どこの貴族の子供かって?

 ああ、心配すんなって!

 給金は変わらないって。

 だから気にせず職務に当たってくれ。

 生徒は領民の子供だから、平民って奴かな。

 知らねぇけど。

 まあ、そんな訳だから、お前も気楽に今まで通り」

「お断りします!」


 話の途中で拒絶された健一。

 いや、意味が解っていない。

 ただ、話を遮られて何か言われたと思ったのだ。

 キョトンとしてカッサルを見る健一。


「私は教師という職に誇りをもってあたっております」

「お、おう」


 お前、生徒の反応無視して授業中ずっと指導内容を喋っているだけじゃないかと思ったが、一応カッサルの意見に頷いてあげた健一。 


「平民に私の高等な教育が理解出来るなどとは思えません。

 男爵位のこの屋敷で教えている事も私の実力から言って破格の事と言えるでしょう。

 たまたま、王都で休職中であったからここで教鞭をとっておりますが…… 本来なら侯爵家のご子息ご令嬢を指導する実力があると自負しております。

 それを、平民にって……」


「おう、気にすんな」


 無駄にプライド高い自己申告をしたカッサルだが、健一は全然気にしてなかった。

 そもそも侯爵が偉いのかも知らないし、他人の貴族より領地の人間を教育する方が絶対にこの領地が豊かになれると思っている健一なのだからだ。


「……話になりません。

 私は、今の給金での仕事は、アレス様を教えるだけです」


 そう言ってカッサルは唖然とする健一を置いてさっさと部屋を出て行ってしまった。




現在、使用人用食堂――


「しっかし、カッサルの野郎……教師の風上にも置けないな。

 現代日本だと考えられ…… ああ、そうでもないか。

 退職金や天下り先の為にイジメをもみ消したのもいたな。

 いや、そうじゃなくてだ!

 身分がどうとかじゃなくて、宿題嫌だから学校行きたくないって人間じゃなくて教育を受けたい人間に教育の機会を与えたいって思うのが教師だろ?

 ホント、がっかりだぜ。

 俺のように立派な教師は稀なのかな?」

「間違いなくアンタは立派じゃないけど、カッサルは、やりたくないって言ってるんだからどうすんの?」

「気にすんな。

 ミキを交えて真摯に話し合って説得してみる!

 人間、腹を割って話せば解りあえますよ」


 ミキを撫でながら言った健一に、やっぱ腐ってんなコイツとアリサは思った。


「あのハゲの事は明日にして、もうそろそろ午後の授業が始まるだろ?」

「ベルリアさんの魔法の授業ね」

「そ。

 あの詐欺師に子供達が教わる事など何もないと思うが、一応アレも教師だからな。

 俺は、仲間外れが嫌いだから仲間に誘ってやるのだよ」

「……どうせ、断られ」

「さあ時間だ!

 アリサ! ミキ! 行くぞ!」


 アリサの言葉を打ち消すように健一は言って立ち上がる。

 確固たる教育の理念をもつ男、それが健一なのかもしれない。

 多分違うけど。

 そして、空気と化しているミキは最近遊んでくれなくて寂しいなと健一を見るのだった。


カッサルの野郎、俺が誘ってやったのに、金、金と……

教育を何だと思っているんだ。

戦前の教師は自分の私財をなげうって教育につぎ込んだ人がいるってのに。

まあ、俺も違うけど。

カッサルはミキと一緒に説得するとして、次はベルリアだな。

駄目でも…… 良いんじゃないか?

だって、詐欺師を子供達に近づけるのは教育上良くない気がしてきたから。

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