表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/33

第30話 勧誘 その4

自主的に勧誘しようとする教え子。

自分からって…… 成長したな、アレス!

先生は嬉しいぞ。

全然授業していないけど、たぶん俺の指導のおかげだな。

 健一から少年を勧誘する役を代わったアレス。

 アレスが少年を見ると、健一とネッガルスが離れた事によって緊張状態が少しは緩和されたようではあるものの、やはり少年は緊張しているようだと感じた。

 自分の家に雇われてる人間が大切な領民を怖がらせた事を申し訳なく思うアレス。


「怖い思いをさせて、ごめんね。

 でも、あの二人も悪気があってやった事じゃないから」


「え?」


 アレスが声をかけたのだが、極度の緊張状態であった少年は良く聞き取れなかったようだ。

 しかし、声をかけられた事には気づいたようで少年は声のした方を向く。


「!

 アレス!

 い、いや、アレス様、す、す、す、すいません」


 少年は自分に話かけてきた人物がアレスだと気づき顔が青くなる。

 領主の息子アレス。

 女の子に抱き着いたり、剣術の稽古と称して意味も無く棒で町の人間を打ったり、「殴り合いが見たいからお前とお前、殴りあえ」などと言って殴り合いをさせたりする悪魔のような人物である。

 最近は町に来ることが無く平和な日々が続いていたのに、どうして?

 なぜ僕の目の前に悪魔がいるんだと少年は足がガクガクと震えた。

 だが悪魔の逆鱗に触れては何をされるか解らない、家族に迷惑がかかるかもしれないと思った少年は、慌てて両膝をついて土下座して謝ったのだ。


「お、おい、突然何してるんだよ」


 突然土下座で謝罪されたアレスが声をかけるが、少年はガタガタと小刻みに震えて答えない。

 少年の行動の意味が解らずオロオロするアレスの元へとアリサが近寄る。


「アレス様、何もしていない少年にそれは……」


「は? え?」


 アリサに声を掛けられたが、何を言っているのか意味が解らず混乱するアレス。

 アリサを見て、少年に視線を移す。

 数秒後、気づいてアリサを見た!


「僕は何もしていない!

 お前、絶対何か勘違いしているだろう!」


「お父上がご領主様でも、何の罪もない少年に土下座させるなんて……」

「誰がするか!

 僕は、何もしていないからな」


「……そういう事にしておけと?」

「おかしいだろ!

 誰も強要してないし、大体、しておけも何もホントに何も無いんだから!」


「承知しております。

 ご心配なさらずとも大丈夫。

 アレス様はここで何もしていなかったし、私は何も見ていません!」


 アリサは領主の屋敷に仕える者として、主人の家族を守らねばと決意に燃える目をして言った!


「いやお前、だから解ってないだろう?!

 おい、君!

 そんな事してないで起きて君からも僕が何もしていないと、この女に言ってやってくれ」


「は、はいっ! アレス様は、まだ何もされていません!

 い、命ばかりは…… どうかお助けください」


 土下座の姿勢のまま少年は大きな声で言った。


「ちょっと!

 まだって何?!

 助けてくださいって、何もしないよ!」


 興奮するアレス。

 そんなアレスの肩にそっと手が置かれた。


「もう許してあげていいじゃないですか」

「黙れ!」


 小首をかしげて優しく言ってきたアリサにキレそうになるアレス。


「あーー、もう、いいよ。


 確かに以前の僕は領民に迷惑をかけてたし、評判が悪いのだろう。

 勘違いされてもしょうがない。

 解ってるよ、自業自得だって。

 健一先生も許してもらえると思うなと言ってたし……

 今まで迷惑をかけてごめんなさい。

 ……うん、謝って済む事じゃないね。

 君も嫌だろうし僕は離れるね、伝えたかった事はアリサに頼むから、話を聞いてやってほしい」


 そういってアレスは少年に頭を下げるとアリサを見た。


「まさか、本当は…… アレス様、何もしていなかったんじゃないんですか?」

「いや、してないって言ったよね、僕」


 本当はってなんだ?! と言いたいが我慢したアレスは、少年を見てアリサに視線を戻す。


「アリサ、お前の方から彼に学校の件を伝えてくれ」


「え? 私ですか?

 一番部外者の私ですよ。

 その私が学校への勧誘ですか?

 はぁ……

 ……これもお給金の内、しょうがないですよね」


「お、お前」


 命令されて嫌々やるって気持ちがバリバリ出ているアリサの発言にイラっときたが、ここで声を荒げては少年を不安にさせてしまうと我慢したアレスであった。




「フハハハハハ!

 なんだよ、お前らもダメだったじゃねぇか、人をさんざん馬鹿にしやがって! うひゃひゃひゃひゃ」


 少年を連れてくる事も無く戻ってきたアレスとアリサに嬉しそうに声をかける健一。

 勧誘が失敗したのに、この男は頭が悪いのか本来の目的を忘れているのだろうか?


「俺がまだ成功してないのに、お前らが成功する訳が無いってしってましたけど~~

 うひゃひゃひゃひゃ、痛ぁぁぁあああい!!」


 アリサに耳を掴まれ捻じられる健一。


「ダメじゃないわよ。

 ピーターは、ああ、あの子、ピーターって名前らしいけど、本人は勉強したいって」

「痛い痛い痛いから離せ! 耳が千切れる!」

「僕も聞いてましたけど、親の了解があればって言ってましたよ」

「やめろ、ホントに耳がぁ! 痛い痛い痛い!!」

「本当ですかアレス様、それじゃ親が了解すれば生徒が確保出来ますね!」

「アレス! ネッガルス! お前ら、普通に会話してんじゃない、助けろ!」

「そうだけど、そんなに簡単にいかないよネッガルス」

「それじゃ、気を引き締めてかからないと! 頑張りましょう!」


 健一がアリサに耳を捻じられている横で、アレスとネッガルスが顔を見合わせ生徒獲得の決意を共有するかのように頷いていた。


「ほら、健一。

 みんなアンタが言い出した学校づくりの為に頑張ってるんだから」

「は、はい、ありがとうございます。

 なので、アリサさん、もうやめてください。

 耳が本当に捻じ切れちゃいますからぁ。

 笑って馬鹿にした事、反省しているので勘弁してください」 


 アリサが健一の耳から手を離してやった。


「まったく、健一さん!

 大切な学校づくりの為に頑張らなければならない状況なのに、アリサとイチャイチャなんて不謹慎ですよ!」

「お前には、アレがイチャイチャに見えたのか?」


 ネッガルスにビシッと注意された健一だったが、健一は正気かお前とネッガルスを見た。



ピーターの家――


「息子を、領主様の屋敷にですか?」


 ピーターの父親がピーターを見て言った。


「はい。

 そこで勉強をさせてあげたいんです」


 にこやか健一が答える。


「あの、この子は家の仕事を手伝ってくれていますが、ご領主様のお屋敷で働くには…… まだ小さいかと」


 ピーターの母親がアレスをチラッとみて、健一に心配そうな表情で言った。

 その時、ガタンと家の外で音がする。

 ネッガルスが音のした玄関の方に視線を移すが、別に以上は見られない。

 ネッガルスは手にしていた剣から手を離す。


「あ、いや、お母さん、違います。

 別に雇うとかじゃなくて、さっきも言いましたが、領主の館でピーター君に読み書きや計算など勉強させてあげたいんですよ」


「勉強…… ですか?」


 ピンと来ていない感じのピーターのお母さん。


「僕が教わっている先生が勉強を教えてくれるので安心してください」


 アレスの言葉にピーターの両親の顔が曇る。

 二人の様子に健一は、またかと思った。


「あの…… やっぱり、お子さんも貴重な労働力だから的な事で、その、学校で勉強させるのが困ると?」


 多くの家庭で同じような事を聞かされていたので健一が聞いたのだが、ピーターの両親は互いに顔を見つめあった。

 健一は、その様子が他の家庭と違うなと感じる。


「アレス様と同じ先生だと、いくらぐらい必要になってくるんでしょうか?

 その、あまり蓄えが…… とても支払えるとは……」


 恥ずかしそうに言うピーターの父親。

 月謝の事か、それで他の家庭と様子が違ったんだと健一が気づく。


「ああ、お金の事なら心配しなくても大丈夫ですよ。

 領主のダモン、いや、ダモン様から教師は十分にお金をもらっていますし、領主の家から貴方達にお金を請求するなんてありません」


 健一の言葉にピーターの両親が顔を見合わせる。

 そして二人はピーターを見る。


「お前は勉強をしたいのか?」


 父親の質問にピーターは、黙って頷く。


「あなた」

「ああ」


 ピーターの両親が顔を見合わせて頷くと、健一に向き合った。


「お手数をおかけいたしますが、どうぞ息子を宜しくお願いします」


 ピーターの父親が立ち上がり健一達に頭を下げた。


「任せてください、息子さんに教育をさ」

バアーーン!!


 健一が喋っている最中にピーターの家の玄関ドアが荒っぽく開かれた!


 何時でも抜けるように剣を握ったネッガルスが玄関を見ると、男の子を連れた小太りの男がいた。


「アレス様、私は隣に住むカムラと申しますが、ちょっと耳に入ったんですが、お屋敷で雇う人間を探しているとか……

 そこで息子のタンカボをどうかと思いまして。 イヒヒヒヒ。

 親の私から見ても倅は優秀なほうですし、アレス様と年が近いので話も合うかと。

 ですのでこのタンカボを是非雇っていただければ、イヒヒヒ」


 カムラというこの男、領主の息子がこの家に入るのを見て、外からこの家の会話を盗み聞ぎしていたのだが、その中で屋敷で雇ってもらえると聞こえ慌てて息子を連れてきたのだ。

 領主の家なら給金がたっぷり出るだろうと期待する目をしている。


「イヒヒヒヒ。

 それで雇ってもらえる場合、給金の方は…… いかほどいただけるんでしょうか?」


 子供で金を稼ぐ気満々のこの男の思考を健一は、どうかと思ったが、日本と違うし批判しない方が良いのか迷った。


「って迷う必要ないだろう。

 何だアンタ、雇わないし、給金ないよ。

 仕事じゃねぇし。

 アレスの家で勉強しようねって話だから」


 健一の言葉に、カムラの眉が微妙に動く。

 息子を領主の屋敷で働かせて金を得ようと来たのに当てが外れたカムラは心の中で、無駄足をさせやがってと、この家にいる者達を罵倒した。

 こんなところにいても無駄だと帰ろうと思ったカラムだが、アレスを見て考えが変わった。

 そして…… 

変なおっさんが来た。

子供に金を稼がせようなんて何考えてんだ。

おっと、日本じゃないんだから、そんな事を考えてはいけないな。

多分みんな貧しいからしょうがないんだろうな。

現代日本で義務教育期間の幼い子供を働かせたり、乞食行為をさせて金稼ぎする親なんていないだろ?

いたらとんだクソ野郎だぜ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ