第3話 国道は何処ですか? その2
遭難中だが、日頃の行いが良い、生徒に慕われている教師である俺なので、初日にして水を確保する事に成功した。
後は、食料。
ま、こんだけ緑に囲まれてるんだから、何かしらあるだろう。
「飲める水を確保したし、これで生存率がグッと高くなったな」
胡坐をかいて川を眺めている健一が、ぼそりと呟いた。
「……取り合えずは、ここを拠点にして国道を探すことにするか……
まあ、国道以外でも農道でも何でも良いから人が使っている道を見つけれるといいな。
兎に角、しばらくは周辺の探索だな。
よし! そうと決まったら」
健一は立ち上がり、森の中へと向かった。
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ガシャガシャガシャ……
「こんなもんか」
追加で拾ってきた薪を拠点と決めた場所に置いた。
焚き火用に薪を集めてきたようだ。
「こんぐらい薪を集めときゃ一晩ぐらい持つだろう。
寝床にテント的なのほしいけど…… 今からじゃ完成するか分かんないし、食料も確保しなきゃいけないからな…… 家かご飯か……
ま、天気が良いし、今日は雨降らないだろう!
って事で食料確保を優先することに決定!
家が無くても死なないけど、この森を抜けるのにどれだけの時間がかかるか分かんないこの状況なんだから、食える物を確保しないと死ぬと思うからね。
夜になったら、丁度いいサイズの…… ん~、この薪を枕にして寝ればいいや」
健一は薪の中から適当に選んで、その辺にポイっと投げた。
「さてと…… 今は全然明るいが、暗くなり始めたら真っ暗になってしまうんだろ? どうせ。
その前に食料の確保といきますか! 今晩は山菜料理かなっ? フフフ」
ポケットに手を突っ込み口笛を吹きながら意気揚々と森へと消えていく健一……
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数時間後――
「ほらねっ! 暗くなった。
真っ暗じゃねぇかよ!
でも……
月明りを見ろよ、そして、この満天の星空を……」
誰に言っているのか健一は、ご満悦だった。
月明りに照らされた河原に、焚き火の明かりが健一の周りを淡くオレンジ色に染めていた。
パチパチと爆ぜる薪。
虫の音や、川の音、時折聞こえる鳥の歌が何とも言えない音楽を奏でているように思えた。
「おっと。
センチな気分になっちまった、フフフ。
クッキングといきますか!
一人暮らしで培った、俺の料理の腕前を見せる時が来たようだな!」
誰に言っているのか健一は、ご満悦だった。
焚き火の周辺に置かれた色んな種類の葉っぱやキノコ、それと、何かの実。
健一が収穫してきた獲物達である。
「……食えんのかな?」
収穫してきたは良いが不安でいっぱいの健一。
「考えたら、俺、ぜんまいくらいしか山菜なんて知らないからな。
取り合えず適当に集めてきたけど……
まあ、コレは知ってるぜんまいの形にかなり近いから、Aランクとして……」
腕ほどの太さと長さのある、ぜんまいに似た何かを掴んで他の食材から離して置いた。
そして、他の食材を危険度が高い物とそうでない物とをランク分けしていく健一。
Aが特上、Bが普通、Cがまずいけど無害、Dが危険だがギリOK、Eがダメだが壊れる覚悟があれば、Fがもはや毒といった感じらしい。
なら全部EかFだろ? そう思うのだが、健一は、悩みながらもランク分けをしているようだ。
結構、BやCが多いが大丈夫か?
自分で収穫してきた物なので結構点数が甘いようだ。
「……こんなもんか」
ランク分けが終わり、健一が呟く。
流石にいざ実食となると不安そうな表情になっている。
「一応Dランクにしたけど……
俺だって、此奴は危険だってわかってるが、教えてくれる人がいる訳じゃ無いし、人体実験…… い、いや、試行錯誤していくしかないからな」
キノコ類を手にした健一。
キノコは、日本でも種類を誤って食べて死ぬ人がでるような食材である。
素人が適当に収穫し、口にして良い食材の訳がない。
だが、今の健一は危険でも食べれるかどうかを自身の身をもって試していくしかない状態なのだ。
それでも、健一にとって人体実験という言葉に抵抗があったらしく試行錯誤と言い直していた。
「……まあ、コレは最悪、他のがダメだった場合に試すとして」
やはり怖いのでキノコ類は後回しにして、ランク上位陣を先に調理する事にした健一。
川の水を煮沸しようと用意していた大きな葉っぱに水を入れ、火にかけた。
「デカいな」
ぜんまいモドキを適当に折って、葉っぱの鍋にぶち込む健一。
「茹で上がるまで時間かかるだろうから……」
健一は、控える食材達に視線を移す。
ちなみにラインナップは、B(普通)なにかの実、C(まずいが無害)葉っぱや山菜っぽいもの、D(危険だがギリOK)キノコ類、である。
「普通に考えて高ランクからだよなぁ……」
ピンポン玉くらいのサイズの何かの実を手にとった。
オレンジ色をしたツルツルした表面の実。
果物?
ゴクリ!
唾を飲んだ健一。
あの真っ赤な果実を思い出す。
嘔吐と下痢に見舞われた、あの真っ赤な果実を……
オレンジピンポン果実を、恐怖で震える手で口に運び、少しだけ齧ってみた。
「……」
目を閉じ、咀嚼し、飲み込む。
時を待つ。
1分程過ぎたが…… 異常なし。
量が少なすぎたのかもしれないと、次は半分ほどを口に入れた……
モグ…… モグモグ、モグモ
「あ、甘、すっっっっっっぱああああああああ!!!」
一瞬甘いかなと思った次の瞬間、強烈な酸味が口内を襲ったらしい。
「ん゛~~」「ん゛~~」言って健一が悶絶している。
あ、川に水を飲みに行った。
戻ってきた。
「……C!」
オレンジピンポン果実のランクが決定したようだ。
「確かにすっぱかったが、疲れた時は酸味が欲しくなるし、お前をレモンの親分だと思う事とする!」
オレンジピンポン果実を指さして健一が言い聞かせた。
「残るは、CとD……」
やめたくて仕方ないといった表情で、残りの食材達を眺める健一。
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クッタクタに煮込まれたぜんまいモドキが入った葉っぱ鍋が火から降ろされている。
そして葉っぱ鍋には、火を通せば少しは安全かもと思った健一の考えで、キノコ達が煮られていた。
その横では健一が横たわっていた。
「く、くそっ! 死んで…… た、たまるかぁ」
ヨロヨロと起き上がった健一の周辺には、当初Cランクとしていた食材のほとんどが散らかっていた。
「これと、これはD(危険だがギリOK)でいけるが、後は…… EかFだろ!」
腫れあがった唇としゃがれた声の健一。
嘔吐物が周辺に幾つかあるが…… ん?
ああ、瞼も腫れぼったくなっている。
手や顔に湿疹が……
ま、まあ、死んで無いし成功? いや、うん、成功だ…… よね。
「もう怖くてキノコ試したくねぇよ!」
うん。
泣き言を言った健一を誰が責めれようか!
「もう俺、ぜんまいモドキだけ食べる!」
煮上がっているぜんまいモドキを震える手で掴み、口に運ぶ健一。
ポトリ
地べたに、ぜんまいモドキが落
「あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~~~!!!」
どうした健一?!
「じ、舌がぁ、イガイガずる゛~~~~!!!
あ゛ん゛だ゛け゛煮゛た゛の゛に゛~!」
自分の舌や口内を襲ったのは、ぜんまいモドキの灰汁と健一は思った。
それからひとしきり悶絶した後、川に行き舌を洗いうがいをして戻ってきた。
「あ゛っ、あ゛っ、あーーー。
なんかまだイガイガすっけど……
……暫定で、C。
灰汁をもう少し何とか出来れば……
うーん、困った。
さんざん苦労して灰汁が抜けたとしても……
どうする…… どれも食いたくない。
兎に角、今日は食べたんだから、うん」
危険なキノコ達をチラッと見る健一。
「今日は食べたし、お腹いっぱいになったという事にしよう!」
ボロボロの健一の森での最初の夕食はこうして幕を閉じるのだった。
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パチ…
パチ、パチ……
焚き火が揺れている。
健一は、枕と決めた木に頭を乗せて熟睡していた。
近くに火がある事の安心感と、一日色々あった事での肉体的、精神的疲労の為、ぐっすりと眠りに落ちていた……
月が雲に隠れ真っ暗な中、焚き火だけがゆらゆらとあたりを照らす。
ジャリ…
微かな音がした。
「遠藤先生! いや、美紀…… 上田先生なんて、やめてくれ!
美紀には、 ……健一と、呼んでもらいたい……」
……いや、お前どんな夢をみているんだ?
何かの気配が近づいてくる。
ジャリ…
ジャリ…
ジャリ…
河原の石が鳴る。
何かが確実に近づいてきていた。
「グルルルル……」
パチ、パチ…… パチッ!
焚き火が爆ぜた。
その時、月を隠していた雲間から光が差し込み始め辺りを淡く照らし始めた。
そして、熟睡する健一の、すぐ近くにまで来ていたソレの姿があらわになる。
ジャリ…
ジャリ…
ジャリッ
大きい、いや、凄くデカい。
「美紀、そんな…… どこでそんな事を覚えたの?!…… ムニャムニャ……」
いやだから、どんな夢だよ!
それどころじゃないぞ。
だって、ほら、クマのようにデカい狼のような獣が…… 健一を見下ろしているからね。
ディナーが終わって俺は眠りについた。
すやすやと天使の寝顔で夢の中の俺。
そんな俺に危機が迫っている事など知る由もなかった。
そりゃ、寝てるからね。