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第29話 勧誘 その3

学校づくりプロジェクトのメンバーも増え、新たな気持ちで生徒の勧誘へと向かう俺達。

よっしゃ、サクッと生徒を集めるか。

みんな、俺についてこい!

 アレスの午後の剣術の授業を中止した健一達は、生徒の勧誘の為に屋敷を出たのだが……



「子供発見!」


 集落の井戸で水を汲む少年を指さし健一が叫んだ。


「子供ですね!」


 アレスの剣術の先生にしてアント領最強の戦士ネッガルスが嬉しそうに健一に同意する。

 喜ぶ二人と対照的にアレスとアリサは冷めているのが、その表情から解った。


「よし、ネッガルス。

 まずは、俺がお手本を見せるから、ちゃんと見ておくんだぞ!」


「はい! 健一さん」


「フフフ、良い返事だ」


 親指を立て、ネッガルスにウインクした健一は颯爽と少年の元へと向かった。

 一回も成功してない癖に何をお手本にするのだろうかとアレスとアリサは思った。


「どうしたんです二人とも!

 こんなとこでぼさっとしてないで、健一さんのとこに行って勧誘の仕方を学びに行きますよ!」


 午前中と同じように離れて健一を見ていたアレスとアリサに声をかけるネッガルス。

 アレに学ぶ事など何一つ無いと思う二人だったが、グイグイくるネッガルスがアレスを健一の方へと押していくので、アリサも渋々向かう事にしたのだ。


「い、行くから、押さないで!」


「はい、アレス様。

 さあ行きましょう!」


 押すのをやめたネッガルスがアレスに笑顔で答える。

 観念したアレスはネッガルスと並んで歩く事にしたのだが、違和感に気づく。


「ネッガルス……、なんで剣を持ってきているんだ?」


 まさか、脅しに使うんじゃないだろうな? と不安な気持ち一杯のアレス。


「ハハハ、アレス様。

 私は、剣士ですよ! 剣ぐらい持ち歩いて当然です!

 それに、領主の息子であるアレス様をお守りするためにも必要ですからね!」


「確かに、ダノイ様にもしもの事があれば、弟のアレス様がこのアント領の次期領主になられるんですから、護衛をつけるのは当然です」


 ネッガルスとアリサの言葉に納得したアレスだが、健一先生が屋敷にやってくる以前は誰も護衛してなかったよね? と言いたかった。

 しかし、アレスは頭を振って言う事は無かった。

 何故なら、以前の自分は他人に迷惑をかける存在であったから家族以外は自分を心配などしていなかったのだと、現在進行形で迷惑以外かけたとこを見た事が無い健一の立ち居振る舞いをみて理解したからだ。

 健一のような男でも、アレスにとっての反面教師的な存在であるようで、健一の知らないとこで人様の役に少しは立てていたようだ。



「ボク~~、楽しい事好きでしょ? お兄さんね、楽しいところ知ってるんだ。

 フフ、知りたいでしょ? 良かったら、お兄さんがね、連れてってあげるよ」


「おじさん、さっきから知りたくないって言ってるよ、僕」


 勧誘のハズだが……

 そこでは、30過ぎのおっさんが、アレスと同年代と思われる少年を困らせていた。


「ちょっと、アンタ。

 子供が困ってるじゃないの」


「はっ?

 なんだよ、そんな訳無いだろうアリサ。

 ホントに馬鹿だな」


 近くに来てみれば、健一が子供を困らせていたので注意したのだが、本人は子供が困っているというか完全に引いている事に気が付いていないようだった。


「健一先生、さっきの会話、犯罪の匂いしかしないんですが…… 本気で勧誘する気あるんですか?」


 ある程度ろくな勧誘の仕方じゃないだろうなと思っていたアレスだったが、ここまで酷いと思っていなかった。


「流石健一さんだ!

 あの少年を怖がらせないように優しく語り掛ける…… これが勧誘の極意なんですね!」


 何を見て聞いてそう思ったのか、ネッガルスは健一の言動に「なるほど!」的な表情で感心している。

 そんなカッサルを、アレスとアリサは、お前も大概だなと思った。


「あっ!?」


 突然カッサルが剣を抜いたので、驚いたアレス。

 その驚くアレスをよそに、カッサルが前に出た。


「ほうら、カッコいいだろう?

 触りたくないかい?

 ついてきたら、コレを触らせてあげても良いんだよ?」


 切先を子供の目の前に向けたカッサルが、子供に向って静かに語り掛けた。

 完全に恐怖で固まる少年。


「フヘヘ、良かったな、子供。

 男の子は、剣とか好きだもんなぁ。

 ピカピカ、カチカチだぁ……

 フフフ、触りたいんだろう?」


 少年の肩に手を置いた健一が怖がらないように少年の耳元で優しくささやいた。

 逃げれない少年は恐怖のあまり気を失いそうである。


「健一、その辺にしとかないと、私が通報するわよ」


 あまりに少年が可哀相なのでアリサが言った。


「この状況をその子の親御さんに見られたら、また揉めますよ。 絶対」


 勘弁してくれとうんざりした表情のアレス。

 だが、健一はそんなアリサとアレスの言葉に明らかに不機嫌になった。


「なんだお前ら!

 やりもしない癖に、文句ばっかり……

 ネッガルスを見習え!

 ちゃぁーんと行動してる。 俺に協力しようってのが伝わってくるし立派だよ!」


 腹を立てる健一。

 注意すべきは注意し、褒めるべきは褒める。

 そんな気持ちで、さも当然の発言だと言わんばかりの健一の姿勢だが、アリサは、


「見習えって、アンタ……」


 そして、アレスは、


「立派??」


 正気か、お前?! と、我が耳を疑った。

 驚きの表情の二人であるが、当然だが健一は気にしていないようである。


「健一先生、彼も怖いと思うので、少し離れてくれませんか?」


 健一の態度など気にしていては、自分が損するだけなのでアレスは兎に角、目の前の少年を助けようと思って言った。


「はぁ? なんで? ん?」


 言ったが、健一に全然響いて無いようで聞いてきた。


「僕が話をしてみますから、二人は彼から少し離れてください」


 健一の質問を無視してお願いするアレス。


「おっ!

 アレスも声かけに挑戦する事になったのか?

 ようし、飛び込み営業の練習だと思って気楽にな!

 将来営業の仕事するかもしれないし、絶対にこの経験は無駄じゃない!」


「え?」


 ごねるかと思われた健一がすんなりと代わってくれるようだ。

 訳の分からない事を口走っていたが、どうせ大した事は言ってないだろうとアレスは気にしていない。


「アレス様、ガンバです!」


 俺に続けと言わんばかりのネッガルス。


「……」


 顔の曇るアレス。

 ただただ健一もネッガルスも屋敷に帰ってくれ!と願うのだった。


 そしてアレスは、おびえる少年の側に行き……

アレスが自発的に行動した。

アレスの教師として、人生の師として、尊敬する目標の男としてアレスに憧れを抱かれているであろう俺は、とても嬉しく誇らしく感じた。

俺の背中をみて真っすぐ育ってくれ、アレス。

それはそうと、その少年だが、ほぼ学校に行きたいって気持ちになっているだろうから最後の一押し、頼んだぜ!

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