第28話 勧誘 その2
学校づくりのプロジェクトリーダーとして奮闘する俺。
無能なメンバーだからな、俺がしっかりする他あるまい。
「ダメダメ! 仕事があるのに、毎日遊びに行かせる? 冗談じゃない、帰ってくれ!」
「いやお父さん、遊びじゃなくてですね、お子さんには学校で勉強を」
「だからダメだって言ってるだろう! アンタもしつこいな、帰ってくれ!」
「わ、わかりましたよ。
……お仕事が忙しい時にお邪魔して申し訳ございませんでした。
今日は帰りますが、また来ます」
「来なくていい!」
健一の目の前のドアが荒っぽく閉められた。
「ううぅ、またか」
閉じたドアの前で項垂れる健一。
学校への勧誘の為に各家庭を個別訪問しているのだが、いまだ生徒を一人も獲得できていなかった。
健一は顔を上げる。
ダメなら次行けばいいだけだと自分に言い聞かせて、少し離れた場所にいるアレスとアリサの元へと歩いて行った。
「これで何件目?
まだ一人も勧誘出来てないんだし、もう良いんじゃない?」
到着早々言われた健一がムッとした表情になる。
「アリサ、諦めが早いぞ。
まだ、数件ダメだっただけじゃないか!
折角三人で頑張ろうって言ってるのに、そんなに簡単に諦めるなんてダメだろ」
「三人でって、私は了解した覚えが無いんですけど」
「いいから。
人間諦めたら、そこで終わりですよって事だよ。
次だ、次行くぞ!
大体、なんで毎回勧誘の声かけ俺なんだよ?
もっと俺一人に頼るんじゃなくて、お前らも積極的に声をかけて勧誘してきてくださいよ」
勧誘の声かけで全然成果が出ないどころか、罵倒されたり怒られたり、勧誘を始めたら基本ケンカ腰でこられる事が多いので、怖いし嫌になってきた健一。
「勧誘も良いですけど、もう昼も過ぎてますし一旦屋敷に帰りませんか?」
「そうよ!
アレス様の言う通り、帰りましょう。
私、お腹空いてるし、健一もお腹空いてるでしょう?」
「ろくに働きもしてない癖に、お前ら……
いいよ。
もう、帰れお前ら! 働き者の俺は、もう少し頑張ってから帰るがな!」
腕を組んで二人に背を向ける健一。
大人が拗ねるのは見苦しいものがあるが、アレスとアリサは、やっと解放される、良かった! と満面の笑み。
(帰れと言われたところで、この学校プロジェクトのリーダーである、この俺を残しては帰りにくいだろう。
静かだし、俺にガツンと言われて、だいぶ凹んでるんだろうな。
フフフ、しょうがないな。
心配するな、俺は鬼じゃない、お前らみたいな、どうしようもない奴も見捨てないから!
ホントに俺って、最高のリーダーだぜ、自画自賛しちゃう)
身勝手極まりない事を考える健一が、溜息をついて、
「ったく、しょうがない奴等だな! もう許してやるから一緒にがんば」
振り返ったが、アレスとアリサは、屋敷の方向へと歩いていた。
「本当に帰ってどうする!
おいっ! ちょっと待て、待って~~!!」
健一は慌てて二人を追うのだった……
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◇◇◇
領主の屋敷、食堂――
「全く! モグモグ、お前らは、ムシャムシャ、学校を作るって崇高な志を忘れたのか? モシャモシャ」
リーダーと自負する健一は口いっぱいに頬張りながらも鋭い眼光で言った。
「汚いわね。
咀嚼しながら喋ってないで、ちゃんと食べなさいよ」
「ミキなんて、ガツガツ食ってお皿の外にこぼすんだぜ、それに比べたら美しいもんだよ、俺の食い方は!」
どうだ、まいったかの体で言われたアリサだが、獣であるミキと人間の自分の食事の仕方を同列に考えている健一を本当に救いようがない奴だなと思ったが、面倒なので口にしなかった。
「アレス、午後は誰の授業が入ってるんだっけ?」
「剣術だから、ネッガルスですが?」
アレスが答えた。
使用人用の食堂で初めて食事するアレスは、自分の家ながら初めて入るこの場所に興味があるのかキョロキョロとしている。
「こら! 食事中にキョロキョロするんじゃない。
マナーがなってないぞ!」
「いや、お前が言うか?」
アレスに食事のマナーを説く健一に思わず突っ込むアリサ。
当の健一は何が? と一瞬キョトンとアリサを見たが、ヤレヤレと、さもアリサが悪いかのように溜息をついてアレスに向き合った。
「ネッガルスの授業か。
まあ、あれなら休んでも支障はないな。
午後からまた勧誘に行くぞ!」
「支障が無いわけないでしょう!」
健一の後ろから異議を唱える者が現れた。
ネッガルスである。
「遅いと思って探してみれば、こんな場所にアレス様をお連れして、健一さん何を考えているんですか?」
「こんな場所ってなんだよ、アレスが自分の家のどこに行こうが勝手じゃないの?」
「確かに、そうですけど……
アレス様、お食事が終わられたのなら、剣術の稽古に行きましょう」
また面倒な事を言い出したと思ったネッガルスは、健一の質問に適当に答えてアレスとさっさとこの場を去ろうと考えた。
「食事中に急かすなんて、マナーがなってないな。
剣ばかりやってると、そんなガサツな人間になるのか?」
お前がマナーを語るなとアリサは思ったが、言っても健一がごちゃごちゃ言って自分が気分悪くなるだけなので言うのを辞めた。
「健一さんでも怒りますよ。
今度は、剣で勝負しますか?」
「確かに言い過ぎた。
申し訳ない。
俺が、全面的に悪かったよな……」
「え?
いや、何時もの事ですし、全然傷ついても怒っても無いですけど」
何時もは意地でも自分に謝る事をしない健一が素直に謝罪してきて戸惑うネッガルス。
「だから……
謝罪も兼ねて、お前も仲間にしてやる。
やったな!」
ガッツポーズの健一と、意味が解らず困惑するネッガルス。
アリサとアレスは、「ああ、巻き込むんだ」と顔が曇った。
「あの、健一さん、ちょっと意味が解らないんですが」
不安でいっぱいのネッガルスだが、健一は立ち上がってネッガルスの肩に手を置いた。
「うん、そうだよね。
大丈夫、今から、ネッガルス君に僕がちゃんと説明するからね」
健一は、ネッガルスを座らせて学校づくりの事を説明した。
いかにこの領地にとって有益な事か、いかにアレスにとってメリットがあるのか、いかに世界にとってかけがえのある事なのかを切々と訴えたのだ。
話を盛ったりなど些細な事であると言わんばかりに、学校が出来たら直ぐ成果がでるような事を吹いている。
そんな上手くいかないだろうと健一の話を聞いているアレスとアリサが思っている横で、だんだんネッガルスの目がおかしくなっていった。
信者のソレである。
「……健一さん」
「ん?」
話の最中に何だ? と健一は思った。
その時、突然手をネッガルスが掴んできたので告白されるんじゃないかと健一は焦った!
「素晴らしいじゃないですか!
学校、作りましょうよ!
ダモン様も積極的に協力なさると健一さんがおっしゃっているのなら、何の問題もないじゃないですか!
僕も微力ながら協力させてください、健一さん!」
領主のダモンに作るのが決定したなど一言も言っていないが、結果的に学校が出来れば同じでしょ? 的に考える健一なので、勝手に話を盛った事に何ら罪悪感など無いのである。
最悪の人間性である。
「ちょ、ちょっと健一」
「何?」
堪らずアリサが健一を引っ張る。
アレスも立ち上がり、健一をネッガルスから離れた場所に連れ出した。
「何考えてるのよ健一!」
「何って、アリサ」
「そうですよ、ある事ない事言ってましたけど、今日決まった事で何の話もしてないと思われる学校づくりが、なんでお父さんが全面協力するって事になってるんですか!」
「いや、結果そうなれば良いなって希望だよ。
夢を持つことは良い事だぞ、アレス」
「一ミリも進展してない状況で、あの人を引き込んでどうすんのよ」
「バカだなアリサ。
役に立つだろ?
ケンカ腰で来る保護者も多かったし、暴力には暴力で…… ねっ?」
「ねっ、じゃないですよ!
思いっきり力ずくでやろうとしてますよね?
そんな事したら暴動や謀反、少なくとも領地から領民が去りますよ」
「お前が言うなよ。
前のお前は、領主の息子だからって無茶苦茶してたんだろうが?
それに比べりゃ可愛いもんじゃない」
「健一!」
「健一先生!」
「うるさい、黙れ!
プロジェクトリーダーに逆らうと辞めさせるぞ!
と言ったら、お前ら即辞めるから辞めないで。
協力しろっ!
お願いしますよ、アリサさん、アレスさん。
騙されたと思って僕についてきてくださいよ」
健一は得意の土下座で頼んだ。
そして……
「待たせたな、ネッガルス!
俺達四人、力を合わせて、この領地に学校を作るぞ!」
健一は力強く宣言する。
こうして、やる気満々の二名と明らかに温度差がある女性と子供だが、学校づくりにまた一歩近づいたのだった。
俺の人徳によって、学校づくりという崇高なプロジェクトに参加する者が増えた。
人に教えるくらいなのだから、少しは腕が立つだろうし精々役に立ってくれ。
学校に行きたい子供を探しに行きますか!




