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第26話 仕事します!

あっという間に一月が過ぎた。

屋敷にも慣れてきたと思うのだが……

 日本出身の教師である健一と、魔狼獣ファングのミキがアント領の領主ダモン・アントの屋敷にやってきてから一月が過ぎた……



「さて、今日も一日頑張ろうな!」


 爽やかな朝、健一がアリサとミキに言った。

 何時もの従業員用の食堂の光景である。


「毎日、毎日、よくもそんなにバクバクと食べれるわね」


 肩肘をついて呆れているアリサだが、健一は気にしない。

 それどころか、食事中に肩肘をつくなんて行儀が悪いとすら健一は思っているようだ。


「あのな、朝をちゃんと取らないと、頭が働かないんだぞ!

 仕事の出来る男は朝をしっかりとるもんだ。

 この俺のように」

「あんた、仕事らしい仕事してないじゃない。

 それでよくクビにならないわよね……

 大体、一か月も過ぎてるのに、何で私があんたの教育係を継続させられてるのよ?」

「仕事?

 ああ、確かに自慢じゃないが、まともにアレスに授業してないからな。

 ……俺が言うのもアレだけどさ、俺の他にも教師がいて、ちゃんと授業しているんだからアレス的には俺がやらなくても別に大丈夫なんじゃないか?

 いや、流石にそんな考えはダメか。

 うん。

 ……あれ?

 別に不都合が無いって事は、俺、必要ないんじゃ……」


 正にそうだと思うのだが、健一は頭を振ってバカバカしいとその考えを一蹴した。


「俺の仕事は他の教師の管理みたいなもんだから、あれだ、管理者の仕事をしています、って事にしておこう。

 それから、俺の教育係がどうのって、お前の事は知らない。

 お前の雇い主は俺じゃないし、俺に聞くな」


 味付けの薄い食事だが、森の中で調味料無しの時に比べたら随分マシだなと思いつつ、おかわりをもらいに席を立つ健一。

 毎回おかわりを要求してくる癖に味付けが薄いだの、盛りが少ないなどの不満を言う健一は、今日も何か言っているようで食堂のおばちゃんが嫌な顔をしている。



「ホントにアレが、なんでクビにならないのよ」


 自分勝手な健一に頭を抱えるアリサ。


「ワオン!」


 自分の分を食べ終えたミキが吠えた。


「ん? ああ、今日も行ってくるのね、気をつけてね」

「ワォン」


 アリサに返事をして食堂を後にするミキは、以前より成長して体が一回り大きくなっていた。

 ミキは、食堂で提供される分だけでは足りない時は、森で狩りをして補うようになっていた。

 健一と大違いである。



「くそっ、あのババァ散々文句言いやがって、こっちはちゃんと食べないとベストなパフォーマンスが発揮できませんよ!

 なぁ?」


 ミキと入れ替わるように、おかわりをもらってきた健一が席に着くとアリサに同意を求めてきた。


「なぁ? じゃないわよ。

 食堂のおばちゃん達にちゃんとお礼言ったの?

 ありがたいって思って食べなさいよ。

 ミキなんてアンタが厚かましくおかわりしてるのと違って、足りない分は自分で狩りして補ってるんだから。

 それに狩りで獲った獲物を食堂に持ってきてくれて、アンタと違ってミキは屋敷の為に働いてるのよ。

 アンタ役立たずなんだから、せめてそのおかわりの分を我慢してミキに回せばいいのに。

 どうせ、食べたところで、頭なんてまわってないじゃない」

「うぐぐ。

 人がせっかく楽しく食事しようとしているのに、お前な」

「ああもう。

 いっちょまえに腹立てなくていいから、さっさと食べてよね。

 ここにずっといたら私までサボってるみたいに思われるから」


 髪の毛をいじりながら顔も見ずにアリサに言われたが、健一は半ばやけ食い気味に残りの料理を口に頬張っていく。

 

ガシャン!


 空になった食器をテーブルに置く健一。

 モゴモゴしているのをガシガシ食って飲み込んだ。


「何だよ!

 俺が仕事もしない癖に厚かましく飯をくらうみたいに言いやがって!」


 食堂のおばちゃんとアリサは、違うの? みたいな顔になった。


「慣れない土地で苦労している、この俺に対して優しさとか無いのか?

 いや、答えなくていい!

 貴様程度の人間に俺の苦労など解るわけが無いからな。

 働くよ、働きますよ、働けばいいんだろ!」


 何やら腹を立てた健一が立ち上がる。

 働く為に雇われてるのに何を言っているんだコイツ? そう思うアリサはポカーンだが、食堂を出ていった健一を追った。




外――



「今日は、外で課外授業だ!」


 アレスを連れて領主の屋敷を出た健一が腕組をしての宣言。


「健一先生、カッサル先生の授業はいいんですか?」


 アレスが手をあげて発言。

 健一が明らかに、あ、と言う顔をした。

 廊下にいたアレスを強引に連れ出したが、今日の午前はカッサルが歴史の授業をする日だったと思い出したのだ。


「……うん、言ってあるから気にしないで良いよ」


 アレスの質問に小声で答えた健一。

 ああ、コレは許可取ってないなとアリサとアレスは思った。


「なんだ、その顔は?!

 気にすんな!

 どうせ、カッサルの授業ならアレスがいようがいまいが、ただただベラベラと授業内容を喋ってるだけだろう!」


 厚かましく性格が悪いくせに傷つきやすい健一は、アリサとアレスの表情に腹を立て、何も言われてないのに反論した。


 ただ健一が言った通り、現在カッサルは無人の教室で授業内容を淡々と喋っているので間違いではなかった。


「どうでもいいけど、アレス様を外に連れ出して、何をしようっての?」


「うるせぇな! 今から考、いや、ちゃんと考えてありますとも!

 兎に角、お前ら、俺について来いよ!」


 絶対ノープランの健一は、高台にある領主の屋敷から領民達の住む町の方へと歩き出す。

 領主の屋敷で雇われている健一が領民に迷惑をかけてしまうと、何でちゃんと管理していないんだとダモンに怒られてしまう為、嫌々ながら健一についていくアリサとアレス。



「屋敷から微妙に距離あるな!

 少々疲れたが…… おかげで、やる事が決まったぞ!」


 歩いてきて疲れた表情の健一だが、道中考えていたようで力強く言った!


「やっぱ、何するか決めて無かったんじゃない」

「黙れ」


 授業はもう始まっているんだから静かにしなさいとばかりにアリサに注意する健一。

 流石に「ふざけんなよお前」とアリサが言おうとしたが、話が進まないのでアレスが止めた。


「で、健一先生、町で何をするんですか?」


「うむ!

 考えたけど、屋敷で家庭教師つけて一人で勉強も良いんだろうけど、アレス、お前学校で他の子と一緒に学ぶべきだ!」


 ビシッとアレスを指さす健一。

 ポカーンとするアレスとアリサ。


「学校で友達と学び、遊び、そして培われる集団行動や人格形成!

 特にお前は、領主の息子なんだから領民と直に触れ合って、領民がどんな考えや価値観を持っているのか知った方が絶対に良い」


「健一の癖にまともな事言ってる……」

「黙れ」


 アリサに注意してアレスに向き合う健一。


「でも先生、学校なんてここには無いですよ?」


「ああ、知ってる。

 ダモンから、いや、ダモン様から聞いてるからね」


 にっこり笑う健一。


「やっぱり、何も考えていない」

「黙れ」


 アリサに注意してアレスに向き合う健一。


「無いなら作るだけの事だ。

 お前が授業を受けている教室、まあまあ広いから他の子も受け入れれるだろ?

 無駄にデカい屋敷だからちょっと借りればいいだろう。

 ダモン様もやってみろって言ってた気がするし、大丈夫だろう」


 ダモンとした約束もうろ覚えなので、都合よく解釈した健一。

 今ある施設を利用する事で、校舎を用意するお金もかからないし、怒られないだろうと軽い考えでいるようだ。


「それに、何を言われようと、アレスの為になる事だから!」


「本当に、お父さんから許可を受けてるんですか?

 僕の為って…… 僕からお父さんに何かさせようとか考えているような気がしてならないんですが」


「うん、それは、その時の流れで…… いいから、気にするな!」


「いや、気にしますよ。

 簡単に学校つくるって言っても僕以外の生徒は、どうするんですか?」


「アレス様、この馬鹿、どうせ何も考えてないですよ」

「黙れ」


 アリサに注意してアレスに向き合う健一。


「フフフ、アレス、アリサ。

 今日の授業は、生徒の勧誘だ!」


「は?」

「私、生徒じゃないわよ」

「よーし、一人でも多くの生徒を勧誘出来るように元気出して出発だ!」


 驚くアレスと抗議するアリサを無視して、高らかに宣言する健一であった。 

学校を作る事にした。

当初の目標でもあった事だ。

サクッと生徒集めて学校開始といきますか!

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