第20話 理解しろ!
普段適当な俺でも、流石にダメだろうと手が出てしまった。
俺のやったことは、普通にダメなんだろうな。
でもちゃんと、小さい内に悪い事したら罰としてガツンとやっとかなきゃ、碌な大人にならんだろうと思う。
午前中の授業が終わると、健一、アリサ、カッサルが軽い打合せをした。
その後、三人とアレスを監視させていたミキは、アレスと共に昼食をとる事にした。
何時もなら雇い主の息子であるアレスがこの三人と食事を共にする事など無いのだが、午前中の教育的指導の賜物なのか、一緒に食事をしようという健一からの提案をアレスが素直に聞いたので実現した事なのだ。
ゴリゴリの特権意識からの意識改革の教育の面もあるが、当然、午前中にアレスをボッコボコにした事を喋られないように監視の一環である。
「アレス、お前の事を見守ってあげたいが、俺達三人は大人だし暇じゃない。
解るな?」
「健一先生、これまでも一人でいましたから大丈夫です」
監視の目が無くなるのは喜ばしい事なのでアレスは笑顔で答えた。
「これまでの生活態度が問題だから、私達がお前の監視、いや、見守りをする事にしたんだろ!」
カッサルが声を荒げる。
これまで、相当辛い目に合ってきたのだろうなと授業の時と全然違うカッサルを見て健一とアリサは思った。
だが、気の毒だとは思うがカッサルが不用意に監視と言ったので健一が睨みつけ、気の緩みを引き締めさせる事は忘れない。
「カッサルさん、お前とか他の人がいる前ではやめてくださいね。
こんなのでも領主の息子なんですから」
お前も大概にしとけと健一はアリサを見る。
気づいているのか、いないのか、素知らぬ顔で食事を続けるアリサに溜息をつくと健一は食事をしているアレスをみる。
「アレス。
お前も内心俺達にムカついているんだろう?
ああ、良いから、最後まで話を聞け。
最初の導入としては、うん、やり方が間違っていたかもしれない。
認めるよ。
だがな、今までのお前の行動が招いた事だと理解しろ。
まあ、理解しろって言っても子供だし難しいよ、だから、取り合えず、俺達の言う事を聞いて従え。
それが、お前の為なんだぞ。
今は俺達がムカつく奴等だと思うのはしょうがないし、俺達はお前の気持ちを理解している。
だが、きっとお前は、俺達に感謝する事になる。
絶対だ。
世の中に絶対だなんて存在しないが、これだけは確実なんだ。
どうしてかって言葉で教える事は簡単だ。
だが、俺達が教えたところで、お前は本当の理解など出来ないんだ。
お前が体験して、俺達がやった事の意味を知ってやっと理解出来るんだから。
だから、兎に角、俺達に今は従え。
それで、やっぱ意味が無いと、アレスを俺達がただ苦しめていただけだと思ったら、俺を処罰しろ、アリサとカッサルさんは俺に従ってるだけだから」
その言葉にアリサとカッサルが、健一の顔をみる。
健一は、じっとアレスを見ているが、アレスは下を向いて何を考えているのか解らなかった。
「ワォンワォ」
暗い顔をしているアレスにミキが吠える。
そして、アレスの顔をペロペロと舐めた。
「うわっ! 何するの?!」
「ハハハ、良かったなアレス。
ミキがお前の事を励ましてくれてるぞ!」
ミキに舐められベッチョベチョになったアレスに健一が言った。
すると褒められたと思ったミキが健一に飛び掛かり顔を舐めてきた。
「ちょっと、ミキ、やめ、やめてって」
ビチョビチョになりながら笑顔の健一がミキに言った。
ミキが離れると、健一とアレスが顔を合わせて微笑みあった。
「……ねぇ、さっきミキ、自分のウンコ食べてたけど」
真顔で言ってきたアリサ。
「……」
「……」
次の瞬間、健一とアレスが席を立ち顔を洗いに手洗い場へと走ったのだった。
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「健一さん、昨日何かあったんですか?
今日のアレス様、何か何時もと様子が違いましたけど?」
午後、アレスの剣術の稽古を見学しに来ていた健一はネッガルスに声をかけられた。
「そ、そうか?
まだ来て二日しかたってないから、何時もと様子が違うと言われても、良く解らないなぁ」
アレスが変わった直接の原因? それなら午前中の授業でアレスをボコボコにしたからだよ。 ……なんて言えるはずもないので健一は、変な汗をかきながら答えた。
「ネッガルスさん、アレス様は成長しているって事ですよ。
いつもみたいに我が儘や暴力的じゃなくて、礼儀正しかったって事でしょう?
なら、問題ないどころか、良い傾向じゃないですか!」
健一同様に変な汗を流してアリサが続けた。
健一とアリサは、深く追及するなとネッガルスを見ている。
ちょっと、聞いただけなのに、必死だなとネッガルスは思った。
だが、
「ん~~、確かに、それもそうですね」
アリサの言う事も、もっともだと思ったネッガルスは笑顔で答えた。
その事に、胸をなでおろす健一とアリサ。
「しかし、今日は珍しいですね、カッサルさんも見学に来るなんて……
こういっちゃなんですけど、最近のあの人、……やる気が感じられなかったですから。
適当っていうか、どうでもいいって感があって、教育者なのにアレス様の事なんて何も考えてない感じでアレス様からも信用を失っていたのに……」
ひそひそと健一に言ったネッガルスの視線の先には、剣術の稽古を終え汗を拭うアレスと談笑する教師兼監視員のカッサルとミキがいた。
ネッガルスからは、何を話しているのかは聞こえないが、カッサルとアレスは、稽古の後ちゃんとネッガルスに頭を下げてお礼が言えた事を褒める事や使用し終えた剣を使用人に渡す時に礼が無かった事へのダメ出しを話していた。
「か、考えすぎじゃない?
きっと、やる気が出たんだろ? やる気があるならいいじゃん、何も問題ないじゃん」
確かに教育の面もあるけど、アレスが余計な事を言わないかの監視の為だからね! なんて言えない健一は、変な汗をかきながら答えた。
もう、余計な事を聞くなと書いてある健一の顔をじっと見るネッガルス。
健一は視線をずらす。
アリサは、健一が挙動不審だから何か感づかれた?! と、非難するような視線で健一を見た。
その時、
「……そっか!」
大きな声でネッガルスが言った!
バレた?! そう思った健一とアリサが、ネッガルスの顔を見る。
二人とも顔面蒼白。
アレスをボコボコにした事が何故バレた?! 確かに少々殴った痕があったけど! そう二人の顔に書いてある。
「健一さんが新しく先生として雇われたからですね。
あのやる気が無かったカッサルさんにも危機感ってのが芽生えたからだ。
そう、自分の代わりになりうる先生が雇われてしまったと……
だから、今更ながらアレス様への教育に力を入れ始めたって事なんじゃないですかね?」
ネッガルスの言葉にキョトンとする二人。
だが、ハッとしたアリサが健一を見る。
「そうですよ! ねぇ? 健一!!」
「え? あ、ああ、そうかな? いや、うん。
そうだ!
ネッガルス、でもさ、動機がなんであれ、カッサルさんが変わったのって、アレス様にとって良い事なんじゃないの?
よ、ようし!
お、俺も、カッサルさんに負けないように、頑張らなきゃ!」
ネッガルスの意見が都合が良いので乗っかる二人だった。
ネッガルスも自分の推理を肯定されてまんざらでもない様子であった。
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「アレス、お疲れ! 今日一日、頑張ったな。
正直、お前の事を見直したぞ。
午前中、ちょっと俺達がきっかけを与えたくらいで、午後のお前は、今までと全く別人みたいに成長した」
「そ、そうですか?」
夕日に染められた廊下で健一がアレスに言った。
「アレス様、立派でしたよ」
アリサに言われて顔が赤くなったが夕日のおかげで健一達にバレずにすんだアレス。
「ああ、立派だった。
帰ってったカッサルさんも、アレがアレス様なのかってびっくりしてたもんな。
後は夕食の時にお父さん、お母さんに乱暴な口をきかない事、いいな?
俺はついて行ってやれないけど、メイドであるアリスは、お前達家族の食堂で世話するのに行くから心配するな。
お前が意識しなくても権力者の息子なんだから、常に人の目を意識して行動する事、俺達だけがいる場や自分の部屋以外は気を抜いたらダメって思うんだぞ」
健一の言葉に頷くアレス。
「偉そうに……
アレス様、今日はお疲れ様でした、早くあのバカから離れましょう。
でも、あのバカの言う事も少しだけでも頭においてくださいね」
アリサがアレスの肩に手を置いて押していく。
その様子をヤレヤレと健一は見送った。
今の健一は気分がいいので、寛大な心をもっているのだ。
なぜなら、明日は、魔法使いと会えるからだ。
しかも若い女性だ!
……いや、アレスを教えに来るだけで別に健一に会いにくる訳では全く無いのだが。
「魔法使いか……
映画やアニメの世界だな、おい!
美少女、魔法、そう魔法少女だよな!
子供が子供を教えるって、流石ファンタジーだぜ!」
ネッガルスより若いらしいが、美少女だとは誰も言っていない。
一人、盛り上がる健一であった。
さあて、次回の「日本で教師をしていた俺が異世界でサバイバル生活する事になろうとは」は、なんと魔法使いの登場だ。
映画やアニメで見た事ないのが、この目で見れるんだから、楽しみだぜ!
ん? 大概魔法出てくる?
それはそれ、コレはこれだ!




