第19話 これでもくらえ!
癇癪をおこした子供に、そこに座れと命令された。
面倒な事にならないように、大人な俺はちゃんと座りました。
領主の息子のアレスが豹変した。
ミキをイジメないようにと健一が言った事が気に食わなかったらしく、癇癪をおこしたのだ。
「おい、誰に対してモノを言っているのかを、解っているのか?」
座らせた健一に鬼の形相のアレスが聞いた。
「誰にって……」
いや、お前にだろ? そう言いたいところだが、流石に雇い主の息子だし不味いだろう、何が正解なんだ? そう思いながら健一が近くにいるアリサを見ると、下を向いていた。
次に見た先輩教師のカッサルは、相変わらず授業を進めている。
どちらも関わり合いになりたくないのだろうなと健一が推測したが、実際二人ともそう思っている。
諦め視線をアレスに戻す健一。
「って、ちょっと待て!」
思わず叫ぶ健一。
部屋に飾ってあった花瓶をいつの間にかもってきていたアレスが、その花瓶を自分の頭上で振り上げていたからだ!
しかし健一の制止も間に合わず、アレスの振り下ろした手から花瓶が投げつけられた。
ガッシャーーン!!
健一の頭に直撃して割れる花瓶。
破片と鮮血が飛び散る。
高そうな花瓶であったが、形あるものいずれ壊れる運命にある。
いや、そんな事を今、健一が考える余裕などない。
蹲り頭を押さえて必死に痛みに耐えているので精一杯のようだ。
アレスの行動にアリサは、流石にやりすぎだろうと引いた。
音が聞こえたはずのカッサルだが、授業を続行している。
ミキの表情が変わる。
「お前! 俺に逆らったら、痛い目に合うんだからな!」
蹲る健一に吐き捨てるように言ったアレス。
その背後にミキが近づく。
「ガルル……」
ミキの唸り声に気づいたアレスが振り向く。
「ひっ!」
目の前には、先程迄の穏やかな表情と違い、鼻に皺を寄せ殺気立ったミキがいた。
一歩後ずさったアレスだが、そこから先は恐怖で体が動かない。
唸り声をあげるミキがゆっくりと近づく。
仲間を傷つけられた怒りが伝わってくるようだ。
「ミキ、そこまで!
子供に危害を加えたら俺が許さないからな」
その健一の声にミキの動きが止まる。
「いててて……」
頭から血を流す健一がゆっくりと立ち上がった。
出血でボーっとする頭で見ると、アレスがガタガタと震えているのが見えた。
「おい! アレス、もう大丈夫だ。
ミキはお前と違って頭が良いし素直だから、お前を襲う事はしない」
恐怖の表情をしたアレスが健一の顔をみる。
健一がニコリと笑った。
助かったのか、どうなのか、アレスには判断がつかないが、ミキの動きが止まった。
「さてと……」
健一は、この時もずっと誰も聞いていない授業の内容を喋り続けているカッサルの元へと歩く。
カッサルは、アレスの机に向かって喋り続け健一を見ない。
「カッサルさん、申し訳ないけど、今日は俺がアレの躾させてもらいますね」
ぼそぼそとカッサルの耳元で呟いた健一。
躾とかも担当しているカッサルを差し置いての行動になってしまうので断りを入れたのだ。
健一の声が聞こえた時、一瞬カッサルの言葉が止まった。
それに気づいたが健一は黙って何も言わずにミキの方へと歩き出す。
健一が離れると、カッサルの授業の内容の喋りが続行された。
「お前!
この獣の飼い主だろう!
お前がちゃんとしないから、この俺に!」
離れて戻ってきた健一に声を荒げるアレス。
少しの時間だったが、間が開いた事によってアレスが幾分落ち着きを取り戻していた。
「ん? おい、どこに行く?」
アレスに言われたが、無視して歩き、ミキの前にたった健一が膝をつき、手をのばした。
「偉いぞ、ミキ。
ちょっと待ってろよ」
頭を撫でられ尻尾を振るミキ。
そして嬉しそうに健一の顔を舐めた。
「うん、ありがとう、ベチョベチョになるから」
顔を舐めるミキを手で押す健一。
そして、健一がまたミキの頭を撫でてから立ち上がった。
「俺を無視すんな!
何様だお前! お前なんか、パパに言ってここから追放してや、ギャア!!」
強気のアレスだったが、胸倉を掴まれて持ち上げられた。
「く、苦し……」
「少しくらい我慢しろ!
掴んでるんだから苦しいに決まってる!」
アレスに向って大声で言った健一。
自分に命令した男の事を、目を見開きアレスは見た。
「今から、お前を躾けるからな」
健一は、アレスから両手を放して床に落とした。
落下し床に尻を打ったアレス。
見上げるようにして、健一を睨む。
「こんな事して、ただで済むと思っ、ブベラ!!!」
健一にビンタされて倒れるアレス。
「俺は先生でお前は生徒だ。
言葉使いに気をつけた方がいい」
無表情の健一が倒れるアレスに向って歩いている。
「く、くるなぁ!
こんな、こんな暴力が許されるとでも思っ、ウギャアア!!」
健一に蹴られたアレス。
「あのな、俺が暴力を好きだとでも思っているのか?
嫌いに決まってんだろ?
でも、仕方ないじゃん。
言葉で言っても伝わらないんだから。
そのレベルまでいってないんだよ、お前は。
だから、体で、痛みで解るようになってからだよ、言葉は」
「お、俺が悪かった!
だから、やめろ! なっ? 今ならお前の行為が無かった事にしてや――!!」
喋っているアレスを踏みつける健一。
「誰が信じるんだよ、そんなもん。
この場を乗り越えれればいいって、その場しのぎの言葉だろ?」
踏みつける足に力を込める健一。
「どうだ? 痛いよな?
暴力を受けたらどうだ? 痛くないか?
お前は、初対面の俺の目をフォークで突こうとしたよな?
お前がやろうとした事は、今俺がしている事より何倍も痛い事だし、失明する危険もあった事だ。
なんで、そんな事が出来る?
お前は、お前自身が人から暴力を受けた事が無いからだろ?
今まで人を一方的に傷つけてこれたから、罪悪感なんて無かったんだろ?
罪悪感無く遊び、ゲーム感覚で日本でイジメして楽しんでる奴らと一緒だよ。
まあ、あいつ等は複数でやる分、お前よりたちが悪いけどな」
「な、なんの話だよ?!」
苦しそうにアレスが言った。
日本のいじめ事情など知らないアレスにとって可哀相ではある。
旭川や滋賀など有名どころの彼等彼女達みたいなモンスター生徒、教師、教育委員会に比べるのは可哀相だ。
「舐めんな!
日本のぬるい保護者や教師と一緒にするなよ。
悪いものは悪い。
しちゃいけない事は、しちゃいけないと俺は言うし、手も出すからな!
いいか、むやみに人を傷つけようとするな!
肉体的にも、精神的にもだ。
年上や目上の人を敬え。
人に出来るだけ優しくしろ!」
ビンタしながら叫ぶ健一。
「ちょっと! やりすぎよ、子供何だから!」
アリサが叫ぶ。
健一が叫んだアリサを見た。
アリサが健一を睨む!
健一は、頷いてアレスを見た。
「返事は!」
アレスにビンタする健一。
「いや、無視?!
こっち見て、頷いたよね?!」
流石に叫ぶアリサ。
その時であった!
「……は、はい!
もう、人に暴力はしない!
年上の人を敬います!
ひ、人にも出来るだけ優しくします!」
アレスが言った!
健一の教育的指導により、彼本来の素直さを取り戻したアレス。
これぞ、真摯に生徒に向き合った成果と言えるのではないだろうか!
コンプライアンスや倫理的にかなり不味い気がするが、結果オーライなのだ!
人と人とのつながりが一番大切なのだ。
日本の学校でも先生がやるのは問題があるので、警察か憲兵みたいなのを常駐させれば良いと作者は思うのだ。
「……だ、だから、もう、殴らないで」
「ああ! 殴らない! 殴らないぞ!」
弱弱しく言ったアレスを力強く抱きしめる健一。
だが、助かった事を確信したアレスの目に憎悪の色が滲む。
「お前が約束を破らない限り殴らないから安心しろ!
でも、約束破ったら今日の倍だからな。
隠れてやれば大丈夫と思わない方がいい、監視つけるから!
あと、俺が諦めるとか思わない方がいいぞ、俺はしつこいからな」
生徒との信頼関係をなにより重んじる健一の優しさを感じたのか、アレスの目がカッサルのように光を失うのだった。
健一はアレスを立たせて、体の埃を払い、衣服の乱れを整えてあげる。
「痛かっただろうに、頑張ったな。
でも、授業中に暴れたら、こんなふうに怪我したりして危ないから、もうしちゃいけないよ」
アレスの頭を撫でて健一が言った。
「え? え?」
意味が解らないアレス。
「そうですよ、アレス様。
今日のようにふざけて遊んでいたら、また一人で転んでしまいますからね」
アリサが言った。
意味が解らずアレスはアリサを見る
「……では、本日も滞りもなく何の問題もなく授業を終わらせていただきます」
カッサルが手にした本を閉じて頭を下げた。
「……」
ボコボコにされた事を二人とも無かった事にしようとしてくれているとアレスは感謝した。
何故なら、ボコボコにされたなどこの世界の男子にとって恥ずべき事だったからだ。
ソレを無かった事にしてこの部屋のみんなは、自分の名誉を守ってくれたのだと謎の感謝すらアレスはしているのだ。
一方、感謝された健一、アリサ、カッサルだが。
阿吽の呼吸で、今日は、何も見ていないし聞いていない、そもそも何も起きていない!という事で意見が一致していた。
大体、こんな事がバレたら、殺される! だから、何も無かったのだ…… 自分達が知らないとこで、アレスが勝手に怪我しただけだよ!って事にしたい三名であった。
途中で怖くなってきて最後は強引に無かった事にしたが……
いや、俺は間違っていない。
あのままアレスがガツンと食らわなかったら、世の中を舐めて、俺以外の被害者の数が増えるだけだ。
悪い事をしたら、ちゃんと罰を与える。
それが本人の為だ。
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