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第16話 雇われました その3

領主の息子を投げ飛ばしてしまったけど…… 俺、下手したら殺されちゃうんじゃないのか?

現代みたいな倫理観とか期待してもダメだろう?

どっちにしろ、非常に不味い状況だよなぁ。



 静まり返る領主一家の食堂室。


 健一の目の前で大の字になって倒れている子供。

 この子の名はアレス。

 領主のお子さんであり、健一が明日から教える事になっていた子だ。

 そして、たった今、健一に投げ飛ばされたところであった。


「……アリサの奴、騙しやがったな」


 白目をむいて気を失っているアレスを見下ろして健一が呟く。

 大人しい優しい子だと聞いていた健一だったが、当のアレスは、初対面の人間の目をフォークで刺そうとするような子供だった。

 正当防衛とはいえ、投げ飛ばした相手はこの地の領主の息子。

 手を出していい相手では無い事くらい、健一でも解った。



「コラーーッ!! 何をしとるか健一!」


 部屋にダモンの怒声が響き渡る!

 健一の背筋が伸びる。


「ヒ、ヒィィーー!! す、すいません!!」


 次の瞬間、健一は土下座の恰好になっていた。


「全くよ、食事時なのに、バタバタと……

 遊ぶのは明日からにしてちょうだい」


 呆れた口調のマリア。

 健一は、この女が何を言ってるのか理解出来ていない。


「マリアの言う通りだ。

 舞い上がった埃が食事にかかったらどうするんだ?

 まったくマナーのなっていない男だ!」


 ダモンから叱責を受けた健一は、一瞬呆然としてしまったが、即座に「申し訳ございません」と謝罪した。

 そして、子供をぶん投げた事は問題視されていないと安堵するのだった。


( 意味が解らないが、クソガキ(アレス)を投げ飛ばした件が、うやむやに! 助かった!

  今の内にこの場からさっさと立ち去ろう! )


 土下座スタイルを崩して立ち上がる健一。

 その背後、気を失っていたと思われたアレスが音もなく立ち上がり、手にはしっかりとフォークが握られていた。

 そして――


「ダモン様、それでは、明日から宜しくお願いします」


 さっさとこの場から逃げようと、健一は手短にダモンに言うと部屋を後にしようと振り返る、するとアレスがミキに嚙み殺されそうになっていた。


サーーー……


 血の気が引く健一。


「ガルル、ガルル……」


 ミキに咥えられ揺さぶられるアレス。

 野生の力って凄いなと、健一は現実逃避をしかけるのだった。


 数秒前――


 アレスが健一の背後から襲いかかろうとフォークを振りかぶり飛び掛かった! だがその時、部屋の中へ走ってきたミキがアレスに噛みついて凶行を阻止したのだった!



「こ、こらぁ~、ミキ、ダメじゃないかぁ。

 おやおや、アレス君とじゃれあって、仲がいいなあ」


 変な汗を大量にかきながら健一が大声で言った。

 出来るだけ領主夫婦からアレスの惨劇が見えないように体で視線を遮るようにして。

 そして、素早くミキに近づくと、両手でミキの口を強引に開き、アレスを解放させた。


ドサッ


 ミキの涎でベチョベチョになっているアレス。

 ぐったりはしているが、命に別状はないようだ。

 少なくとも、そうであってほしいと健一は願った。



「ん?

 ワハハハハ、アレスの奴め、はしゃぎ疲れて、眠っておるわい!」

「オホホ。

 あなた、子供って無邪気なものね」


 どうかしてるのかと思いつつも、都合が良いのでこの領主夫婦に余計な事を言わない健一。


「ハ、ハハ…… そ、それでは、今日はこのくらいで失礼いたします。

 ……ほらっ! ミキ、早くいくぞ」


 領主夫婦の気が変わらない内に健一は、ミキを連れてそそくさと部屋を出て行くのだった。




健一の部屋――



「何だ、あの子! おかしいよ!

 何が大人しくて優しい子だよ、アリサの奴」


 ミキを抱えて部屋に入っての健一の第一声だった。


「ミキも、どうしたんだよ? 子供に噛みついて普通だったら大問題になるとこだったんだからな。

 次から絶対にあんな真似しちゃいけませんよ!」


「ワウ?」


 健一を守ろうとした行動だったのだが、健一は知らないのでミキに注意したが、言われたミキは、悪い事など思っていないのでピンときていない感じだった。

 

「しかし、アレを教えていかなきゃいけないのかよ…… 既に辞めたくて仕方ないのだが」


 狂暴極まりないアレスの事を思い頭を抱える健一。

 この先、上手い事やっていけるのだろうか?

 この先、仲良くなれるのだろうか?

 この先、自分の身が大丈夫なのか?

 この先、この先と悩みは尽きないのだが、ここは、久しぶりのベッドの上。

 その心地よさに健一は、いつの間にやら寝息を立て始めるのだった……



◇◇◇




朝――



 健一がミキと共に部屋を出ると、ちょうどアリサが来ていた。


「お前! 昨日適当な事言いやがって!」

「あら、おはよう。

 丁度あんた達を呼びにきたのよ。

 今日からアレス様のお守りするんでしょ?」


 怒っている健一に、ニヤニヤしながら言ったアリサ。


「まあ、あんな狂暴な子供でも仕事だからな。

 ご飯食べたら行くよ。

 食堂って、あっちだったよな?」


「私も今から朝食をいただきに行くから連れてってあげるわ。

 なんだかとても気分が良いから」


 そう言ってスタスタと歩き出すアリサの後を、「ああ、なんて性格の悪い女なんだ」と健一は思いつつ着いていく。


「教師って、全般的な教科を教えれば良いのかな?

 他にも教師がいるみたいな事を聞いたと思うんだが」


「何を教えるかなんて、私が知る訳ないでしょ?

 先生なら何人かいるみたいだけど、話をするわけでもないから良く解らないわ。

 ところで、あなた、読み書きや計算が出来るんでしょうね?」


「いや、出来るよ。

 舐めてんのか?」

「ほら、到着したわよ。

 さっさと食べてアレス様のところに行くからね」


 聞いといて無視するアリサにイラっとしつつも健一は食堂の中へと……


「おい! 食堂に動物を入れちゃダメだろ!」


 厨房の方から声が聞こえたが、健一は無視してミキを連れて中に入った。



「いやいやいや、お前、聞こえてたろ?」


 厨房から慌てて健一の前にやってきた男。

 厨房のスタッフのようだ。

 衛生観念の低そうな世界のくせに、めんどくせえなと思いながら健一は、


「……ダメですか? 大人しいワンちゃんですが」


 弱弱しく情に訴えて聞いてみた。


「だから、ダメに決まっ、ひいぃぃ!!!」


「グルルルル……」


 厨房のスタッフがふとミキを見ると、歯を剝き出しに涎をたらし唸り声をあげているのが見えた。

 子供とはいえミキは魔狼獣ファングである。

 そのミキが魔力を少し解放したため注意しにやってきた厨房スタッフは、恐怖に支配された状態になった。


「微笑みかけてる! ねっ!うちのミキは、いい子でしょ?」


 満面の笑みで言う健一。


「あんた凄いわね、この表情を笑顔って、牙剥き出しじゃない」


 流石に呆れるアリサだった。


「あの、すいません。

 この子はこの男の管理下にありますし、ダモン様もご承知ですので大丈夫です」


 厨房スタッフがかわいそうなので、ミキとスタッフの間に入ってアリサが言った。

 その間に健一はミキの頭を撫でて落ち着かせる。

 厨房スタッフにかかっていた恐怖の状態異常が解除される。


「……ダモン様が承知しているなら私からは何も言う事はないよ」


 それだけ言うと厨房スタッフは逃げるように厨房へと戻っていった。



「ありがとう助かったよ。

 お前も良いところがあるんだな」


 健一はアリサを可愛げがあるじゃないかと、


「あんたが問題を起こしたら私がフェルスさんに怒られるんだから仕方ないでしょ」


 思おうとしたが、やめた。

 ふとみると、壁や柱に板が掛けられたりして何か書いてあるのが見えた。


「なあ、アレって何書いてあるんだ?」


 そういってアリサを見ると、正気かお前と言った顔で健一は見られた。


「ん? どうし」

「大丈夫かよ、お前!

 やっぱ読み書きできないんじゃないの?!」


「バカ、出来るよ! お前、俺は国語の教師だったんだからな!

 大体、会話が出来るのに読み書き出来ないなんて普通思わないでしょ?」


 健一は自信満々で言った。




領主のお屋敷、中庭――



 朝食を終えた健一、ミキ、アリサは、中庭で待つように指示を受けていた。


「おい、なんで外?」

「だから、私が知る訳ないでしょう?」

「そういや、なんでお前ここにいるの? 暇なの?」

「いや、ぶっ飛ばすわよ。

 あんたの世話するようにフェルスさんに言われてるからに決まってるじゃない」


 ひそひそと話す健一とアリサ。

 ミキは、少し離れてウンコしている。

 その時である。


「待たせたな!」


 聞き覚えのある野太い声に健一達が振り向くと、ダモンにアレス、そしてフルプレートの鎧に身を包んだ大男が歩いてきていた。


「おい、アレ誰だよ?」

「アレス様の剣術の先生だけど…… なんで鎧着てるのかしらね?」

「は? なんで剣術の先生が来るんだよ?」

「私に言われても知らないわよ、教師同士顔合わせかなんかでしょ」

「なるほど! そうか、そうだよな」

「ちょっと、ダモン様に挨拶してくるから静かに」


 アリサは健一を軽く睨むと、一歩前に出た。


「ダモン様、健一を連れてまいりましたので、ご指示を願います」


 そう言って頭をさげるとアリサは健一の後ろに下がった。


「宜しくお願いします」


 健一も頭を下げる。

 内心、こっちの文字の読み書きが出来ない事を知って焦りまくっているが、知られて処分されても嫌なので全力で誤魔化す気満々でいた。



「うむ、健一、宜しく頼むぞ!

 今日はお前の同僚になる先輩の先生を連れてきたぞ!

 我が領地最強の戦士であり、アレスの剣術の先生をしてもらっているネッガルスだ」


「ネッガルスです、宜しく!」


 自分よりデカいが、フェイスプレートを上げて見えた顔を見る限り、自分よりネッガルスのほうが若いなと健一は思った。


「ケンイチ・ウエーダです。

 分野が違うと思いますが、お互いアレス様の為に頑張りましょう」


「フフフ、余裕というわけですか。

 良いでしょう。

 どっちがアレス様の教師として相応しいか…… 今日は、正々堂々とした勝負を願います」

「うん、何を言っているんだお前は」


 健一の言葉を無視して、後ろに下がるネッガルス。

 健一は助けを求めるかのようにアリサの方を見ると、

「……」

 スカートの中を覗こうとするアレスを必死に抑えているアリサがそこにいた。



「健一、ネッガルス、両者我が愚息の為に…… 私は猛烈に感動しておるぞ!

 漢と漢の勝負、この私がしかと見届けようぞ!!」


 健一が声に反応してダモンを見ると、感極まって泣きそうになっていた。


「……」


 泣きたいのは健一のほうであった。

どっちが教師にふさわしいかって、どっちもで良いじゃねぇか!

頭おかしいよ!

なんで俺がこんな理不尽な目に……

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