第15話 雇われました その2
雇ってもらえた。
住み込みと言う事もあってか、さっそく屋敷の中を案内してもらえる事になった。
領主の屋敷で雇われた健一は、この屋敷のメイドであるアリサに屋敷の中を案内してもらっていた。
「使用人用の食堂、休憩場所、トイレ、客間…… ここまでで何か解らない事ある?」
「いや、何の部屋かは理解したと思うけど……
解らない事をしいてあげれば、どこにどの部屋があったのかを覚えてい」
「じゃあ、次行くわよ」
「はあ?!」
聞いといて最後まで聞かないアリサのスタイルにムッとする健一。
「ミキ、どう思う、あの態度?」
「ウォン」
「そうか! うん、何言ってるのか解らないのが悩ましいとこだが、お前もアレのあの態度はどうかと思うだろ?」
不満たらたらの健一がミキに聞いてみた。
聞こえたアリサが振り返る。
「あんたね、陰口なら聞こえないとこでやってよね」
「いや、ミキに聞いたのであって、あんたに聞いて無いから。
なあ、ミキィ~、自意識過剰だよなぁ、よしよし」
健一は殊更ミキの事をかわいがるように撫でる。
その態度が癪に障ったのか顔が真っ赤なアリサ。
「ちょっと、いい加減にしときなさいよ! ここでは私が先輩なんだから、ちゃんとそれ相応の態度ってのがあるでしょ!」
「あー、やだやだ。
先輩風ふかしちゃって嫌になっちゃうよな、ミキ」
「ワォウワォウ」
撫でられワウワウとミキが吠えているが、当然ミキはアリサの事をどうこう思ってなどいない。
「ホントにいい加減にしないと、怒るわよ!」
「落ち着け、アリサ。
今仕事中だろ? 俺も早くここの事を覚えなきゃいけないし、お前は教えなければいけない。
遊んでいる暇なんて無いんじゃないのか?」
キリっとして言った健一をぶん殴りたい気持ちでいっぱいのアリサだった。
「凄いわね、あまりの事に、どこから突っ込んで良いのか解らないわ」
「あそう。
それよかさ、ここの領地ってどんなトコなの?
それと、俺が教えるって子の事や、この家の事を教えてちょうだい」
「あんたがまともな事を喋ると気持ち悪いわね。
まあ言われなくても、こっちは教えとくようにフェルスさんから言われてるし、歩きながら説明するわ」
そういうとアリサが歩き出す、健一達も後に続いた。
「貴方が面会したダモン・アント男爵は、屋敷の主で、この地の領主様よ。
そして、奥様が、マリア・アント様。
お奇麗な方だけど、身分が違うんだから変な目で見ちゃだめよ。
お子様は三人。
長男のダノイ・アント様は、王都の寄宿学校にいらして、来年卒業だから今は17歳ね。
その下、長女のキュア・アント様は12歳になられて今年王都の寄宿学校に行かれたばかり。
そして、あなたが教える事になる、アレス・アント様。
遊び相手だったキュア様が王都に行っちゃって、寂しいと思うから遊び相手にあんたが来てくれて良かったのかもね。
8歳のアレス様と頭の中が同じくらいだろうから、話が合うんじゃない?
この領地は…… そうね、王都から遠い田舎だけど、その分平和だし、山も川もあって、農作物もちゃんと実るし、フェルスさんも、男爵領にしては豊かな場所だって言ってたわ」
「俺の事をボロクソに言わなかったか?
後、領地が平和って言ったけどさ、森は危険だって村長さんが言ってたぞ」
「危険って、森の奥地でしょ?
そんなとこ行かないから知らないし。
そんな事より着いたわよ。 あんたの部屋」
立ち止まるアリサ。
健一はミキを見てからドアに手をかけた。
中に入ると、ベッドと戸棚があり、簡単な机と椅子も設置してある殺風景な部屋だった。
「俺とミキだけだからな。
こんぐらいのサイズで丁度いいよ。
住むとこがあるだけ、ありがたいことだ」
手を合わせてありがたがる健一。
その両手を合わせて祈る仕草がアリサには何をしているのか解らなかったが、頭がおかしいのだろうくらいで気にもとめなかった。
「それじゃ、夕食まで時間があるから、少し休憩したら呼びに来るから」
「え? これから何か用事あるの?
ないなら、もう少し話が聞きたいんだけど」
帰ろうとしたアリサを呼び止めた健一。
理解したか解らないが、一応粗方説明し終えたのに、めんどくさいとアリサの顔に書いてある。
「あんたが余計な事言ったりして、ちゃんと聞いてないから、まだ聞きたい事なんてあるんでしょう?
大体、一回で全部覚えるなんて無理よ、だから心配しなくても、色々とおいおい教えていくから」
「まてまてまてって! そうやって行こうとするな。
確かに色々と覚えていかなきゃいけないことが沢山あるんだろうけど、今、聞かなきゃいけない事あるんだよ。
はい、これに座って」
いそいそと椅子を運んできて置くと、アリサを座らせた健一、そして自分は対面にあるベッドに腰かけるのだった。
「ったく、強引なんだから」
「なんだかんだ言っても、ちゃんと言う事聞いてくれるんだから、優しいよ」
「なっ、優っ、何いってるのよ!」
顔を赤くしてアリサが言ったが、健一はミキを撫でて聞いちゃいない。
「よしよし、ミキ、新しい家だぞ!
俺の作った家には落ちるだろうけど、我慢しろよ」
「ウァウ?!」
健一の発言に驚くミキ。
崩壊したテントのような手作りハウスと同列に語るのは如何なものかと思うミキであった。
そして、無視すんなと言おうとしたアリサだったが、健一の建築発言を耳にして違う言葉が口から出た。
「え? あんた家を作れるの?」
「ん? ああ。 ……昔ね」
遠い目をして答えた健一。
アリサは人は見かけによらないものだなと勘違いした。
ミキは、よく言えるねと健一のことをみていた。
「そんな事より、アレスの事だよ」
「アレス様」
「そうそのアレス……様のこと!
どんな生徒なのか知っておいた方がやりやす、接しやすいと思うから、もう少し詳しく聞きたかったの」
「どんなって…… 子供よ?」
「いや、おまえ、だからそれは見た目だろう、舐めてんのか?」
「冗談よ。
でも、子供ってのはあながち間違いじゃないわ。
子供だからしょうがないのだろうけど、甘えん坊で寂しがり屋ね。 お姉さんのキュア様が王都に行かれて、今は、とても寂しい想いをされているわ、多分。
優しくて思いやりがある賢い子だから心配しなくても大丈夫よ。
そうそう、とっても大人しいお子様だから、貴方が積極的に接しないと駄目!
アレス様の側に警戒心無く無防備に近づきなさいね」
「最後のが凄く気になるが…… まあ、8歳なら、そんなもんだよな、大人しい性格ってのは理解しました。
お前に人の心があった事に驚きだが、まあ確かにアレスの寂しいって気持ちを紛らわせてあげるのもいいかもな。
そうすりゃ、気に入ってもらえるかもしれないし」
「そうよ、その意気よ!」
「だよね! いやぁ、良い職場で俺はラッキーだぜ!」
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領主一家用 食堂室――
「ミキ、夕食の場所に呼ばれたが粗相のないように!
緊張するな、いきなりアレス君との対面だぞ」
給仕や執事以外の使用人がこの場所に入る事の無い場所。
当然雇われの身である健一とミキも普段であれば立ち寄ることのない場所である。
新任教師をアレスに紹介するためにと特別に呼ばれたのだ。
健一とミキは部屋の外で緊張しながら指示を待っていた。
ガチャッ
「健一さん、ダモン様がお呼びです」
ドアが開き、中から出てきた執事のフェルスが健一を呼んだ。
「は、はい。
ミキ、先に入ってるからな」
緊張しながら立ち上がり、息を整え、部屋の中に入る健一。
健一の目に、領主のダモン、凄く奇麗な胸の大きな女の人、金髪の子供。
凄く大きな胸だが、あんまり見ると殺されそうなので見ないようにしながら足を進める。
「おおう、健一、よく来た!
アレス、アレがお前の新しい先生だよ」
この男の奥さんの胸に気を取られていたので、言葉をかけられ少し動揺した健一。
だが、そんな素振りも見せずに深く頭を下げた。
「ケンイチ・ウエーダです。
アレス様、これから一緒に勉強、頑張っていきましょう」
爽やか笑顔でアレスの座る場所へ向かう健一。
恥ずかしいのかアレスは俯いている。
健一は、可愛いものだ、大人しい子で良かったと思った。
そして手を差し出し、
「よろしく!」
握手を求めようと手を
シュッ!
「……シュ?」
音に気づいた時には、既に目の前に金属が迫っていた!
「うおっ!!」
寸前のトコで頭を振って躱す健一。
「チィッ!
……やるね、クケケケ」
突き出したフォーク片手に笑うアレス。
「あははは、アレスはやんちゃだな!」
ダモンが笑って言った。
「アレスちゃん、フォークをそんな風に扱っちゃいけませんよ。
それと貴方も子供の行為なのに、避けるなんて大人げない。
反省して頂戴」
いやいやいや、謝罪とかないの?
ダモン、ちゃんと息子を注意しろ!
それと、なんじゃこの女! 頭おかしいのか?! 避けなきゃ失明してただろう!
健一は、そう思いつつダモンとマリアを交互にみ
「って、最中にも!」
隙をつくように突いてくるアレス!
「シャ、オラッ!」
何とかアレスの次撃も躱す事が出来た健一は、そのままアレスの腕をとると、躊躇なく投げた!
バーーーン!!!
大きな音とともに床に打ち付けられたアレス。
静かになる部屋。
健一は思った。
たった今投げ飛ばした相手は領主の息子、決して手を出してはいけない相手なのに…… やってしまった! と……
いやー、危ない危ない、ケガするところだった…… いや、ダメだろ!
正当防衛とはいえ、とんでもない事をしでかしてしまった。
いくら俺が悪くはないと言っても…… いや、うん、そうだよな。
俺は悪くない。




