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第13話 領主に会いに行こう その2

緊張するが、領主様との対面だ。

身分の高い人との面談は緊張するから嫌いなのだが、そうも言ってられまい。

領主ダモンとの面会の部屋――



「ダモン様、お客様をお連れいたしました」


 メイドと部屋の前で、ひと悶着あったが、部屋の中から「いい加減にしろ!」の声で冷静になりメイドと共に部屋に入った健一。

 部屋にいた男に席に座るように促された健一は緊張した面持ちで歩き出し、案内してきたメイドが部屋を出ようとした。


「それと、アリサ、後で話があるからな!」


 男に言われ、真っ青な顔になったメイドが頭を下げると部屋を出て行った。

 その様子をじっと見ていた健一。

(ククク、後で、このおっさんにおこられるんだな。 うん、お客さんに失礼な態度をとった貴様が悪いから自業自得だぜ。 ざまーみろ!)

 健一は神妙な顔つきをしつつそう思った。


「ミキ、大人しくしてろよ」


 席に着いた健一は、近くでお座りしているミキに小声で言うと緊張しつつ男を見る。

 テーブルを挟み目の前の席に腰かける男。

 喉が渇いてくる健一だったが、視線が自分から外れたので幾分冷静になれた。


「……ファングと聞いていたが、随分と小さいな」


 男がミキを見て言うと、ジッと健一の事を観察するように見ているのが解る。


(50代ぐらいか? 偉そうだし、この男が領主のダモンって人なんだな。

 しかし…… ジロジロ見られるって、あんまり気分の良いものじゃないな。

 早いとこ話をしたいのだが、この人は領主だし、そんな事いえないしなぁ。

 兎に角、失礼の無いようにしなければ。 ああ、緊張するぅぅ)

 失礼のないようにと、先程部屋の前で失礼な態度だった健一は気を引き締め直した。


「村長からの紹介状を見させてもらったが…… その前に」


「へ?」


 ダモンの視線が厳しいものへと変わった。



1時間後――



「……であるから、確かに当家の使用人に不手際があったのであろうが、君もいい年をした大人なのだから、売り言葉をわざわざ買う必要もあるまい。

 大人の男であれば、それ相応の立ち居振る舞いがクドクド、ネチネチ、クドクド……」


「は、はい」

(話が長い)

「ええ、まあ」

(しかも、同じような事を)

「そうですね」

(延々と繰り返しやがって)

「はい」

(それ、さっきも聞きました。

 しつこいし、長いし、早く本題に入ればいいのに……)


 この地を治める領主 ダモンの言葉に相槌を打つ健一。

 客人としてのや、大人の男としての立ち居振る舞いに対してのお言葉を賜っている真っ最中なのだ。

 要するにネチネチクドクドと説教を受けていた。


「……そして、コレは繰り返しになるかもしれぬが、お前の行動によって、お前に紹介状を書いてくれた者に迷惑をかけるとは考えていないのか?」


「(何回同じ事言うんだ、このおっさん! 話がループしてんだよ)

 いえ、はい、それは当然…… あの、解っているつも」

「いや! お前は解ってはおらぬ! 大体、理解していたら、先程のような態度クドクド、ネチネチ……」


 健一は同じ話、同じ質問を繰り返しされてうんざりしつつも大人なのに、なんでこんなに怒られるんだと思いながら返事をしようとした。

 だが、健一の言葉にかぶせるように領主のダモンが言って、更に説教が続いた。

 『しつこい』と健一の気持ちが顔に出ていたのが原因だろう。

 追加で約1時間、説教が続くこととなった。



「……まあ、村長からの紹介者だから、小言はこのぐらいにして」


「は、はい。 以後気をつけますんで、すいませんでした!」


 やっと終わると、半分泣きかけていた健一は思った!

 このぐらいって、結構な時間だったじゃねぇか! などのツッコむ気力などなかった健一。

 相棒であるミキは、暇なのでさっきからずっと寝ていた。

 やっと解放されると喜び勇んで立ち上がる健一は、寝ているミキに声を――


「おい、まだ終わってないのに、どうした?」


「はい?」


 帰れると思った矢先のダモンの言葉。

 うんざりする気持ちでいっぱいの健一は、泣きそうな顔でダモンをみる。


「いや、本題の話がまだであろう?」


 呆けた顔の健一にダモンが言った。

 

「あ。 そうですね、すいません」


 自分が教職のスキルを活かせる仕事に就けるように、わざわざ領主に紹介状を書いてくれて今がある事を思い出した健一は、 慌てて着席し直した。

 さんざん説教を受けて相当嫌気がさしていたようだ。


「ふむ。

 私の意味のない、嫌がらせ的説教を怒るでもなく、不貞腐れるでもなく、根気よく聞き続けれたし…… まあ、根性はあるようだな」


 顎に手を当ててダモンが言った。

 健一は、血管がブチ切れそうになるが、仕事をした事がある人間ならば理不尽の一つや二つ当たり前なので耐える事が出来た。


「結論から言うが、ここに学校は無いぞ。

 都会ならば、貴族の子弟が通うような学校はあるが……」


「それなら、ダモン様の領地に学校作っちゃいましょうよ!」


「作っちゃいましょうって、お前、そんな金が何処にある?

 大体、こんな田舎で学校を作ったところで、何処の貴族が子供を通わせる?」


「は? いや、他所の貴族って。

 ここいらの子供を通わせればいいじゃないですか?」


 意味が解らない健一がダモンに言ったが、ダモンも健一の言葉の意味が解らなかった。

 この世界では、平民が学校に行くことは稀、大店の商人の子息など、裕福な家の者に限られるのが常識なのだから仕方が無い事と言えた。

 普通の平民は、親が子に読み書き等を教えるのが一般的なのだ。


「変わり者だな、健一は。

 平民の子の為の学校など聞いた事がないぞ。

 あったとして、家の仕事が忙しいから、親は通わせないだろう」


「そこは、義務教育と言う事で、強制的に」


 身を乗り出して迫る健一だったが、ダモンに手で制された。


「親達の反発を受けてまでする事か?

 領民の不満を高める、そんなリスクを初めて会ったお前の為に行えと?」


 ああ、絶対無理だと健一は思った。

 ダモンの言葉は正論だと思えた。

 等しく教育を受けるという事は、当たり前の事では無いのだ。

 地球でもそうじゃないか。

 満足な教育を受ける事の出来ない人間など沢山いるじゃないか。

 国や情勢の恩恵により、偶然その権利を得られる側にいただけの自分の甘い考えを痛感した健一。


「……甘い考えでした。


 でも、僕は、誰もが教育を受ける事が出来る世界がいいですね。

 まあ、世界を変えるなんて事は言えないですけど、自分の周りの人間くらい教育を受ける権利を、そしてそれを支える人間になりたいのです。

 それを実現出来る力があるのは、ダモン様、貴方だ。

 不平不満がでるリスク。

 僕の為に負わなければいけないリスクじゃない、貴方の覚悟がどうかという話じゃないですか?。

 領民の教育水準をあげるのは為政者の為すべき事、しなければならない事ですよ」


 現実は理解したが、理想は捨てない健一が食らいついた。


「しなければならない?」


「そうですよ。

 しなきゃ勿体ない。

 領主にとって教育は、投資ですよ、投資。

 教育を受けた人材は領地にリターンを返してくれます。

 それが何世代にもわたる事によってリスクは減りリターンが大きくなって、この領地は未来永劫安泰って訳ですよ」


 詐欺師のように教育環境整備をセールスする健一。


「……フフフ。

 面白い男だ。

 教師と言うより、詐欺師が向いているのだろう。

 大きい事をいうのは結構だが、何の実績も無い初対面の人間の言葉を採用するほど、私はお人好しでは無い」


 領民の生命、生活を預かる領主であるダモンの反応は当然である。

 そもそも健一も正体不明の自分の意見など100%通るとは思ってもいない。

 ただ領主の頭に自分の考えが少しでも残る事を期待しての言葉だった。


「いや、当然です。

 初対面で何の実績も無い正体不明の男の意見でホイホイ左右される人間が上に立っては、下につく人間は不安でしょうがないでしょうし。

 ……うん。

 ダモン様、今日はありがとうございました。

 日本にいた時は、仕事だと割り切って…… いや、やる気すらなくダラダラと教師をしていましたが、今になってやる気がでちゃいました。

 ……ああ、日本にいた時に気づければなあ」


 健一はダモンに礼を言って立ち上がる。


「ん?

 健一、話は終わっていない、座れ」


「あ、はい」


 帰ろうとしたが、ダモンに言われて座る健一。

 見るとダモンが何か考えているように見えた。


「……そうだな。

 健一。

 お前に仕事を与えるから、まずは、実績を作れ。

 そして、自分の力で私の考えを変えてみせろ。 

 私に大口を叩いたのだ、出来るだろう?」


 沈んだ気持ちになっていた健一の耳に入ったダモンの声。

 健一が顔をあげると、ダモンはニヤリと笑っていた。


「あ、あ、ありがとうございます!」


 ダモンの言葉に立ち上がり深々と頭を下げ感謝する健一。

 そして、これで食いっぱぐれないで済むと心の底から思う健一だった。

な、なんとか仕事を紹介してもらえそうな感じになった。

良かった。

俺には扶養家族ミキもいるし、何とか収入を得ないと生活できないからな。


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