第12話 領主に会いに行こう その1
さあ、これから村での生活が始まるぜ!
「申し訳ございません」
部屋の中で健一が土下座している。
その横に大人しく座っているミキ。
ここは、村長のお宅の一室。
村長の意思を全く無視して、強引に村に加入を果たした健一。
そして現在、村長への態度等々に対しての謝罪しているところなのだ。
「全く、ワシの話をさんざん遮りおって。
まあ、もういいから、そこの椅子に座りなさい。
村の中で騒ぎやトラブルなど起こさないのであれば、この村に住もうが好きにして良いが……
ホントにお前は何者なのじゃ? そこの魔狼獣を従えておるようじゃが……」
少し前まで自分に対して強引な態度であった健一と、威圧していたミキ。
だが、家に招くと態度が変わり、話をしてみるとそんなに悪い人間でもないと村長は思えた。
そして魔狼獣のミキは少し怖いが、今現在は危険など感じれないでいた。
「ありがとうございます、村長さん。
もちろんミキが村の人に危害を加えないよう、しっかりと管理しますのでご安心ください。
私ですが、そうですね……
何者と言われても、その、さっき外で言った通りでして、日本っていう遠くの国で教師をしていました。
それから故郷をでて、なんやかんやあってこの辺の森で暮らして…… いや、暮らしていたと言うより、ほぼ遭難して彷徨っていたという方が正しいのかもしれません。
ああ、そうそう。 ちなみに、このミキとは、森で仲間になったんですよ。
そうこうしてる内に偶然この村を発見して、なんとか助けてもらえないかとやってきた次第でございます」
健一は森には戻りたくない。
文化的な生活に戻りたい一心で村長に言った。
一方話を聞いた村長は、あの森で何日もいた事が信じきれないでいたが、目の前のボロボロの姿のこの男が相当苦労してきたのは理解できた。
「しかしあんた、あの森にいて、よく魔物にやられなかったね。
奥地にはゴブリンやオークよりよっぽど危険な魔物がうじゃうじゃしているから。
だから、村の人間も森の奥地へはよっぽどの事が無い限り行かないのじゃよ」
「そ、そうなんですか。 へぇ~~」
かなり奥地からやってきた健一は、背筋が寒くなった。
変な動物とかは沢山目撃したけど、魔物と呼ばれるようなのに出会ってたら死んでいたと思った。
自分の幸運に感謝しつつ、もう絶対に森にはいくまいと心に誓うのだった。
「後、そんな恰好で村の中をウロウロされると、はっきり言って迷惑じゃから、こいつでも着なさい。
村を出て行った息子の服と靴じゃが、あいつとあんた、背格好が似てるから大丈夫だろうて」
村長は、村を出たという息子さんの古い服を持ってきてくれた。
「あ、ありがとうございます。
あの、甘えついでに、この村で何か仕事がありますか?
何しろ無一文なもので、生活するためにも働きたいんですが」
「仕事……
ああ、あんた先生なんじゃろ? そしたら――」
・
・
・
ガタガタガタガタ……
「なぁ、ミキ。
俺達は村に住むつもりだったよな?
せめて一泊でもして何かしらのイベントとか村人との交流とかだな、ねぇ聞いてる?」
荷馬車に乗せられた健一が隣に座るミキに声をかけた。
村長からもらった服や靴のサイズはピッタリだったが、一泊も無しに即移動となった今と、これからの事で不安でいっぱいの健一。
「ワォン」
気にするなとミキは一吠えすると丸まって寝てしまった。
「ああぁ、もう!
お前は不安じゃないのか? あの村から知らない場所にいくのが!」
村に初めて行った時にボコボコにされたので、初めての場所に不安でいっぱい健一。
「先生、あの村に住むにしても、村長の言う通り、先生の仕事なんて無いズラよ。
だから村長が領主様へ紹介状を書いてくれたんじゃないですかズラ。
きっと領主様のところなら先生に合う仕事を紹介してもらえるズラよ。
先生は村長の知り合いの息子さんで良かっただな、ホントにツイてるズラ」
健一の発言を聞いていた荷馬車を運転してくれている村人が答えた。
面倒な事を嫌った村長が、健一の事を自分の知り合いの息子と言う事にして紹介状を持たせて村から体よく追い出したのが真実だが、知らない健一は村長の優しさに感謝した。
「そ、そうですよね。
いや、解ってるんですけど……(こっちはそんな大事になるなんて思わないじゃないか!)
……ところで、今更なんですけど領主様ってどんな人なんでしょう?」
「代々この辺を治めてる御家のお方ズラよ。
他の領主様がどんなだか、オラ知らないけんど、村に良くしてくれるし良い人だと思うズラ」
「そうズラか。
うん、良い人ならいいんだけど」
最悪、嫌な奴でも殺される訳でも無いし、森に残る事を考えたらマシだろうと健一は思った。
「でも、馬車まで用意して送ってもらうなんて申し訳ないですね。
お兄さんも仕事とか忙しいだろうに」
村長の頼みとはいえ、自分をわざわざ送ってくれる馬車の運転手さんに申し訳ないと声をかける健一。
「いやいや、大丈夫ズラよ。
どっちみち領主様のとこへ報告しに行かなきゃいけなかったズラ。
だから先生の事は、ついでですから気にしないで良いズラ」
「それならいいんですが…… でも、ありがとうございます」
「先生が魔物だとオラ達が思っていたから、領主様に魔物駆除の願いを出してただ。
それを取り消さないといけないから、領主様の屋敷に行くズラよ。
だから先生が本当に気を遣う事無いズラ」
「魔物って……(殺す気か!)」
駆除されなくて良かったと思った健一。
騒ぎを起こさなければ村に居ていいよ的に言われたが、追い出されたんじゃないかとの思いでいっぱいの健一。
即日移動って、そうだろう? それしかないだろとの思いでいっぱいの健一。
兎に角、健一とミキを乗せた馬車はガタゴトと領主の館を目指した。
大きな畑が続く道を進むと、馬車は村に比べてひらけた場所に入っていく。
「おお、建物とか増えてきたな」
健一が呟いた通り、村に比べて多くの建物が見えてきた。
荷台の上からキョロキョロと見渡す健一。
行き交う人は欧米系の顔立ちで健一のようなアジア系の人間は見当たらない。
地球じゃなくても同じような服装や文化だと思った。
荷馬車の運転手に寄れば領主の館が近くなってきたらしい事を健一は知った。
健一達を乗せた荷馬車は、丘の上に立つ大きな屋敷へ向かった。
大きな館に到着した荷馬車は正面の門を超えて裏口へと向かう。
通常正門は使わないで、領民や荷物の搬入はこっちから行うと荷馬車の運転手が健一に説明する。
教えられた健一もそういうものなのかなと深く考えずに大人しく荷馬車にのっていた。
これから自分の将来が決まるのかもしれないという不安が大きくて、それどころではないのかもしれない。
健一がドキドキしている内に、荷馬車は屋敷の敷地に入り停車した。
すると直ぐに係りの者なのか屋敷の人間が馬車の近くに来る。
荷馬車の運転手が村への魔物の駆除の依頼を取り下げてほしい旨を伝え、健一の事、紹介状がある事を伝えると健一とミキは屋敷の中へと通され、一室に案内された。
さほど大きくない部屋、部屋の中央に椅子とテーブルがあるだけの場所で待機するように健一達は言われた。
「おい、ミキ。
どうなってしまうんだろうな、これから」
待つように言われたが、椅子に座って良いのか解らないのでミキの頭を撫でたりお腹をさすったりする健一。
ガチャッ
さほど待つ事なく開いたドア。
健一は姿勢を正す。
「お待たせいたしました。 ダモン様がお会いになるとの事ですので、こちらへ」
メイド服姿の女の人に言われた健一。
同じくらいの年齢か? まあ、若くはないけど胸がデカいなと健一は思った。
もう少しムチっとして、お尻がデカい方がタイプだなと健一は思った。
太ももがもう少し太い方が良かったのにと健一は思った。
そんな事しか考えていないので、メイド服の女性への返事が遅れた健一。
歩きはじめたメイドを健一は、慌てて追いかけた。
「あ、あの。
ダモン様って何者ですか?」
案内してくれている女性に聞くと女性の足が止まる。
「わっ! ちょっと!!」
目の前をスタスタとあるいていたのに急に止まった事により、ぶつかってしまうところだった健一。
だが、寸前のところで避けた!
ぶつかって胸に手などが当たって不可抗力とはいえ痴漢だと思われる事態は回避出来たが、豪快にすっころぶ事になってしまった健一。
コンプライアンス遵守なのだ。
こけた健一が見上げると、メイドの女性が冷たい視線で見下ろしているのが見えた。
少しゾクゾクきたが、ミキの本当に何をしているのという視線に耐えれなかったのですぐに起き上がる。
「ダモン様は、この地の領主様でございます。
貴方が持ってきた紹介状をお渡しした相手ですよ」
「ああ、そうなんですね。
すいません。 遠くから来たものでこの辺の事に疎いもので」
冷たい視線に心が折れそうになるが、領主の名前くらい聞いておかなかった自分が悪いと健一は思った。
「貴方のような人が、ホイホイと会える人では無いと思いますけど……
このまま、帰った方がいいんじゃない?」
メイドの言い方に少しカチンときたが、大人なので顔に出さない健一。
「ハ・ハ・ハ、厳しいなぁ。
でもここで帰ったら、わざわざ、私の為に紹介状を書いてくれた村長に悪いですし、会いますよ」
ぎこちない言い方になったが、にっこりと笑う健一。
「あ、そう。
でも、いつもならこんなのは執事のフェルスさんが相手するのに、よくダモン様は会う気になったと思うわ。
今日は、よっぽど暇なのね」
独り言なのか、メイドの女が言うと歩き始める。
「(こんなのって何だ!)そうですね。 僕はラッキーだなぁぁぁ」
コメカミに青筋を立てながらにこやかに答えた健一。
そして、ミキの姿が見えない。
だが、イラついてる二人は、その事に気づいていないようだ。
しばらく歩いているとミキがいない事に気づいた健一。
「あ、あれ?! ミキ?!」
慌てる健一だったが、ミキが歩いてきた。
「なんだよ、遅れてただけか。
心配させやがって、感じ悪い女と二人きりにさせるんじゃないよ、不安になるだろ」
「なっ! 感じ悪い?!」
聞こえた声に振り返るメイド。
「ウォン!」
健一に頭を撫でられミキは尻尾を振った。
さっき廊下の隅でウンコしてスッキリ爽快なのだ。
そんなミキとは裏腹に険悪なメイドと健一はピリピリしながら目的の場所の前に到着した。
このドアの奥に領主がいる。
腹をくくった健一。
「よっしゃ! 失礼しま」
「ちょっ! なに勝手にドア開けようとしてんのよ!」
メイドを押しのけドアを開けようとした健一の手を掴んでメイドが叫ぶ。
「ウォンウォン!!」
つられてミキも吠え始めた。
「いや、中にアレがいるんでしょ?」
「アレって何よ! ダモン様って言いなさいよ!」
「ウォンウォン!!」
「本人にはちゃんと様つけて言うに決まってるだろ? ホントに頭悪いなあんた」
「何ですって!」
「ウォンウォン!!」
「大体、お前単なるお手伝いさんだろ? 偉そうに」
「あんただって! アレよ、その、えっと」
「俺? 俺がどうした? 俺は紹介状持ってきた客人だぞ。 ん?」
「ウォンウォン!!」
「うるさいわね! 動物連れてきていいの?!」
「なっ、お前、ミキに謝れ! ミキがこれまで俺をどれだけ助けてきたか知ってるのか!」
「知る訳ないでしょ!」
「ウォンウォン!!」
(……ドアの向こうで、何をしているんだ?)
部屋の中で健一が入ってくるのを待つダモンは騒がしいドアを見つめていた。
村を追い出された感が半端なくあるが…… メイドの女!
俺を目の敵にしやがって。
何か忘れている気がするけど、先生としてこのどうしようもない女がまともになれるように注意する方が先決だよね!




