第11話 村の皆さん、こんにちは!
この世界でも教師になる事に決めた俺。
どうせあの集落の奴等は、まともな教育を受けていないだろう。
なんか凄い狂暴だったし……
だが、安心するがよい。
俺のような立派な先生が赴任して教育を受ける事が出来るようになるんだからな。
うん、絶対に感謝してもらえるだろう。
「私は人間です! 殺さないで!」
目隠しをされた健一が両腕を掴まれた状態で叫び声をあげた。
「ウ゛ーー!!」
網の中、吊るされた状態のミキが唸り声をあげる。
村。
勝手にこの村の教師になると決め、意気揚々と到着した健一。
だが、魔物の襲撃に備えていた村人達により、到着後、即、捕獲されたのだ。
「この野郎! 性懲りもなく村を襲いに来ただろうけど、残念だっただな!」
「罠にまんまとハマっただ!」
「村長はまだだか?」
「魔物の癖に人様の言葉を使うとは何事だ!」
「早く殺すズラ!」
「子供とはいえ、ファングを従えておいて人間だと、この野郎!」
「全く、凶悪な面しやがって!」
健一の周りで飛び交う怒号。
前回の訪問時、村の住民が恐れる魔狼獣ファングを連れて、石斧を振り回した健一。
そんな健一を魔物の仲間と認定、その襲撃に村人達は警戒していたのだ。
そんな中、のこのこと村にやってきた健一達は、罠や周到な村人達の行動により捕らえられた。
村を壊滅させかねない危険な魔狼獣と人間タイプの魔物を捕獲した村人達。
その達成感なのか恐怖から解放された喜びなのか、兎に角村人達は、極度の興奮状態にあるといえた。
「こ、殺さないで!」
目隠し状態の健一が、声をあげても興奮状態の村人達の耳に入らない。
失禁待ったなしの健一だが、網で釣るされているミキは諦めない。
ガシガシと縄に噛みつき必死に食いちぎろとしている。
「ウ゛ーー! ウォン!!」
ブチ、ブチ、ブチィーー!!
ミキの周りにいた村人達が気づいた時には、網を食いちぎったミキが、体を捻って地面に降り立っていた。
「ヒ、ヒィィィィーー!」
「ファングが!」
「殺される!」
拘束していたハズのファングの子供が自由になっている姿に村人達が悲鳴を上げる。
ミキはそんな声を無視して頭をあげると、健一のいる方を向き低く唸り声をあげた。
騒然とする現場。
いくら鈍感で目隠しをしている状態の健一でも村人の様子が変わった事に気づけた。
「ミ、ミキか?! た、助けて! 早く! 早くして!」
大声を張り上げ叫ぶ健一。
ミキはもう走り出していた!
「うわっ! こっちに来ただ!」
「来た!」
「ヤバい、逃げるだよ!」
健一の腕を掴んでいた村人は勿論、その周りの村人達も蜘蛛の子を散らすように慌てて逃げだす。
掴まれ、捻じられていた腕を離された健一。
バランスを崩しこけそうになりながらもフラフラと立ち上がり、痛い腕を必死に動かし目隠しを外しにかかる!
村人がすぐに戻るんじゃないかと気が気ではない健一。
「くそっ!ほどけねぇ! ん゛ん゛ん゛ん゛ーー!!」
固い結び目。
ほどくのを諦めた健一は、無理やり目隠しを上に引っ張って頭を抜くと、目の前に真っ白なものが飛び込んできた。
「ウォン!」
「ミキぃ痛ァッ!」
飛び込んできたミキに押し倒され頭を少し打った。
だが、助かった事を喜びミキに抱き着く健一。
ミキのモフモフな毛に頭を埋める事で、少し落ち着く事が出来た。
「助かったぁ、怖かったぁ! ありがとうね、ミキ。
おー、よしよし」」
ミキの頭をなでなでしてお礼をいうと、息を整える。
「……よし」
落ち着きを取り戻した健一は、ゆっくりと立ち上がる。
健一とミキを取り囲むように村の男達が取り囲んでいた。
ミキの突進で浮足立っていたが、村人達も落ち着きを取り戻したようだ。
絶対に魔物から村を守るという強い意志を感じる、クワや鎌などの農具を手に殺る気満々の村人達。
「み、皆さん、落ち着いてください! 落ち着いて話を聞いてください」
健一は、取り囲む男達に大きく声をかけたが、
「……魔物め」
「村は、オラ達が守るだ!」
殺気立っている村人達の耳に届いていないようだ。
じりじりと距離を詰めてくる村人達。
ミキが唸り声をあげる。
「こっ、コラ、ミキ、やめろッて!
お前まで敵対的になってどうする!」
ミキにしがみついて止める健一。
尚も距離を少しづつ詰めてくる村人。
「お互いに殺る気だと収拾がつかなくなるだろぉ!
お前らも、なんでそう好戦的なの?! こっちは、何にもしてないでしょうが!
野蛮すぎるだろ!
うん、兎に角こっちに近づいてくるの一回ストップしようか?
兎に角! 兎に角だよ、話!
会話だよ、会話!
だから、とまれって!
なんなの?
問答無用って…… そんなの納得できませんよ!
何だよ、学級崩壊した教室かここは?
ホントに野蛮人共め!」
野蛮な恰好をした健一が村人に向って叫ぶ。
だが、じりじりと村人の包囲が近づいてくる。
内心もうダメだなと健一が、ミキに包囲の手薄なトコの村人を2~3人始末させて、そこから逃げようかな、との考えが頭をよぎった…… その時である。
「お主は、何しにこの村にやってきたのじゃ!」
大きな声が辺りに響く。
健一を含め、この場にいた皆の視線が集まる。
「村長!」
健一に問いかけた声の主である初老の男性へと、村人から声が上がった。
そう、この初老の男性こそが、この村の村長その人なのだ。
以前森で目撃した健一を魔物と勘違いした村人からの報告を受け、村を守る為の監視強化など警戒態勢の指揮をとった村長。
危険な魔狼獣ファングの目撃証言もあったので、領主へ救援願いを兼ねた報告をする事を決めた村長。
領主への報告と称し、村を捨てて逃げようとした村長。
前回の健一の訪問と今回の訪問、どちらの場合も危険が及ばないように距離を保っていた村長。
そんな村長だったからこそ、健一の事を冷静に見る事が出来た。
あれ? うん。 あれって魔物じゃないよね? そんな感じで、村長は話をしようと前の方に出てきたのだ。
魔物じゃないなら危なくないだろうと思いつつ、一定の距離は確保する村長。
「ああ、良かった、会話出来そうな人がいて!
あのですね、私の名前は、上田 健一いや(こいつ等、欧米人みたいだし解りやすくしておくか)ケンイチ ウエーダです!
そして、こっちの…… えーと、お前は…… うん。
ワンちゃんの、ミキです!(限りなく狼のような気がするが、怖がらせてもいかんし、まあ、犬だと言っておけば大丈夫だろう)
私は、日本と言う場所からきた、教師です。
この村へきた目的は、勿論、教師になる為です!
私の持てる知識をこの村のお役に立てるべく頑張ります。
では皆さん、どうぞよろしくお願いいたします」
健一は大きな声で言うと、深く頭を下げた。
御辞儀。
素晴らしい日本の文化である。
挨拶の中に自然な形で日本文化を織り交ぜる男、健一。
「ワンちゃんって…… どうみても」
「あれって、ファングだよな?」
「でも小さいし、大型の狼なのか?」
ザワつく村人、村長は嫌々だが村を代表して少し前に出た。
「お前は、何を言っておるのじゃ?
誰も、そんなの認めてい」
「ありがとうございます!」
健一は、有無を言わさせないよう村長の言葉にかぶせていった。
「……?」
言葉を遮られた上にお礼を言われた村長が、何こいつ、みたいな顔で健一をみている。
いや、あっけにとられていた。
「村の皆さん、村長から認められているとは言え、私など新参者でございます。
人を教える師匠つまり教師という職に長年ありましたが、その経験を、この村で生かせるように、村長の期待に応えれるよう一生懸命、誠心誠意頑張ります!」
「期待してな」
「ありがとうございます! 期待に応えれるよう勤めさせていただきます」
健一は有無を言わさず距離を詰め、村長の手を握りかぶせて言った。
そして、村人は、なんだ、こいつは村長の知り合いなのかと思った。
いや、村長の知り合いに悪い事したなと思う者さえいた。
そして、ちゃんと訂正しようと村長が……
健一が余計な事を言い出さないように、村長を強くハグしている。
その周りをミキが尻尾を振ってグルグルと回っている姿を村人達は微笑ましく見ていた。
ただ、村長を見るミキに笑顔は無く殺気を帯びた目をしているのだが、それは村長以外の村人には見えてはいなかった。
殺されかけたが、なんとか助かったようだ。
やはり人間、ちゃんと話をじっくりとすれば解りあえるものだとつくづく思いましたよ。
さてと、取り敢えず助かる為に強引に接してしまった村長に謝っとかないとな。




