第10話 健一お気持ち表明
この世界にやってきて、人間を見つけた。
当然俺は、彼らの元へと向かった!
のだが……
「この世界の人間は狂暴でいかん!」
満身創痍の健一が、大いに憤り言った。
喜び勇んで行った集落、村人達に囲まれボコボコにされる健一。
そんな危機的状況の中、果敢に石斧と石器ナイフを振り回し奮戦する健一の頑張り、そして、相棒であるミキのおかげで、何とか逃げ出せて、今にいたるのだ。
ボロボロになりながらも健一は、助かった事に安堵した。
だが、友好的に接しようと村に訪れた自分への仕打ちにだんだんと怒りが込み上げてくる。
こうして、先程の言葉が発せられたのだった。
「ワォン、ワォン」
ミキはそんな事より、健一の体が心配でワンワン吠える。
集落に行く前に健一から、「村人の皆さんに対して、粗相がないように大人しくしているんだぞ!」 そう厳重に言われていたミキ。
仲間である健一の言いつけを守って村に到着してから大人しくしていようと思っていたミキ。
だが、村に到着するやいなや速攻で囲まれ殴られる健一。
そして、大人しくしていろと言った張本人が、石斧や石器ナイフを振り回し村人に応戦している。
健一の身が危ないし、流石に大人しくしていられないと村人に飛び掛かり健一を救出したミキ。
そして、今に至るのだ。
「そうか! ミキもそう思うか!
そりゃそうだよな、下手したら死んでたぜ、俺」
別にミキは、そんな事を思ってないようだ。
しかし健一は、その事を気にせず納得したように頷く。
「今回の一件をもってしても、教育がいかに大事なのかと思いますよ!
全く。
……こんなイジメが許されて良いのか?
いや、ダメだろ!
ちゃんと悪い事は、悪い! ダメな事は、ダメ!
それを教える大人がいないんだ、そうなんだ、決まってんだ!
じゃなきゃ、おかしいだろ、人に危害を与えるなんて、まともな教育を受けた者のすることじゃないぜ!
ん?
いや……
……そ、そうか、そうだよ。
うん。
あり得る!
フフフ。
はいはい、そういう事ね。
この世界には、いないって事なのか。
教える人、つまり教師が!
そうか~、先生がいないんだ!
盲点だったぁ。
だから、こんな酷いイジメが……
うん。
いや…… まあ、先生の存在がある日本は勿論、世界中にイジメなんてもんは、どこにでも存在する。
うん。
それはそれ、これはこれだ!
そういう、先生いたとしても関係なしって考え、良くないと思う。
大事なのはイジメを無くす事でしょ。
そうか、イジメ。
イジメ、イジメねぇ……
あ、……そういや、日本でもイジメで自殺しちゃった子のニュースとかやってたな。
アレは酷かったな。
可哀想に……
しかし、あの自殺は防げたような気がするな。
うん。
加害生徒を処分するとか、警察介入させるとか、弁護士入れて裁判とかして被害者が安心できる状況に持っていくとかさ、何か出来たハズだ。
それなのに学校がやった事って、被害者の親に対して『イジメ(犯罪)ではありません。 たんなる悪ふざけです!』の加害者を守る事なんだもんなぁ。
逆に凄いよ。
悪ふざけと言える、その神経。
いや、ホントに凄い。
ふざけんな、アレが悪ふざけで済む事ですかっての!
しかも、教頭先生曰く、一人の生徒より加害者の方が大切らしい。
人数が多いからって理屈。
その発言聞いて、被害者の親が納得すると思ったのなら、どうかしてる。
……でもやっぱ、自殺はダメだよ。
イジメで被害者が死んでしまった事件が沢山あるけど、どの事件でも、加害者が刑事罰を受ける事なんて、ほとんど無いんだろう?
自殺した生徒が復讐のために、加害者の名前とか遺書に綴ったところで、加害者達は名前変えたり、引っ越ししたりして、社会的な制裁もたいして受けることなく、自殺した人間の何倍もの人生を生きるんだ。
そりゃ、死んだ人達はやり切れんだろう。
うん。
さっきから俺は何を言ってるんだ?
ま、まあ。
兎に角、イジメは駄目ですって話ですよ。
決して良い先生じゃないし、優秀でもない俺だけど、少なくとも恐喝や暴行が悪ふざけじゃない事くらい解る。
その点は、どこぞの校長、教頭、教育委員会、議員、そんな偉い人達よりマシなんだろうと思う。
だから、そういう奴等に比べたら、俺でさえ少しくらいは、イジメがダメだと教えれるハズだ。
日本の学校では、やる気なかったけどな……
だけど、俺は、確かにそんな先生だったけど、いや、現役の先生なんだから、出来るはずだ!」
ボコられた時、打ちどころが悪かったのか、イジメがどうのと言い出した健一。
一種の現実逃避なのか解らないが、健一がおかしいのは、いつもの事なので無視して眠りに入るミキ。
「俺は変わる!
生徒(この世界の人間)の為に、生徒思いの先生になるぞ!
うん、今からでも遅くはないよな。
だって、俺は、ちゃんと教員免許もってる現役の教師だもの!
恐喝、脅迫、暴行は悪ふざけ。
イジメなど無い、デマだ! と学校に通う生徒の保護者に向けて、PTA会長との連名で怪文書を配るような、そして、退職金を満額受け取って、天下りして、イジメの件が騒ぎになっていなかったら、素知らぬ顔で今も天下りにいたであろう元校長と違う。
流石に、アレは駄目なくらい解る人間だもの。
ようし!
俺は、あの校長よりマシな人間だ。
そう考えると、先生としてこの世界でやれる気がしてきたぞ! なあ、ミキ!
……うん。
寝てる。
……何時もの事だ、気にしない。
よし! 俺も寝る! おやすみなさい! 」
何か知らないが、健一は一人納得してミキの隣で横になる。
危険が迫れば何時ものようにミキが起こしてくれると、健一は静かに目を閉じた。
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集落近くの森、朝――
この世界にやってきてから初めての『人間』とのコンタクトを、問答無用でボコられるという最悪の展開をみせた次の日の、まだ薄暗い朝。
「おはよう! みき!」
目の下にクマがある健一は、目を覚ましたミキへと元気に声をかけた。
「ワァウ?」
珍しく自分より早く起きた健一を、不思議そうに見つめるミキ。
「なんだ?
俺の方が早く起きるのが、不思議って思っているのか?
バカめ。 俺だって早起きくらいできるのだ!
と言うか、早起きではなく、たんに寝てないだけなのだが」
やつれた表情で言った健一。
「昨日、集落で襲われて、その解決策を思いついたから寝たんだけど…… そこは俺、ほら、根が真面目だから、横になってもう一度よく考えたんだよね。
何故、俺が問答無用でボコられたのかを。
やっぱ、仮面をつけて行ったのが悪かったんじゃないかと思う。
ほら、よそ者が顔を隠してって、やっぱ、どう考えても不審だよね?
不審者だよ。
それに、恰好も……
まあ、コレはどうしようもないからアレだけど、うん。
だから今日は、素顔で行こうと思うんだ。
腫れも大分ひいたし。
うん。
だけどさ、結論として、どう考えても向こうの教育水準が低いから、それが原因で、俺がボコられたって結果になるんだよ、コレが。
だから、ミキ」
村人達が健一に襲いかかったした理由って、そりゃ、手に武器持って、仮面と変な毛皮を身にまとった異様な姿をしていたのが理由でしょう。
逆にそれしか、ないと思うのだが……
健一は、昨日に引き続き村人に責任転嫁して言った。
「ウォン?」
お前は何を言っているんだ? それよりも食事にしようではないかといった表情のミキ。
温度差があるようだが、健一は気にする様子も見せず、話を続ける。
「フフフ、そ・れ・で。
俺が、あの村の奴等に教育の機会を与えようと思うのだよ、ミキ君。
つ・ま・り。
俺が先生としてあの村に赴任してあげるって事。
おっと、静かに!
まあ、まずは最後まで聞きないよ。
うん。
フフフ、喜べ。
ミキ教頭!
お前も、教師として連れて行ってやるからな、しかも役職つきだぜ。
ちなみに、俺、校長ね。
さあ、忙しくなるぞー!
フフ、寝てないってのに、困っちゃうぜ。
俺も、お前みたいに気楽な立場なら良かったんだけどね」
「ウォウ?」
ミキは、健一が何を言っているのか解らなかった。
大丈夫である。
そんなのは誰も解らないのだから。
多分、昨日、打ちどころが悪かったのだろう。
「さてと、そうと決まったら、腹が減ってきたな。
ん~~ ……っと!」
キョロキョロしていた健一が、突然、葉っぱに手を伸ばした!
ガシッ!
「っぺッ!」
捕まえたデカい芋虫の頭部分を齧るとペッと吐き出し、デカい芋虫をムシャムシャ食べる健一。
どうやら朝食のようである。
最近は、面倒なので火を通さず食べる健一。
どうやら、食べれる種類の芋虫を覚えたようである。
健一が朝食を始めている横にいたミキも、朝食をとりに森の奥へと歩き出す。
「今日は、赴任初日だから、遅刻するなよー」
ミキの後ろ姿に声をかける健一。
遅刻って、生徒はもちろんの事で学校すらない、村人の了解も何もない状況で、何が遅刻に当たるのか皆目見当もつかないが、本人はやる気になっているようだ。
そんな健一に勝手に教頭に任命されたミキ、そして、頼んでもないのに教育してやると謎の上から目線で思われている集落の住民達。
ミキ、集落の住民、双方、被害者だと思うが、健一は次の行動が決まった事と校長に出世した事に大変満足しているようであった。
新たな目標が出来た。
資格を生かした仕事って奴かな。
フフフ。
人は皆、等しく教育を受ける機会があるべきなのだ!
いやぁ、人の為に頑張る俺って、全くもって尊いぜ。




