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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

終末の令嬢のご予定は~転生して今更好きだと言われても~

作者: 夜分長文
掲載日:2022/06/07

「最悪だわ。多分、私たち軍勢は負ける」

「そうだな、ベネッサ」


 国家間で起こった戦争。それに巻き込まれた私は丘の上で戦士たちが散りゆく姿を見ていた。

 幼い頃、私に勉学を教えてくれた者。私に剣術を教えてくれた者。


 皆、戦場で散っていった。


 公爵家の令嬢であった私は、父上とともに戦場の最前線に向かうことになった。

 けれど、父上は急病によって亡くなった。それに伴い、唯一の娘であった私に軍隊の指揮権が移行。


 結果、私は軍隊の指揮に勤しんだ。

 けれど、結果は見ての通り。


 地獄絵図だ。


「軍隊長として、俺も重大なミスを犯してしまった」

「ミスだなんて言わないで。指揮官は私なんだから」


 隣に立つ軍隊長、ユーリが遠くを見る。

 硝煙の香りを乗せた風が彼の白銀の髪を揺らす。翡翠色の瞳は燃える炎を反射させていた。


「これから、きっと私たちは敵に首を取られるわ。どうする? 見せしめに向こうの国家でさらし首にされたら」


 おかしな様子で言って見せると、彼は苦笑した。


「ありえるかもな。なんたって公爵令嬢なんだ」

「あなたらしい答えで安心するわ」


 彼と私が出会ったのは、随分と前の話だ。

 年の差こそあるけれど、私に色々な景色を見せてくれた。


 馬に乗って辺境まで行ってみたり、別の領地にまで行った。

 五歳しか違わないのだけれど、ユーリはずっと私より大人。


 私の知らない景色を――私にはできないことをいつもしてみせてくれる。


「今から逃げ出して、またいつかのように色んな場所を見れたらいいのに。きっと楽しいわ」

「馬鹿言うな」


 冗談で言ってみせたのだけれど、思い切りげんこつを喰らった。

 でもそう。今は冗談なんて言う暇はない。


「少し、昔が恋しくって」


 平和だった、美しかった世界が恋しい。

 ユーリと見た、二人だけの綺麗な景色。


「ねえ。ユーリ」

「なんだ」


 私は腰に下げた剣を引き抜いて、胸の前に掲げる。

 すると、私に倣うようにして彼も剣を引き抜いた。


 すぅと息を吸って、吐く。

 その動作一つ一つがどれも愛おしい。


「終末、なにしたい?」

「そうだな――」


 ユーリは少し困ったような表情を見せて、


「……分からないや」

「あらそう。不器用なんだから」


 ◆


「この子の名前はベネッサだ。神がそう言っている」

「ええ。美しい赤髪を持つ彼女にはぴったりの名前だわ」


 ◆


 庭にある椅子に座ってぼうっと空を眺めていた。

 あの日のように、赤い空ではない。澄んだ青い空だ。


 よく分からないけれど、どうやら私は転生したらしい。

 死んだ日のことは覚えていない。確か剣を引き抜いて、戦場に降り立って……。


 気がつく頃には、幼い頃の私にそっくりな女の子になっていた。

 名前はベネッサ。前世と同じ、ありきたりな名前。


 件の戦争からどれくらい経ったのかは定かではない。

 いくら調べても出てこないのだ。生まれが男爵家だから、本の資料が少ない可能性もあるけれど、今のところ見つかっていない。


 今のお父様に聞いても、大きな戦争は人類史上起こったことがないと言っていた。

 

 まあ、考えられることと言えば私たちを滅ぼした国家が戦争をなかったことにした――多分それだろう。

 歴史が偉い人に操作されるのはよくあることだ。都合が悪いことはなかったことにする。


「ベネッサ! アリスちゃんが遊びに来ているわよ!」

「あ、はい! お母様!」


 屋敷の小窓から顔を出して、お母様が私を呼んだ。

 よっこらせと立ち上がり、屋敷の中に入る。


 お母様が私の服を見て、ぱっぱとホコリを払った。


「今日は私たち男爵領一番のお祭りの日だから、服は綺麗にしないとね。でも……ごめんねベネッサ。あまり高い衣服を与えられなくて……」


「いいんですお母様。それよりも、アリスを待たせるわけにはいかないわ。玄関で待ってくれているの?」

「そうよ。それじゃあ、行ってらっしゃい」


 アリス。今の私の親友だ。

 昔からの幼馴染で、良き話し相手である。


 今日は領地一番のお祭りということで、一緒に屋台を見て回ろうと約束をしていたのだ。

 玄関に向かうと、そこには私を待つ小柄な少女の姿があった。


「ベネッサ! 待っていたわよ!」

「うん。待たせてごめんね」


「いいのよ! ささ、早くお祭りに行きましょ!」


 今日はやけにテンションが高い。

 いや、彼女は常に高い方なのだが、今日は特に高い気がする。


 まあ、お祭りだからね。


 街に出ると、多くの領民が広場に集まっていた。

 屋台も数多く出店されていて、美味しそうな匂いが辺りを包み込んでいる。


「何食べる? 私的には焼きコーンかなぁ」

「もう。食べ物ばかりなんだから。それよりも、もっとあるでしょ!」


 そう言って、アリスが私の前に立つ。

 なんだなんだ。お祭りと言えば食べ物でしょうが。


「今年のお祭りは公爵家のご令息がご見学に来るのよ!」

「ご令息……? なにそれ」


 首を傾げると、アリスが驚いた表情を見せる。

 私の肩を掴んで揺さぶってきた。


「あわわわ」

「ここの領地の令嬢なのに知らないの!? まあいいわ。すっごくイケメンだって有名なんだから!」


「ええ。絶対アリスは顔目的でしょ」

「べ、別にいいじゃない! あたし以外にもご令息目的の女の人がいっぱいいるもの!」


 周りを見てみると、確かに女性が多い印象だ。

 それほどまでに人気なのだろうか。


 ただ、公爵家のご令息だと確かに注目は集まる。

 多分お父様から話は聞いていたんだろうけれど、興味なかったからなぁ。


 ともあれ、私は焼きコーンを買ってもしゃもしゃと食べていた。

 しばらくアリスと談笑していると、「ああ!」と声を上げて彼女が立ち上がる。


「来たわよ! ご令息様が!」


 同時に、周囲の女性から黄色い声が上がる。

 奥の方に人が密集し始めたから、そこにいるのだろう。


「ベネッサ! 早く行くわよ!」

「はいはい」


 彼女に引っ張られながら、私は件のご令息の方へと向かう。

 しかし人混みのせいで、全く見えない。


 アリスは何度も跳ねながら、どうにか見ようとしている。


「諦めたらどう? 別にいいじゃない、見なくても」

「いやいや……! 一度は拝みたいでしょ! というか、あなたこそ見たほうがいいわ。もしかしたら、未来の旦那様かもしれないのよ?」


「ないない」


 確かに貴族という身分ではあるので、婚約……の可能性は否めないが私は男爵。

 公爵家と結婚なんて考えられない。


 それよりも焼きコーンが食べたかったので、踵を返そうとするとアリスに手を掴まれた。


「絶対にあなたは見たほうがいいわ」


 どこか真剣な表情で、アリスが言った。

 どうして、そんな表情をしているのか理解できず、私は困惑する。


「よく分からないけれど、あたしの直感が言っているの」

「直感?」


 尋ねると、彼女はうんと頷く。


「どうしてか分からないけれど、あたし。あなたがこの日のために、ご令息と顔を合わせるのを手伝うために生まれた気がするのよ」


 「大袈裟だよ」と言おうとしたのだが、彼女の表情を見て憚られた。

 アリスは本気で言っていた。


 瞬間、視界が揺らぐ。


「あ、あれ?」


 一瞬、アリスが前世で私に勉学を教えてくれた恩師に見えたのだ。


「そこの嬢ちゃん!」

「は、はい?」


 背後から息を切らして、ぜーぜーと言っているお爺さまが声をかけてきた。

 瞬間、また視界が揺らぐ。


「なぜか分からないが、嬢ちゃんをご令息様に合わせなくちゃいけない気がして仕方なくなったんだ! 失礼するぞ!」

「わわっ!」


 いつの日か見た顔がちらついたと思えば、お爺さまに私はおんぶされていた。

 先程とは違い、遠くがはっきりと見える。


 視線の先、遠くの方で馬に乗っている一人の男の人が見えた。


 白銀の髪に翡翠色の――


「ユーリ……?」


 思わず漏れた声に、馬に乗った男の人が反応する。

 私をじっと見つめ―― 


「ベネッサ……なのか?」


 何故か、私たちの目から涙が溢れた。

 私は……彼を知っている。


 いつの日か、私とともに散った彼だ。

 間違いない。あの日のユーリだ。


 ◆


「君も……転生していたんだな」

「ええ。お互い様ね」


 お祭りはまだ終わっていない。

 まだ外は喧騒に包まれていて、決していつもの日常は戻っていない。


 しかし、ある意味日常は戻っていた。

 お父様とお母様は心底驚いていたけれど、どこか納得した様子でユーリを招き入れ、庭の椅子に座ってお互い空を見ていた。


「賑やかだな」

「ええ。でも、あの日とは違って、平和な喧騒」


「ああ。その通り、平和だ」


 少し、間が空く。

 お互い、なんて喋ればいいか分からなかった。


 また会えて嬉しい、なんて言えばいいのだろうか。

 私が困っていると、ユーリが手を握ってきた。


 今の時代も、私より年上。

 だから、自分の手がとても小さく思えた。


「いい時代に生まれたものだ」

「……そうね」


 私はそう答えて、すぅと息を吸って、吐く。


「週末、なにしたい?」

「――そうだな」


 驚いたような表情を見せるが、どこか嬉しげに笑う。

 あの日とは違い、辺りからは幸せそうな声が聞こえてきた。


「君とお茶がしたいかな」

「あらそう。不器用なあなたにしては、いい答えじゃない」


 私たちは終末を乗り越えた。

 そして、週末を手に入れた。


「今更好きだと言っても、遅いか?」


「遅くはない、かもね」


 週末の令嬢のご予定は――

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