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自覚

新連載、よろしくお願いします!


「どうか、わたしを弟子にしてくださいませんか!」


「…は?」


明るい色彩に、小柄な体、どこか庇護欲をそそる小動物のような少女と、黒薔薇を思わせる重厚感のある色彩に、豊満な身体、見る者が思わず平伏してしまいそうな高貴さと気品を纏う少女。



学園内で今話題の、”ヒロイン” と“悪役令嬢” 2人の対峙に、周囲の人間は好奇心を隠しきれず、ちらちらと様子を伺っていた。




思えばライラは、気づかないうちに世の中でいう所謂ヒロインという外見に育ってしまっていた。


貴族の中では決して高い地位にはない子爵家に生まれたが、国境沿いにある領地で港町もあり、交易が盛んだったのでライラの家はその辺の伯爵家、下手したら侯爵家と比べても遜色ないくらいの裕福だった。

その上兄二人の後に生まれた末娘で、それはもう、蝶よ花よと甘やかされて育ってきた。

家の中ではお姫様のように扱われ、幼少期からフリルとピンクとレースと、可愛らしいものを与えられて過ごしてきた。彼女の趣味というよりは、父や兄達の趣味だ。

そして、淡いストロベリーブロンドで緩くウェーブがかかった髪に、大きくてたれ気味の空色の瞳、小柄で、14歳という実年齢より低く見られがちな外見だった。


元騎士の母に憧れて、騎士になりたい と幼い頃に周りに告げたときは、屋敷中が阿鼻叫喚であった。

幼いながらもなんとか説得をし、母の実家に騎士見習いとして訓練を受けに行かせてもらえた時も、今度は母の実家ぐるみで可愛がったが、本人は訓練に夢中で可愛らしい綿菓子のような可憐な外見とは裏腹に、中身はどんどんと好奇心と向上心溢れる少女になっていった。


つい最近まで、自分の外見について深く考えたことはなかったし、もちろん、自分の外見がヒロインっぽい、などと考えたこともなかった。

自分のことを客観的に考えるようになったのは、つい先日、友人たちが最近流行りの恋愛小説について話しているときだった。


**

「この小説に出てくるヒロイン、ライラさんに似てません?」


「やっぱりそう思われます?わたくしもそう思っていましたの!」


「そうですわよね!そっくりですわよね!」


放課後にたまたま招待された、友人と、友人の友人くらいの間柄のご令嬢との小さなお茶会に参加していたら、流行りの恋愛小説の話題になり、突然、ライラに話の矛先が向いた。


「…似ている?わたしにですか?どんなところがでしょうか?」


あまり恋愛小説は読まないので、今ご令嬢の間だけではなく町でも流行っている恋愛小説があるということは知っていたけれど、その内容までは知らなかった。


「例えばですね、淡くて明るい髪色や瞳の色、、色もそっくりですわ!この小説に出てくるヒロインは、ふんわりとしたブロンドの髪に、明るいブルーの瞳とありますもの!」


「あとは、ご実家の身分がそこまで高くないという点もでしょうか。」


「気さくに誰にでも話しかけて仲良くなれるというのも似てませんか?」


「華奢で小柄で、愛らしいお洋服や髪型が似合うところもですわね!」


「男性からも人気があるのは確かですわ。」


このように口々に言われれば、確かに自分との共通点は多そうだなと思うし、どんな内容の小説のヒロインなのか、気になってしまうのも無理はない。

そんなライラの気持ちを他所に、話はどんどん進んでいく。


「ところで、ライラさんがヒロインとして、やっぱり悪役令嬢はあの方よね?」


「あぁ、公爵家の・・・」


「そうね、ピッタリよね。わたくしも初めて小説を読んだとき、真っ先に浮かびましたわ!!」



学園で公爵家のご令嬢は一人しかいないし、そもそもわが国に現存する公爵家のご令嬢は二人しかいない。

一人は外国に留学中で、ここにいるほとんどの者が会ったことはないはずなので、悪役令嬢に似ているとかそんな話にはならないはずだ。

なので、今話題に上がってかる公爵家の御令嬢とは、黄金のような金髪にルビーのような瞳のエカテリーナのことだろう。


「それでライラさん、実際はどうなんですの?」


「はい?」


「やはり、現実のヒロインもこのような形で高貴な方々と密かに愛を深めていらっしゃるの!?」


少し食い気味なご令嬢の質問に少々驚いてしまい戸惑い、どのように受け答えたらいいかと少し思案して困った顔で周りを見渡したが、周りのご令嬢方もキラキラとした目をこちらに向けているのは隠せていなかった。



「いえ…。そのようなことは…。愛を深める恋人も婚約者もおりませんし。それに、わたし全然ヒロインという柄でもありませんわ…!」


「まぁ、、では、婚約者と仲良くなった事に嫉妬した悪役令嬢にいじめられたりとかは…。」


「いえいえそんな…!わたし、王太子殿下や公爵家の方とは今まで個人的にお話ししたことなどございません。」


押され気味の質問に少々たじろいでしまったが、ないものはないのだから、しょうがないのできちんとお答えしなければならないところだ。

婚約者はおろか、恋人がいないのは事実であった。

気になる人はいるけれど、殆ど接点もないわく、相手に存在を認識されているかも怪しかった。


(気になっているというだけで、これがどのような気持ちを表すのかはまだわからないままで、恋というより憧れに近いのだと思うわ…。)


そんな風に考え込んでいるのはお構いなしと言った感じで、周りのご令嬢方の話は止まらない。


「ではこの王子様は誰かしら?やっぱり王太子殿下?」


「えぇ、まぁそうですわね。」


「あら、でも外見で言えば、侯爵家のエミリオ様がそっくりなのではなくて?」


「そうですわね!黒髪にグリーンの瞳といえば、黒髪の貴公子と名高いエミリオ様しかいませんわよね!」


エミリオ様と呼ばれた青年は確かにサラサラとした黒髪に、涼しげで夏の新緑を思わせるようなグリーンの瞳で、物腰も柔らかで紳士的で、王子様という言葉がぴったりな容姿と雰囲気であることに間違いない。


「王太子殿下は、王妃陛下譲りの繊細な美しさでいらっしゃって、淡いブロンドに、あの紫紺のような色の瞳がとっても素敵ですけれども、この小説に出てくる王子様はヒロインを困難な状況でも守る、どちらかというと騎士のようなイメージもありますし、、」


「そうですわね…!王太子殿下はどちらかと言うと、ヒロインをいつも支えていて、ヒロインが辛い目にあった時慰めてくれる公爵家の後継ぎの方の方がイメージに合うのではないかしら!」


(エミリオ様は王子様のような外見で、お顔もため息が出るほど美しいけれど、それだけではなくて王太子殿下をお守りするために護衛として身体も鍛えていらっしゃるようだったから、線が細いように見えるけど、きっととても鍛えられた肉体に違いないわ。)

騎士という言葉がぴったりのあの寡黙な姿勢、一部に熱狂的なファンがいるのも頷ける。


「きっとエミリオ様とライラさんが並んだら、この小説の王子様とヒロインのようなのでしょうね〜…」



「そうですわね、是非生でバラ園でのシーンを見てみたいですわ。」


「わたくしもそのシーンが一番のお気に入りなんですの!」


「私のお気に入りのシーンは…」


お気に入りのシーンや素敵だったセリフなど、口々に言い始めたので、読んだことのないライラは全く内容についていけなくて、そんなキザなセリフを言われたら、反応に困ってまうだろうな、などとぼんやり考えていた。






「ね、眠い…!」


思わず言葉が出てしまうほど眠く、本日分の授業が終わった瞬間ライラは机に突っ伏した。


昨日、私があの例の恋愛小説を読んだことがないと知ったご令嬢に、お茶会から帰る際にあの本を渡されたのだ。


「ライラさんもお嫌でなければ是非お読みになってみて!わたくし、本日手元に持っておりますので、お貸ししますわ。次のお茶会では是非、ライラさんの感想も聞かせてくださいませ!」


そう言って渡されては断る訳にもいかず、貴族令嬢の端くれとしては、流行り物くらいは知っておいた方がいいかな、という思いもあり、借りて読んだのだった。

徹夜で。

ライラは小説を少しずつ読む というのができない人間で、読み始めたら最後まで読み切ってしまう性格のようだった。


思った以上の量だったが、なかなか興味深い内容ではあったと思う。

確かにご令嬢方が言っていたように、ライラとこのヒロインの共通点は思いのほか多かった。。

違うところがあるとすれば、高貴な方ばかりと仲良くしていると言うわけではないので、嫉妬に駆られたご令嬢方から嫌がらせを受けたことは今のところない、というくらいか。

そして、ライラの内面はヒロインほど女の子らしく、可愛らしくないというところか。

ただ、内面や性格なんて、周囲からどう見えているかというのはわからないものではあるが。


(知らなかった…。わたし、周りの人から見たら、ぱっと見こういう風に見えてるのね…。)


可愛らしいと言われて、嬉しくない年頃の女の子はいないと思う。ただ問題は、、


(このヒロインを客観的に見る限り、わたし、もしかしてというか、やっぱりあまり大人っぽくは見えない?むしろ幼く見える部類になるの…?)


彼女は今まで目を背けて来た事実を、突然目の前に突きつけられ、まだ受け止めきれずにいた。


読んでくださってありがとうございます!




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