我が家
ついに完成した我が家。
農作業にいそしむ一家。
◇ ◇ 新居 ◇ ◇
それから一週間で私たちの家は建ち、家具一式もきちんと揃えられた。驚いたことに、家一軒よりも、家具一式の方が高かった。
まぁ、いろいろ注文はしたのだけれど。
しかし、これまではっきりとしなかった物価について、大工のドッドさんが気さくに話してくれた。
「まぁ、家なんてなぁ、二人で2,3日もあれば建つからな。一人の日当が銀貨2枚として銀貨8枚から大きい家でも金貨1枚あれば足りる。
次いで材料だが、木材だとかなり値が張るが、大抵はレンガ造りだ。内装、その他諸々入れても金貨1枚あれば足りるな。合わせてだいたい金貨2枚が家の相場だ。対する家具は材料が木だからな、工賃よりも材料費が高くつく。
ところで、お前たちがいたって言う世界、家が高すぎんだろ?」
「あっちは魔法がないですからね。4,5人で力を合わせて、2,3か月かかるんです。」
「いや、それにしたって、多く見積もって金貨60枚だぞ?
3倍以上吹っかけてるじゃねーか。そりゃぼったくりっつーんだ。」
そう言ってからからと笑うドッドさん。
まぁ。そうだよな。あちらにはあちらの経済システムがあって、所謂原価に、会社の利益、仲介業者の利益、税金がのっかってるんだからな。倍以上にはなるだろう。
また、家具が高かったのも理解できた。木材は高いのだ。
「ところでドッドさん、木魔法で木が生やせると思うんですが、どうして木材が高いんです?」
「あぁ、そうかそうか。この国じゃ一番基本的なことなんだがな。
いいか、魔法で木を生やせば、当然土が弱る、土を強くするためには、木を燃やすなり腐らすなりしなきゃならんよな?つまりだ、魔法で木を生やせば瘦せた土を取り戻すために長げー時間がかかることになる。だから木魔法で土を弱らせることはしちゃいけねぇことになってる。弱った大地じゃ人は住めねぇからな。」
「あぁ・・・なるほど。未熟者ですみませんでした。」
そうか・・・あの時、あの森で、木の実を生らし続けて食べなくて本当に良かった。あの泉の森を枯れさせるところだったのか。
◇ ◇ 騎士アルケイン ◇ ◇
さて翌日、のんびりと一家4人で畑仕事をしていると、アルケインさんが1師団を引き連れ、魔物の盗伐へ出てくると挨拶に立ち寄ってくれた。
彼に会うのは1週間ぶりだ。
「お久しぶりです。アルケインさん。お気をつけて。」
「あぁ。行って来る。留守中よろしく頼むね。」
見送る前に確認したいことがあったので、少し呼び止める。
「いい剣ですね。ちょっと見せて貰ってもいいですか?」
ニーナさんとの食事以来、その出来が気になっていたのだ。
だが、手に取ってみると、彼のその剣はとても立派なもので、鍛えられた刃はまるで日本刀のように澄み切っていた。
こちらの世界でもこれだけの刃物が打てるんだな。いや、打つとは言わないか。
あまりの出来栄えに惚れ惚れし、つい余計なことを言ってしまう。
「アルケインさん、もしよければ強化を付けて見てもいいですか?」
「今からかい?そんな長時間・・・」
「ええ。もし気に要らなければすぐに解除も出来ますし、属性魔法を重ねがけることもできます。」
「ありがとう。やってみてくれるか?」
その剣と鞘に強化魔法を付与する。
アルケインさんが、2,3度その剣をふるう。
だが、見た目だけではどんな強化なのかが分からないのがこの魔法だ。
要領を得ないように感じた私は、手に持っている鍬を彼の前に差し出してみる。
私の言わんとすることを察した彼は、その剣で鍬を軽く撫でると、音もなく切断された。
「凄いな!魔力を流してないのにこの切れ味か。」
そう言って、今度は剣に火の魔力を付与する。
ブンブンと剣を振るうと、刀身に付与した魔法がうすい靄のように付き従って流れるのが分かる。
「驚いた。本当に重ね掛けできる。
これは何の付与だろう?」
「ええ、高周波に振動する付与を与えておきました。また、鞘にはそれを停止させる付与を。硬化魔法さえ効いていればよほど硬いものでも触れただけで切る事が出来ます。」
「驚いたな、こんな付与魔法があるのか。
これを部隊全員に掛けてもらうなんてことは大変かな?」
「いえ、大丈夫ですよ。少し時間はいただきますが。」
「それは問題ない。よろしく頼む。」
「では、剣と鞘をこちらに。」
1師団36名分の剣と鞘が並べられ、私と光はそれに魔法の付与を行った。
近接戦闘において、剣の切れ味は死活問題だ。
これで、彼の部隊は相当に強化されたと考えていい。
一人も欠けずに帰ってきてもらいたいものだ。
「強化の効果時間は連続使用で2週間ほどです。ただ、鞘に納める前に軽く魔力を流してもらえればさらに伸びますし、その時の属性は特に関係ありません。注意してもらいたいのは、それでもいずれ切れます。」
「2週間・・・凄いな。
ありがとう。帰ったらこのお礼は必ず。」
そう言って、彼の一団は討伐へと出かけて行った。
参ったな、2週間でもやり過ぎたのか・・・。