騎士の招待
街の中を見て回り、
買い物をし、
夕食に招待される二人。
◇ ◇ ロンディアナでお買い物 ◇ ◇
翌朝、朝食をご馳走になり、丁寧にお礼を言ってニーナさんの家を後にする。
だけど、反対にこちらの方が深く深くお礼をされてしまった。
地球の技術が広まればこの国は格段に強くなるだろう。
国が強くなれば、それだけ私たちはのんびり生活ができる。
今のニーナさんなら、Aランクの敵くらいソロで十分勝てるだろう。
家を出て、街を歩く。
今日は4人で思う存分街を散策するのだ。
子供たちも昨日はお淑やかにしていたようだったが、今朝からははしゃぎまわっている。
私達の事も、早伝わっているのか道行く人たちが気軽に声を掛けてくれ、それににこやかに返事をする我が子たち。
「おんなじくらいの子、いないねぇ。」
「学校行ってるのかな?買い物の時に聞いてみようか?」
雅に優しく答える光。
学校か、お金の面ではおそらく心配ない。
心配なのはこの子たちの魔法力か。
昨日、この国とこの国の人たちについてはかなりの情報を得られた。
今まで光と二人で研究してきた『魔法』というもの、それを元に自分たちを推し量ると相当自制しないといけない。
だからこの子たちには、魔法を使う時はできるだけそっと使うようにと言い含めてはあるのだが、それでも心配だ。
「がっこう?なにするところ?」
「言葉を覚えたり、字を覚えたり、歴史を覚えたり、魔法を覚えたり。
いろんなことをたくさん教えてもらうところが学校だよ。」
「僕たちも学校行くの?」
「うん。役所の人に聞いてみようね。」
・・・
まずは、この身なりをある程度この国の人たちに近づけなくては。そう思い、目に入った服屋さんに入る。
私たちの今着ている服は自前で、それも以前の日本の流れを色濃く残している。この国の衣類とはかなり毛色が違った。
「いらっしゃい。昨日始めて来た方ね。
ゆっくり見て行ってね。」
出迎えてくれたのは、とても気の良さそうなご婦人だった。
「こんにちは、突然流されて来てびっくりしています。
ここはいい国ですね。」
「私達こんな格好で、変でしょ?どういうのが良いのかな?」
「いーえ、ちょっと変わっているけど、とっても素敵なお召し物だと思いますよ。・・・むしろ参考にして作りたいくらい。
・・・
そうねぇ、・・・
これなんてどうかしら?奥様はお上品だから似合うと思うわ。」
「あら、ありがとうございます。
着て見てもいいですか?」
・・・
・・・
デザインも丈もかなりいろいろな物がある中、
光が選んだのはあちらで言うところのちょっとメイドさんっぽいデザインの裾はほとんど地面につきそうなほど長い服だった。
「とてもお似合いですよ。」
「綺麗だ、光。」
「パパ、デレデレしてる~~。」
「茶化すなよ、雅、ラブラブなのはいつもの事だろ。」
「あら。素敵ですわねぇ。」
「アハハハハハ・・・」
・・・二人して頭を掻いてごまかすしかなかった。
響はちょっと背伸びした風の服を、
雅は可愛らしい服を選んでいたみたいで、それを見守る妻の何と嬉しそうなことか。
「響さん、とても凛々しいですわ。」
・・・
「雅さん、とても可愛いらしいですよ。」
・・・
そんな風に何か一言言ってもらうたびに顔がほころんだ。
二人とも光に似てとても器量よしなのだ。
(私に似なくてよかったよ。)
魔石は大概のお店で売る事ができたので、その大きさからAランク相当だろうと思われるものを見てもらったところ、金貨5枚の値を付けてくれた。
Sランク相当だと思われる魔石は慎重に取り扱ったほうが良いかもしれない。私たちのカードに記録された魔法力との乖離が大きい。
それに、あの魔人が残した真紅の魔石。
あれは私たちの宝であり、同時に戒めでもある。
生涯手放さないことにしようと二人で話し合っていた。
さて、昨日ニーナさんはこの国でとても興味深く、また同時に注意しなければいけない一つの事を話してくれた。
それが、重要な約束事の不履行、意図的に相手をだます行為がとても重く扱われると言う事だ。この国は常に魔物からの侵略に備えており、旅先でも常に護衛兵がつく。そんな中で『信頼が置けない』ということは何の価値もないに等しくなることなのだと言う。
私たちが魔力を低めに抑えていることは、騙していることになるのかな?だとしたらちょっと怖い。
ただ、そんなこともあり、大概のものはどこの店で買っても、売っても、そう大差ないのだそうだ。その安心感はとても大きい。
私たちはその金貨5枚で、いろいろな買い物をしながら町の人と会話し、7年間分の孤独を癒していった。
今日の宿屋を少し早めに決め、最後に立ち寄ったのが不動産屋さん。この国に自分たちの住む家を建て、できれば畑なんかも欲しいねと話し合った。
外敵に備える為か、街の外側へ行くほど地価が安いようで、私達は一番端っこの方に10アールほどの土地を買い、家はどうするかと話していたところ、知り合いの大工さんを紹介してくれると言うのでありがたくお願いしておいた。
もちろん材料の手配も建築も自前で出来るのだが、今はとにかく人との交流が嬉しい。
「いやー、助かるよ、あの辺はこの国の入り口辺りだからねぇ。あんまり粗相な家を建ててもらっても困るし、それにごくごく、極稀にはトラブルなんかもあったりするんだ。」
「えっ? トラブルですか?」
「あぁー、心配しなくていいよ、この国には結界があるから基本的に外敵は入れないしね。ただまぁ、本当に稀にはトラブルがあってね、だからちょっと人が居つきにくいのが正直なところなんだ。」
僕は光と顔を見合わせる。
(平気だよね?)
(うん。)
「ええ、どこでも多少のトラブルはあるものです。
宜しくお願いします。」
・・・
さて、ここでこの国の物価にたいそう驚かされることになった。
まず、金貨4枚というのがこの国のおおよその平均月収で、実は職業によっても大差ないらしい。銀貨にすると48枚、ところが、さっき買った土地の価格が金貨2枚、住宅建設も同じくたったの金貨2枚程度との事だったのだ。(それもだいぶしっかりした造りなのだと言う)
食事とか、衣類を見て回っている時の物価を基準にしていたから、(服の上下で銀貨2枚から4枚くらいだった)土地建物が異様に安いと言う事が分かった。
宿屋に帰り一息ついてお風呂に入る。
しゃれたことに家族で入れる大きなお風呂だった。
流したり、流されたり、子供たちもキャッキャいう中、過ぎるひと時は何物にも代えがたく、平和な街、温和な人々で良かったと話し合った。
◇ ◇ アルケインさんのご招待 ◇ ◇
部屋に戻ってみると、テーブルの上にきれいな手紙が一通乗っている。
開けて読んでみると、それはアルケインさんからの食事のご招待で、一応4人で話をしたが、当然のごとく喜んで受ける事にして宿屋の主人に伝えた。
ただ、私には一つだけ気がかりがあった。
彼は金髪で、たいそう位も高く、またイケメンだったのだ。
・・・
招かれたのは、宿屋のほど近くにある庶民的な食事処で正直ほっとした。
それから、もう一つほっとした出来事が・・・
「初めましてー、僕カリストって言います。」
「初めまして、僕は響、こっちが妹の、」
「雅でーす。」
そう、アルケインさんは妻帯者だったのだ。
奥さんのアーニャさんもカリスト君もきれいな金髪で3人そろってまるで北欧貴族のようだった。
・・・
「それで、お二人は職業の方、何か思いつくものはあったかな?」
食事も進み、少しお酒も入ったところで彼が聞いてきた。
「ええ、今日はいろいろ見て回りましたが、とりあえず農業をやってみたいなって話していました。」
「うん。なるほどね、のんびりしたいという心情が現れている。
ところで、来たばかりでいろいろと知らないことおも多いと思ってね、少し話がしたかったんだ。」
「ええ。こうして人と話せるだけで満たされる気持ちになります。」
私と光はこの家族ぐるみの食事会に本当に感謝していた。
「まず、五属性の中で比較的不足しているのが金魔法、かなり不足しているのが水魔法なんだ。金は錬金や武器の加工などいくらいても欲しいくらいだし、水は何といっても戦場ではとても重要な治癒者だ。
遠くまでの遠征なんかは治癒士も含め兵士が行くけど、近隣で何か起こったら治癒魔法をお願いしたいと思ってね。」
なるほど、金魔法士は不足しているのか、それで一つ合点が行ったことがある。昨日ニーナさんが言っていた一言だ。
『戦闘用に貸与された武器』
普段、一般の人が個人的な行動の中で使うには製鉄された武器は高価過ぎたんだ。というより、魔法があるため殆ど需要が無いのかもしれない。野菜のカットだって、切れる包丁など必要ないのだから。
だとすると、私がやったことは価値を覆すものじゃなかったのだろうか?
「えぇ、もちろんです。丁度、家も入り口付近に建てることになりましたし。
それと、これはひょっとしたらいけない事だったのかもしれませんが、昨日ニーナさんと食事をした時に、彼女のナイフを製鉄して切れるようにしたんですけど、大丈夫ですか?」
「うん?いや全然問題ないよ。そう言う仕事もしてくれるとありがたいとは思うんだけどね、君たちはまだ来たばかりだから、やりたい仕事をやったらいいさ。
それと、いざという時の協力の件、ありがとう。正直言って五行使いの一家族4人が国にいてくれると言うのは信じられない安心感なんだよ。だから心置きなく遠征に行ける。」
「何かあったんですか?」
「あぁ。昨日の洞窟、あるだろう?
あそこは兵士じゃない一般職の人も素材を採りに出かける身近な場所なんだ。そんなところにA級指定の魔物が湧いた、こういう時はたいていその東の奥にある魔物の群生地にS級指定の魔物が湧くからね。攻撃を仕掛けて来る前に先制したい。」
多分その群生地とは、私達がトンネルを通って進んできたあたりとは少しずれているのだろう。あの付近で強い威圧感は感じなかったし、まぁ10㎞位は離れているのかもしれないな。
「そのS級指定って言う魔物になるとどれくらいの戦力が必要なんですか?」
「S級って言うのはA級以上のすべてを指していてね、簡単に判断が出来ないからひとくくりにしているだけで、討伐後のランク付けではS1~S12までが規定されているんだ。ただ、すべてが災害級でとてもやっかいだ。あの奥のポイントに湧くのはせいぜいS3程度までだと見てはいるんだが、それに付き従う魔物も含め、1師団36名のアライアンスで行こうかと考えている。」
あのオオカミがA級という事は、私達のいた『泉の森』の付近などはそれ以上の魔物の巣窟だったと言う事だろう。特にトンネルに湧き出してきたあの魔人、アイツのランクはどれくらいなのだろうか?
しかし・・・それにしても、そんな場所でよくぞ生き延びたものだ。
そこではたと気づく。
あの森の魔物はこちらへ襲ってはこないのだろうか?
「私たちはそのずっと先の山の中から洞窟を伝って降りてきました。
ただ、隠形の魔法が使えたので何とか難を逃れていましたが、あの山にはとても強い魔物がいたんです。奴らは降りて襲ってきたりはしないんでしょうか?」
「ああ。そうだったね。そうか、隠形の魔法まで使えたのか。
それで納得いったよ。じゃなきゃあんなところから生きて出てくることなんて到底できないだろうな。
あの山は古代竜の根城なんだ。僕らは一般に『黄竜』って呼んでる。見たものは誰もいないけどね。
それで、あの山に住むほとんどの魔物はその権威の下にあるから山を下りて襲ってきたりはしないんだ。」
なるほど、そう言う事だったのか。
あの想像を絶する威圧感はその黄竜によるものだったのか。てっきり何匹もの強い魔物がいるのだと思っていた。
その後、私はアルケインさんと、光は彼の妻のアーニャさんと思う存分会話を楽しみ、響と雅はカリスト君ととても仲良く話していた。どうやら、雅は特に彼が気に入った様子で、響はそれがちょっとご不満のようだ。
・・・何とも可愛らしい子供たちではないか。
私たちが心から欲していた団らん、それがまさにこれだった。
◇ ◇ 夜も更けて ◇ ◇
夜、二人の子供が寝静まり、光が話しかけてきた。
「それにしても、凄い魔法文明ね。
これなら、ひょっとしたら日本に帰れるかも。」
「そうだね、話しぶりから、私達のような漂流者は多そうな感じだったし、研究もされているようだった。
もし、日本に帰れたら、光はどうしたい?」
「お父さんやお母さんといっぱい話したい。
お土産は・・・魔石?
あっちに行くと、魔力ってどうなるんだろうね?」
そう言って軽く微笑む。
「異世界との行き来、後で聞いてみよう。」
今日も光は両親以外の事には触れない。
これまでもずっとそうだった。
彼氏がいた様子はなかったけど、モテていたのは明らかだったし、好きな奴がいたのかはずっと気になっていた。ただ、それを聞く勇気がとうとうなかったのだ。
「光?」
「ん?」
「彼氏とか、いなかったんだっけ?」
「(ふふっ)いないよ。ちょっと気になる男子はいたけど。」
軽く微笑み、そう言う彼女。
そうだよな、こんなに綺麗なんだから好きな奴がいたっておかしくない。
「そいつにも会いたいとか、思う?」
(つんつん)
「ここにいますけど。」
またまた~~、そりゃ嬉しすぎるけど、お約束・・・だよな?
「いや、すげー嬉しいんだけど、・・・マジで?」
(こくこく)
「じゃぁ、俺が光の事ずっと好きだったってのもバレてた?」
「エッ?それは・・・初めて聞いたかも。」
「些細なことでお礼に貰ったキーホルダーあるよな?アレ寝る時もずっと持ってたよ、ホントに肌身から離したことなかった。」
私がそう言うと、目をパチクリさせる光。
まさか忘れてる・・・とか?
「アリガト。4月に隣の席になって気づいたよ。
ずっと大事にしてくれてたんだって。」
そう言って恥ずかしそうに布団をかぶる。
なんて可愛いんだと、思わず頭を撫でつける。
すると、ニョキっと顔を出し・・・
「なんかさ、草食系男子とかって言われていたじゃない?あの当時。」
「うん。」
「ところが、ウチの学校の男子ってかなり肉食系だったんだよね。」
「えっ?そんな奴いたっけ?」
「うん。たまにクラスメイトに誘われて遊びに行ったりするとね、大概そういう男子がいてさ、カラオケとか行きたがってね・・・」
「カラオケ、流行ってたもんな。」
「で、異様に距離が近い訳ですよ。触ってくることもあったし。」
「触ってって・・・」
「あ、胸とかじゃなくてね、さすがに。・・・肩とか腰とか。
だから、ホント誘われるのが苦痛でさ。」
「そうだったんだ、てっきり仲良しグループだとばっかり思ってた。」
「行かないと嫌味言うしね。正直言って仲良い友達いなかったよ。」
「・・・なんかごめん。」
「ううん。私も外面良くしてたからしょうがないんだけどね。」
「外面って、君の内側に毒なんて見当たらないんだけど?」
「女子はみーんな、猫かぶりなんですよ。ア・ナ・タ♪」
そう言って、頭に手を回してくる。
・・・可愛すぎる。
「いや、さすがに7年もかぶり続けられないでしょ。
素で天使だって。
昔も読書姿をどれだけ写真に撮りたかったことか。」
そう言って、こっちも負けじと抱きしめる。
「そっちこそ、女子にモテモテだったくせに。」
「ええぇ?俺がモテてたわけないじゃん、ほとんど話したことだってないのに。」
「ホントかなぁ・・・お茶に誘って断られたって子や、デートに誘ってフラれたって子がいたけど。」
「お茶・・・それに、デートって・・・そんな事記憶にないけど。
・・・『行ってみたい』って言うのって俺を誘ってたのかな?」
「ぷっ、鈍感さん。そうに決まってるじゃない。
ほかにどういう解釈があるんだか。(笑)」
「アイテっ!コイツめっ!」
「アハハっ」
わき腹を甘くツネって、にっこり微笑むこの愛しい妻め。
「あのさ、広斗。」
「ん?」
「魔人の時・・・カッコよかった。」
「え?結局光に倒してもらったんだけど。」
「普段とのギャップが、こう、グッと来た。
『死にさらせ、クソ野郎!』」
「えぇ?なんでそれ知ってんの?」
「めっちゃ聞こえてました。(笑)
あとあと、あの大地震の時!」
「あぁ・・・あの時?」
「あの状況で、私の名前叫ぶ?普通?(笑)」
「えっ?声に出てたか?」
「めっちゃ出てた。たぶんあれが決定打だね。
ダ・ン・ナ・サ・マ♪」
もう愛おしすぎて・・・どうしてくれよう。
・・・散々
・・・本当に散々悩んでいた。
二人っきり、私しかいなかったから、私なのではなかろうかと。
流されたその時から、ずっと相思相愛だったんだな。
その体をギュッと抱きしめ、長い長いキスをした。
お越しいただきありがとうございます。
ご指摘等ございましたら、よろしくです。