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邂逅

ついにこの世界の人と接触を果たす広斗と光。

  ◇ ◇ 邂逅 ◇ ◇


 泉の森から10㎞程は掘り進めてあったトンネルだが、そこから先は岩盤を掘り進めながら前進していく。

まだ見ぬ『人の街』を目指して。


そしてさらに数㎞進んだとき、魔物からの威圧感が途端に薄くなったのが分かった。

どうやら、あの山に住む強力な魔物達のエリアから抜け出したのだろう。


 4人で顔を見合わせて、ほっと一息ついた。

少し休憩もしたかったが、先の戦闘の余韻が抜けきらず、速度を落としてゆっくりと掘り進む。


「二人とも、ありがとな。」

そう言って子供たちの頭を撫でてやる。


「えへへ、すっごく強いまものだったね。

 でも、さっすがパパとママだね!

 いちげきだもん!

 最後のまほう、あれなーに?」


「あれはな、禁断の秘術って言うんだ。

 普段は絶対使っちゃいけない魔法なんだよ。」


「おおぉぉ、きんだんのひじゅつ、すごい!」

「ねぇねぇ、僕たちにも出来る?

 禁断の秘術?」


「あぁ、大人になったらちゃんと教えてあげるぞ。

 何せ禁断だからな。まだ教えられないんだ。」


「うん。絶対だよ。僕もっと強くなりたい。」


「そう言えば、お前達、あの時防壁張ってくれたのか?」


「うん。お父さんが凄いのを張ってたけど、

 それでもできる限りの事はしようって思って。」


「ありがとう。それでかすり傷程度で済んだんだな。」


 わが子ながら、聡い子たちだ。

光に似たんだな。私に似たらこうもいい子に育つはずはない。



そして掘り進むこと3時間ほど。

とうとう距離にして1キロほど先に人影らしい感覚をとらえた。

ふもとの街とはほんの少しだけ方向が違っている。

回り道にはなるが、そちらに向かって掘り進む事にした。


初めて目にするこの地の人はどういった人なのだろうか?


 人影をすぐ先にとらえ、岩盤をわずかに残して、その先に意識を集中する。

どうやらこの先で魔物と戦っているようだった。人数は一人、魔物も1匹だ。戦況はあまりよくない。せっかく会えたこの世界の人をたやすく失ってはいけないと、加勢することに決め、そっと岩盤に穴をあけ、魔物に向かってニードルを射出する。あの程度の魔物であれば十分その戦力を削げるはずだ。

 私の放ったニードルは正確にその狼型の魔物の後頭部に命中し、動きを止めた瞬間、その首が村人によって切り落とされた。その魔物はチリとなり魔石が残される。


 彼女は隠形したままの私達へまっすぐ意識を向け、話しかけてきた。

「そこに誰かいるノ?」


驚くことにその言葉が理解できた。

次の瞬間、言葉そのものが理解できたのではないことも理解できた。

言葉の持つ内容が理解できたのだ。


 私はできるだけ穏やかに隠形を解いていき、残された岩盤を取り崩した。

 目の前にいたのは、尖ったウサギのような長い耳をピクピクとさせ、けれどそれ以外はいたって普通の人、いわゆる獣人さんだった。


「こんにちは、この先の山から下りてきました。

 戦闘の意思はありません。良ければ街まで案内してもらえますか?」


「この先の山から?」

彼女は相当にびっくりした様子で、まずは事情を聴かせてくれなければ案内は出来ない、と冷静に言った。


 彼女の驚き具合から考えても、やはりこの先の山に人が住むなどという事はあまり考えられないのだな、そう判断した私は今までの事を包み隠さず正直に話すことにした。

ただ、あの泉の事だけは言わずに。


・・・


「なるほど、漂流者ダネ。しかしよくあの山の中に流れ着いて生きていたもんだなァ、ビックリだ。君たちみたいに流れ着く人は結構いるんだけど、あの山から人が降りて来たって話は聞いたことがないよ。」


 どうやら、この世界はそう言うところらしい。

私達のいた世界でそういった事は全くなかったから(あったら大ニュースになってただろうし)空間が安定しているとか不安定とかそう言う事なのかもしれないな。


ただ、想像通り私たちが降りて来た山は相当に危険なところだったのだと改めて納得した。


「あ、忘れてた。助けてくれてありがとう。

 アタシはニーナ、正直もうダメだと思った。」


「いや、間に合ってよかった。

 私は広斗、彼女が光、それから子供の響きと雅だ。

 こんなところで出会えたのは本当に奇跡としか言いようがない。」


人の気配を探してここまで来た、というのは言わないほうが良いかもしれない。ただ、出会えたことだけは紛れもなく奇跡に近かった。


「それで、一応これを持ってみてくれるカナ、4人とも。」


そう言って、四角い紙きれを渡された。

なんだろうと思いつつも、その紙を手にするとなんだか少し指先に反応があって、紙がクリームっぽい色に変色した。

二人の子供はほぼ真っ白、光の方も私と似た様なものだった。


「ウン。ありがとう。君たちに害意が無い事は確認できた。」


どうやらこの紙片がそれを鑑定していたらしい。

想像以上に文明、魔法文明共に進んでいるようだ。


「それジャ、歩きながら話そう。

 アイツとの戦闘に入る前、一応救援要請も出しておいたから、誰かしら来てくれるはずだケド。」


道々、この世界のことについてレクチャーを受けながら歩いていると、前の方から風を切るように接近してくる人影をとらえた。

瞬く間に私たちの前にその姿を現した彼は、豪奢な白い甲冑に身を包んだ騎士そのものだった。

(凄く強いな、この人。)


「よかった。君たちが彼女を助けてくれたんだね。」


「はい、この世界に流れ着いたみたいで、たまたま通りかかりました。」


彼はひとつ彼女に目をやり、頷くと、

「初めまして、私はアルケインこの国の騎士の一人をやっている。」


そう自己紹介をしてくれた。

私達も自己紹介を返し、彼と彼女とてっきり小さな町程度だと思っていたその『国』を目指す。


 やがて丘から見下ろす形になったのは、この国『ロンディアナ皇国』の全貌だった。あれだけ大きな国で、どうして私の魔法探知に引っかからなかったのだろうか・・・。



  ◇ ◇ ロンディアナ皇国 ◇ ◇


「それじゃぁ、彼女に聞いたと思うけど、役所で住民登録をよろしく。

 一応私もついていくから。」


「はい、分かりました。」


 街は1mほどの高さの城壁でぐるりと取り囲まれ、入り口には監視の建物と門番らしき人がいた。


 私達は、アルケインさんとニーナさんに連れられて中に入る。

二人はその門を通る際にカードをかざして通っていた。

それは、地球で言うところのカード認証のようなシステムなのだろうか?

改めてこの地の魔法文明の高さを知った瞬間だった。


門をくぐる際、強い違和感が通り過ぎる。


(これは・・・結界?)


私達の探知をすり抜けせいぜい小さな町程度のように感じたのはこのせいだったのだろう。


 まっすぐ伸びる大通りを進んだ先に石造りの立派な建物が見えてきた。


「あれが役所だよ。」



  ◇ ◇ ロンディアナ中心部 ◇ ◇


 まずはここで自分の状態を検査し、この国での職業の選択をし、それをカードに記録して携帯するという仕組みらしい。

 ただ、漂流者には一定の職業選択の猶予期間があるとの事だった。


 役所に入り、まずは魔力の検査が行われ、次いで身体能力の検査が行われ、それが数値化されて記録された。

 常に魔物からの襲撃に備えなければならないこの国では、兵士以外も臨時兵として駆り出される時があるらしく、個々の能力を正確に把握しておく必要があるのだとニーナさんは道々語ってくれた。

その能力に応じて能力種別ジョブが自動的にカードに記録されるのだと言う。突然のパーティ編成でも戸惑わないよう、あまり細分化はされず誰が見ても聞いても分かり易い基本的な振り分けだった。


 ちなみに、

 アルケインさんは『騎士』(防御寄りの前衛職だ)

 ニーナさんは『レンジャー』(索敵と遊撃が主だと言う)

そして私達は4人とも『賢者』となっていた。

はて、魔法使いの中で賢者とは?日本のゲームだと攻撃と治癒を両方使えるような職業だったはずだが、この地の人たちは皆がそれを使えるはず。その中でどういう特性が賢者なのだろう?


 さて、私達はここに来るまでの間、ニーナさんの話を聞きつつ、思念通話で話し合っていたことがある。

それは『おそらく私たちの魔力はこの国の平均よりかなり高いだろう』と言う事。

だから検査の時にはできるだけ魔力を押さえておこうと言う事たった。

ニーナさんの話ではあの時戦っていた魔物はAランクで、それはSランクに次ぐ強さなのだと言う。それでは私たちがいた山の中の魔物はほとんどがSランクという事になる。しかも上を見ればきりがない強さだった。また、そんな彼女の強さはこの国の兵士ランクで全12階位のうちの第7位であり、中規模アライアンスの軍団長クラスなのだと言う。

だからこの国で平穏無事に暮らしていくために、まずその力を『ある程度抑えておこう』と話し合ったのだった。

出過ぎた力は時には恐怖を、時には嫉妬を生むことをあちらの世界で嫌という程知っている。


 測定を終えて、役所職員に連れられ部屋の外に出ると、アルケインさんが待っていた。

 漂流者一人一人にこうして騎士がついてくれるのだろうか?そう疑問に思いはしたが、そう言うものなのかと納得した。先に検査用紙で『害意』のない事は判定済みなのだろうけど、それで100%信じると言うものでもないのかもしれない。


「それじゃ、ちょっと一緒に来てくれるかな?」


彼はそう言って私達を上の階へと案内してくれた。


 (コン、コン、コン)


「どうぞ」


「失礼します。ちょっとご相談がありまして。」


「こ、これはアルケイン様。」

彼はこちらへ駆け寄ってきて、私達をソファに案内する。

その様子から、この人がかなり身分の高い騎士なのだなと推測した。

このあたりは、どこの文明でも一緒なんだな・・・。


・・・


 それからアルケインさんと、役所のルードさんの話によれば、私たち家族の魔法能力は極めて珍しいもので、五行がバランスよく備わっているのだと言う。私も妻も、この地に流されたときから、子供たちは生まれた時からすでにそういう状態だったし、まさかこの国に暮らす人たちの多くが、大抵1つの属性の魔法しか使えないのだと言う事まではさすがに分からなかったのだ。


(うーむ、すでに出過ぎた杭だったのかもしれないな。)


「魔法力そのものはそれほどでもないけど、五行すべてを使いこなせるのはこの国では大賢者様ただお一人だ。

職業選択については彼らの意見を尊重しなきゃいけないけど、とりあえずあなたに知らせておこうと思ってね。」


「そうでしたか。いや、あなた様がお連れになるからさぞや、とは思いましたが、まさかそれほどまでとは。」


「ここに来るまでの間に、いろいろ説明してもらいました。

 私たちにできる事ならお力になります。

 ただ、まだこちらに疎いものですから、できればしばらくの間は戦闘職以外で不足している職業に就きたいと考えています。」


 私は二人にそう言い、また、特に難しい顔をされたわけでもなかったので、そのまま役所を後にする事が出来た。

 どうやらかなり個人を大事にしてくれる国のようだと安心する。


「お疲れサマ、どうだったどうだった?」


外に出ると、ニーナさんが待っていてくれ、今日くらいは晩御飯を振る舞わせて欲しい、と申し出てきた。

これは私たちにとっては願っても無い事だったので、喜んで彼女の好意に甘えることにした。


 アルケインさんに連れられて役所へ行く間も、その中で検査を受ける間も、なんだか気が抜けずに思うようにしゃべれなかったのだから、思う存分世間話がしたい。



  ◇ ◇ ニーナ宅にて ◇ ◇


「今日は危ないところをありがとう! カンパイ!」

「 「 カンパーイ! 」 」


「いやー、まさか鉱石を採掘に行って『デスウルフ』に会うなんて思いもしなかったよ。アタシ諦めは悪い方なんだけど、さすがに諦めたネ!」


そう言って笑うニーナさん。その耳はあの時とは違い、真ん中から折れてピコピコと揺れている。嬉しい時はこんな感じなんだな。


「ホントに間に合ってよかったです。後ろからだったので不意を衝く事が出来ました。」


「イヤイヤ、謙遜しなくてイーよ、アイツのあの堅い皮をあんな細い矢じりで射貫くなんて大したモンだよ。アタシの魔法もナイフもあの瞬間までほとんど通らなかったし。」


「ナイフに魔法付与はしないんですか?」


「モチロンしてるよ、だけどそれでも通らないんだ。アイツの魔力は私よりだいぶ上だから。7年も山で生き延びていられたんだから、その辺は知ってるんじゃナイ?」


 私は光と顔を見合わせる。

魔力の高い魔物が切れない?そんなことがあっただろうか?

少なくとも私たちの戦闘経験でそんなことは無かった。

どんなに肉体(魔物でもそうだが)を強化しても、硬い刃物を当てて引けば切れる。強化魔法の特性上、硬度が高い刃物への硬化はより顕著に影響するからだ。

実際にあの異常に強大な魔力を持った『魔人』さえ、私の刀はおろかただの鋼鉄で出来たダガーでも傷つける事が出来た。


「えっと・・・よく分かりません。初心者なもので。」


 それから、私達はニーナさんから対魔物戦闘についてレクチャーを受けたのだが、その内容はちょっとこれまでの自分たちの経験から乖離するものだった。


まず1つに、魔力の上下関係はそのまま付与魔法に影響し、上位の相手には効果が極めて薄いと言う事。

2つ目に、魔物の魔力属性は基本が『魔』で、それは5行属性それぞれの上位にあるためそもそも魔法が通りにくいのだと言う事。


 それを聞いた私達は、ある部分は納得しつつも、ある部分では疑問があり、それを正直に話すことにした。


「なるほど、よく分かりました。私たちの矢じりがなぜあいつに効果的だったのか、ニーナさんの攻撃がなぜ通りにくかったのかもなんとなく。

 えっとですね、ニーナさん。

 私達が武器に施す強化は、もちろん魔法によるものではあるのですけど、純粋に物理的な強化でもあるんです。」


「エっ?どういうコト?」


「つまり、あの矢じりに付与した魔法は単に回転と振動、それに硬化なんです。だから強化魔法を用いてはいますが、直接作用するのは物理的な力で、相手の魔力には大きく左右されません。」


「わからないなァ。硬化は分かるけど、回転と振動って言うのが。それって矢じりを回して震えさせたって事でショ?それが何か役に立つの?」


 さすがにこの発言にはびっくりした。

そうか、すべてを魔法に頼ると、単純に物理的なことさえ置き去りになってしまうんだ。振動で切るとか、回転で穴をあけると言う発想が要らないから。


私は持っていた鞄からニードルと鉄インゴットを取り出し、テーブルに置く。そして、ニードルをドリルのキリ状に成型し鉄インゴットに当てた。


「見ていてくださいね。」


 そう言って、ニードルをただくるくる回す。

当然のことながら、ニードルは緩やかにインゴットに食い込んでいく。


「えっ?それ魔法じゃないの?」

「ええ。ただ回しているだけです。ニードルの刃が回るから、同じ鉄に穴をあけていくんです。」


つぶらな瞳をさらに一回り大きくし、その様子を見つめていた彼女は不思議そうな顔をして・・・

「エッ? エッ? ナンデナンデ?

だって、両方鉄でショ?」


「同じ素材だけど、この矢じりの方が堅いんです。だから食い込むんですね。」


「アー、コッチの方がいい鉄なんだね。ナーンダ。

 でもそうやって回して刺すより、こうやって魔法で刺したほうが簡単デショ?」

そういって、ニードルに火属性を付与してインゴットをプスッと刺すニーナさん。


「ですね。簡単です。それじゃ、これでやってみてください。」

そう言って、インゴットに水属性を付与する。


「・・・。ン~、ズルい!

 水付与したでショ?」


「そうそう。魔法付与はある意味簡単に武器を強くできますが、魔法防御に弱いんです。だから、強敵相手だと辛くなってしまうんですね。

 今聞いた話だと、ニーナさんよりあのオオカミの方が魔力が上という事は、そりゃ攻撃が通りにくい訳です。

 反対に、硬化や回転、振動と言った物理的な強化を付与すれば、魔力の強弱にはあまり左右されませんよね?」


「ナ・・・ナルホド。ムズカシイけど分かった!」


この様子では、鉄を鍛えるとかそう言う事にも全く無関心な文明だったのかな?さっきもいい鉄、悪い鉄とか言っていたし。

魔法文化というのも物理化学が置き去りになり過ぎてどうなんだろうか?等とちょっとほほえましく思ってしまった。


「ニーナさん、ちょっとナイフ見せて貰っていいですか?」

「うん、これだよ。」


・・・やはり。不純物いっぱい、力を入れればすぐに曲がってしまいそうだ。それにこの刃、刃というよりただ少し尖っているだけにしか見えない。これじゃトマトだってスパッとは切れないだろう。これで戦えていたのは、ひとえに魔法強化のたまものだったのだな。


私は魔法でそのナイフを精製、錬金し、不純物を取り除いて刃をつけ、炭素含有量も整えてから彼女に返した。まあ、単に鋼鉄化しただけだ。日本ならどこの金物屋さんにでも売っているレベルのナイフ。


「ちょっと触ってみてください。」

「うん?

 ・・・

 ・・・?

 ・・・あれ?なんでこんなにいいナイフになってるの?

 戦闘用に貸与されてる武器以上カモ?

 それに・・・」

といって、手元にある皿をさらりと撫でる。

当然のように木製の皿は真っ二つ。


「・・・ナニコレ?

 ・・・ナニこの切れ味?

 魔法?」


「違いますよ。ただ鉄を錬成して製鉄し、刃をつけただけなんです。」


彼女が指先でナイフを弾くと

 『キン』

という鋼鉄ならではの音が響いた。


「スゴイ! スゴイスゴイ!!

 スゴイよ! アリガトー!」


・・・

   ・・・


 ニーナさんから大層なふるまいを受け、二人でベッドに入る。


「ごめん、俺だけいっぱい話しちゃって。」

「ううん。私も十分話せたよ。

 久しぶりの会話に嬉しくて泣いちゃった。」


「これからはできるだけのんびり生きよう。子供たちと。」

「うん。・・・だけど、結構大変な世界みたいね。

 のんびり暮らせるかな?」


「町の中は落ち着いていたし、戦闘職は遠慮したいと言っても難しい顔もしていなかったし、大丈夫じゃないかな。」


 そう言って、大事な妻の頭を撫でる。

おかしなもので、私はこの地に流されてよかったとすら思っている。

流されなければ、こんな幸福感は得られなかっただろうし、もちろん子供も授からなかった事だろう。

 ただ・・・彼女は・・・幸せなのだろうか?

元いた世界が恋しく・・・いや恋しいに決まっている。

そんな風に考えていると・・・


「職業、何にする?」

そう聞いてくる。

あぁ。この地での未来を考えてくれているのか。

それなのに私はまた余計なことを考えてしまって・・・。


「君となら何をしても楽しそうだけど、農業とかはどう?

 見た感じ食料品は結構それなりに高かったように思うから、必要十分というわけでもないのかも?」


「うん。いいかも。」


 そんな話をしながら、その日は更けていった。


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