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回想(2)

泉の外へと出たい、そう思い始めるのだが、それには多くの困難があった。

  ◇ ◇ 回想(泉の森の外へ) ◇ ◇


「ゲームとかだと、姿を隠す魔法があるよね?ああいう事が出来たら外にも出やすくなるんじゃない?」


泉の森の境界線辺りで、さてどうしようかと話し合っている時、ふいに光がそう言った。


二人とも、目の前のその一線を越えられずに悩んでいたのだ。

(実はあれから光も一度あの恐怖を体験している。)

最初に味わったあの恐怖はそうそうぬぐえるものではなかった。


「相手からの視覚遮断と気配遮断かー、ちょっとやってみようか?」


そういって、相手から見えなくなる自分を想像し、光の屈折とかあれやこれやを考えるのだが・・・


「ぷっ、うまくいかないね。」

クスっと笑うその笑顔の何と可愛い事か。


「物理と科学の世界に生きて来たからなー、未だに魔法世界のフィーリングがチョットつかめないものもあるね。」

私がそう言ったとたん、目の前にいるはずの彼女が消えた。


「あっ、あれっ?光?」


「どう?」

「あ。いた!、アレー、目の前にいるのに喋らないと気づかない!

 なんでだろう?」


「見えなくなるんじゃなくて、存在を意識させなくなるような感じかな。

 森の中だから、『木』魔法を練りこんで、周囲に同化する感じ。

 ・・・ほら。」


 彼女にそう言われて、自分も同じようにやってみる。


「あっ。分からなくなったよ、広斗。うまいうまい!」


「これいいね!これなら外を出歩けるし、狩りも出来るかも。」

「私、お肉食べたい!(笑)」

「魔物って食べられるのかな?」

「動物と魔物の違いってなんだろ?」


 そんな風に笑いながら、境界線を一歩出たり入ったりした。

少しでもこの圧倒的な恐怖に慣れなければとても外に出ることなどできない。



  ◇ ◇ 回想(魔法攻撃) ◇ ◇


 外に出るにあたり、『隠れる』のは役に立つ、怖いながらも境界線を出る練習もした。


次はどう『戦うか』だ。


「うーん、ゲームみたいにうまく攻撃できないな。」


5つの属性をそれぞれ魔法攻撃に使ってみたのだけど、それがなかなか思うようにいかない。というか『攻撃性能』が低かった。


「『魔力』って手元を離れるとすぐ消えちゃうんだよね~」


そうなのだ、『ファイアー』と叫んで火の玉を投げるまでは良い、ただそのまま10mも進まずに、(シュポン)と消えてしまう。

ゲームのように敵を『ブワッ』と豪炎で焼き尽くす、などというカッコいい事がなかなかできなかったのだ。

もっとも、私達の魔力がまだ低いとか、スキルが低いとか、そう言う事に由来しているのかもしれなかったのだけれど。


また、離れた位置にあるものに魔法を発生させることもとても困難だった。直接か、間接的にでも触れていないと殆ど魔法らしい事が出来ない。


 二人で、あれやこれやと試すうち、どうやら『何か物質』に魔力を込めておいて投げつければそれなりに魔法攻撃になりやすいと分かった。投てきと言っても、魔法で爆風なり爆発なりを起して投げるというより射出するのでそれなりには早い。


「でも、なんかいまいちだよね・・・。」


そう、『なんかイマイチ』だった。

火の魔力を付与した石を投げつける、的に当たればたしかに火に包まれた。

だけど、それは的の表面だけだったし、物質自体が的から落ちてしまうと的の火はたちまち消えてしまう・・・。


それに、強属性で簡単に打ち消す事が出来てしまうのだ。火なら水でいい。

『魔物』というくらいだから魔法も当然使えると考えるべきだし、どの属性の魔力を付与しても、対応する魔力で相殺されると考えたほうが良い。


「やっぱり物理的な武器かな。」


私はそう言って、貯めてある素材から鉄インゴットを取り出して剣を製造していく。西洋風の両刃は取り回しもどうかと思い日本刀風にした。炭素含有量は1%程度だったっけかな?と前に読んだどこかの情報を引っ張り出す。


「できた!」

「日本刀だね、広斗って洋より和のイメージあったもんね。やっぱり。」


 彼女はそう言ってにっこりと微笑んでくれる。

そんなちょっとした一言でも、『学校で自分を見ていてくれた』のだと感じると、たまらない嬉しさが込み上げてくる。


このままでも魔法付与で十分な武器になりそうではあるが・・・


私は集めておいた素材の中から、石炭の塊を取り出してハイパーダイヤモンドを錬成し、それを刃にコーティングした。


「ダイヤソード!」

「ぷっ(笑)贅沢!」


「飛び道具はダガーとかニードルタイプがたくさんあればいいかな。

 飛ばす分には結構速度も出るし。」


「自在に爆発させられると攻撃力、上がるね。」



  ◇ ◇ 回想(魔物との対峙) ◇ ◇


のしかかる重圧に耐えてこの森から外へ踏み出す訓練を続け、隠形しつつそっと魔物の様子をうかがい気付かれないことを確認する。


(大丈夫だね。)

(うん。)


 しかし、周囲の魔物の多くは信じられないくらい強そうだった。

ゲームで言うところの『計り知れない強さ』だ。

魔法に目覚めたからか、相手によっては大体の力量が分かるような敵もいたのだけど、そんなのはごくごくわずかで、殆どの魔物はただただ恐怖としか感じられなかった。


特に、今目の前を通り過ぎて行った『あれ』に襲われたらあっという間に殺されてしまうだろう。まだまだ強くならなければ人の街を探すことすらできない。



そういう散策を繰り返すうち、魔物というものがどういうものなのかを知る事が出来た。もちろん魔物なので魔力を感じる訳だが、魔物には心臓が無く、代わりに核となる結晶が備わっていた。私たちはその核を『魔石』と呼ぶことにした。


その日、家に帰る途中・・・


「広斗、あれ・・・」

光が指さしたその先には・・・


「イノシシ、かな。」

魔物とは違う普通の動物、それもちょっと見知った生き物だった。

ひょっとしたら食べられるかもしれない。


そうっと構えてニードルを射出する。


・・・こちらに来て初めての狩りは見事に成功した。



  ◇ ◇ 回想(初めてのお肉)◇ ◇


「ほーら、今日はぼたん鍋だぞー。」

「ぼたんなべって、なーに?」

「お肉を煮込んだお料理のことだぞ、初めてだな。お肉。」


 ぐつぐつと煮えるその鍋の中には、今日の獲物であるイノシシ肉、木属性魔法で栽培に成功した芋と、同じく豆から作ったお手製の豆腐、後は多少品種を改良した葉野菜などだ。

 ちなみに、塩は掘り進んだときに手に入れた岩塩を精製して賄っているし、味噌もしょうゆも作ってみた。意外とやればできるものなのである。


「おにくおいしいー!」

「ほんと、4年ぶりのお肉、美味しい。」

「うん。明日からも頑張ろうって気になるね!

それに魔法であく抜きも毒抜きも出来るから便利でいいよな。」


 3歳になったばかりの小さな口で、十分に柔らかく煮込んだお肉を元気にほおばる子供たちを見ていると、無性に愛おしさが込み上げてきて、

あぁ、何としてもこの子たちに友達を作ってあげねば、そう強く思った。



これ以降、私たち二人の行動範囲は飛躍的に広がっていった。

動物を狩り、食べられそうな木の実、木の芽を採り、稀にいる何とか戦えそうな魔物と戦闘経験を積み、魔力だって順調に伸びていくのが実感として分かった。


そこで、次に私たち二人が目指さねばならない事、それがこの世界の『人』との邂逅だった。そのためにはまず、この付近をより広く散策して村や町を探さねばならない。だが当然のごとく、こんな凶悪な魔物のいる森に人の気配など見つかる由もなく、そこで、探索範囲を広げたいのだが、余りに離れるのは子供たちが心配だからと、他の探索方法が無いものかと話し合った。


「これで空撮とかどうかな?」


ある時、光がそう言って提案したのが、スマホだった。

「うん! いいアイディア!

 ここでスマホだなんてちょっと頭になかったよ。

たった二つだし、もしなくなると勿体ないから複製してみよう。」


「頑張って!広斗!」


彼女にそう応援されてはいやがおうにも頑張らなければ。

もう4年も一緒にいるのに、名前を呼ばれるたびに頭の芯が痺れる。


・・・それから、ほぼ丸一日を掛け、慎重に、丁寧にスマホを複製して完成させた。


「やった!、おめでと!」

「ありがと!」


「気になるバッテリーは・・・こうかな・・・」

構造物をトレースするだけでそれが理解できると言うのは、本当に優れモノだ。


「・・・おっ!電源入ったよ!」


「後はこれを運ぶ飛行機・・・っと。」


・・・

   ・・・


 あまり大きくしては魔物に見つかりやすいし、もし高度な文明があれば捕捉もされやすい。いや、それ自体はいいんだけど、もし捕捉した文明の方が私達を不審に思い、遠距離攻撃などして来たら・・・そんな不安も頭をよぎった。


 結局いろいろ考えて完成させたのが、長さ80㎝ほどのプロペラ機、動力はリチウムイオンの電池だ。翼と尾翼に小さく削った魔石を埋め込み思念をつなげておく。直線距離で5㎞位なら機体の制御ができることは森の中で確認している。上空から撮影するだけだ、それだけあれば十分だろう。


「上手くいくといいね。」

「うん。それじゃ行くよ!」


 期待に胸を躍らせながら、静かにそれを飛び立たせた。



  ◇ ◇ 回想(帰らぬ翼)◇ ◇


「まただめかぁ・・・難しいね。」

「単に視覚から逃れるだけじゃ、魔物にやられちゃうって事だね。」


 あれから手を変え品を変え、5回飛行機を飛ばしてみたものの、結局帰って来ることはなかった。何とか作り上げた簡易光学迷彩を施した最後の機体ですら。


「隠形の魔法が付与できれば・・・」

「だね、結局できなかった。」


 隠形の魔法を物質に付与することは結局できなかった。

物質を隠匿化することはできたのだが、手を離れれば効果は切れたし、魔力を供給し続けても効果は継続しなかった。

そもそも、隠匿する魔法とは、刻々と変化する事象の中で、ある物、ある人の存在を認識させないと言う魔法だから、対物付与でそれを達成できなくても仕方ないのかと思う。逆に言うなら、『罠』のように固定の場所に置くものであれば、かなりの隠匿性を付与することはできるのだ。


「ま、考え方を変えよう。つまりそれだけ危険な場所に私たちはいるって事がはっきりしたんだ。視覚遮断でも、聴覚遮断でも魔物の目は欺けない。隠形の魔法が必須だと分かったのも一つの経験だととろう。」


「うん。

 ・・・・・・」


「光?」

「あっ、ゴメン、もしかしたら隠形の魔法も見破る敵がいるのかも・・・なんて。」


 光にそう言われてハッと気づく。

そうだ。私は何を安心しきっていたのだ。

隠形は相手に意識させないだけのもの、それを意識することでひょっとしたら見破られるかもしれないのに。


「そうだったね。うん。人や村を探すときにはそれも注意しよう。」



  ◇ ◇ 回想(この地の探索) ◇ ◇


 結局、私達は地面に掘ったトンネルをさらに深く掘り進め、そこから大地に魔力を這わせ、人、村の気配を探知する、という何とも地道な方法を採ることにした。


 今にして思えば、この手段を取ったことが、後に訪れる災厄から逃れられることになるので、人生というのは何がどう転ぶか分からない。

あのスマホ空撮作戦が成功していたら、私達はあの時点でアイツに殺されていたのは間違いない。


私と光は、交代で魔力を細く細く伸ばして人の気配を探りつつ、その周囲の地図を作っていった。

これは気の遠くなるような作業だったし、初めのころは僅かの距離しか探る事は出来なかった。

それでも、人に会いたい一心でその作業を繰り返しているうち、徐々にその探索エリアも拡大し、感度も向上した。

1年ほどが過ぎたある日、約40㎞程南西へと伸ばしたその探知に初めて『人影らしい反応』をとらえた時の喜びは、本当にひとしおだった。


筆舌に尽くしがたい、などとは簡単に使う言葉だが、まさに言葉にできない歓喜が私たちを包んだ。


それからは、その地点を中心に、できるだけ細かい地図を作っていきながら、この地の文明がどうか穏やかなものでありますように、そう願った。


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