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エレンシーの疑惑

露天風呂に浸かりのんびりとする、広斗たち。


しかし、その後持ち込まれたハルミントン公からの情報、とは。

  ◇ ◇ 100人温泉 ◇ ◇


「なぁ広斗君、なんだか不思議な気分だね。

 ただのお湯なのに、とても落ち着く。」


「でしょ。

 お湯に硫黄とかが溶け込んでるだけなんですけどね。

 病気や怪我に対する薬効もあったりするんです。

 あちらではこういったお風呂が凄く人気でした。

 アルさんのお屋敷まで引いてあげましょうか?」


「あはは。

 私だけそんなことをしてもらっては皆がうらやましがるだろう。

 ここが完成したら妻と息子を連れてちょくちょく入りに来るよ。」


 コウモリ魔人討伐からわずか数十分ほどで完成した巨大露天風呂。


100人余りで露天風呂を掘るというその作業は、壮大でありながらものんびりとしたものだった。


「こうして、皆裸で風呂に入るというのは良いものだな。

 陛下の求める国の姿と重なる。」


「素敵な国ですね、殿下。

 私たちがいた世界も、それなりに平和でしたが、こんなに居心地が良いとは感じませんでした。」


「そう言ってもらえるのが、何よりの誉れだな。」


「今年の災厄はあれで終わりと思っていいんでしょうか?」


「そうであって欲しいがな。こればっかりは分からん。

 しかしあれを撃ち落とした魔法、あれは対空戦闘でいい武器になる。

 後で技術提供をよろしく頼む。」


「はい。かならず。

 ところで、殿下はどの属性をお持ちなんですか?」


「私は火、土、金だ。王家は代々守りに特化していてね。」


「あの槍を射出する魔法、魔法は使っていますが、働いている力は物理学的、科学的なものなんです。電荷と言います。雷の力ですね。」


「うむ。それは感じ取れた。金魔法だろうな、それも分かった。

 だが、魔法であの射出速度はとても出せぬ。」


「はい。雷の性質を利用して打ち出すのです。

 魔法が発達したこの世界では、その便利さ故科学や物理と言ったことがあまり深く研究されていないようですが。


 私たちのいた世界では、魔法がありませんでしたから。

便利であるため、楽をするため、そしてこれはひどい話ですが、相手に勝つため。


知識欲もさることながら、そう言った我欲を満たすためにひたすら研究していったんだと思います。」


「おのが欲望を追い求めすぎるという事は、ひいてはその欲望から遠ざかる未来が待つのだがな。」


「そうですね。でもそれがわからないんです。みんな。

 ・・・

 本当にこの国は素敵です。

 誰一人、不幸になってもらいたくない。

 あっちにいた頃はまだまだ勉強不足でしたが、それでも知り得ることはアイシス様を通じて国内に広げてもらいますね。」


「ありがとう。

 まだこの国に来てひと月だと聞いているが、世話になるな。

 感謝する。」



  ◇ ◇ 急報 ◇ ◇


 それから5日後、純和風に仕立てた温泉施設を造り終えた。

共同で掘ったどでかい露天風呂も、ちゃんと形を整えて入りやすくした。


キャメルさん達の魔法特性を考えるとレンガ造りが適していたのだが、そこはそれ、どうしても木造にしたかった。


 魔物の襲来などを考え、骨組みはしっかり石と鉄で編み込んだ造りにして剛性を出し、建物と露天風呂には隠匿の魔法を永続で付与し、五行結界を張っておいた。

これで意識もされない、近寄りもされない施設の出来上がりだ。


 ただ、偶然起こり得る物理的な衝突に備え(主に近場で魔物戦闘が起こった場合などだが)しっかりと受け止め切れる強靭さ、それを4人で目指した。


・・・


「キャメルさん、お約束の報酬です。」

「あまり力になれなくて、なんと言っていいのか。

 それなのにこんなにたくさん。」


「いえ、凄く助かりました。

 いくら魔力が強かろうが、人手が4人ではやはり大変でした。

 エイブル君もマイアちゃんも本当にしっかりしていて。

 お手伝いありがとう。」


「えへへ。どういたしまして。」


「それと、これを一つ取っておいてください。」


 そういって、あの時倒した魔物の魔石を一つ手渡す。

21個すべて回収できたが、自分たちの使う分は十分あるし、貯えも心配ない。強力な魔物に対するため魔石はいくらあってもいいし、何より折角準備をして出て来てくれた守備隊への感謝にと国庫に差し出そうとしたのだが、『君たちからは既に十分以上貰っている。大きな戦闘に備えて、君たち自身が持っていてくれ。』と皇子自らに言われてしまった。


 そうまで言われてはと引っ込めはしたものの、であればとあの後盛大な祝勝会を開いたのだった。


 兵士128名、我々が子供を含め8名、そんな大宴会に必要な物資は相当なもので、街の中では嬉しい悲鳴が上がっていた。


 S3クラスの魔石2個分くらいは街に還元ができただろう。


「これはあの時の? しかしこんな高価な魔石を受け取る訳には。」

「これからこの国に根を生やすならもう少し貯えを持っていたほうが良いと思います。」


「ありがとう。では遠慮なく。」


 そう言うと、彼は建てたばかりのわが家へと帰って行った。

広斗たちの口利きで、彼の家もドッドさんにお願いしていたのだった。

場所は広斗たちの家の大通りを挟んで真向かいである。


 彼を見送り、またのんびりとした家族だんらんを楽しんでいると、緊張した面持ちでやってくる人物が居た。


ハルミントン公だ。


「ちょっといいかね。広斗君。」


 そして彼から告げられたこと、それはエレンシーでの変事を思わせるものだった。



  ◇ ◇ エレンシーの疑惑 ◇ ◇


 そして、夜。

ハルミントン公の話を元に、隣国エレンシーについて少し確かめたいと思った私は、この国に来たばかりのキャメルさんを家に招いていた。


「今日の今日ですみません。

 実は、かなりキナ臭い話を聞いたものですから、少しお話が聞きたくて。

 やはり、自由主義のエレンシーでは騙し騙されるというようなことは多いのでしょうか?」


私がそう切り出すと、なんだか困ったようにうつむくキャメルさん。


「・・・言い訳のように聞こえてしまうだろうが、ここ数か月、ずっと気を抜くことが出来なかった。

 なんだかいつ誰に騙されるか分からない、そんな不安がまとわりついていて。

 だから!・・・私もシュナも本当に気を付けていた。

 気を付けていたんだ。誰にも付け込まれないようにと!


 ところが、ある日一枚の借用書を持った無頼漢が突然工房に押しかけて来て、・・・私たち一家はその場で・・・

 その場で、たたきだされたんだ!


 それは私が店を始める時に借りたもので、何年も前のものだ。

 既に返し終わってもいた!


 そんなことがまかり通るものかと、警備隊や役所に相談しに行った。だが驚いたことに門前払いのような体で追い返され、挙句の果てには『おとなしく帰らないなら牢にぶち込む』とまで言われ・・・。


 確かにあの国には、儲けるために人を陥れる人もいた。

 だが、国の機関が話を聞いてくれない、などという事はなかった!」


「そうだったんですか。

 借用書のねつ造と、それを確かめもしない国。

 お怒りとご苦労、お察しします。


 国内に何か変わったこと、特に政変とかはありましたか?

 どんな事でもいいんです。」


「細かな政変があったかどうか・・・それは分からない。

 でも、大きな異動はなかった、なかったはずだ。

 ご存じの通り、自由主義と言っても王制で、

 議会もちゃんとあり、彼らは選挙で選ばれている。

 ・・・ただ、

 これも言い訳に聞こえるかもしれないが、

 まっとうにやっている所ばかりが・・・。

 真面目なところだけが狙われていた・・・。

 そんな感じだったんだ。」


「そうでしたか。だから、疑心暗鬼に。」


「それって、この間陛下が言っていた・・・?」

「かも・・・しれないな。」


「何か心当たりが?」


「いえ、まだ推測の域を出ません。

 ただ、このまま放っておいたら、最悪、あの国は亡ぶかもしれない。

 ですが、そうはさせません。

 親しくしている方もいますし、私達もそんなのは嫌だ。

 この国に来てくれる人も良く見ます。

 みんな、楽しそうでした。」


・・・


 国というもの。

政治というもの。

経済というもの。


 それを考えれば、ハルミントン公の言っていたあの国の変化は違和感を拭えない。

 今キャメルさんの話を聞いて、多くの事が裏付けされたと言っていい。


 まっとうな仕事をすること、それが正常なスパイラルを生むこと、

それは、順調に経済を、国を発展させるはずだ。


 ところが、彼が受けた様な無法なことが許されはじめると、経済は負のスパイラルに入っていく。

 疑心は取引状況を悪化させ、物価を不安定にさせる。

だから国は法の下に等しくあろうとする。

それが国家の安定につながると信じて。


仮に今ある姿が意図されたものであったとするなら。

そして、その意図する者が国の頂点であるとするなら。


・・・


 キャメルさんを家に帰し、光と二人で話し合う。


「いい手はないかな、光。」

「体を乗っ取られていると仮定して、それを引き離したら元に戻るのかしら?」


「物語の中だと、戻る場合が大半だね。

 人はハッピーエンドを好むから。」


「現実は難しいよね。

 本人を生かしておく理由が見当たらないし。」


「だよね。俺もそう思う。

 だとするなら、人に取り付いている魔物を倒すことは同時にその人を殺すことになり、傍から見ればただの殺戮者になってしまう。

 だからそういう方法じゃ救えないね。

 ましてや、議会制を採用しているみたいだから、かなり多くの人が乗っ取られている可能性さえある。」


「それと、乗り移っているのか、成り代わっているのか、それも重要ね。

 成り代わりだと既に詰んでるかも。」


「うん。助けられるとしたら、乗り移りの場合、か。」


「その場合、病気なんかでその人が死んだら、取り付いている魔物は出ていくよね?」

「だろうね、そして次の宿主を探すとか、かな。」


「可能性があるとするとその瞬間だね。」


その言葉にハッとする。


「なるほど! 君はほんとに!」


(愛しい妻を思いっきり抱きしめた。)


「もうっ! そういうのよくあったじゃない、物語でも。

 私じゃなくったって考えるって。」


そう言いながらも照れている。なんて可愛い奴。


  ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日。

私と光はハルミントン公と共にお城へとやってきた。

話は昨日のうちに通してくれてあるらしく、陛下もアイシス様も時間を取ってくれるらしい。


・・・


「国交にも絡むデリケートな問題という事で、ワシとアイシスだけにした。」

「ありがとうございます。陛下。

 ではさっそく私の方から・・・」


・・・

   ・・・


「なるほどな。かの国の現状は理解した。

 だが、我が国の方針としては何ら変わらぬ。」


「ええ。それはわたくしも異存有りません。

 ですので、個人的な範囲の中で様子を探り、可能であれば巣くっている魔物を排除できないものかと。」


「国民が関与する以上、問題は国対国になる。それも許可は出来んな。」


「あの、一つよろしいですか?」

「うむ。発言は自由に。そうでなくてはこの場の意味が無いからな。」


「仮にエレンシーが魔物に乗っ取られていると仮定すると、魔物を伴ってこちらに攻めてきたりはしないのでしょうか?」


「どう思う?」

「ないとは言えない、というかその魔物次第ではないかしら。」


「かつて、あの国が魔物に乗っ取られていた時代にもそう言う事はなかったようだが。」


「ええ。その時の魔物はそういうヤツだったという事でしょう。

 今回の魔物もそうであるとは限らない。

 それにね、陛下、あの頃と今とでは決定的に違う事があるでしょう?」


「なんだ?それは?」


「いつも言ってるでしょ。今のあの国、純軍事的には相当なものよ?

 あの当時のエレナビクの戦力なんて、当時のこの国の半分にも満たなかったのだし。」


「あぁ・・・結局そこに話を持って行きたい訳か。」


「ちょうどいい機会よね。もう少し魔道兵器の開発に取り組みなさい。

 でないと魔物ではなく、人に攻め込まれるわよ。」


「ふぅむ。

 広斗と光はどう思う?」


「はい。私たちのいた世界は、それなりに平和でした。

 でも、絶えずどこかで紛争が起こっていました。

 理由は様々でしたが、少なくとも3千年ほどの歴史の中で

 戦乱が無かった時代は一瞬もありません。」


「人とはそういうものよ、陛下。

 これまではただ魔物に対するので手いっぱいだったというだけの話。

 だけど、国そのものが魔物の手に落ちればそれ自体が敵になるわ。」


「あの、凄く根本的な事なんですけど、

 魔物ってなぜ人を襲うのでしょうか?」


「あら、光。知らなかったのかしら。

 魔物ってね、とても寿命が短いのよ。

 だから本能的に人を襲うの。

 魂、まぁ魔力という言い方でもいいわ、それを食らい続けないと1年位で消滅しちゃうの。

 だから、魔力の強い人間をより好んで襲う習性があるわね。」


「ウチのフェニックスは魔物ですよね?一応。」


「そうね。だからとても不思議な存在。

 はっきり言うと、純粋な魔物じゃないわね。」


「それじゃ、エレンシーが魔物に乗っ取られていると仮定すると、その目的というのは・・・。」


「ええ、たった一つしかないわ。

 効率よくエサを生産して食らい続ける為ね。」


・・・


「ハルミントン、個人的な対処をするとして、どういった事を考えている?」


「はい、陛下。

 まずは様子をうかがうことが肝要だと思います。

 最悪の事態を考えると、正面から入り込むことは避け、隠れてこっそり様子をうかがうことが出来れば、内実を知る事も出来ましょう。

 非合法ではありますが、すでに魔物の手に落ちている可能性考えればそれは言っていられません。

 次に、もし可能であれば魔物を引きずり出して処分します。この時おそらく当人も命を落とすことになりましょうが、かの国全体の事を考えれば致し方ないと、私は考えます。

 また、議会の中にも魔物に乗っ取られた人間がいる可能性についてですが、私はこれはないのではないかと考えます。

 どうでしょう?アイシス様。」


「そうね。まず、そんな高度な知能を持った魔物自体の少なさ。

 それから、魔物の特性。

 それを考えると、本体の魔物は一体、後はその魔物の影響を受けている、と考えるのが最も自然ね。」


「つまり、最高権力者にとりついている魔物を排除すれば、今のかの国の乱れはなくなる、と?」


「取り付いているのが最高権力者とは限らないけれど。

 人に影響を及ぼせるのなら、周辺にいる人で十分よ。」


「どうだろう?広斗君。」


「はい。人と人との争いなんてろくなものじゃありません。

 私がこっそり行って様子を見て来てもよろしいですか?」


「うーむ。

 コレの前で言うのも悪いんだが、広斗と光はもはや我が国の最重要人物と言っていい。コレと同等のな。」


そう言って、横の大賢者様をポンポンと撫でる。


「陛下。見た目が若いと言っても私はイイおばさんなのだけれど。」


「ワシにしたら可愛い娘のようなものだ。」


「まぁ、良いけれど。

 広斗が行くのは賛成よ。というかこれ以上の適任はいないわね。」


「むぅ。・・・」


「陛下。心配なさらなくても、私は妻と子供が何より大切です。

 それをおいて他国のために行動したりなんて絶対にしません。

 出来ることが無いと分かったら必ず引き返してきます。」


「行動を起こすなら早いほうが良いわ。

 変事が外に見えるようになったら手遅れよ。」


「分かった。では広斗、この件はお前に任せた。」


「はい。謹んでお受けいたします。

 大切な人の住むこの国のために。」


「一つ言っておくわ。いざとなったら国の中枢ごと潰してしまいなさい。

 それがあの国の国民の為、ひいてはこの国の為、大事な光のためよ。」


お越しいただきありがとうございました。

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