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温泉を掘ろう

不意に思い立って、温泉を掘ることになった広斗一家。


ようやく温泉を掘り当てたところに、飛来する複数の影。


  ◇ ◇ 亡命者 ◇ ◇


「まだ時間もありますし、宿屋が埋まる事もありません。

 かけてお茶でもいかがですか?」


 旅行者にしてはくたびれて見えた家族。


こういう時、さっとこういう言葉が出る妻がたまらなく愛おしくなる。


何故かいつも私よりも一足早い。

その度に私はいつも思うのだ。


この妻は本当に天使のようだと。


「・・・それじゃぁお言葉に甘えて。」


お互い目配せしながら長椅子に腰を下ろす一家4人。


・・・


 話を聞いてみれば、やはり隣国エレンシーから来たこの家族は、あちらで騙され家も財産も奪われて放り出されてしまったのだという。


 しかたなく、約250㎞の道のりを、幼い子供たちを連れ、近くの魔物を倒しつつ、3日がかりでこうして辿り着いたそうだ。

いかに魔法世界とはいえ、過酷に過ぎる話だろう。


「それは、大変でしたね。

 失礼ですが、手持ちは大丈夫ですか?」


 手持ちがあれば車で来たはずだ。

それが心もとないから歩きながら、魔物を倒しながら来たのだろう。

道すがらの魔物は大抵がDランク、もしくはCランク程度だ。

大した稼ぎにはならないが、それでも飯代程度にはなる。


「えぇ・・・2,3日くらいは何とか。

 その間に日銭でも稼がせてもらおうかと。」


 3日ほど・・・か。

・・・ん?

・・・その間に日銭を・・・?

・・・私たちは丁度、明日から温泉を・・・


そんなことを考えていると。


「キャメルさんの得意魔法は何ですか?」


「ええ。鍛冶屋などやっていまして、二人とも金属性魔法が使えます。」


「まぁ! それは丁度良かったです!

 ねっ! あなた。」


 そう言って私ににっこり微笑むこの可愛い妻め。

なぜにここまで以心伝心なのか。


そのあまりの可愛らしさに、思わず額にキスをした。


「 「 まっ! 」 」


「パパ! ママ! おきゃくさまのまえですよ!」


「 「 アハハっっ 」 」


 それまで沈んでいた空気がパッと明るくなる。


キスは最大の光魔法です。


・・・


 さて、善は急げと、キャメルさん一家を連れてまずは役所へと向かう。


・・・


 彼ら親子が魔力の検査をしている間・・・


「・・・。

 そんな訳で、少し手助けをしてあげたいんです。

 ちょうど掘り出した石材や鋼材を錬金・精製してくれる人が居ると助かりますし、今仕事の依頼を出して、キャメルさん達に受けて貰っても大丈夫ですか?」


役所の人にそう聞いてみた。

過去の国内事情から、インサイダーとか、談合とか、そう言った不穏な言葉が浮かんでしまったのだ。


「ええ、もちろん。でもさすが賢者さんね、わざわざ届け出てくれるなんて。直接仕事を頼まれても、別に悪い訳じゃないんですよ。」


「えっ? そうなんですか?

 まだ慣れないものですから。」


そう言って私は少し苦笑する。


それはそうか。

あちらでもバイトの募集なんかは企業ごとにやっていたのだ。

全てが職安を通すなどという事はないのだし。


「でも、やっぱりここを経由してもらうと、国内でどんな仕事がどれだけ需要があり、またそれがこなせているかも分かるので、助かります。」


 仕事の依頼用紙をもらって、内容と金額を記入するところでペンが止まる。

ドッドさんの話だと一人当たりの日当が大体銀貨2枚。

・・・この位でどうかな・・・。


「はい、ちょっと贔屓してるかなとは思いますけど、相場の範囲内ですよ。」


受付の彼女はそう言ってハンコを押してくれた。


 間もなく検査を終えたキャメルさん一家が現れ、その場で依頼の契約をしてもらう。


「会ってそうそう仕事まで、ありがとうございます。」

「いえいえ、ちょうど人手が欲しかったので渡りに船なんです。」


「でも、この・・・子供でも大人の半分で・・・って・・・うちの子はまだこんなに小さいんですけど・・・。」


「子供にも出来る事って、意外とたくさんあるんです。

 心配しなくても、バンバン働いてもらいますよ!」


 そういって、ペロッと舌を出す光。

こういったたった一つの所作がどれだけ相手の心の枷を取り除くのだろう。


「それじゃ、宿までご案内します。」


 丁度この前、響が診てあげたおばあさんが宿屋をやっていたはずだ。

ぎっくり腰が治って、また仕事が出来ると嬉しそうに煮物を持ってお礼に来てくれたのだ。


 玄関をくぐると、エプロン姿のそのおばあさんはすぐに相好を崩して『若先生の紹介ならタダですよ。もちろん。』

等と言ってくれる。


 もちろんそんな好意に甘えるわけにはいかないので、がんばって交渉してなんとか折り合ったところが、1日に銀貨1枚。食事付きで・・・。

 相場のだいたい3分の1の値段だった。


・・・キャメルさん一家と別れ、光と家路を歩く。


「魔物との戦いがあるとはいえ、なんだかとってもスローライフだね。」

「ホント。

 ・・・

 ねぇ、広斗。

 どんな温泉にしよっか?

 やっぱり露天風呂は欠かせないけど・・・形とか。

 あと、シュワシュワするのもいいよね、あれ好きだったな。」


「露天風呂は竹垣で囲ってあるのが好きだったな~。

 あまりあちこち旅行に行った事はなかったけど、割と狭くて長く延びた露天風呂が気兼ねなく入れて良かった記憶がある。

 ただ広いだけだと、ざわざわして、のんびりした気分に浸れなかったかも。

 泡ぶろは魔法で簡単に作れそうだし、あのすぐ奥にイイ感じの山もある。

 どんな泉質の温泉が出るか楽しみだね。」


「出るまで結構かかったりして~~。

 日本にいるときは、掘っても掘っても出ないとか、そう言うところ結構あったっぽいよね。」


「アハハ。

 そしたらその分鋼材が掘れるし、キャメルさんたちの給料にもなるし、逆に悪くないかも。10㎞位掘るか!(笑)」


「ぷぷっ、20㎞掘ったときの熱湯凄かったね、200度位あったんじゃない?」


 そうだ、あの一番深く掘ったときはいろいろな経験が出来た。

あの圧力、あの温度、そして豊富な鉱物資源。


 あの泉の森を離れてまだたったの一月。

だけど、こうして話が出るたびに懐かしく思えてしまう。

そんな不思議な場所だった。


「・・・あとで、・・・一度戻ってみたいね。古い我が家。」


「いいよ、いこ。・・・懐かしい。」


 今こうして、のんびりと昔を思い出すと、なんだかとても照れてしまう。光と二人、寂しいとか辛いとかより、ただただ嬉しいばかりだった、あの頃。


 片思いなのだろうとずっと悩んでいた。


 愛されていた、と知った時どれだけ嬉しかっただろう。

この幸せを決して失いたくはないものだ。

 


  ◇ ◇ 温泉を掘ろう ◇ ◇


 次の日、家の前で待ち合わせをして、目的地の丘へと向かう。

同じ年ごろという事もあり、ピクニック気分とでもいうのか子供達も楽しそうにはしゃいでいる。

 幸い、街の周囲、見渡す限りには魔物がいない。

そんな魔物払いの役目もしてくれているもう一人の可愛い娘の首筋を軽く撫でてやると、『クルルクルル』と喉を鳴らす。


 街の入り口から北へ500m程離れると、そこからなだらかな丘が広がり、さらに数キロ奥には立派な山並みが連なっている。

 皇子殿下は北方の魔物討伐から戻られた、と言っていたからあの辺にも強い魔物が湧くポイントがあるのだろうか。


「この辺りでいいかな。」

「そうね。ここを掘って、建物はこっちに建てて・・・。」


 そう、光と二人で算段をする。


「それじゃ、俺が掘っていきますので、光と三人で後の処理をお願いします。精製は後でゆっくりやりますし、まずは適度に流して山にしておいてください。結構な量になりますから。

 今日一日で縦に1㎞程、良さそうな鉱脈があったらそこも少し掘ります。決して無理はしないよう、マイペースで手伝ってくださいね。


 響と雅は、いつものように精製して1㎏位の塊にしてな。ゆっくりでいいから。

 エイブル君と、マイアちゃんはその塊をこの魔法鞄に入れて行って。

 興味があったら金魔法使ってみてもいいよ。

 魔力の練り方はさっきやった感じでね。」


「 「 はーい 」 」


「1㎞・・・。」

「あの・・・ずっと一人で掘られるんですか?」


キャメル夫妻が驚くのも無理はない。

ただの縦穴だと、10人がかりでも1㎞は難しい。

溶かした岩より、それを上へ押し流すことの方が大変なのだから。


「えぇ。私たち結構穴掘りが得意になっちゃいまして。

 特にうちの旦那はもうモグラより早いですよ!

 だから、無理に合わせないでくださいね。

 バテちゃいますから。」


 すかさずフォローに入る光。

ここでモグラの真似でもしてやろうか。

・・・いや、モグラってどう鳴くんだろう・・・(笑)


「じゃ、行ってきます!」


  ◇ ◇ ◇ ◇


 広斗はそう言うと大きく手を広げて、足元の地面を溶かしながら潜っていった。

正確には溶かしているのではなく、土魔法、金魔法で流体にしているのだが。


 穴の手前はみるみる液化した土、岩、鉱石が入り混じりあって溜まっていく。それを光が真っすぐ後ろへと流して山にする。キャメル夫妻もそれを手伝うのだが、あまりの物量とその速さに驚き、これは大変だと気合を入れ直した。


「あ。もっとのんびりゆっくりやってください。

 これ、慣れないと大変だから。」


「えっ? ・・・ は、はい。」


 そして子供たちは、その山を少しずつ切り崩しては錬成して石材と鋼材に分けて更に精製して塊にしていく。


 キャメル夫妻の子供たちも、幼いながら魔法の手ほどきを受けていたらしく、それに加えて、今日目の前にいる子供たちから習った魔法の練り方で少しずつ錬成をしてみるのだが、かつて両親から教わった時とはまるで違う手ごたえにとても楽しそうに手伝っていた。


 この子たちは響や雅同様まだ幼く、また、それほど熱心に魔法に取り組んでこなかったのが逆に幸いしていた。二人とも、火、金の2つの属性を持っていたのだが、火属性は消失しかかっていた。

 あと少し金魔法の練習を続けていたら、消失していただろう。

 

・・・そうして掘ること3時間ほど・・・。


(広斗、キャメルご夫妻ちょっと疲れて来たみたい。

 休憩しよっか?)


(了解。いったん上がるね。

 結構ゆっくり掘ってたんだけどな。早かった?)


(ううん。彼女たち頑張り過ぎちゃって。

 広斗は悪くないって。)


「みなさん、お茶にしましょうか?」


「は、・・・はい。」


「父さん、僕なんだかすごく魔法が上達した気がする。」

「うん、わたしも。」


「おう、そうかそうか、そう言えばコツを習ってたな。

 だが、無理するなよ。魔力を使い切ると立てなくなるぞ。」


「うん。大丈夫、もうほとんど使い切った。

 これからは、片付けだけすることにする。」


「キャメルさんも、シュナさんもお疲れでしょ?

 昨日、大変なご苦労でこの国まで来たのに。

 本当にゆっくりでいいですから。

 貯めておいて後で処理することもできますしね。」


「は、・・・はい。

 それにしても、なんというか、桁違いの速さで。

 採掘士10人で掘ってもこんなに早くはないです。」


「私と旦那は7年間地面ばかり掘ってましたから、本当に慣れてるんです。」


「あの・・・流されてきたと聞きましたが。」


「そうなんです。気づいたらあの山の森の中に倒れていて。

 周りはとんでもなく強い魔物ばかりだし。

 それでしかたなく、7年間ほど引きこもってました。」


「あの山は、この国では聖なる場所、なんですよね?」


「あら? エレンシーではそうではなかったんですか?」


「ええ。あちらではそう言った精神的なものはありませんでしたから。」


「ただいまー。」


「お疲れさま、広斗。」


「すいません、お先に休んじゃってます。」


「どうぞどうぞ。」


「今、500mくらい?」


「うん。そんなもんかな。少し手前にいい鉱脈を見つけたから、一服したらちょっとそこ掘ってから下に行くね。」


「今、500mって言いましたけど、そんな深さからお一人で上げられるなんて・・・。」


「偶然にも5属性が使えちゃったりするんですよ。私たち。

 だから、かなりお得に仕事が出来るんです。」


 そう言って、力こぶを作る真似をする光。

腕力こそないが、魔力なら大概に桁外れだ。


「5属性全て?!

 エレンシーにいた頃、5属性全てを扱えるのは、こちらの大賢者様だけだと聞いてました!もちろんそんな人は他に誰も知りません!」


「そうだったみたいです。なので、かなり珍しがられちゃって。

 普通なんですよ。普通。

 ただ、流れ着いた先が、あの山だったというのも何か関係しているのかも、とか言われました。」


 ・・・


 しばしの休憩をはさみ、再度潜る。

今日中には掘り切って、明日からは風呂と建物を作り始めたい。


・・・いや、急ぐ必要はないのだけれど。

作り始めると早く入りたいという衝動が強くなってくる。


午前中は途中で当たった鉱脈の方を掘っては上げ、

午後からは、下へ下へと掘り進みながら、今度は掘った石を鉱脈洞の方に流して埋め戻した。


 二人で話していた通り、1㎞手前くらいから硫黄泉の温泉が湧きだし、やがて十分な湯量を確認したところで、光から念話が届いた。



(フェニーが魔物が来るって言ってる。)



  ◇ ◇ 飛来する災厄 ◇ ◇


(ママ、魔物が飛んでくる。20匹。)

(あら、珍しいね。フェニーがいるのに寄って来るって。

 つよそう?)


(ううん。そうでもない。私ちょっと行ってやっつけて来るね。)

(うん。無理しないでね。)


 フェニーはいつもの大きさになると、北の山へ向け飛び立っていった。

まだ私の目には鳥の群れのようにしか見えない、遠くの黒い点。

魔力もまだ感じることができない距離だ。

どうやらあの子の方がずっと感度がいいみたい。


 そんな風に思いながら、フェニーの飛び立っていった先を見つめていると、街の方からぞろぞろと完全武装した皇国兵達が出てきた。


先頭を歩くのはこの国の皇子殿下、その後ろにはアルさんもいる。

出てきた兵士は100名を超える数に上った。


「魔物の群れを感知した。S3クラス以上が20体。

 少し手を貸してくれるか?」


「はい、殿下。

 あの、少しよろしいですか?」


「うむ?」


「今ほどその魔物を感じて、ウチのフェニックスが飛び立っていきました。任せてくれと言っていましたけど、よろしいですか?」


「なに?

 援護もなしに20対1で大丈夫なのか?」


「えぇ。私に良いところを見せたいんだと思います。」


「うむ。ではしばらく様子を見守るとしようか。」


・・・


 通常、魔物は群れを作らない。

集団になる場合は必ず、統率能力を持つ魔物がいる場合に限られた。

いくら魔力が強くても、それは支配へとは繋がらない。

そこが人と魔物との大きな違いだった。


眼前の20体は果たして群れと呼ぶのかそうでないのか、

いずれにせよ少しランクの高い個体が率いているのだろう、ここにいる誰もがそう思っていた。


 フェニックスは、豹のような頭部を持つその鳥の群れを射程にとらえると、口から魔力弾を連射し、先頭を飛ぶ3体を立て続けに撃ち落とす。


 その直後、群れの方からも一発の魔力弾が飛んできたが、それさえ事も無げに撃ち落とすその姿は周りからしたら格の違いを感じただろう。


 彼女はただ悠然と魔力弾を連射しつつ魔物の群れに近づき、接触するまでにはボス1体を残すまでに撃ち減らしていた。

 

「一方的だな。強い。」

「左様ですね。対空戦闘は敵の強さにかかわらずタフな戦いになる事が多いですから、彼女がいてくれるのはありがたいと思います。」


「あれは雌なのか?アル。」

「はい殿下。どうやら彼女自身がそう認識しているようです。」



「・・・終わったな。」

「そのようです。」


 遠目に見ていた誰もがそう思った。

 そしてそれは、今まさにボスを倒し、落ち行く魔石を口にくわえたフェニックス自身もそう認識していた。


 その彼女へ向け、突如遥か上空から降ってきた魔力弾。

それはフェニックスの右翼をかすめ、焼いた。


(フェニー!!)


(ゴメン、油断した。ずっと上に何かいた。

 気付かなかった! 結構強い。)


 やがて、魔力弾を連続して吐き出しながら、急降下してきたそれは、鳥型の魔物というより、大きなコウモリの魔物とでもいうべき異様で、10mはあるフェニックスの二回りほども大きく、頭部はまるで魔人のような人型で四肢も立派なほどに禍々しい。日本であれば、『悪魔』そういう呼称が最も適していただろう。


 フェニックスは焼かれた翼を修復し、何とか追撃をかわして、光たちの待つ方へと戻ってくる。

 コウモリ魔人はそのフェニックスへ向け、また地上で待つロンディアナ兵に向け複数の魔力弾を放った。


「よくもフェニーを!」


光はすでに用意していた槍を両手に持ち、その魔力弾に向けて打ち出す。


それとほぼ同時に、すぐ近くからも複数の物体が射出された。


(フェニー、大丈夫か?)

(パパ! ゴメン、油断した。)

(戻れるか?)

(うん。)

(イイ子だ。あとは任せろ。パパがやっつけてやる。)


 光の射出した2本の槍は魔力弾を弾き、それは周囲に拡散する。

広斗の射出した2本の槍は、コウモリ魔人の右翼に大きな穴を穿った。


「ぶっ殺す!!」


「広斗っ!」


「悪い、遅れた。あのクソ悪魔、打ち落とすぞ!」

「うん!」


 広斗はそう喋りながらも、槍を連続で射出し続けている。

距離にしてほぼ1㎞ほどにまで迫ったコウモリ魔人。

この近距離でマッハ5程もある速度で迫り来る槍を躱すことは、ましてやその巨体であれば不可能だった。


次々に翼に穿たれる穴。

だが、それも瞬く間にふさがる。


「なるほど、大した回復力だな。

 だが。」


 そして、魔力弾を撃とうと口を大きく開けたところで、何故か突然バランスを崩したかのように羽をたたみバタつかせ始める。


「死にさらせ! コウモリ野郎!」


 広斗がそう叫ぶと、彼の手から稲妻が走り、まっすぐコウモリ魔人の方へと向かっていく。

 そして、光が弾けた。


 高電圧に焼かれ、槍に繋がったピアノ線に絡み取られたソレは飛ぶことも出来ず、抗いも出来ず、耐え切れずに地表へ向け落下していく。


「しぶといな。さすが魔人というべきか。」


 静かにそう言うと、新たな槍をソレに向けて射出し、正確にその頭部と胸部を貫いた。


 コウモリ魔人が魔石に変わり落下していく。


 その戦闘の様子をただ黙って見守っていた皇子以下ロンディアナ兵たちだったが、敵が敗北し、魔石に還ったのを見てとると一斉に歓声を上げた。


 フェニックスが少しふらつきながら、静かに光と広斗の元に戻ってくる。


(だいじょうぶか? フェニー。)

(うん。へーき。もうほとんど治した。)

(回復魔法、いるか?)

(私、魔法じゃ治らない。)

(魔力、いるか?)

(ううん、大丈夫。)


 いつものように小型化したフェニックスをよしよしと撫でる広斗と光を一同は歓声を上げて称えていた。


・・・


「見事なものだな。広斗君。」

「すみません。せっかく皆さんが出て来てくれたのに。

 娘を虐められてキレてしまいました。」


「アナタたちには、驚かされてばかりね。

 あの魔法、何かしら。」


「アイシス様。後でご説明しますね。

 この世界の魔法文化と、私達がいた世界の物理や化学について。

 それでこの国はずっと強くなると思います。」


「よろしく。時間は取るわ。」


「それより、たった今温泉が出たところなんです。

 みんなで大きなお風呂を作って、入りませんか?」


「おんせん? それはお湯とどう違うのかしら?」

「はい。とても気持ちが良くて、体が温まるお湯なんです。

 ちょっと・・・臭いですけど。」


お立ち寄り頂きありがとうございます。

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