可愛い我が子
皇帝陛下との謁見を終え、しばしの休息を。
そんななかで、かわいい我が子について考える広斗と光。
◇ ◇ 可愛い我が子 ◇ ◇
陛下への謁見を果たし、家に戻った私たちは、気疲れしたこともあってひとまずお茶にすることにした。
そろそろお昼の時間だが、イイ匂いが漂っているので子供たちが何か作ってくれているのだろう。
「疲れちゃったね。」
そう言いながらお茶を入れてくれる光。
「うん。まさかこの国で一番偉い人に呼ばれるとは。
しかし、あの強さには驚いたな。」
「分かる! 規格外ってああいう人たちの事を言うのね。」
(君の美しさも規格外。・・・なんて・・・)
(アナタの優しさも。・・・なんて。)
(こういうの、あの子たちに聞かれてたら・・・)
(教育上まずいね・・・。)
・・・
甘い甘い念話を交わし、
しばしの余韻を楽しむ。
気疲れした後の、このホッコリまったり気分・・・
これはまるで・・・
「ねぇ光。ちょっと思ったんだけど、温泉入りたくない?」
「あっ! いいねっ!
疲れた時は温泉、最高!
気分も体もリフレッシュ!」
「あはっ。やっぱりかなり気疲れしてたんだ。・・・俺もだけど。
で、さ。この国って温泉無いよね?」
「あっ! それねっ! やっちゃおっか。」
「午後いちで役所へ行ってちょっと聞いてみよ。」
「うんうん、賛成!
掘るついでに出てる案件があったら片づけられるね。」
「うん。鋼材、貴金属材は大抵いつでも依頼が出てるしね。
ただ、あんまりむやみやたらと持ち込むと、値崩れの心配とかあるのかなぁ・・・?
1㎞位掘ると、結構いい量の鋼材が出るし。」
「どうだろ? その辺って大抵国や貴族の人たちがやってるみたいだし、最近は魔物にも手を割かれてるっぽいし・・・。案外、丁度良いんじゃないかな。」
「ま、その辺も聞いてみようか。」
・・・と、そんな話をしていると・・・
「パパー、ママー、ご飯できたよー!」
「 「 ハーイ、ありがとー 」 」
「ウチの子たちも成長したね!
5歳と6歳でお昼を作る子なんて普通はいませんよ!?奥様?」
「へへっ かわいいネ。アナタ。
子供がこんなに可愛いものだなんてあの頃は考えもしなかった。」
あの頃・・・かぁ、そうだなぁ・・・まさかこうなるとは思ってなかったな。
・・・と向かいに座る妻を見て高校生時代を思い出す。
流されたときの制服は大事にとってある。
それを今の光と重ね合わせ・・・
・・・なんだか照れてしまった。
「きょうは~、たまごやきと~、やきとりで~す!」
「まぁ、おいしそう! 雅が作ったの?」
「うん。わたしがたまごやき~、やきとりはおにいちゃん!」
「両方、今朝ご近所様から貰ったんだ。
僕たちへのお礼だって。」
「まぁ、今度は何をしてあげたの?」
「うん。今日の人は少し前に麻痺を治してあげたんだ。回復魔法士もなかなか手が足りないらしくて。」
「二人とも、もう立派なお医者さんね。」
「えっへん!」
この子たちが学校へ通い始めると、いろいろな相談をされるようになったらしい。(ちなみに今日は休みらしいのだが)
『賢者』という職種の事は既に知れ渡っているらしく、最も多い相談が『病気の治療』についてのようだった。
水魔法だけだとなかなか見つけづらい病気の原因も5属性全てが使えるウチの子供達なら、注意深く診ることで大抵はその原因を特定できたようだし、治療もうまくいっているようだ。
そう言った我が子の活躍ぶりを初めて知ることになったのは、街の人がお礼を手に訪ねて来た時だった。
『これを若先生に渡してください。どうもありがとうございました。』
農作業をしていた私と光は、頭に『?』を浮かべつつも、子供たちに聞けばわかるだろうとその場では返事を返しておき、帰ってきた我が子に聞くと・・・、
『友達のお爺ちゃんが死にそうだっていうから診てあげたんだ。そしたら、どこかに何か悪いものが固まってて。それに、痛がってるところは傷ついていたし。
けど、うまくそれを溶かして、押し流して、傷はちゃんとふさいで治してあげられたよ。』
というのだった。
『この年で医療行為は危険すぎるだろ?』
とも思ったのだが、何分ここは魔法世界。
年や知識は関係ないのかもしれない。
病んでいる場所と原因と対処法さえわかれば。
「ところでパパ、なんで普通の回復魔法じゃ病気は治らないの?」
「なんでだろうね、宿題にしよっか?」
「はーい、じゃ、明日までに考える。」
「おにいちゃん、びょうきは、わるいところがあるから、かいふくしないんだよ。わるいところをとらないと。いつもやってるじゃない。」
「だって、響。雅の意見、どう思うかな~~?」
まるでいじめっ子のような目で息子を見る光。
響はおそらく、どうしてその悪いところが回復魔法でも治らないのか、と聞きたかったのだろう。
例えばガン、あるいは細胞変異による障害、ウィルス、細菌感染、こういったもは原因を取り除く必要があった。回復はあくまでも回復でしかないのだ。
「・・・う~ん・・・。なるほど。雅は僕より頭いいな。」
「ごめん、おにいちゃん。わたしほら、いっつもおにいちゃんのをそばでみてるだけだから、なんとなくそうおもっただけ・・・。」
そうしょげてしまう雅の頭をごしごしと撫でつける響。
「お前はイイ子だな。」
「えへへ・・・」
何という可愛らしさ。
これが子供というものか!
この2週間ほどはひっきりなしに、街の人がお礼を手に訪ねて来てくれていた。
その理由が今分かった気がする。
天使の子はやはり天使。
ウチは天使の家系だったのだ。
・・・そんな訳もあって、この子たちはとても張り切っている。
人に感謝される『快感』に早くも目覚めてしまったようだ。
そしてそのやる気が、今はなんと家事にまで向いている。
「うん! 卵焼きも、焼き鳥もうまい!」
「ほんと! 二人とも、よくできました!」
「 「 えへへ。 」 」
「で、パパ、ママ。」
「うん?」
「その・・・今まで黙っててゴメン。」
「・・・どうした?」
「二人の念話全部聞こえてる。」
光と顔を見合わす。
(マジで?)
(本当かしら?)
(きこえてる。)
(だって親子だから。)
・・・。 ・・・。
「すまん、パパたちが迂闊だった。」
どうやら、これまでの念話によるイチャイチャは全部聞かれていたようだ。
おかしいと思ったんだよ。
『パパたちがいちゃつくのはいつもの事』って言った響。
私達はこの子たちの前でそんなにイチャイチャなんてしていない・・・はず。
はぁ・・・これがよくない影響を与えねばいいのだが。
なんとなく身の置き場が無くなった私は、話題を作ることにした。
「午後も、パパとママちょっと役所まで行って来るけど二人ともお留守番よろしくな。」
「うん。わかったー。ミーコとフェニーとあそんでるー。」
おお、さっきまでの事は何処へやら・・・いい子だなホントに。
「午後からも一度は外に連れてってあげてね。」
「 「 はーい! 」 」
この国は結界に囲まれていて魔物からは見つからない、見つかりにくい。
だからフェニーもずっとこの街の中にいると周りに(主に魔物に)気付かれないのだ。
せっかくこの子のおかげで、付近に魔物が寄り付かなくなったのだからと、毎日朝晩外に連れ出しては飛び回って帰って来ることを日課にしていた。
それだけで、この国の周囲は随分安全になる。
◇ ◇ お役所の仕事 ◇ ◇
「すみませーん。」
「はいはい・・・。
・・・あら、これは、若賢者さん。
ご夫婦で、どうしました?」
「はい、今日は少しお尋ねしたいことがありまして。
街の外の少し向こうに、小高い丘がありますよね?
あの辺りって、適当に掘ったりしても大丈夫ですか?」
「掘る・・・採掘ですか?
別に構いませんけど、裏手の奥にある山のほうが良い場所ですよ。
皆さんそこへ行きますし。」
「いえ、本格的な採掘ではないので。
それで、取れたものはここへ持ち込んでもいいですか?
自分たちで使う分は十分持っていますし、ここに依頼が来ていればと。」
「ええ。それはもう、鉱石全般はいつでも依頼が出ているので歓迎です。特に最近は魔物討伐が多いでしょう?国が動けないと人手がかかる仕事は滞り気味で。」
「そうですか、良かった。
それで、いつも街の人からは頂いてばかり、お世話になっているので報酬はいらないのですけど、かまいませんか?」
「まぁ。それは勿論ですけれど、そうすると貴族様方のように国庫へ入れるという事でいいですか?上がっている依頼の報酬をただにはできませんので、国庫に入れさせてもらって、国の仕事の時に使います。」
「ええ、それじゃそれでおねがいします。
それから、その穴を掘ったあたりに、建物を建てたりしたらまずいですか?」
「採掘の後に建物を・・・? 管理小屋でも作るんですか?」
「いえ、実は大きなお風呂を造ろうかと思いまして。」
「採掘で出たお湯を貯めてお風呂にするのですね?
でも、フェニックスちゃんのおかげで寄り付かなくなったとはいえ、街の外は魔物が来るかも知れませんよ?」
「ええ。その点はこの街のように結界というか、そう言うのを張ろうかなって思いまして。」
「まぁ! さすがは若くても賢者さまね!
結界が張れるなんて驚きです!
街の外は特に誰のものでもないですし、この国に影響がない限り好きな事をしていい決まりになってます。
街の外にある大きなお風呂屋さんなんて、とっても素敵です。
出来上がったらみんなで入りに行かせてくださいね。」
と、どうやら何も問題はないらしい。
しかしそれにしても、今まで大賢者様しかいなかったとはいえ、ずいぶんな褒められように戸惑ってしまう。
・・・
さて、こんな具合で役所では個人的な小さい仕事から、国への要望まで幅広く受け付けていて、手が空いている人はそれを受けることも可能なのだが、すべての国民が職に就くことを義務付けされているので、片手間に依頼をこなしてまで稼ぎたいという人は少なく、多くの依頼は貴族達や国が請け負うのが普通のようだった。
国が請け負う・・・それはつまり手の空いている各部隊だ。
その各部隊、守備隊、遊撃隊、偵察隊と大きく3部隊に別れていて、あちらの感覚で言う軍隊とはちょっと毛色が違い・・・日本の自衛隊に近いのかもしれない。なにせ、国家的な取り組みは大抵この各部隊が行っているのだから。
◇ ◇ ◇ ◇
国交、貿易。
私達のいた地球では、それは経済のため、発展のため、あるいは欲望のためになくてはならないものだった。
しかし、この世界では魔物に対することが最優先で、なかなかそう言ったところまで意識が行かなかったのだろう。
故に、国家的な国交、貿易はないと陛下は断言していた。
ただ、それはあくまで国家間の、という事らしい。
この国に来て約一月。
それなりに多くの人が隣の町からやってくる。
そして勿論、この国の入国管理の事は他国にも伝わっているようで、街に来たけど入れない、というようなことはほとんど見かけなかった。
検査紙が黒くなったら旅行者でも追い返されるのかな・・・?
なんだかそれも可哀そうだと思いつつ、陛下の言った『騙される』という言葉が重くのしかかる。
西にある自由主義国家のエレンシー。
北東の山(黄竜様の山だ)を迂回したところにある、フォレスターク。
来訪者の多くがそれらの国からで、どうも『骨休めの観光旅行』のような体で来ていたのだ。
たしかに、魔動車の移動についてこられる魔物はほとんどいないし、そもそも街道沿いにそんな魔物ははびこらせない。
だからといって、危険が無いとはとても言えないし、日々の生活でも大なり小なり毎日のように魔物との戦いが起こっている。
そんな中、のんびりと旅行に来る人たちの気持ちを思うと、不思議がらずにはいられなかった。
だが、本当に強力な魔物の来襲はある程度一定の周期があるというし、気が抜けるときには抜いておきたい、それも明日への活力なのだろう。などと勝手に納得していた。
◇ ◇ 旅人来る ◇ ◇
役所から帰り、家族4人で午後ティーを楽しんでいると、今日も隣国からのお客様がやってきた。
ウチと同じく人家族4人。年の頃も子供達を含め私達と似た様なものだった。
にわかに湧く親近感。
「こんにちは。ようこそロンディアナへ。」
(・・・うーんまるでNPCのよう。)
「こんにちは。
えーっと・・・いきなりで不躾ですが、宿屋さんを紹介してもらってもいいですか?」
「ええ、いいですよ。お部屋や食事の希望などはありますか?」
「・・・出来るだけ安いところがいいんですが・・・。」
何やら訳ありげだ。
顔つきもよろしくない。
何かあったんだろうか・・・?
お越しいただきありがとうございました。