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騎士の帰還

索敵と討伐に出ていたアルケインさんたちが帰ってきた。


  ◇ ◇ 帰還 ◇ ◇


 さらに二日後、無事アルケインさんの一行が帰ってきた。


「 「 アルケインさん、お帰りなさーい。 」 」


「あぁ。ただいま。

 ずいぶん手間取ってしまったよ。

 でも、これのおかげで助かった。」


そう言って、左に下げている剣を指す。


「アルケインさんでも苦労するほどの敵だったんですね。」

「うん。後で詳しく話そう。

 まずは報告に行って来るよ。」


 そう言ってお城の方へと歩いていく、彼とその一団には戦いの疲労が如実に表れていた。


 しかし・・・彼ほどの人が一団35名を従え、おそらくその中にはエンチャンターもいるだろうにどれほどの敵だったのか。


 そんな疑問を抱いていると、また別の一団が通りかかる。


話を聞くと、2日前に狩人達が言っていた、エレンシーとの街道沿いの偵察との事だった。

 さっそく、作ったお守りを渡しておく。


「ありがとう、それじゃ行って来る。」


「 「 気を付けて 」 」


・・・

   ・・・そして日は暮れ。


 剣のお礼がしたいと、夕食の招待を受けた。

場所はまた、街中にある気軽な食事処だ。


「 「 おつかれさま。 」 」


「 「 ありがとう。 」 」


「遠征帰りで、お疲れだったでしょうに、良かったんですか?」

「ああ。なに、帰ってくれば魔力の補給も出来るし、妻もいるしな。」


そう言って微笑む。


・・・


 私と光はこの国に来てからずっと、近所の人たちに本を借りて読み漁り、それなりにこの世界の理解を深めてきた。そういった事と、私たちの元いた世界の事と織り交ぜながら、たわいない話で盛り上がりる。

子供たちもすっかり打ち解けて、まるで幼馴染のようだ。


 私達の話の中で、アルさん達が一番驚いたのは、あちらの税制についてだった。


・・・


「そういうシステムだと、配分する側がよほどしっかりした国のヴィジョンを持っていないといけないね。」


 そう!おっしゃる通りです。

それが原因で私たちの国は多かれ少なかれ問題を抱えていましたとも!

 だけど、あちらでは全世界的にそれがメジャーだったんです。

というか、こちらのシステムだとものすごく慈善事業的な政治体系のように感じるのですけれど・・・。

それで機能しているのがとても不思議です。


・・・などとも言えず、こちらの分かり易い国の在り方と、貴族たちの志の高さを褒めるに留めた。


・・・


「それはそうと、だいぶこちらにも慣れたようだね。

 何か困った事はあったかい?」

「困った事と言えば、良くしてもらいすぎて困っています。

 皆さん大変なはずなのに。」


「それはそうだろうね、何せ君たちのようなお客様は初めてだから。

 街の人も話してみたくて仕方がないんじゃないかな?」


 ニーナさんの話だと、漂流者はそれなりにいるという話だったはず。ということは、私達がかなりレアものだったという事なのだろうか?

 ジョブが賢者と判断されたから?

 小さな子供が一緒の家族連れだったから?

 それとも、ニーナさんに渡された検査紙の色がレアだったとか?


まぁ、なんにせよ、好意的に見てくれているという事はとても嬉しい。おかげで毎日誰かに構ってもらえているのだから。


「良くしてもらった分だけでも、お返ししないといけないですね。」


「いや、逆だろう。街の人が良くしてもらったと感じるから、君たちを歓迎してるんだと思うよ?

 私だって、広斗から剣に強化付与をしてもらっただろう?

 あれは、本当に助かった。

 アレが無きゃ、ヤツの討伐に最低でもあと3日はかかったはずだ。」


「あっ!それ言おうと思ってました。

 この国はもう少し物理科学を推し進めるととても強くなります。」


「男の人ってこういう話がホント好きよね?」

「アハハ、私も結構好きなもので、へへ・・」

「うちの妻は私のはるか上を行きますからね!」


「まぁ、そうなんですか?」

「全然全然、そんなことないですよ、なんとなく思いついた小物魔法があるって言うだけで!広斗なんてそれはもう、あれです。彼の魔法が無きゃ私たちは今ここに生きてはいません!」


「まぁ。(ウフフ)

 これ、どうしましょう、アル。」

「アハハ。

 子供たち前でもこれだけ堂々とイチャつけるのは見習うべきかな。」


「 「 あ・・・アハハハ・・・。」 」


さすがにちょっとだけ恥ずかしくなった。

そんなにデレデレしてるつもりはなかったのだが。


「ところで、この国はとても魔法文明が進んでいると思いますけど、漂流者が元の世界に帰るとか、元の世界を特定するとか、そう言う事は出来るんですか?」


「やはり、元の世界へ戻りたいかい?」


そう問われて、光と顔を見合わせる・・・。


「実はそれほどでもないんです。一家4人で暮らせれば。」


そう、あちらの両親、妹、友達には悪いが、光とこの子たちがいてくれるだけで私は至高の幸せを得ている。


「私もです。ここはとてもいい人たちばかりですし。

 ただ、あっちに残してきた親たちは心配してるだろうなって。」


「戻りたい、戻ってみたいというのは自然なことだと思うよ。

 ただ、この国の研究では、次元は無数にあると考えられている。

 そのなかで、特定の誰かの次元を探すことは、出来ないだろうな。

 残念だけど・・・。」


「そう・・・ですよね。」


 なんとなく、しんみりとしてしまった。

注がれている酒を一息に飲んで、話題を変える。


「それにしても、今回の魔物、アルさんが苦労するってどのくらいのランクの敵だったんですか?」

「うん。予想した通り、S3程度の強さだったよ。

 ただ、覚醒された。」


 覚醒・・・上位種へのクラスチェンジか。


「S3の魔物が覚醒するとどれくらいになるんです?」

「鑑定してもらったところS4だったそうだ。戦力に余裕を持っておいてよかったよ。初めは12人で行こうかと思っていたんだ。最近は魔物も活発で戦力もあちこち出払ってるからね。」


「強化魔法士も5属性いらしたんですよね?」

「あぁ、もちろんだ。よほど人繰りが厳しくても5属性魔法士を揃えないという事はないさ。」


 失礼に当たりそうなので、彼の力を推し量りもしないし、カードも見せて貰っていない。だが、彼はこの国に来てから一番強そうに感じる。もちろん私達よりも。それでさらに5属性の強化が掛かっていてなおも苦労する相手、それがS4ランク?

どうも腑に落ちない。それでは、10年前現れた魔物など誰がどうあがいても太刀打ちできないように思えるのだが。


「そんなに強い敵でもS4ランクという事は、10年前の敵は・・・・」

「あぁ。耳が早いね。10年前の魔物は結局S11という事になった。

 それまでの最上位S10を塗り替えたわけだ。そして同時に未確認のS12が追加された。」


「そんな敵を倒した、御父上はどれくらい強かったのでしょうか?」


「親父ひとりの手柄じゃないさ。ただ、刺し切れない最後の一線を親父が刺したというだけのことだ。

 ・・・。

 ・・・あぁ。そうか。

 大事なことを失念していたね。

 S5以上が想定される時は大賢者様が同行されるんだよ。」


大賢者様とはそれほど・・・?

今度は別の疑念が湧いてしまう。


「大賢者様ってそんなにお強い方なんですね。」

「おいおい。賢者である広斗たちだってそれに負けず劣らずなんだけどな。」


 その言葉にびっくりする。おおよそ私たちの自覚にない事だ。

そうあっけにとられていると、彼はそのまま一つの例を挙げる。


「さっき5属性強化の話をしたよね。

 例えば強化魔法に限ったとしても、5人の魔法士がそれぞれ掛ける5属性強化と、一人の魔法士が掛ける5属性強化では雲泥の差があるんだ。」


「それはどういう・・・・?」


「たとえば、肉体には当然限界があるから、強化にも限界がある。それを5属性でそれぞれ高めるんだが、5人で掛ける場合は一通りかけてそれで終わりだ。だけど、一人で掛ける場合は違う。強化を掛ける、限界が上がる、するとまた強化を掛ける余力が出来る、そのサイクルで別次元の強さになる。

 私も一度だけ大賢者様とご一緒したことがあったんだが、自分が鬼神にでもなったのかと錯覚したほどだ。

それから・・・残念なことに同じことを5人が分担して行う事は出来ない。なぜなら魔力がおのおの違うから肉体のバランスが保てない。

 凄く極端に言うと、10倍の膂力があっても、俊敏さが1倍とかひょっとしたら半分とかになったら使い物にならないだろう?」


 なるほど、それで納得できた。多属性を同時に使えるという事はそれほどに重要だったんだな。


「え~~っと、ちょっといいですか?」


 おっ!何か思いついたな!

この妻の目の輝きはきっとそうだ。


「うん。どうかした?」

「それじゃぁ、魔力を揃えれば上限は上がるんですよね?」


「それはそうだが、それをコントロールすることは至難だな。」

「そういう外套を作ってみたらどうでしょう?

 難しいですか?」


「魔力を調節する外套・・・そんなものが作れるのかな?」

「私そういうのに興味があるので、やってみますね。」


「なんだか研究者みたいね、光さん。」

「ハイ!私たちの元いた世界で、魔法って言うのはとっても魅力的なおとぎ話の中の力だったんです。だからもっともっと魔法を勉強したいなって。」


「凄いわ、光さん。

 アルももう少し気楽に構えたほうが良いんじゃない?

 最近特に追い立てられるように頑張りすぎてると思うの。」


「そうかな・・・

 アーニャがそう言うんだからそうなんだろうな。

 ・・・。

 ・・・うん、私もこの二人を見習おうか。

 楽しんで強くなれるように。」


  ◇ ◇ ◇ ◇


 店を出て帰ろうとすると、アルさんに『もう少し付き合えよ』と誘われてしまった。


 ひょっとして、夜の街・・・だろうか?

あちらにいた時はまだ高校生だったから、そういう世界になじみはないし、こちらの文化もまだよく分からない。

あちらとは違い、そういったことに寛容なお国柄だったりすると困るな・・・と一瞬戸惑ってしまう。


けれど、仮にそういう雰囲気なら正直に話して帰ろうと腹を決めて、彼についていく事にした。


「光、余り遅くならないようにするから。」

「うん。いいよ、たまにはゆっくりして来てね。」


 と、そういわれては後ろ髪を引かれるなんてもんじゃない。

出来るだけ早く帰る事にしようと心に誓う。


・・・


「それじゃ、あらためて!」

「カンパイ!」


「ところでさっきの話、あれはある部分は本当だが、すべてではないんだ。」

「さっきの話・・・ですか?」


「この国の人たちが君たちをとても大切にする、という話さ。不思議がっていただろう?」

「そうなんですよね。魔物との戦いでみんな楽ではないはずなのに。」


「ニーナから紙を渡されたろう?」


と、突然話が飛んだ。

やはりあの反応色が関係しているのだろうか・・・?


「ええ、害意があるかどうかを判断しているという紙片ですね、凄い魔法文明だなと思いました。」


「では、害意とは何だろう?」

「よこしまな心、敵意、そう言ったものでしょうか?」


「それを魔法で判断するのはとても困難だろうね、なにせ価値観の相違がある。」


 たしかに。あの紙片は私たちの、おそらく魔力に反応して発色したようだった。魔力の色で害意などというものが分かるものだろうか?

そもそも、害意のつもりでない害意だって存在するはずだし。


と、そんな風に考え込んでしまった私にアルさんは話を続ける。


「まぁ、アレを作ったのは大賢者様で、実は私も理屈がはっきり分からないのだけどね。

ただ、敵意や害意なんてものは自分の価値観を相手にどこまで押し付けるか、という事なんじゃないかな?

 極端な例が、気に入らなければ殺してしまえ、という考え方だし、

 一般的には、自分が得をする為なら相手が損をしてもいい、という考え方だろう。

 それ以外にも、ただの快楽で相手に嫌がらせをする、というのもある意味価値観の押し付けかな。」


「それをあの紙片の反応で見分けている・・・と。」


「まぁ、多分だけどね。

 というか、賢者である広斗たちが深くあれを調べれば分かると思うんだけどな。」

そう言って、軽く笑う。


「まぁ、それはそれとして。

 あの紙片は、他人をどれだけ侵略する兆候があるのか、

 いわゆる害意があるのか、それを目に見える形で示してくれる。

 で、一定以上黒くなるとこの国には入れない。

 漂流者でこの国に招かれる、という事はとても稀なことなんだよ。」


「なるほど。だからそんな稀な私達にとても良くしてくれる、

 それにこの国には、そもそも優しい人しかいない、

 そういう事なんですね。」


「う~ん、皆が優しいかって言われたら必ずしもそうじゃないんだが。

 さっきも言ったけど、他人への害意が無いという事は、他人に好意を持つという事ではないし。君たちが優しくされているのは、君たち自身が優しいからじゃないか?」


「・・・そんな風に言われると、照れますね。なんか。」


 彼は一瞬目線を上へ上げ、何かを逡巡する。

そして、注がれている酒を一息に飲むと・・・


「黄竜様の四聖獣」


突然そうつぶやいた。


「えっつ?」


「街の人たちの噂さ。

 『黄竜様の四聖獣が、山から下りてこられた。

  こりゃ大変なことだ。』

 ってね。」


「なんでしょう?その四聖獣というのは?」


「黄竜に仕える4匹の聖なる獣、

 玄武、朱雀、白虎、青龍のことさ。


 あの聖なる山から無事降りて来て、まったく害意が無い、それどころかイイ噂話でもちきりと来ている。

 しかも4人とも賢者だ。

 これでは、みんながただ事じゃないと考えるのも無理はないさ。」


「そんなに大したことをしたかなぁ・・・」


 むしろお昼に、夕食にとご馳走になってばかりだし、子供たちも街の人から何かしらをよく頂いてくる。


「人が喜ぶことをしておいて、その実感が無いんだからなぁ。

 まぁ、聖人様、聖獣様と言われてもしょうがないさ、諦めろ。」


そう言ってまた軽く微笑む。


ホントに、このアルさんはとんでもないイケメンだ。

こんな人があっちの世界にいたら、奪い合いで大変そうだな。


・・・それにしても。


黄竜様を守る四聖獣か。

やはりあの山で感じていた恐怖感、威圧感は複数から発せられていたのだな。


お越しいただきありがとうございました。

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