ハルミントン公爵の想い
のんびりする二人のところにやってきた人、
それは一週間ぶりのハルミントン公爵夫妻だった。
◇ ◇ ハルミントン公夫妻 ◇ ◇
どうせお守りを作るなら、綺麗なものにしようと水晶石を取り出して小さく分け、整形する。それにステンレスチェーンをつなげてペンダントに仕立てていった。
魔力を込めるのはまとめてできるから、数さえたくさん用意しておけばいい。
畑の横のテラスで、光と二人、のんびりとそんなことをしていると、向こうから見知った人が歩いてくる。ハルミントン公夫妻だ。
「ごきげんよう、お二人さん。」
「どうも、ごきげんよう、ハルミントンさん。」
二人ともなんだかとても上機嫌だ。
「見ていてくれたまえ。」
彼はそう言うと・・・集中し始める・・・
・・・
「来い、カテナ!!」
すると、その手に一本の細身の長剣が召喚された。
「おおぉぉ!やりましたね!!」
「おめでとうございます!!」
だが、彼はどっと汗をかき、椅子の一つにどっかりと腰を下ろす。
「さぁ。どうぞ、冷たいハーブティーです。」
すかさず光がお茶を振る舞う。
「これはありがたい。」
「それにしても、たった一週間でロングソードを召喚するとか凄いですね。
恐れ入りました。」
「あっはははは、釘から始めてな、妻と娘に手伝ってもらいようやくここまで来たんだ。だが、この様では戦えんな。」
そう言って、彼はまた『かっかっか』と大笑いする。
余程嬉しかったようだ。
それもそのはず、この質量をまさか一週間で召喚するとは。
ここへ来た時も感じたが、貴族たちの実力は本物だな。
光の入れたお茶をゆっくりと飲み干すと、彼は静かには足り始めた。
「これはな、贖罪でもあるんだよ。
私は頑張らねばならないんだ。」
その突然の告白に驚く。
「随分読書家だそうだから、ある程度は読んで知ったかもしれないが、今年あたり少しやっかいな魔物が湧く年回りになる。
5年前は割と楽だったが・・・
10年前の奴は国を挙げての死闘だった。
・・・
そして、・・・我々は一人の英雄を失った。」
「ええ、借りている本で読みました。凄い大戦だったとか。」
「うむ。おおよそ10年ごとに厳しい戦いになる。
それは分かっていた。
その時の奴もそれ以前に経験したことのある中でも相当強敵だった。
・・・私はまだまだ若かったが。先達が後からそう言っていた。
・・・
だが、本当に厳しくなったのは倒したと思ったその次の瞬間だった。」
「倒した直後・・・?」
「あぁ。
上位の魔物は極稀に死に際に上位種へと覚醒を遂げるものがある。
奴もそうだった。
そして、覚醒したやつはそれまでの力をを大きく上回っていた。
それでも、皇帝陛下以下皆の奮闘により、なんとか持ちこたえている、そんな状況が丸二日続いた。
戦えど戦えど、終わりが見えなかった。
・・・
そして、魔力補給に使う魔石の残数すら気になる程にな。
そんな、永遠にも思えた戦闘に終止符を打ったのが、ケイスネスだった。
己の身を犠牲にして・・・な。
・・・アルケインの父親だ。」
「アルケインさんのお父様・・・」
「うむ。それまでは、ただの武人だったケイスネスは、その功績によりケイスネス伯爵に序された。
もっとも、アルケインの奴は大して喜んではいなかったが。」
「そうだったんですか。それほどの死闘だったとは。」
「私はあの時、自分の非力さを痛感した。
若さなど言い訳にもならない。
この公爵位にも申し訳が無いと思った。
私の種別は『戦士』でね、ごく一般的な攻撃型だが、より攻撃色の強い『闘士』、防御色の強い『騎士』に比べて敵が強力なほど効果的な働きが出来なかった。
そこで思い当たったのが、召喚魔法だった。
武器にすべての魔力を込めて一撃離脱をする。
その都度魔力の回復が要るが、戦力にならないよりはましだ。」
「ゼロ距離召喚を考えてらっしゃるんですね?」
「うむ。さすが光さんだ。」
「素晴らしい発想です。確かにそれなら敵の硬度も魔力も、魔法防御も関係ありませんから。」
物質召喚と一撃離脱からゼロ距離の物質召喚とすぐに結びつけるこの妻の発想の速さよ。
泉の森で、光と魔法を訓練中に思ったことがある。
この魔力をそのまま敵の体内で魔法にできないか?と。
とどのつまり、生物なら心臓を、魔物なら魔石を破壊すればそれで勝利できると思ったのだ。しかし、現実にはそれはかなわなかった。
非接触の場所に魔力を込めることは相当に難しかったのもあるし、直接接触、二次接触となっていくに従い魔力の伝達も極めて低くなってしまうからだった。
対象に直接接触しての物質召喚なら、たしかに彼我格差はゼロに等しい。もっとも、対象が大型である場合などは効果が限定的になってしまうのだが。・・・いや、それも長物を召喚することで済んでしまうかもしれない。
・・・
「では、私達はこれで。
美味しいお茶をごちそうさま。」
「またね、光さんに広斗さん。」
「 「 ええ、また是非。」 」
・・・
「10年前の戦い、厳しいものだったんだな。」
「だね。・・・まさかアルケインさんのお父さんがその時亡くなってたなんて。」
「ひょっとしたら、それが原因で、黄竜信仰が薄いのかな?」
「えっ、そう感じたの?」
「う~~ん、なんとなくだけどね。他の人は『黄竜様』って呼んでたからかな。」
「この国の神様的な位置づけだよね。
『悪い事をすると黄竜様がみているぞ!』
みたいなことが本にも書いてあったし。
・・・
・・・私達を見ているなら、なぜあの時助けてくれなかったの・・・
彼はそう思ってるのかしら?」
「そこまでは思ってないんじゃないかな。
手を貸す神は間違いを犯す、とも言うしね。
それが分からない彼ではないと思う。
・・・
黄竜様、かぁ。
神殿に祀ってあったり、信仰があるくらいだから、過去に何もなかったって事もないんだろうけど・・・。」
竜神の住まう山。
その中腹ほどにある聖なる泉。
たまたまそこに流された私と光。
・・・その竜に召喚された・・・なんてのはさすがに考えすぎか。
私達にはそんな特別な能力がある訳でもないのだから。
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