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穏やかな日々

のんびりと農作業にいそしむふたり。

  ◇ ◇ 穏やかな日々 ◇ ◇


「 「行ってきまーす。 」 」


 今日から我が子二人はこの国の学校に通えることになった。

光と『どうしようか?』なんて話しているさなかに役所から連絡が来たのだ。

本当に漂流者の私達にまでどうしてこんなに良くしてくれるのか不思議なのだが、こちらに来て早々役所の人が手配をしてくれていたのだった。


 あの子たちも、この国についてのことをいろいろと学んで、友達をいっぱい作って、楽しい日々を過ごしてほしい。


そういう私達も子供たちと同レベルの一般知識しかないから、ご近所様からいろいろな書籍を借り受けて勉強しているのだけれど。


 文明の変遷というものは面白いものでこれだけかけ離れた世界においても類似点が結構多かった。

そんな中で、あちらと大きく異なっていたこと、それが税という考え方だった。


こちらにそれは無い。

あちらのように、まとめて徴収しておいて再配分するというシステムではない。


『国』としてやって欲しい事があるならば、まず役所に申し出る。

それは、場合によっては個人負担で、

場合によっては同意者を集めて資金を出し合う、

そんなシステムだ。


それ以外にも『国』としてやらねばならない事は多いのだが、それらはみな貴族たちが負担していた。


彼らは強力な魔物を倒し、あるいは有用な鉱脈を見つけて掘り、それを差し出して国庫としていた。


様々な場面で必要な貴金属類、希少金属、それはこちらの世界でもあちらと変わらない。地下深く、あるいは山、あるいは海の中に沈んでおり、生半可な魔力ではそこまでたどり着けないことが多い。だが魔力の強い貴族たちならそこへも辿り着けた。


こう言った国のありかたは、この国に住む人なら皆が知っている。

故に彼らは貴族達に敬意を払い、また国民同士もお互いが協力するのだ。

相互扶助、それはこの国ではあまりに当たり前だった。


・・・


 さて、魔法でなんでも賄えるこの世界においても、作物を育てるという事はなかなかに手間がかかることだった。


病気、害虫、こういったものを魔法で防ぐことは難しくはないが、その影響を考えるとしたくはないし、そもそも最低限にするよう本にも書かれていた。

ドッドさんが、木魔法について語ってくれたように、自然に対して魔法で干渉すると必ずそれはゆがみを生むのだ。


結局は毎朝毎晩様子を見て回ることになるのだが、小さな雑草を抜いたり、脇芽を摘んだり、葉の色つやを見て回るのはとても楽しかった。



 そして今日も午前中の畑仕事を終えて、光とのんびりお茶を楽しんでいると、街の入り口から4人グループが転がり込んできた。


魔物に追い回されたのだろうか?

怪我はないようだが・・・。


「大丈夫ですか?」

そう言って、水筒を手に走り寄る光。


「あぁ、すまない。ありがとう。

 少し先で魔物に絡まれてしまって。

 戦うのが面倒だからと逃げたのがいけなかった。

 次から次へと集まってきて、対処しきれなくなった・・・。」


「まぁ、トレインですね。

 面倒くさがらずに倒しておかないと、ね。」


「あぁ、・・・本当にそうなんだけど・・・

 すまない。

 それで、結局20匹くらい引き連れてきてしまって・・・

 まだうろうろしてるから、外に出ている人が心配で。」


 と、そこまで聞いて、私は魔物払いに出かけるべく腰を上げた。


「あ。アリガト、広斗。」

「うん、2次被害が出る前に、ちょっと行って来る。」


「あぁ・・・、あの、弱いとはいえ、数が多いぞ・・・。」


「大丈夫です。こう見えて頑丈ですから。」


 さて・・・、と。


城門を出ると100mほど先で4つ足の熊とも狸ともつかない魔物が20体右往左往している。

どうやら、この国の結界で追ってきた獲物(村人)を見失い迷っているようだ。


遠距離攻撃も可能だが・・・

闇討ちは何となく気が咎める。

・・・日本人だからな。


街の結界を抜けヤツらの認知範囲に入ると、すぐに反応する魔物たち。

そして、一斉にこちらへ向けて襲い掛かってくるそれを、するり、するりと躱して背後へ抜ける。

 

 (まぁ、この位でいいよな。)


左右の手に20本のミニダガーを召喚し、魔物の頭部へ向け射出する。


・・・ふぅ。


こいつらとも共存できたらより平和なんだがな。


ついそんなことを考えてしまった自分自身が偽善者っぽくて、なんだか嫌になる。

こいつらはこいつらで、人間を襲う理由があるのだろう。

だが、対する人間も当然迎撃せねばならない。


それがこの世界の摂理ならば否応はない。


・・・


 街に戻ると、畑の脇でのんびりとお茶を楽しむ光と街人4人。


この図だけをみると、

『討伐に出た旦那を放置して午後ティーかよ。』

という事になるのだろうが、その内実は大きく異なることを私は知っている。


光は本当にやさしい。


この辺の敵なら、迎撃に出るのが私でも光でも問題はない。

対する魔物に追われてきた彼らは疲労困憊、さらに今日の場合はトレインを引き起こしてしまった事に自分を責めていたはずだ。


そんな時、のんびり午後ティーを振舞われたら、逃げてきた彼らはどう思うだろうか?


そう言ったことまで考えたうえでのこののんびり具合。

・・・君は本当に天使のようだな。


だから私もそんな妻に呼応する。


「おわったぞー」

まるで、芋ほりでも終えたかのような気軽さでそう声を掛ける。


「お疲れさまー。冷たいのと暖かいのがあるよ。」

「冷たいのがいいな。」


「ありがとうございました。

 あの・・・、もう・・・、追っ払ったんですか?」


「私こう見えても、射撃が得意で。」

といって、弓を射る真似をする。


「うちの夫はこんな虫も殺せない顔して、結構武闘派なんですよ。」


「おお!心強い!

 いや、噂通りだ。」


いや、それはどんな噂なんだろうか?


「ところで、弱いとは言っても町の付近でC級20体とはちょっと穏やかじゃないですね。役所に届けたほうが良いのかもしれません。」


「ええ。帰りに寄って行きます。

 今日も狩りから帰るとこだったんですが、最近ちょっと、エレンシーとの街道沿いでも魔物が頻発しているらしくて。」


「人里近くで魔物が湧き始めると、強い魔物が湧く前触れという話ですしね、心配です。」


 彼らは私と光に丁寧にお辞儀をして町の中心部へと歩いて行った。


「これ頂いちゃった。」

光がそう言って見せてくれたのは、かつて私達が最初にとらえた動物。

イノシシだった。


「あれま、せっかく捕った獲物を、ごちそうさまです。」


 この町に暮らす人たちは、一事が万事こういった具合なのだ。

魔物との戦いを強いられ、お互いに苦しい日々を過ごしているはずなのに。


「なぁ、光。」

「うん?」


「思った以上に魔物との戦いが多いね。

 ちょうど僕らの家はここだし、街を出る人たちに、お守りでも作ってあげようか?」

「あら、お守り?」


「あぁ。出かける日数なんかに合わせて強化を付与したお守りを。

 綺麗事じゃなく、みんな無事に帰ってきて欲しいしね。」


「うん。どれくらいのにする?」


「そうだな・・・、持っているとちょっと調子がいい、その位のものにしようか。」


 依存するようなものではダメだから。


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