光の魔法考察
訪ねて来たエリナちゃんに誘われて尋ねた先は、
ハルミントン公爵家。
そこで、思いもかけぬ魔法談義となり・・・
◇ ◇ 光の魔法考察 ◇ ◇
そして場所はハルミントン家、地下実験室。
「私たちは何分こちらの世界に流されてきたばかりの若輩者ですので、粗相があったらお許しください。」
まずはそう丁寧に断りを入れて話し出す光。
「こちらに流されて、初めて魔法の実感を得、それを使ってみたところどうやら、火、水、木、金、土、の5属性のようだと分かりました。」
ハルミントンさんは『うむ』、と一つ頷く。
「それで、夫と一緒に学んできたのですが、魔法の行使そのものが基本的には物質召喚なのだという事が分かりました。」
「それは・・・どういうことだろう?」
「まず、火、ですが、おそらく誰でもこうして火を出しますよね?」
「うむ。」
「ところが、この火がここで燃えているのではない、という事はご存じでしたでしょうか?」
「火がここで燃えていない、というのは?」
「はい、より正確にはここの物質で燃えているわけではないのです。
火が燃えるには大気中の酸素という物質が必要になりますが、今燃えているこの火はそれを消費していません。つまり、魔力を使って出しているこの火は、別の次元より可燃性物質と酸素を物質召喚しているという風にとらえられるのです。」
「悪いが、もう少し分かり易く言ってもらえるかな?」
「では少し準備しますね。」
光は鞄の中から木片と、ガラス鍋を取り出した。
そして、ガラス鍋を錬成して小さなビーカーのように造り直す。
「皆さん魔法で火をつけ、火を焚きますね?
では、このビーカーの中で、この木片を燃やすとどうなるでしょう。」
小学生の理科の実験のようにビーカーの中で木片を燃やし、蓋をする光。
当然、二酸化炭素がいっぱいになると、木片は残っていても火が消える。
「木が残っているのに火が消えました。これが酸素という物質を使い切った証拠なんです。こういった経験はありませんよね?」
「いや、火が消える事はあるにはあるが、すぐに魔法で付けてしまうからな。」
「そこです。ではこの燃えなくなったところに、火魔法を与えますね。」
すると当然魔法で火が付き燃え出した。だが、燃え残った木はそのままで燃えていないのが分かる。
「この容器の中は今酸素が無い状態です。でも火魔法により燃えています。ただ、木は燃えていません。」
「うーん、なんだかよく分からないが、それが魔法の力という事だけは分かるよ。」
「はい、本来燃えないところでも火をともす事が出来る、故に燃えるものを物質召喚している、という事になります。」
「うーん、やはり原理が少し難しいが、次に行ってくれるかね。」
「では次に、水魔法です。」
そう言って今度は手のひらに水を出す。
「この水がそもそも物質召喚ですね。」
「・・・まぁ、そう言われればそうなんだが・・・」
「(くすっ)さて、ではいよいよ本題の残り3属性です。
木、金、土を物質召喚するのは実は相当に難しい事でした。例えばですが・・・」
光が少し考えて、魔法を練る。
すると・・・ビーカーの中で燃え残っていた木が光の手の上に移動した。
「おおおおぉぉぉぉ!!!」
「いま、このビーカーの中の燃えカスを物質召喚で手の上に呼びました。
同じようなことが、鉄でもできます。
ハルミントンさんは、どの属性が得意でしたっけ?」
「私は土と金を使う事が出来る。やってみていいだろうか?」
「ええ、金魔法でしたら、このニードルで試してみましょう。注意するのはこれをよくイメージする事です。名前とかを付けると出しやすくなると思います。それから、先ほど夕食の時にお嬢様がお話していましたが、複数の属性が使えるなら、出来るだけ同時に練ったほうが良いと思います。丁度土と金は相生の関係にありますから、土>金の順で練ってみてください。」
しばしの間ハルミントンさんの動きが止まる。
二つの属性を両方練るという事はこれまでしてこなかったらしく、少し戸惑っているのかもしれない。
・・・そしてしばらく。
「よし、いいだろう。
来い『ニードル』!」
・・・
・・・
「・・・ふぅ・・・。難しいものだな。」
「より小さいものから始めたほうが楽かもしれません。
私達もそうやって練習してきましたし。」
「剣なんかも召喚できたりするのだろうか?」
「もちろんできます。ただ、質量が大きいほど難しくなりますから、長剣一本を出すのは相当難しいです。」
「では、魔物などはどうだろう?」
「やったことが無いのでわかりませんが、生物や魔物はとても難しいと思います。」
「出来ない、とは言わないのだな。」
「こちらに来てまだ日が浅いので。(苦笑)」
光の説明もひと段落着いたな、そう思っていた時・・・
「ところで光さん。先ほど鞄からお鍋とか木材とか、ニードルを取り出していましたけれど、それも魔法かしら?」
光の持つ鞄は大きめのトートバックほどもあるのだが、やはり不自然さはぬぐえない。『見つかっちゃった』とばかりにこちらを向く光。
(ウンウン、別にいいんじゃない?)
「えーっと、こちらの世界では魔法が進んでいるので、皆さんこうやって収納しているのかと思っていました。」
そう言って、手に持っていた鞄をミシェルさんに見せる。
彼女はそれを広げて中をのぞくのだが・・・
「これはどうなっているのでしょう?
中が空洞ですけれど?」
「そうですね、奥様の持ち物を何か入れてみていただけます?」
光にそう言われて、胸のブローチを外して鞄に入れる。
「あら?・・・消えちゃったわ・・・」
「では、今入れたブローチを思い浮かべてみてください。」
「・・・
・・・あっ! 出てきた。」
そう言って、鞄からブローチを取り出すミシェルさん。
「あっ・・・取り出すとき、少し魔力を使うのね。」
「はい、そうなんです。入れるときはただ入れるだけなんですけど、出す時は大きな物ほど魔力を使ってしまいます。」
「でもまぁ、これくらいなら許容範囲よね。
・・・
でも、凄いわ、これ。とても便利ね・・・。」
「良ければお造りしましょうか?」
「あら。(ふふふっ)
なんだかおねだりしちゃったみたいね。」
・・・
・・・帰り道。
「凄いご馳走だったね、大魔法でも使って消費しないとエネルギー過剰だ。」
「星でも落とす?」
「おお、空を落とすか!」
「男の子って、SF好きだよね。」
「宇宙はロマンだからな~」
「異世界もロマンじゃないの?」
「この現実がロマン過ぎて、夢見心地で、何と言っていいのかな。」
「エリナちゃんと、カリスト君か、丁度良いお友達ね。」
「最初は、響が焼きもちを焼いてたんだがな、今日は雅が焼いてたから、まぁ、痛み分け?(笑)」
「この年頃で、もう恋心なんて目覚めるのねぇ。」
そういって、腕の中の響を撫でる。
「まぁ、日本よりもずいぶん成長が早く感じるな。」
私も、腕の中の雅を撫でる。
「なぁ光。」
「ん?」
「俺はずっとこっちにいてもいい気がしてきた。」
「それでもいいわよ。こっちの方が何だか暖かいものね。」
まぁ、私はこの家族でいられたら、そこがどこだろうが幸せなのだが。
おいでいただきありがとうございました。
ご感想などありましたら、ぜひ。