可愛い来訪者
のんびりと午後ティーを楽しむ広斗と光。
そこへ可愛らしい来訪者が訪れる。
◇ ◇ 可愛い来訪者 ◇ ◇
家が準備できるまでのこの一週間、近くの宿屋に寝泊まりし、ただただ街を見て回っていた。そしてずいぶんこの地域の人たちと仲良くなった。事あるごとに食事に招待されたり、お茶に誘われたりと、それはもうなぜこれほど歓迎されるのだろうと不思議に思ったほどだ。
そして、今日は学校も休みなのか、たくさんの友達に囲まれてはしゃぐわが子の姿を遠目に見やる。
日本にいたら、あるいはこれほど恵まれた環境ではなかったのかもしれない、それほどに今の環境を有難く思った。
アルケインさんの一行を見送った後、畑の種まきを終え、私と光はのんびりと午後ティーを楽しんでいた。
すると、一人の可愛らしい少女と、彼女の保護者と思われる女性が私たちの手前まで来て立ち止まる。
「こんにちは。この国へようこそ。
私はシャンティと申します。」
その言葉と共に綺麗に包まれた箱詰めが差し出される。
「初めまして、お気遣いありがとうございます。私は白峰広斗、それと妻の柴杏光と申します。あそこで遊んでいるのが、子供の響きと雅です。どうやら我々はこちらに流されてしまったようで、助けていただいて感謝しています。」
「初めまして、私はエリナ、以後お見知りおきを。」
そういってちょこんとスカートを持ち上げる少女。
良いところのお嬢さんのようだ。
「それで、みなさんはとても魔法がお上手なのだとか。もし良ければこのエリナ様に教えていただけないかと思いまして。」
驚いた。もうこんな上品なお宅まで噂が流れているとは。
私は軽く手を上げて、二人の子供に合図を送ると、新しくできたばかりの友達に手を振り、こちらへ元気に駆けて来る。
「今日は、僕は響、」
「私は、みやびです。」
満面の笑みでぺこりと挨拶する我が子の可愛さよ。
「こんにちは。エリナと申します。」
「さ、エリナちゃんと3人で遊んでおいで、彼女は魔法遊びがしたいんだそうだよ。」
「 「 はーい。 」 」
「いこ! エリナちゃん!」
「あの、・・・子供たちだけでよろしいのでしょうか?」
「ええ、あの子たちはあの子たちの感覚で、遊んでいるうちに魔法を覚えました。私も夫も魔法の教育などほとんどしてないんです。だから一緒に遊ばせておけば大丈夫じゃないかしら?
あ、エリナちゃんはどの属性を学ばれているのですか?」
「ええ、一応5つの属性全てを。」
「そうでしたか。私も聞いた時はびっくりしましたが、この国では5つの属性全てを扱える者が大変少ないのだとか、エリナちゃんは良い素質をお持ちなんですね。」
「え、ええ、まぁ・・・」
女性同士、子供の事で会話が弾むのは見ていてもほっこりする。
もっとも、さっきの光との会話から、シャンティさんはエリナ家のメイドさんのようなものなんだろう。
それにしても、5属性全て使えるのは確か大賢者様だけだとか言ってなかっただろうか?・・・いや、『使いこなせる』と言っていたはずだ。
幼いころは皆持ち合わせており、大きくなるにしたがってよく使うものに集約されていく・・・そう言ったものなのかもしれないな。
「ところで、流されていらっしゃった方と、こうしてお話しすることは初めてなのです。あちらの様子をお聞かせいただけたら嬉しいのですが。」
「ええ、それはもう、喜んで。」
・・・
・・・
それから、2時間ほど光とシャンティさんは楽しそうに話をし、子供たちが戻ってきた。
「聞いて!シャンティ、この子たち凄いの!
私もあっという間に上達したわ。」
「まぁ。それはよろしゅうございましたね。お嬢様。
では、そろそろ戻りましょうか?」
「あ、みなさんを晩ごはんにお招きしたらいかがかしら?
お話もとっても楽しかったのよ。」
「まぁ。それは良いアイディアですね。
皆さんのご予定はいかがですか?」
光がこちらに視線を持ってくるので、うんうんと返し、
子供たちも嬉しそうに頷くのを見て、ご馳走になることにした。
◇ ◇ ハルミントン公爵家 ◇ ◇
大通りをまっすぐお城の方へと歩いていく。
通りにいる人々はみんな私たちに手を振り、頭を下げてくれる。
(そんなに漂流者が珍しいのだろうか?)
(それとも、ウチの子供が可愛いからなのだろうか?)
・・・いや、どう考えても一緒に歩くお嬢様へ、だよな。
と、ツマラナイ一人ボケ突っ込みをしておく。
エリナちゃんは有名なお屋敷のお嬢様なのかもしれない。
皆で一緒ににこにこと手を振り返し、道を進む。
やがて、本当にどんどんとお城の方へと近づき、辺りはそれは豪奢な邸宅ばかりとなり・・・さらにその先は・・・
うすうすは感じていましたとも。
5属性全てを勉強し、道行く人全てに手を振られる我らの可愛らしい同行者の素性を。
まさかこの国の姫様だったとは。
・・・
・・・なんて思っていたら、その直前の脇道へ進むお二人様。
早合点、早合点。
着いたのは、少し古さを感じさせるものの、由緒正しいのだろうなと思わせる品の良いお城だった。
「ようこそ、私はレグラス・ハルミントン。
娘が大変お世話になったみたいで。
さ、どうぞ。」
「初めまして、白峰広斗、妻の光、息子の響き、娘の雅です。
今日はお招きいただき、ありがとうございます。」
貴族社会の挨拶など全く分からないが、ここは地球とは違う世界、間違っていたら指摘してもらおう。
「パパ、聞いて、この子たち凄いの!」
そういって、父親に絡みついていくエリナ嬢。彼はただゆっくりと娘の頭を撫でている。
それほど華美ではないにせよ、とても品の良いホールに案内され席に着くと、二人のメイドさんによりたくさんの料理が運ばれてくる。
「うわぁ、おいしそう~~。」
・・・
「では、この良き日にカンパイ!」
「 「 カンパーイ !」 」
・・・
・・・
「それでね、パパ! 私とってもびっくりしたのよ!
今までとっても苦労して勉強してきたのが嘘みたい!」
「ほほぉ、お前がそんなに驚くなんてな。
パパに聞かせて貰えるかい?」
「あのね!この子たちどの属性の魔法を使う時にも、全部の属性を練っていたの!ね、信じられる?」
「ほぉ、パパはたった二つの属性しか使えないけど、それでも同時に練ったりはしないねぇ。」
「でしょう! だから、どの属性魔法を使っても、他の属性が弱くならないのよ!」
「うんうん、なるほどなるほど。今日はとってもいい勉強になったようだねぇ。」
そんな会話をする二人、それでなるほどと合点がいった。
この国に多属性魔法を使える人が少なかった理由がそこにあった気がした。やはり小さいころには多種の魔法が使え、年とともに集約されて行ってしまうのだろう。私たちは何も知らずに魔法を身に着けていたから、殆ど本能的にそれを行使していた。どの属性魔法を使うにせよ、5属性全てを練ってから使っていたのだ。どうしてかと言われても、なかなか説明できないのだが、あえて考えるとすると、5行の相生関係、相剋関係という事になるのだろうか?
そんな感覚的なこと故、この子たちは遊びながら覚えたんだろうな。
と、そんなことを考えていると・・・
「ねぇ、パパの研究の事も何か知ってるかも?」
そんなことを言うエリナちゃん。
「魔法の研究をなさってるんですか?」
光が興味深そうにそう聞いた。
魔法の研究は二人でしていたが、私よりも彼女の方が熱心で収納鞄を考えたのも実は彼女なのだ。
「あぁ。長年取り組んできている事があるんだが、なかなか難しくてね。」
「これだけ魔法文明が発達したこの国でも、まだ研究する事ってあるんですね。」
「それはそうだよ。魔法の奥は深い。
特に、『召喚魔法』についてはね。」
思わぬところから話題が飛び出した召喚魔法。
『幻獣』なんかを呼び出す事が出来たりするのだろうか。
バハムート、リバイアサン、イフリート・・・
あぁ、円卓の騎士なんて最強召喚もあったなぁ・・・。
「それは、魔物とか、幻獣とか、そういったものを召喚するのですか?」
「魔物はともかく、幻獣はさすがに物語の中の獣だからねぇ。
今はまだ、物質召喚が出来ないか取り組んでる段階だよ。」
光がこちらを向き、『どう?』というような顔をする。
私は『うんうん』と目で合図を送る。
「凄く恐縮なんですが、物質召喚ならできますよ?」
「なにっ!!!!!」
あまりに勢いよくハルミントンさんは立ち上がり、座っていた椅子が後ろに吹っ飛んで行ってしまった。
「ほらね、パパっ、私の言った通りでしょ?」
「主人が失礼いたしました。
あなた、後でお話を伺ったらよろしいと思いますよ。」
・・・
ハルミントンさんがその話をしたくてうずうずするのが見て取れる中、奥様が度々目でそれを制し、終始和やかな中で食事を終えた。