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傍から見守り導く生活  作者: 藤沢凪
第七章  『導く者の居ない世界へ』
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5  疑心暗鬼

 5  疑心暗鬼

 

 

 竜魔王討伐戦が終わり、全ての精霊とプレイヤーは各々の部屋へ戻った。

 

 隔離していた村人達は解放した。魔王の消えた世界で、しばらくは治安も良くなるだろうという見解からだった。

 

 ルナはアヤト君の部屋に寝泊まりするのかな? と思っていたのだが、アパートの中に空き部屋がある事をマサフミから聞いて、新しい村人を創り管理人と名乗らせ、ルナをそこへ誘導した。

 

 別に、あの部屋で二人がイチャイチャしてるの見るのが嫌だったからって訳じゃ無いんだよ! いや、本当に。マキナさんも居たから、寝床に困っている人達へ部屋を振り当てないといけなかったんだよ。マキナさんは元々、ステーション内部の一角で寝泊まりしてたみたいだし。ってか本当ルナとかマキナさんの扱い悪いよね? 時間無い中で始めた世界だとはいえ、運営の闇を見たわ。

 

 アヤト君は、二日間程部屋に閉じ籠った。きっと、色んな刺激が多すぎて疲れちゃったんだろうね。でも、今のアヤト君は独りきりじゃ無い。ひっきり無しに部屋のチャイムが鳴り、ザリガニや、カイトやルナ、その他諸々、ルイまでも様子を伺いに来た。

 

 アヤト君は少し体調が悪いからと嘘を吐き……嘘なのか? 多分嘘。みんなと集まる日取りだけ決めて、何も無い時は、ベッドに腰を掛けて、長めの前髪で目線を隠し過ごしていた。

 

 ふりだしに戻った様に見えるけど、それは違う。今のアヤト君に、悲壮に満ちた感情は無い! 様に感じる。ソファーで横になって眺めているんだけど、チラチラとパソコン見てる感じはする。二日目の夜になって気付いた。

 

「あっ、アヤト君何も食べて無いわ」

 

 いや、まぁ! 二日くらいだったら大丈夫! 最初は四日くらい何も食べて無かったんだから! 私が言う事か……マジ私ポンコツ過ぎる……

 

 急いでパソコンにメッセージを送った。

 

『ごめん。お腹空いてるよね? カレーで良いかな?』

 

 甲高い電子音がメッセージを読み始めると、アヤト君は顔を上げ、目を見開き、パソコンに駆け寄った。

 

 何っ⁉︎ そんなにお腹空いてたの⁉︎ ごめんよ……

 

「君は……でも……」

 

 何か言ってる? 君がひとりごと言うなんて珍しいな。そんなに腹が立ったのか……? いやいや、お金あるんだからお腹空いたんなら外で食べなよ‼︎ 私が悪い訳⁉︎ 私は、君のお母さんじゃ無いんだからさ? 一人前になったと思ったらすぐこれだよ! 本当、手の掛かる子だなぁ。

 

 アヤト君から返事が来た。

 

『君は?』

 

 君は? って何? たまに意味分かんないんだよなぁこの子。お腹が空いて思考も定まらないか?

 

『良く頑張ったね! とっても良く頑張れたから、カレー大盛りにしておくね!』

 

 アヤト君は、前髪で目線を遮った。でも、口元は少し綻んでいた。

 

『うん。ありがとう』

 

 大盛りのカレーを送り、テーブルでゆっくりと食事をするアヤト君を、ソファーで横になりながら横目で見ていた。

 

 次の日、アヤト君は部屋を出てみんなと合流した。メンバーはまぁ、ザリガニとかトキオとかルイとかそのパーティーの子とかいっぱい居た。ルナがハブられてるなぁと思ったら、二人に関する事の様だった。

 

「アヤト? 体調は大丈夫なのか?」

 

 代表してザリガニが話しをする様だ。この人数でわちゃわちゃ喋られたら色々と面倒くさいし助かる。

 

「大丈夫だよ! ごめん大変な時に。どちらかというと精神的な事なんだ。僕は、人とずっと一緒に居る事が苦手なんだよ。それでも、竜魔王をなんとかするまでは甘える訳にはいかなかった。僕には刺激が強過ぎた。少し、一人の時間が欲しかったんだ」

 

 なんとなくそんな感じだと思ってたよ。でも、その事を誰かに言える様になったのは、とても君の成長を感じるよ?

 

「お前さぁ、そうだとは思ったけど、それならそれで事前に言ってくれよ? ルナなんか、自分との結婚が嫌になって落ち込んでるんじゃないかってめっちゃ病んでたぞ?」

 

 マジか⁉︎ ルナは結構アヤト君の事理解してると思ってたけど……

 

「そ、そんな筈無いじゃないか⁉︎」

 

「いや、オイラはそう思ったけどよ?」

 

「ザリちゃんそれはルナから口止めされてたでしょ⁉︎ もういいから代わりなさい!」

 

 ザリガニが代表の座から早くも降ろされた。代わりにマキナさんがその座に就いた。

 

「アヤト? 別にあんたが悪い訳じゃ無い。でもさ、これは覚えておいて? ルナは、アヤトの事を理解してくれてるとっても良い子でしょ?」

 

「うん。分かってくれてると、思うけど……」

 

「でもね? 女の子は、相手の事を理解していたつもりでも、自分に対する想いにはどうしても疑心暗鬼になってしまうの。ネガティヴに、捉えてしまうの。ルナちゃんも、もしかしたら自分のせいでってなっちゃって、それでも、アヤトに迷惑掛けたく無いからって、アヤトから婚約破棄されても泣かない様にするって言ってたんだよ?」

 

「そんな⁉︎ 僕のせいで……」

 

「はい! 落ち込まない! 結婚前に気付けて良かったじゃん? これに懲りたら、恥ずかしがらずに愛の言葉をいつでもルナに掛けてあげな! 分かったね‼︎」

 

「は、はい‼︎」

 

 マキナさんすげぇ。近くに一人こういう人居たら助かるわ。この世界の成り行きも、いつまでも見守っていたいけどなぁ。

 

「アヤトの気持ちも分かったし、本題に移りたいんだけどいいかな?」

 

 本題? なんだろう?

 

「はい!」

 

 教え子か? アヤト君だいぶマキナさんの事リスペクトしてるね。

 

「アヤトとルナの、結婚式を挙げてやりたいんだよ。式場も作って、みんなで力を合わせてさ」

 

 へっ? マジか……

 

「結婚式……そんな、大丈夫だよ……」

 

「何が大丈夫? みんな、そうしたいって言ってるんだよ?」

 

「僕は……僕達の為にみんなの時間を無駄にして欲しく無い。それは、心苦しいんだよ」

 

「はぁっ? 言っとくけどさぁ? 全くもってアヤトの為じゃ無いからね?」

 

「えっ?」

 

「ただ、みんなで何かをやりたいんだよ。それがたまたま、アヤトとルナの結婚式だったって訳。みんな、元々バラバラだった訳じゃん? それが敵になって、味方になって、ラスボス攻略して、平和になった訳じゃん? みんなで何かをやりたくてうずうずしてんだよ! そこに丁度良さげなイベントがあるって事で白羽の矢が立ったという訳さ!」

 

「そ、そんな理由で⁉︎」

 

「アヤト? あんた意外とおバカさんだねぇ? 誰かから受ける厚意を、申し訳無いみたいに感じてるんじゃ無い? 違うよ。違うって断言してあげるよ。みんなは意外と、自分の事しか考えて無いんだよ? 好きな人に、恋愛感情とか抜きでね? 好きな人に、喜んでもらいたい。そして、それをやった自分に酔いしれたい。そんな友達想いな自分を、第三者に見てもらいたい。そんな不純な動機で人って動いてんだよ? アヤトが恩を感じる必要なんか無い。みんながそうしたいって事に、アヤトを巻き込みたいだけなんだよ!」

 

「そんな事言われたら……断る理由が、無いじゃないですか?」

 

「断る⁉︎ ダメダメ! 二人の結婚式には、二つの大きな理由があるんだから!」

 

「二つの大きな理由?」

 

「一つは、結婚式場を作る事で、他のカップル達の役にも立つでしょ? どっちみち式場は作らないといけない訳よ」

 

「二つ目は?」

 

「大勢の前で永遠の愛を誓わせる為だよ! アヤト? あんたが結婚式から逃げるんなら、ルナちゃんは絶対渡さないよ! もう二度と、ルナと会わなくても良いのであれば、この申し出を断れば良いよ」

 

 鬼か? でも、マキナさんは間違った事は何も言って無いよね。

 

「誓うよ。僕は、永遠の愛を誓うよ‼︎」

 

 乗せられたー! まぁ逃げ場は無かったけどね。みんな、アヤト君の扱い上手くなってんなぁ。

 

「それじゃあちゃんとその気持ち、ルナに伝えてあげなきゃ」

 

「はい‼︎」

 

「って言ってもルナ、最近部屋に居ないんだよね。アヤト? あんたなら、ルナが今何処に居るか分かるんじゃない?」

 

 ルナの心の拠り所といえば……アヤト君? ちゃんと迎えに行ってあげな。

 

「わ、分かります! あっ……」

 

「バウ! バウバウゥゥゥゥゥ‼︎」

 

 本当良い所に来るねあんたは! さすが、私の産んだ子だよ!

 

「ヨルシゲ!」

 

「バウゥゥゥゥウッ‼︎」

 

 アヤト君はヨルシゲの背に飛び乗った。

 

「頼んだぞ‼︎」

 

 行き先なんか言わなくても、分かってしまうんだね?

 

 ヨルシゲが私を見つめた。

 

「それは……野暮ってもんだよ」

 

 私は、首を横に振った。アヤト君を乗せて、ヨルシゲがルナの元へと全速力で駆けて行くのを見送った。

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