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傍から見守り導く生活  作者: 藤沢凪
第七章  『導く者の居ない世界へ』
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3  禊

 3  禊

 

 

「まぁあっちはあっちで一件落着で盛り上がってます、と」

 

 向こうは祝福ムードだけど、同じくラスボスを倒したんだけど、同じ様に喜ぶ訳にはいかないんだよね。

 

「ジジイ! これまでの経緯全部話しやがれ‼︎」

 

 生き残った精霊達の、冷たい視線が神と側近さんに向けられている。

 

「そ、そんな言い方無いじゃろ⁉︎ わしだって! 色々考えてこのやり方が良いかなぁと思ったのじゃから⁉︎」

 

「何が良かったの……? いっぱい精霊が死んだ。神だって……死んだと思ってマジで、ヤバいくらい悲しかったのに‼︎ テメェが全部仕組んだ事だったのかよ⁉︎」

 

「す、すまんかった‼︎ そんな、泣くと思わんでな⁉︎」

 

「泣くだろぉが‼︎ アプリ送ってやっからサイコパス診断受けてみろテメェ⁉︎ 頭おかしいだろ……ちゃんと……ちゃんと説明してよ⁉︎」

 

 糞ッ……泣いちゃったよ。神が生きてて、安心したんだよ。なのによぉぉぉお⁉︎

 

「いや、あの、その……やはりな? チイナとルイの件を受けて、導く者の大切さというのを肌に感じたのじゃよ!」

 

「チイナとルイ? じゃあ、あれはヤラセじゃ無かったって事?」

 

「そうじゃよ? この世界で、導く者と導かれる者を逆にしてみたらどうなるじゃろ? と思ってやってみたのじゃ!」

 

「やってみたのじゃ! じゃ無いでしょ⁉︎ じゃあそれで無茶苦茶なって、ハッキングされててアカバン出来なかったっていうのは?」

 

「嘘じゃ! ハッキングなどされておらんし、あの場でチイナを消す事も出来た」

 

「じゃあ、なんで……? 放っておいたの?」

 

「そもそもは、おぬしが言って来た事からじゃった。順を追って話そう。まず、ミオナがトキオに人海戦術の案を授けた後、大人数のパーティーで随分とクエストをクリアする割合が偏った。トキオのパーティーと、元々徳を積んでいたルイの率いるパーティーの二強になってしまったのじゃ。この世界を始めてそう月日も経たぬ内に、この二つのパーティーは用意していたほとんどのクエストをクリアしてしまったのじゃ」

 

「まぁ、私もそれは思った。アヤト君がモタモタしてる間に、クエストやたらクリアされてんじゃんってなったよ?」

 

「本来、手こずって当たり前なのじゃよ。その二強のパーティーが異常じゃった。しかし、わしが見ておる限り、この二つのパーティーメンバーは、魂を入れ替えて戦っている様には見えなかったのじゃ。それは、わしの目指すこの世界のエンディングとは別物であったのじゃ」

 

「でもそれって……?」

 

「矛盾しておると思ったのじゃろ? それなら、何故アカバンというのをせず、野放しにしておったのかと」

 

「うん……」

 

「おぬしから電話で、アカバンしないのかと問われ、迷った。このままでは、わしの思い描いておった形とはかけ離れたものになると。異分子を排除するのは簡単じゃ、しかし、現世を思い浮かべてみよ! 悪い思想を抱く者は、山程おる」

 

「いや、分かるけど……」

 

「おぬしは、今でもミオナを悪と思うか?」

 

 痛いとこ突かれた。そういや私、始めらへんでミオナさんのパートナーのトキオなんでアカバンしないんだとか言ってキレてたわ。

 

「思う訳ないでしょ⁉︎ 何言ってんのやら……いや、なんていうか……」

 

「わしは、微かな希望に賭けてみたくなったのじゃよ。ここから、何処かのパーティーが、予想を覆す大逆転劇を見せてくれる奇跡を、見てみたかったのじゃ‼︎」

 

「そう、だったんだ……」

 

「正義が勝つ、そう思いたかったのじゃよ……」

 

「……なんか、嘘くさい気もするけど……」

 

「電話の時、自然にアカバン出来ぬ理由が無いかなと思っておったら、会話を聞いておったマサフミが、横からハッキングされてる事にしましょうと言って来たのじゃ!」

 

 こんな物語の終わりに、登場人物増やすなよ。

 

「急にマサフミとか知らん人の事言われても⁉︎」

 

「だって本当なんじゃもん‼︎ そうじゃったよなぁ⁉︎」

 

 神が横で正座してる側近さんに言った。

 

「はっ、そうですけど……ここは一人でヘイト被ってくれる所じゃ無いんですか⁉︎」

 

 へっ?

 

「甘えるで無い‼︎ これも修行じゃ!」

 

「まだわたくしを未熟者扱いするんですか⁉︎ 現世の勉強全然しない癖に! ハッキングとかアカバンって言葉誰に教わったか忘れたんですか⁉︎」

 

「ぬぅっ‼︎」

 

「あっ、出ましたねぇ⁉︎ ぬぅっ‼︎ が出ましたねぇ⁉︎ メミさんも気付いてましたけど、神のそれ、論破されましたって合図になってますからね!」

 

「なに⁉︎ 何故言わぬか‼︎」

 

「それで神の心中を察すモノサシにしてたんですから教える訳無いでしょ⁉︎ こっちの気苦労も分かって下さいよ‼︎」

 

「そ、そうじゃったのか……」

 

「そこはぬぅ、じゃ無いんですね? 言っときますけど、裏でぬぅっ神って呼ばれて笑われてますよ?」

 

「ぬぅっ⁉︎」

 

 てぇてぇすんなし‼︎ 争ってる様に見えてその実てぇてぇし!

 

「ちょっと、ちょっと整理させて‼︎ 側近さんは、イーグルじゃ無いの?」

 

「あれ? もう名前聞きたく無かったんじゃありませんでしたっけ?」

 

「ウザッ」

 

 何かさぁ? この人達ふざけ出してない?

 

「わたくしの名前は、マサフミです」

 

「それ私トラウマ案件だったんだけど‼︎ セルフカバーでおちょくって来られるとマジはらわた煮え繰り返んだけど⁉︎」

 

「わ、悪かった! こやつの名は、マサフミなのじゃ……」

 

「ハァッ⁉︎ めっちゃ和な名前じゃん‼︎ 格好つけんなし‼︎」

 

「お、落ち着くのじゃ‼︎」

 

「イーグルって、何だったの……?」

 

「咄嗟に出たのじゃよ。わし、一人称わしじゃろ? 英語にしてみたのじゃ」

 

 何言ってんの? わしの英語がイーグル? わし、鷲……ダジャレだったのかよくだらねぇ……

 

「それから、全ての不具合をイーグルという架空の人物に擦りつけてしまった。マサフミも、イーグル役をなかなか承認してくれはせんでな? なぁマサフミ?」

 

「しょうが無いじゃないですか? 他にイーグル役やる人居なかったんですから」

 

 そこ二人仲良く喋んなよ。何か、イライラすんだよ。

 

「擦りつけられた割には、随分良く出来たお芝居だったと思うけど? ってかあそこまでやる必要あった? 殺された精霊達は⁉︎」

 

「精霊は殺された後、アモングアスの様な形式で成り行きを見届ける仕様になっておりますよ」

 

 なにそれ? あっ、何か現世の時ユーチューブでプレイ動画見た事ある気がするな。側近さ、じゃなくてイーグル、でもなくてマサフミの言うアモングアスというゲームでは、インポスターという鬼に殺された者は、幽霊の姿になってその後のゲームの展開を見られる仕様になっている。

 

「チイナが精霊を殺したのは分かる……のか? ってか置いといて、マサフミが精霊殺すのはおかしくない⁉︎」

 

「えっ⁉︎ 呼び捨てですか⁉︎ 前までは側近さんって言ってくれてたのに‼︎ わたくしはメミさんって言ってるのに‼︎」

 

「テメェもそんな事言える立場じゃねぇんだよ‼︎ これは話し合いなんかじゃない、禊と思えこのヤロォ‼︎」

 

「フォッフォッ! 珍しく怒られておる様じゃな?」

 

 神? お前が言うな。

 

「オイ」

 

 全ての精霊からの冷たい視線が神に注がれた。

 

「へっ?」

 

 とぼけた顔をするなよ?

 

「お前は笑うな」

 

「わ、わしは、かみ…………」

 

「お前も正座をしろ」

 

「……うむ」

 

 分かってくれたみたいだ。

 

「精霊同士の争いなんて徳無精更生になんの意味も無いでしょ? マジ意味不明なんだけど?」

 

「そんな事は無いとわしは思っておる。導く者の真剣度によって、徳無精の更生は飛躍的にアップすると思ったのじゃ! 魔王を討伐と言うても、結局神様が創り出した魔王なんでしょ? みたいな心の隙を生むじゃろうが? おぬし達‼︎ 一度でもそういう思いが心をよぎらなかったと言い切れるか⁉︎」

 

 くそっ、確かにそれはあった。魔王とか言われても、どうせ神が創ったものだし、最終的にどっかのプレイヤーが倒せる様に強さが制御されてるものだと思って舐めてたのは事実だよ。

 

「わしは‼︎ 徳無精を導くおぬし達に希望を持っておった‼︎ じゃから! ……辛い思いをさせてしまったのは謝る……しかし、おぬし達に本気を出して欲しかったのじゃ。わしの思い描くこの世界のエンディングを、おぬし達に託したかったのじゃ‼︎」

 

 神は、私達の目を見ながら力説した後、頭を垂れて目を伏せて、反省している空気感を出した。

 

 精霊達の間に、戸惑いの空気が流れた。

 

「その為に、みなの者が本気を出してくれる為にわしが嫌われ者になるくらいなら、容易いものだと思ったのじゃよ……」

 

 神がもう一押しした後、許してあげても良いんじゃないか? みたいな空気になってた。周りの精霊の子達は、現世で徳を積んできた人達だから、悪人に対して寛容過ぎるんだよね。

 

 でも私は見逃さなかった。神は、上手く言いくるめられたかな? みたいな感じでチラッとこっちを見て、私と目が合いそうになってヤベッみたいなリアクションをしてまた目を伏せたのだ。

 

 計算の上でやってんなジジイ⁉︎ ってか周りにジジイの姿の人がいないのも効いてんだよね。寄ってたかってお爺さんをいじめてる、みたいな自責の念に駆られて来るんだよ。精霊になってすぐ、何故神はお爺さんの姿なのか聞いた時は、この方が威厳があるからとか言ってたけど、こうなった時に同情を誘いやすくする為でもあったんじゃないかとさえ思えて来る。しかも、やたらと私が攻撃口調で喋ってしまった為、あの子言い過ぎじゃない? みたいな空気になっていってる……罠だったのか⁉︎ しまいに私は、お爺さんに無理矢理正座までさせてしまっていたのだ‼︎

 

 これ以上言うと、私がみんなからハブられかねないな……

 

「わ、分かったよ。神? 顔上げて?」

 

 神は、急に小刻みに震え出し、少しだけ顔を上げて言った。

 

「許して、くれるのか? そんな筈、無いじゃろうな……」

 

 白々しいんだよ‼︎ 揺れ始めたの何? 泣いとる演技でも入れてみるかのう? って事か⁉︎ 何か腹立つなぁ! まぁ私も自分の保身に走り始めてる部分あるから何とも言えないんだけど……

 

 ってか、私達の本気を引き出す為って言葉は嘘じゃ無いと思うから。だってわざわざ、後からみんなに非難される事したのはそういう事だと思うから、丸く収めてあげるよ。でもさ?

 

「神? マサフミ? それでもさ……イーグルとして精霊を殺す必要なんてあったの?」

 

 それは、絶対おかしいよ。マジ、トラウマなんだよ。

 

「神は、今回の世界ではみんな全滅して、コンティニューで二周目の世界でのクリアを理想としていたのです」

 

「はっ?」

 

「マサフミ⁉︎ 切り抜けられそうだったのじゃからわざわざ言うな!」

 

 神? 声に出してんぞ? 詰めが甘いんだよ。

 

「もう正直に言ってしまった方が良いんですよ! ってか分かってますか? 精霊を……仲間を……この手で殺したわたくしの気持ちが、分かるんですか⁉︎」

 

 うん……なんだろうな? 今度はマサフミが嘘臭くなって来た。アヤト君の特殊能力が私にも伝染したか?

 

「いや、まぁ……殺した様な描写ではあるが、実際に殺した訳では無いのだから! おぬしは分かっておったじゃろ!」

 

「分かっていても……辛かったんです。ワートリの千佳がトリオンで人を撃て無かったのと同じ様な感覚です……」

 

 ワートリ⁉︎ しかも千佳のジレンマまでちゃんと知ってる‼︎

 

「何じゃワートリとは? 大江アナが出とるニュース番組の略称か?」

 

 それはワールドビジネスサテライトだから。どう略せばワートリになるんだよ? ってか何でそれは知ってんだよ⁉︎

 

「ワールドトリガーを知らないんですか⁉︎ まさか、エヴァも、まどマギも、とらドラも、ひぐらしのなく頃にも、凪のあすからも、ヴァイオレットエヴァーガーデンも、化物語シリーズも、らき☆すたすらも知らないんですか⁉︎」

 

「暗号か何かか⁉︎ 訳分からん事を言うでない‼︎」

 

 はっ? 過去の名作達のタイトルが、訳分からん事だと?

 

「わたくしは‼︎ 現世の調査の時に観るアニメが、大好きでした……神は、そんなわたくしが大好きなアニメを罵れと……低俗な娯楽とメミさんに言えと! 強要したのです……」

 

 神、お前だったのか? 私が大好きだったアニメを、低俗な娯楽と言ったのはお前だったのか⁉︎

 

 私は頭に血が上ってしまっていた。

 

「へっ? 何の事?」

 

「謝れジジイこの野郎‼︎」

 

「何の事じゃ⁉︎」

 

「クククッ」

 

 怒り、荒れ狂う私を周りの精霊が抑え込み、もういいですから、みたいな感じになって、神とマサフミの禊は幕を閉じた。

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