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傍から見守り導く生活  作者: 藤沢凪
第二章 『仲間を見つけよ』
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6  RPGの主人公

 6  RPGの主人公

 

 

「き、君は、何をしにこんな所に来たの?」

 

 アヤト君は、突如現れた謎の男に質問した。

 

「何って、この野犬の群れを討伐しに来たんだよ! お前もそうだろ?」

 

 ザリガニは、これでもかって程ヒールに見えた。

 

「僕は、違う。ヨルシゲに来て欲しいって言われて来たんだ。もしかして、君がピンチだと知ってここまで連れて来たのかもしれない! 君、ヨルシゲを知ってるかい?」

 

「ヨルシゲ?」

 

「呼び名が違うのかもしれないな。ライオンの様な見た目で、凄く大きくて、身体中に大きな傷痕がある魔獣なのだけど?」

 

「魔獣? 魔獣が来て欲しいって言っただと? お前何言ってんだよ?」

 

「だ、だから、その……」

 

 アヤト君は、こういう会話苦手だろうな。

 

「妄想癖でもあんのか?」

 

「ち、違う! ヨルシゲは、僕の友達なんだ!」

 

「はっ? 討伐対象の魔獣と友達って、何夢見てんだよお前?」

 

 アヤト君は、何か言い返そうとしたのだろう。口を少し開いたのだが、一度閉じた。そして、野犬の群れに視線を戻してから言った。

 

「それなら君と話す事など何も無い。怪我してるじゃないか。早くこの森から出るんだ」

 

「はぁっ? 何言ってんだよ! お前クエスト報酬一人占めする気だな? オイラが先に見つけた獲物だぞ! 横取りすんじゃねぇよ!」

 

「クエスト報酬? 何言ってるんだ! そんなのどうでもいいから逃げろって言っているんだよ!」

 

「偉そうに言いやがって! オイラがこの野犬ども薙ぎ払ってやるから、お前は空想で創りあげた魔獣ちゃんとおままごとでもしてろや!」

 

 あぁ……コイツは確かに徳無精だったって分かるわ。ナキはなんだかんだ真面目だし、苦言を呈するのは間違ってたな。

 

「薙ぎ払う? クエスト報酬だとか、自分の獲物だとか、君は一体、ここまで何をしに来たの?」

 

「おーこれこれ。こんな所に落ちてたか! あっ? 何しに来たって? この可愛いわんちゃん達を全滅させに来たんだよ!」

 

 ザリガニは、落ちていたこんぼうの様な物を拾い上げながら言った。そのこんぼうには、血がベットリと張り付いていた。

 

「お、お前……そ、その血はっ⁉︎」

 

「あぁぁあ? ワンちゃんの血だよぉっ‼︎ 二、三匹はぶっ殺してやったんだぜ!」

 

「う、うぅ……」

 

 あ、アヤト君、苦しそう……

 クエストに出されてるって事は、この野犬達も何かしらの悪さをした設定なのだろうけれども、それでも君は、その尊い命が奪われた事が、悲しいんだね。

 君はとても、優しいから。

 

「どぉしたぁー! 泣いてんのか? やっと俺の強さに慄いたかぁー⁉︎」

 

 それは、絶対違う。

 

「ねぇナキ? 今こうやって二人見比べてみて、どっちがRPGの主人公になりえるかなぁ?」

 

 ナキは両手で顔を覆っていた、でも、耳が真っ赤に染まっていた。きっと、恥ずかしいのだろう。

 

「僕は、お前を許さない」

 

 アヤト君の顔は、怒りで満ちていた。

 

「な、何言ってやがる? 俺の狩りに協力するのなら、報酬を少し分けてやってもいいんだぞ? 手を組むラストチャンスだ! さぁどうする⁉︎」

 

「ふざけるな‼︎ 誰がお前なんかと組むものか! お前がまだこの子達を痛め付けると言うのなら、僕がこの子達の代わりにお前と戦う! お前が負けたら、二度とここに来ないと誓え!」

 

 アヤト君は、ザリガニを睨み付けた。

 

「あ、あ、あぁぁあ⁉︎ お前、頭イカレてんのかよ⁉︎ なんでワンちゃんに肩入れしてんの? マジ謎なんだけど? 黙ってオイラの言う事聞いてろよ!」

 

「もういい。喋らなくていい。かかって来いよ」

 

 えぇぇぇぇぇっ⁉︎ そんな一面あるの⁉︎ 君! 本当どんな理由で徳無精なったの⁉︎

 

「な、なんだよお前? 人間様と畜生と、どっちが大事なんだよ? アイツ等単純なんだぜ! へへっ、オゥラッ!」

 

 ザリガニは、足元にあった野球ボール程のサイズの石を拾い上げ、野犬の群れに放った。

 

「お前! 何を⁉︎」

 

 その石は、群れの最前列に居た野犬のこめかみに当たった。

 

「あっ」

 

 ザリガニが声を漏らした。

 

 その野犬は、衝撃で後ろになだれた頭をゆっくりと項垂れると、誰の目にも明らかな敵意の眼でこちらを睨み付け、鋭い牙を晒しながら駆け出して来た。

 

「ウワァァァァァァァァァァァァアッ‼︎」

 

 また声揃っちゃった。今回は三人の声。ってか、おかしくない? 私とナキと、ザリガニの声が揃ったんだけど? ザリガニよ、こうなったのはお前の責任なんだけど⁉︎

 

「逃げろ‼︎」

 

 そう言うとアヤト君は、ザリガニの前に立ちはだかり、両手を広げた。

 

「えっ、なんで?」

 

 ナキが言った。

 

「そういう子なんだよ、アヤト君は」

 

 私は、諦めに似た深い溜息をついた。

 

「い、ヒィィィイッ!」

 

 えぇぇっ⁉︎ ザリガニめっちゃビビってんだけど?

 

「ゴメンなさい。怒りを、鎮めてくれないかな?」

 

 アヤト君が言った。その野犬は少し戸惑っていた様に見えた。その刹那、野犬の群れが狂おしい程にざわめき出した。

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