31 竜魔王討伐戦⑱ わたし達の求める未来
31 竜魔王討伐戦⑱ わたし達の求める未来
この戦場に、雨がポツポツと降り始めた。勝敗は決した筈なのに、なんか、悪い事をしている気分になってくる。
「おかぁさんを……いじめないで……」
はっ⁉︎ なんだ? イーグルだ。マインドブレイクの中で、一体何を見ている? ガッチリ固められていたオールバッグは崩れ、眼鏡は耳から外れ地面に転がっている。こんな姿の側近さん、当たり前だけど、初めて見た。
「大体の流れは分かった。それじゃあコイツにとどめを刺せば、あたし達の勝ちは揺るがないって事だね?」
えっ? ナキ? 何を方向性決めてくれてんの? そんな単純な話しじゃ無いから。
「そうですね。竜魔王もなんとかなると思いますし」
えっ? ミーヤ?
「許せねぇ。まずボッコボコにしてやんねぇと!」
マイ? そうだよね! まずは鉄拳制裁、その後話しを聞いて——
「要らないです。今すぐ殺しましょう」
リナ…………?
「ちょ、ちょっと待って‼︎ マジで、ちょっと、待って?」
本能で割り込んでしまった為に、発する言葉はしどろもどろになってしまった。
「何よメミ? まだ不安材料あるって言うの?」
そうだ! 不安材料さえあれば、流れを変えれる! 流れを変える? 何でそうしたいの? 私、何言ってる?
「不安材料……無い……けど、待ってよ……」
「はっ? いつ目覚めるか分かんねぇんだぞ? あんたの意味分かんないのに時間使って、イーグル復活して皆殺しになったら、責任取れんのかよ⁉︎」
「取れない……」
「じゃあ、納得してくれるよね?」
「……出来ない」
「お前何がしてぇんだよ⁉︎」
「ナキチ! そういう言葉使いやめてって言いましたよね⁉︎」
「……ごめん」
「でも、みぃにも分かりかねます。メミチ? 理由を、言ってくれますか?」
「理由とかじゃ、無くて……なんというか、もう、勝敗は決まった訳じゃん? もう一度イーグルと話したら、とか、思ったんだけど……」
「理由がねぇでんな事言ってんのかよ⁉︎ まだあたし達の知らねぇ魔法があるかもしれねぇんだぞ⁉︎ 状況分かってんのかテメェ⁉︎」
「ナキチ‼︎」
「私は‼︎ ……イーグルの……話しを、聞きたい」
「メミっち、話しって?」
「なんで、こんな事をしようってなったのかとか……」
「メミ? あんた、それリナの目を見て言えるか?」
「…………」
「殺されたんだぞ? レイナ、ミナ、ナナは殺されたんだぞ⁉︎ それでもそんな浮ついたセリフ、リナの目を見て言えんのかよ⁉︎」
「それは……」
「言え無いんじゃん!」
「私はただ……」
「ただなんだよ⁉︎ リナの気持ちも考えてやれよ‼︎」
一人ぼっちになってしまった。何かこの状況見た事あるな? どこでだろう……
あっ、アヤト君と同じなんだ。私も、竜魔王は討伐出来る時に討伐した方が良いって思ってたのに、思い通りに動いてくれないんだもんな。アヤト君は、一人ぼっちになっても、それでも戦ってる。どうしても、譲れないんだね? 私もそうなんだ。ちゃんと、側近さんの話しを聞きたい。でも、私が竜魔王討伐に賛成な様に、君も、全ての話しを見ていたら、側近さんを殺すのが正しいと言うのかな? いや、何があっても、君はそんな事言わない。
ごめんね。私も、君のその決意をもう、否定したりしない。
「聞きたいの。イーグル……側近さんの話しを聞いてあげたいの‼︎」
「はぁっ⁉︎ 今更何聞くんだよ‼︎」
「何があって、こんな事をしようと思ったのか。聞きたいの‼︎」
「聞いてどうすんだよ? お前の自己満足だろうが⁉︎」
「そうだよ‼︎ 本当は、悪い人じゃ無いんだよ。話せば……」
「分かってくれるってか? 殺された精霊は? レイナ、ミナ、ナナは戻って来ねぇんだぞ⁉︎」
「やめてくださいよ‼︎」
…………
「リナ………?」
「レイナと、ミナと、ナナが可哀想だよ……」
暫くの静寂を迎えたのだが、誰も、言葉を挟む事などしなかった。
「みんな、とっても優しくて、誰かを恨んだりする様な子達じゃ無い。争いの種になんかされたく無いだろうし、させたく無い」
「あたし……ごめん。そういうつもりじゃ無かったんだけど……」
「わたし、総司令を信じます!」
「リナ……」
「総司令にはきっと、考えがあるんです! みんな、総司令の事大好きでした。わたしだけ、総司令にいっぱい構ってもらってるから、嫌味ばっかり言って来るんです。だからきっと、みんな総司令の役に立ちたいと願ってる。自分達のせいで、総司令の作戦を実行出来ないなんて嫌だと思うんです!」
「あの……リナ? 私、何も、作戦なんて——」
「言わないでください‼︎ それでも、信じてるんです。きっと、総司令の願う場所に、わたし達の求める未来があるんだって、思うんです。奇跡が起こる夢を、総司令はいつも見せてくれるんですよ?」
「最後の最後、奇跡に掛けんのかよ……」
「ナキチ……?」
「分かったよ‼︎ あと、メミがどんだけみんなに信頼されてるかってのが分かったよ。あたしは、誰からもそんな風には言ってもらえないよ。メミが他の人の為に尽くして来た分が、そうやって返って来てんだろうね」
「そんな……」
間違っているかもしれないのは分かってる。でも、どうしても……
「でもメミチ? イーグルは素直に話し合いなんてしてくれますかね?」
「今、話し掛けてみよう」
「えっ?」
地面に肘を突き項垂れているイーグルの肩に手を置き、話し掛けた。
「辛い事が、あったの?」
「……だれ?」
側近さんはか細い声で、前髪で目線を隠し、警戒しながら聞いて来た。
「あなたの話しを聞きたいの」
「……嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、アァァァァァァァァァァァアッ‼︎」
「どうしたの⁉︎ 怖がらないで?」
「また、そうやってお母さんを騙すんだ。お母さんに近寄るなァ‼︎」
側近さんは、雨で湿った地面を両手で何度も殴り叫んでいた。