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傍から見守り導く生活  作者: 藤沢凪
第二章 『仲間を見つけよ』
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5  ザリガニ

 5  ザリガニ

 

 

「どーすんの⁉︎ もう逃げる術無いよ?」

 

 ナキは私を責めた。とんだお門違いだ。

 

「ナキには関係無いじゃん! ピンチなのは私のパートナーなんだし!」

 

 ナキは私に近付いて、思い切り私の頬をひっぱたいた。

 

「ここまであんたがしてくれたのに、関係無い訳無いでしょ! これであんたのパートナーが死んで、あたしとあたしのパートナーが上手い事生き残れたって、正常な精神でクエストを進めて行く事なんて出来無いよ!」

 

 その言葉はとても胸に刺さった。のだが、頬をひっぱたく程の事か? と思った。私の穿った考え方なのかもしれないが、さっき私がひっぱたいた事への報復なんじゃないかと思ってしまった。

 

「ありがとう。そして、痛かったよ」

 

 考え過ぎかなぁ。でも、皮肉を込めてそんな言葉をナキに送った。

 

「そんな事より、どうしよう?」

 

 あっ、話題変えた。私の頬が痛いのは、そんな事よりで済まされてしまった。

 

「あれ? 野犬の群れ、なかなか襲って来ないね?」

 

 ナキとのしょうもない会話の途中にでも、アヤト君を噛み殺せる暇があった筈だ。

 でも、野犬達は近付いて来ない。一定の距離を保って、戸惑っている様にさえ見える。

 

「どういう事? 確かにさっき襲って来た野犬が宙に浮いた時は、野犬達もびびってる感じしたけど」

 

「そうか! ヨルシゲのおかげだ! ヨルシゲが圧倒的な強さを見せた後に、アヤト君の言葉で、ヨルシゲが野犬を殺すのを見逃したおかげで、アヤト君に恩が出来てしまったんだ! 言葉は分からなくても、その事を理解してくれたんだ!」

 

「そんな事ある? そのヨルシゲがよく分かんないけど、野犬の群れだよ? そんな知性あるのかな?」

 

「知性っていうより掟みたいな? 強いモノに従うって感じ? 圧倒的な強さのヨルシゲを従えてるアヤト君は、今、野犬達にとって脅威なんじゃないかな?」

 

「そんなもんかねぇ? ってか野犬にはそのヨルシゲっての見えてるの?」

 

「さぁ? 精霊が創り出した獣じゃ無いから、見えてるんじゃない?」

 

「だとしたら、もう、襲って来る事は無いのかな?」

 

「アヤト君の声で仲間が一匹助かったんだよ? そんな恩人のアヤト君を、殺すのを躊躇ってるのもあるんじゃないかな?」

 

「そんな事、あるのかなぁ?」

 

 ナキはそう言ったけど、いつまでも野犬の群れは、こちらに襲い掛かって来る気配が無かった。

 

「あっ、ってか、MP大丈夫なの?」

 

「あっ、あぁぁぁぁあ! 何か色々あって忘れてたし! 絶対もう追放になってるよ……」

 

「追放だったらもうここに居ないんじゃないの? 誰かに連れて行かれるシステムなの?」

 

「知らんし。追放された事なんて無いんだから」

 

「でも私一瞬アヤト君に傍に居るのバレそうになった時、身体が透けたんだよね。多分、追放でも同じ様にその場から消えてしまうと思うんだけど?」

 

「そうなの? でも、残りMPゼロのままだし、分かんないよ」

 

 ナキが携帯を開いて言った。

 

「ねぇ! パートナーの位置検索してみなよ!」

 

「えっ?」

 

 ナキは携帯のマップのアプリを開いた。

 

「どう?」

 

「めっちゃここら辺に居るんだけど?」

 

「ビンゴ!」

 

 猛スピードで、ヨルシゲにしがみ付きながらここまで来てしまったが故に、ナキのパートナーが何処に居るのかの確認が疎かになっていた。

 ナキのパートナーは、近くに居た。

 

「えっ! ど、何処っ! ユウヤ君‼︎」

 

 辺りを見回してみたのだが、人が居ない。

 

「細かい位置までは分かんないか?」

 

「分かんない。めっちゃアバウトこのアプリ!」

 

 即席のアプリに、そこまで精密な機能など付いてないか。携帯からの情報は諦め、辺りを探しまわった。すると、葉っぱに埋もれた物体を発見した。

 

「あぁぁぁぁぁあ‼︎ 何か居る! 何か居るよここー!」

 

「本当にー⁉︎」

 

 小学生の頃、近くの川に友達と行って、ザリガニを見つけた時の事をその時思い出してしまった。

 

「ほらっ! ここ! ここ!」

 

 私は、私が一番に見つけられた事が嬉しくて、友達に誇らしげに言ったんだ。

 

「本当だー! お手柄だよメミ!」

 

 友達も私を褒めてくれた。

 

「へへーん!」

 

 良い気になっていた。でも、ザリガニを一番に見つけられた事は、その当時、それ程までに価値のある事だった。

 

「あっ、でも、めっちゃ弱ってる。このままじゃ、死んでしまうよ……」

 

「へっ! せっかく見つけたのに……」

 

「ユウヤ君、苦しそう……」

 

「えぇーーい!」

 

 私は、MPを使って、その子の痛みを和らげてあげた。

 

「ちょ、ちょっとメミ! 良いの⁉︎ MPもうあんま無かった筈なのに!」

 

 本当は、パートナーのアヤト君の為にMPを残しておくべきなのに、そのザリ……じゃ無くて、ナキのパートナーのユウヤ君の為に使ってしまった。

 

「私も、何してんだろって思うよ。アヤト君と、自分の為に残しておくべきだと分かってた筈なの。でも、目の前で苦しんでるザリガ……じゃ無くて人が居たら、助けてあげたくなっちゃったんだよ!」

 

 数秒の静寂が流れた。その静寂を破り、ナキは言った。

 

「ザリガ、って、何? でも、あたしのパートナーの痛みを和らげてくれて、ありがとう」

 

「この窮地を、乗り越えてやろうよ!」

 

「いや、ザリガってなんなのか聞いてないし。言わないんだ? ザリガニの事だったんだよね? 何であたしのパートナーがザリガニな訳⁉︎」

 

「あっ! 立ち上がるよ!」

 

「ねぇ? ザリガニってなんなの?」

 

 ナキはしつこかった。自分のパートナーの事より、パートナーがザリガニ扱いされた事の方が気になっていたらしい。

 

「アァァッ! もうなんなのコレ⁉︎ 魔獣討伐した時は余裕だったのに、手も足も出ねぇし痛ぇし、もう帰りてぇよ!」

 

 えっ? 何か想像してたのと違うなユウヤ君。もう既に、ザコ感出てるよ?

 

「えっ⁉︎ 君は?」

 

 アヤト君は、突如現れたザリガニに驚いていた。

 

「はっ! 増援か! やっぱりオイラは神の御加護を受けているんだ! さっきはよくもやってくれたなぁ! お前等全滅だぁー!」

 

 二回喋っただけで、良識の無さが窺えた。

 

「ねぇナキ? あんた、パートナー甘やかし過ぎてんじゃない?」

 

 監督不行き届きを申し入れた。

 

「そ、それは……」

 

 ナキは言い返せなかった。


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