21 竜魔王討伐戦⑧ 諦める訳にはいかない
21 竜魔王討伐戦⑧ 諦める訳にはいかない
「ヤバッ、みんなが‼︎」
イーグルの気を逸らす為だったのだが、アヤト君達もマジで危ない状況だった。
「ふんっ、ふんっ、ふんっ!」
地上に降りた竜魔王が、ルナを何回も踏み潰していた。
「ルナの殺し方を分かっていないのか?」
イーグルが言った。あちらに気を向けてくれたのは幸いだったが、ルナが、みんなが危ない。
「……お願いします。今ならまだ、間に合います。みんなと、ルナ達と、仲良くしましょう?」
いくら踏みにじられても、ルナの信念は変わらなかった。プランAは、竜魔王と話し合いをして、和解する作戦だった。もうその作戦は破綻してるんだよ? それでもルナは、アヤト君を信じるんだね。
「いくら踏んでも、潰しても無駄か。それなら、心を、折れば良い」
「えっ?」
竜魔王がルナから離れ、近くに居たルイに向かって行く。
「やめて‼︎ ノエルに、顔向け出来なくなる……」
ノエルや、ユウヤやユキナ、ゴロウリッカも、勿論戦闘準備をしていた。サブ報酬で手に入れていた打ち上げ花火をアヤト君達、先発組は持っていて、それを上げる事が後発組の突撃の合図だった。しかし、誰も打ち上げなかった。竜魔王は、規格外過ぎた。サブ報酬で武装した者以外を、この戦場に立ち入らせる訳にはいかなかった。
「ハハッ、そう来るか? 分かった。正々堂々戦おうよ!」
「悪いが、一瞬だ」
ルイと竜魔王が対峙した。ルナが、竜魔王の足元にしがみつき、対話を求めた。
「やめて‼︎ やめて下さい……大切な人を失う悲しみを、分かって下さい。彼には、大切な人が居る、彼の事を大切に想っている人が居るんです! お願いします……」
「悪いが、私には誰も居ないからな。その気持ちを、分かってやれる事は無い」
「ルナ、ありがとう。来い! 竜魔王‼︎」
「そんな……イヤァァァァァァァァアッ!」
竜魔王の右の拳が、ルイを叩き潰した。
「次はお前だ」
すぐ近くに、裂けた地面に足が挟まっているトキオが居た。
「トキオ! 逃げて……」
「ルナ? 優しいんだな? 大丈夫。アヤトがなんとかしてくれる」
「トキオォォオッ⁉︎」
竜魔王の火焔がトキオを呑み込んだ。トキオは、炎耐性の防具を持っていない。
「さて、次は誰を殺すか?」
「何が楽しいんですか? こんな事の、何があなたは楽しいんですか⁉︎」
「我が種族が生き残る為、他の種族を壊滅させる事を楽しいと思う様に、本能に刻み込まれているのだろうな」
「……そんな筈無い。例えばアヤトは、あなたを殺しても喜んだりしない。作戦を立てていた時も、ずっとあなたが生き残る策が無いか考えていた」
「生き残る事を真剣に考えていない結果がこれだ。生温い。その程度の決意でこの場に来るから、お前達は全滅するのだ」
「アヤトは、間違って無い……」
「次はアヤトを殺すか。そろそろ遊びにも飽きた」
「やめてよ……お願いだから‼︎」
その時、遠くから何かの大群が迫って来ているのが見えた。あれは……でも、合図は誰も鳴らさなかったのに!
「みんな、無事かぁァァァァァッ⁉︎」
「いつまで待たせんだ! 自分達だけで決着付け様とすんなよ‼︎」
ユウヤとユキナが、マモル達を大量に引き連れ、野犬の背に乗り突っ込んで来た。
「駄目です! みんな、死んでしまいます……」
ルナの声は、きっとみんなには届かない。
「ほぉう、一網打尽にしてくれよう!」
竜魔王が頬を膨らませた。
「やめて‼︎」
「ンッ! ヴァァァァァァァァアッ‼︎」
竜魔王の口から勢いよく上空へ放たれた火焔玉が、弧を描き、ユウヤとユキナの手前に落下した。爆発したかの様に光は広がり、野犬の背に乗っていたプレイヤー達は吹き飛ばされた。
「クゥアッハハハ‼︎ 雑魚がいくら集まっても、所詮この程度。んっ?」
火焔を抜けて、こちらへ向かって来る猛者が居る。
「ユキナ! 野犬達が炎を避けてくれたから助かったが、吹き飛ばされた時に怪我を負ってるっぽい!」
ユウヤが走りながらユキナに伝えた。
「チクショォォォォッ‼︎ 野犬達や怪我してる奴の手当てでお前らは残れ! ワタシ達は、白兵戦で竜魔王の首を狙うぞ‼︎」
「オゥレも、じっとしてらんねぇんっす‼︎」
「ルイ様! アタシも戦います‼︎」
マモルとノエルも二人に続いた。合図が無くても、勝ち目の薄い戦いでも、みんな、諦める訳にはいかなかったんだ。