19 竜魔王討伐戦⑥ 正しい事
19 竜魔王討伐戦⑥ 正しい事
二人の武器も無くした場所が分かっていたので、マモル達に取りに行ってもらっていた。
「ハァ、ハァ、クァハハ、その程度の武器で、この竜魔王が倒せると思ったか?」
「へへっ、俺達二人が揃った時の強さは——」
「時間稼ぎだ! トキオ、竜魔王が息を切らしてる間に、有利を作るぞ!」
「えっ? あぁ、そうだな」
何か、トキオがエモい事言おうとしたのにルイがはしょった‼︎
「オリャァァア‼︎」
「ヤァァァァア‼︎」
「ハァハァ、チッ、クソッ‼︎」
トキオとルイの太刀が竜魔王を刻んだ。幾太刀かの攻撃を耐え忍んだ後、竜魔王は堪らず漆黒の羽を広げ、大空へ回避した。
「まさか、ルイまで蘇生させるとは……よく味方する気にさせましたね」
イーグルが話し掛けて来た。
「自分で蒔いた種だよ! 記憶を解放させた事で、ルイは現世で徳を積んだ記憶が蘇ったのだから」
「そういう事ですか。まぁ誰が蘇ろうと、わたくし達に勝てる筈はありません」
「何余裕ぶっこいてんの? 次、あなたが追い詰められる番だから!」
「クククッ、強がるのは止めて下さい。わたくしが、何故だらだらあなたとお話ししたか気付いてます?」
気付いて! いる様な、いない様な……
「理由があるって事?」
「あなた達が使ったカーテンという魔法。あれ、持続時間があるんです。そして、切れてすぐカーテンを掛ける事は出来ない。知ってました?」
知らなかった。
「膠着状態を長引かせて、持続時間を越えようとした訳だ?」
「わたくしは、あなた達にカーテンで不意を突かれた後、一つの疑念を浮かべました」
「なに?」
「何故、一気にカーテンを解いたのか?」
「それは、あなたを捉える為……」
「あの状況だと、そんな一斉にカーテンを解いて襲い掛かっても、混雑して半分はなんの仕事も出来ません。違います?」
「あれで最後だと思ったから、全勢力を注ぎ込んだんだよ!」
「愚かな……兵を分割させる程度の頭も無いという事だったのですか? もうカーテンで隠れている精霊はゼロ確定。策は尽きたと思って良いですか?」
「それを危惧してたんだ? 仲良く喋ってくれてると思ったら、そんなこすい事考えてたんだね?」
「仲良く喋ってると思ってたんですか? 滑稽ですよね、その相手に殺されるなんて」
「滑稽? そんな事が面白いの? 私は、なんにも笑えない」
「死の恐怖に、頭が支配されているのでしょうね?」
「はぁっ? あんたバカァ? これであんたが、人の心を読み取れる能力なんてもんが無い事が確定したよ!」
「クゥックク、それなら手足だけでももいであげましょう! 死なない程度に、痛め付けてあげますよ‼︎」
「ヤバッ‼︎ 今だ! 頼んだよ‼︎」
私の号令を聞き、カメレオンブランケットを脱いだ精霊達はイーグルに駆け寄り、羽交い締めにした。
「どういう事だ⁉︎」
「縄で駄目なら、精霊の手で抑え込むしかないじゃん?」
「わたくしが聞きたいのは、そんな事じゃないんです」
「あなたの言った通り、兵を分割してたの。カーテン組とカメレオンブランケット組で。カーテン組を多くしたのは、さすがにこれ以上味方の精霊いないだろうと思わせる為」
私達の策は、これで出し切った。そして最後に、イーグルを出し抜けた。
「カメレオンブランケットは、精霊にも使えるという事ですか?」
「そう。前に、サブ報酬で双眼鏡があったらしいの。本来プレイヤーが使う筈のサブ報酬が、精霊の手に渡り、それを有効に使っている仲間の姿を見て、この策を思い付いた」
「サブ報酬は精霊も使える? そんな馬鹿な話しが……」
「あったんだなぁこれが! ってか、今まで散々出て来た、ミオナさんが歯に仕込んだりしてたアカミナの花だって、本来クエストのサブ報酬だからね! まぁ、精霊には効かないけど」
「確かにそうですね……」
本当に、これで終わりなのか? 心が、ざわつくんだよ!
アヤト君達の戦場も、流れが変わろうとしていた。竜魔王が上空から、火焔のつぶてを吐き散らかしていた。
「チッ、厄介だなアレ!」
「ルナから手を離さないで下さい! 火焔なら、ルナの絶対防御で守れます!」
炎耐性の防具を付けていないルイとトキオは、ルナの肩に手を置き、竜魔王の火焔を凌いでいた。
無駄な事を悟ったのか? 竜魔王は攻撃を止め、上空に留まった。
「メミ? もしかしてこれ……」
「終わった? 勝った、んですかね?」
私は返事をしなかった。これで終わり、であって欲しい。でも、どうしても胸が騒ぐんだよ。女の勘ってやつかな……?
「いやーやられましたね。どうです? 今の気分は?」
羽交い締めにされたイーグルが喋り掛けて来た。
「……策を、焦り過ぎた気がする」
「と、言いますと?」
「まだ、あなたが縄から抜けたトリックを解読出来て無い。もう少し待つべきだった。せめて、そのカラクリが分かるまでは」
「待つべきだったって? メミあんた! 手足を失いかけてたのよ⁉︎」
「ナキ? あれはブラフだったのかもしれないし、それに、たとえ私が手足を失ったとしても、そのカラクリを解く方が大事だったんだ」
「そんな……間違ってます。仲間が傷付けられるのを、黙って見てた方が良かったなんて、正しい筈ありません‼︎」
「ミーヤ……」
「あながち間違いじゃ無いと思いますよ? わたくしを殺せればあなた方の勝ち、あなた方を皆殺しに出来ればわたくしの勝ち。最後残った方の策が、正しかったと言えるでしょう!」
イーグルの言葉へ返す言葉を選んでいると、その背後から、青白い顔をしたリナが姿を現した。
「リナ? どうしたの?」
「そ、総司令……これって?」
レイナとミナとナナが、何かを引きずって来る。
「それは……」
それは、縄に括り付けられたイーグルだった。
「何これ? どういう事⁉︎」
「イーグルが、二人……」
「クククッ」
二人のイーグルが、気味の悪い笑みを浮かべた。