3 ヨルシゲ
3 ヨルシゲ
ヨルシゲに連れて行ってもらえれば、きっとMPが尽きる前にナキのパートナーの所まで辿り着く筈だ!
ただ、どうやって導けばいいものか……
「ヨルシゲって何?」
ナキが聞いて来た。
「あそこに居る魔獣だよ」
「魔獣? 何処にそんなの居るの?」
「何言ってるの? あそこに男の子居るでしょ? その子と戯れてる魔獣がヨルシゲだよ」
「魔獣? アタシには、男の子が一人で動き回ってる様にしか見えないんだけど?」
「あっ……」
そうか! 他の精霊が創り出した魔獣はそのパートナーにしか見えないんだった!
討伐するのが目的のクエストだったのだから、まさか神も魔獣と友達になるなんて思って無いから、その仕様のままなんだ!
ヨルシゲは、私とアヤト君にしか見えていないんだ。
「ね、ねぇ? ヨルシゲってなに? アタシ、可能性薄くても走ろうと思うんだ」
「へっ?」
「あんたの言葉、その通りだって思った。だから、言い返せなかった。恥ずかしい終わり方したく無い! アタシ、走るよ!」
えぇーっ! だって間に合わないんでしょ? 精神論もいいけど、現実を見ようよ……
「ちょっと待って! 今ヨルシゲに交渉してみるから!」
「だからヨルシゲってなんなの⁉︎」
説明する時間も惜しい! 私はヨルシゲに近付き、声を掛けてみた。
「ね、ねぇっ? ヨルシゲ君! 私達を乗せて、森の中へ入ってくれないかな?」
私の声は、ヨルシゲに届くのかな? 私とも干渉しない様だったら、諦めて走った方がまだ可能性がある。
「バウッ?」
完全にこっち向いてリアクションした! 私の声は届くんだ!
「お願いヨルシゲ! 助けて!」
「バウゥゥゥゥ?」
ヨルシゲは、天を仰いで、どうしよっかなぁ? みたいなリアクションを見せた。私が生みの親なのに、完全に差し置いてやがる!
「もぉー! 時間無いのに! ねぇナキ? パートナーと連絡取る方法ってパソコンしか無いの?」
「あるけど、今それ必要?」
「必要だから言ってるの! 早く!」
「精霊が創った村人のセリフをMPを使って一時的に変える事が出来るんだよ。それで自分の思う方に導くって方法」
「村人、か……」
魔獣なんだけど。でも精霊が創り出したのだから、もしかすると……
私は手をヨルシゲに翳し、言葉を念じた。
「アヤト君、私の背に乗れ。連れて行きたい場所があるのだ」
ヨルシゲが喋った! やった! 成功だ!
「えぇっ⁉︎ 何も無い所から声聞こえたんだけど⁉︎」
それはナキにも聞こえるのか? 説明めんどいから無視しとこう!
「バウバウバウバウゥゥゥゥ?」
ヨルシゲは、己の口から勝手に出た言葉に困惑していた。
「ヨ、ヨルシゲが、喋った!」
アヤト君がびっくりしてる! あぁーーもぉ急いでんのよ! 早く背に乗ってくんないかなぁ?
私はまたヨルシゲに右手を翳した。
「話しは後だ! 早く背に乗れ!」
ヨルシゲはキョロキョロしながら言った。
「分かった! 君の頼みなら!」
アヤト君がヨルシゲの背に乗った。私はナキの手を取り、ヨルシゲの背に座らせ、その後ろに私も跨った。
でも、全く動かない。そりゃそうか。何処に行けばいいか分かんないもんね。
ヨルシゲに手を翳した。
「アヤト君、私に命令してくれ! 森の中へ真っ直ぐ進めと私に命令してくれ! そうすれば、えーっと、やる気が出るんだ!」
「そうなの? 分かった! ヨルシゲ! 森の中へ進め!」
ヨルシゲは全速力で森の中へと駆け出した。
チラッと私を見て、ニヤッとした様に見えた。そう、私は分かっていた。
ヨルシゲも分かっていた。私が勝手に言葉を喋らせている事に。ヨルシゲは私の言葉だけじゃ動かない。でも、アヤト君に言わせた事で無下に出来なくなってしまった。
そして、本心では無いにしても、私を介す事で、アヤト君と会話が出来ると知った。だから、今回はお前の思い通りに動いてやるよという笑みだった。
「なんなの! めっちゃ早いし宙に浮いてるし! 訳分かんないよ! あっ、や、ヤバッ‼︎ もう、MPゼロだよぉ!」
ナキが叫んだ。
「それを下回るまでが勝負だよ! ゼロになっても、諦めるなぁー‼︎」
ヨルシゲは、険しい山道を、恐ろしいスピードで駆け上がって行った。