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傍から見守り導く生活  作者: 藤沢凪
第六章  『竜魔王討伐戦』
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2  一番君の事を知ってるのに

 2  一番君の事を知ってるのに

 

 

 ヨルシゲに手を翳し、言葉を念じた。

 

「アヤト君! ルナを連れて、安全な場所まで行こう!」

 

「安全な、場所……」

 

 今、そんな所が無い事は分かっている。でも、ルナを休ませないと。

 

「へ……や」

 

「ルナ?」

 

 起きた? いや、寝惚けてるのかな?

 

「アヤトの、部屋が……いい……」

 

「僕の部屋か……全然戻ってないな。無事なのかな……?」

 

「アヤトの……匂いがする枕に……顔を埋めて……へへっ……眠りたい……」

 

 へへっ⁉︎ これ完全に寝言だ……正気だったらそんな事ルナが言う筈無いもん!

 

「ちょ、ちょっと⁉︎」

 

「どうしたアヤト?」

 

 ザリガニ達には聞こえてなかった様だ。

 

「あっ、部屋に行くよ! すぐ戻るから!」

 

 アヤト君が慌ててるの、意外と珍しいな。

 

「何言ってんだよ! ルナが起きるまで、傍に居てやれよ!」

 

「でも……」

 

「起きた時に、誰も傍に居なかったら、ルナ、寂しいだろ? ルナが一番頑張ったんだ。起きるまで、傍に居てやれ。オイラ達はここで待ってるからよ!」

 

「ザリガ、じゃ無くてリーダー……」

 

 最近、ちゃんとリーダーしてるな? 責任を与える事で、人って変われるのかな?

 

 いつもの様にヨルシゲに咥えてもらい、アヤト君とルナを背に乗せたヨルシゲが町まで走った。あんなに人通りで溢れていたのに、部屋のアパートに着くまで、誰一人とも出会す事は無かった。

 

 ヨルシゲの背から降りてルナを背負うと、アヤト君はアパートの階段をゆっくりと登って行った。ルナを、起こさない様に慎重に、一歩ずつ、緩やかに歩を進めた。部屋のドアを開けた。カーテンは開いていたのだが、時刻はもう日の沈む時刻を過ぎている。それでもアヤト君は電気を点けず、暗い部屋の中を慎重に歩いて、やがてベッドまで辿り着き、ルナを優しく寝かせた後、ソファーに腰を下ろした。

 

「お疲れ様、アヤト君」

 

 声に出して言ってみた。勿論、アヤト君には聞こえ無い。

 

「死んだり生き返ったり、よくもまぁ私の心を弄んでくれたものだよ」

 

 私の葛藤なんて、アヤト君は知らない。

 

「どうしよっかこれから? 私……上手く、やれるかな……?」

 

 アヤト君は、私の相談に乗ってはくれない。

 

「不安、だよ。私が、決めてしまったんだ。それに、みんなが振り回されるの」

 

 私の不安を、アヤト君は知らない。

 

「隣、座るね?」

 

 アヤト君、何故一人なのにソファーの端っこに座るの? しょうがないから、私も一応疲れてるんだから、ソファーの空いてる所、使わせてもらうね?

 

「意外と狭いな。なんか、近いな……あのね? アヤト君。私、初めの頃、本当馬鹿で、ダメダメで、君に食事を送る義務を怠って、君を餓死させてしまう寸前だったんだ」

 

 アヤト君は、座った位置からまるで動かず、その目は長めの前髪に覆い隠されて見え無かった。

 

「本当、使えなくて、アヤト君は、クジ運悪かったよね? でもね? それでアヤト君が死んだら、私も死のうと思ってたの。だってそうじゃん? それで、私ダメでした。失敗しちゃいましたで終わりなんて、おかしいもん。本当に、そう思ってたんだよ?」

 

 アヤト君は、私の弁明なんて、聞こえない。

 

「私ね、この世界で、友達がいっぱい出来たんだ。みんな、本当は何も持っていない私を、勘違いで担ぎ上げてさ、頼って、くれるの。仲間だって、繋いでくれるの」

 

 私の言葉に、振り向いてすらくれない。

 

「嬉しかったの。アヤト君も、もう私が何もしなくても、仲間が居て、その人達に助けられる訳じゃん? だから、ごめん。もう、アヤト君の為には死ねないの。アヤト君が死んでも、私は、自分のやれる事をやる為に、生きたいんだ」

 

 届かなくても、アヤト君なら、私のその言葉を否定する筈無かった。

 

「別に、良いよね? 私の事なんて、どうせ知りもしないままさよならなんだし」

 

 何言ってんの私? もう、いいじゃん。

 

「私が、どんなに頑張ったって、君には何も伝わらないんだし!」

 

 そんなの、はじめから分かってた事だよ。

 

「ってか、なんなの? ルナルナルナルナルナルナルナルナってさぁ⁉︎ ルナが、一番アヤト君の事考えてるってなる訳⁉︎」

 

 そうだよ。見てて分かんない?

 

「私が、一番君の事見てたのに、私が‼︎ 一番君の事知ってるのに‼︎」

 

 ごめんねアヤト君。聞こえ無いのを良い事に、言いたい事言うだけだから。

 

「引きこもってた君がこの部屋から出れたのも、ヨルシゲと出逢った時、その攻撃を躱せたのも、分岐点の村人を使って、野犬の群れまで道案内したのも、トキオを眠らせて攻略出来たのだって、私が導いて来たからだよ? その子が何を知ってる⁉︎ 私が、君をずっと見守ってきたんだ! 今の君があるのは私のおかげなんだよ⁉︎」

 

 私は、こんなに恩着せがましい事を言う奴だったのか。

 

「私の目を見てよ? 言葉を聞いてよ? 無視しないでよ! 私にも優しくしてよ‼︎ 私に、気付いてよ……私の事知って? 私の事も考えて? そうしたら、必ず私が君の一番になれるのに! 絶対君の事振り向かせてみせるのに‼︎」

 

 やめてよ……泣かないで。

 

「何言ってんだろ私……まぁ、聞こえないんだしいっか。ただの自己満だよ……最後に、そんな浮ついた事言ってみたかっただけ」

 

 言葉に出して、吹っ切れた気がする。これでもう、アヤト君とルナの事、ちゃんと祝福出来るよ。

 

 パソコンにメールって、まだ送れるのかな? 今はゆっくり休んで欲しいのもあるんだけど、君の、決意が知りたい。

 

『あなたは、竜魔王を討伐しに行きますか? YESかNOで答えて下さい』

 

 今、君がNOと答えても、私の助けなんか要らなくて、君に出来た仲間達が導いてくれる。だから、今は私だけにでも、弱音を吐いても良いんだよ?

 

 パソコンが、私の打った文字を甲高い電子音で読み上げた。アヤト君は少し驚いた後、メッセージを聞き終わると、ゆっくりとパソコンまで移動して返事を打った。

 

『YES』

 

 その言葉が、私の携帯に送られて来た。

 

「本当に、強くなったね。良かったね? ……大好き、だったよ。アヤト君……?」

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