22 男の喧嘩
22 男の喧嘩
「ミーヤ? カイトになんて言う?」
MPが切れてしまったミーヤの代わりに、私とナキのMPを使い、ポタルを介して伝える言葉を吟味していた。
「もう色々と、声掛けてみましたし……」
「珍しく弱気だなミーヤ? 私がお手本見せてあげようか?」
「はっ⁉︎ 馬鹿にしてるんですか⁉︎ でも良いですよ! それでカイト君が元気になるんなら、みぃは願ったり叶ったりですし!」
「私に任せて! ってか、ポタルって何処いるの?」
「ここに居ますから、ここら辺に右手向けて念じて下さい!」
「分かった。はっ!」
ポタルが居るであろう位置に手を翳し、言葉を念じた。
「カイト君? いつまでそうしているつもりなの?」
声だけが聞こえてきた。ヨルシゲ喋らせてた時、みんなこんな感覚だったんだ。これもうホラーだな。
「ポタル……少し、黙っててくれないか?」
いつもの優しいカイトじゃ無い……
「アヤトを生き返らせる方法があるかもしれないじゃないか! そのままじっとしているだけなら、アヤトが生き返る可能性はゼロだよ⁉︎」
「分かった様な口を聞くなよ。そんな方法があるなら、今すぐ教えてくれよ? それが出来ないのなら、ぼくの前から消えてくれ」
ちょ、ちょっと! 想像以上なんですけど⁉︎ 発する言葉は、普段のカイトから想像出来ないものばかりで、はっきり言うと、もうお手上げだった。
「ど、どうしようミーヤ?」
「へっ? まだ二言しか話して無いですよ? もう詰んだんですか?」
「だって、これ以上喋らせたら、ポタルまであっち行けされそうじゃない?」
「……ですね。そうなるくらいだったら、初めから何もしない方がマシですしね。メミチには、何か秘策があるのかと思ってしまいました。気にしなくて良いんですよ? みぃがメミチを過大評価し過ぎてたのがいけないんですから」
怒涛の蔑みラッシュかましてくれるじゃん? 確かに、無策で話し掛けた私も私だけど。
「じゃあ、次はあたしが挑戦してみるよ」
「ナキ? 今の見てた? あなたには無理だから止めておきなさい」
「何言ってくれてる訳⁉︎ あたし出来るもん!」
「ナキチ、これ以上厄介事増やさないで下さい」
「ミ、ミーヤ……」
ミーヤの言い方もキツッ。ってかいつの間にナキは、こんな足手まといキャラに成り下がってしまったのか?
「ってかさ、やっぱりこんなカイト変だよね?」
「……そうなんです。カイト君がポタルに、あんな言い方するなんて」
「……もう一度だけ、ポタルに喋らせるね?」
「へっ? でも……」
「確認しなくちゃいけない事がある」
「……分かりました」
ポタルがいるのであろう場所に右手を翳し、言葉を念じた。
「一生の頼みだ。カイト君、少しだけ顔を上げて、目を見せてくれないか?」
「……なんで? そんなにぼくを、怒らせたいのか?」
チラッと覗かせたその目は、黒く染まりつつあった。
「ヤバい。ヤバいよ⁉︎ カイトが隠に侵されそうになってる‼︎」
「えっ、どういう事ですか⁉︎」
「さっき、ちょっとだけカイトの目が見えたんだけど、黒く染まりつつあった……」
「そんな……どうすれば、どうすれば良いんですか⁉︎」
ごめん。答えが、分からない。どうにかしたいのは私だって同じ。でも、どうしたらいいか、分からないよ……
「あっ、ユウヤ君……」
「えっ?」
ナキが目を向ける方へ視線をやると、そこにはザリガニが立っていた。
「ザリチ⁉︎ さっきカイト君から殴られた事、根に持って……」
「ミーヤ! ユウヤ君はそんな子じゃ無い! とまでは言わないけど、今はそうじゃないと思う‼︎ 多分……」
ナキ? あなただけでも、ザリガニの味方してあげて?
「ミーヤ? ザリガニの目を見て? 隠に侵されて無い! 何か考えがあるんだよ。少しだけ、見守ってあげよう」
「……まぁ、十秒くらいなら……」
短っ⁉︎ もうちょっとくらい猶予あげて?
「カイト?」
ザリガニが声を掛けると、カイトは振り返り、立ち上がった。
「何だよリーダー? さっきの仕返しにでも来たのか?」
本当、隠に侵され始めると、言葉使いまで変わるんだな……
「そんな訳ねぇ。オイラがした事は、取り返しのつかねぇ事だ……でも、それでも、カイト、お前に見て欲しい……いや、見せなきゃならねぇもんがあんだ」
「何だよ? 見せたいものって?」
「カイト⁉︎ お前、目が……やめてくれ……お前まで、そっちに行かないでくれ‼︎」
「何の事を言っている? こ、ころ、殺して欲しいのかな……? に、逃げろ……殺されたく無かったら、今すぐここから立ち去れよ⁉︎」
「オイラが憎いなら、それで少しでも落ち着いてくれるなら、好きなだけオイラを殴ってくれ。殺しても構わない。ただ、その後、必ず町に戻って、ルナを見てくれ」
ルナ? ザリガニは、ルナと町で会ったのか?
「あぁー? 何言ってやがる? 殴らないと思ってんだろ? 殺しはしないとか思ってんだろ? 甘ぇんだよ‼︎」
カイトがザリガニに駆け寄り、殴り倒した。カイトはマウントを取り、何回も、何回もザリガニを殴打した。
「……ナキ? ザリガニにシールド掛けようか?」
「馬鹿、メミ。男の喧嘩に、女が割って入るもんじゃ無いよ」
でも、ザリガニ……このまま殴られ続けたら、死んでしまうよ……
「アヤトを、アヤトを返せよ⁉︎ アヤトを、アヤトを、アヤトを、返せよ……」
カイトの手が、止まった。
「良がっだ……少しだけ目が、元に戻っだな……?」
ザリガニの顔は腫れ上がり、喋り辛そうだった。
「手を……手を自由にしてやってるのに、何で、殴り返しも、ガードですらしないんだよ……?」
「お、おばえの、悪い気持ちを鎮める為にやってんだ。殴り返して、ガードしてどうすんだよ?」
「リーダー……あんたの、見せたいもの、見に行っていいか?」
「あぁ、その為にここまで来たんだ」
ザリガニ? あなたの中に、漢を見たよ。