17 ダーリン
17 ダーリン
「チイナ?」
「んー?」
「チイナ‼︎」
「…………」
「あなたが捕らえてるっていう、三人の精霊は何処に居る?」
「はぁっ? アハッ! メミたんぶっ壊れちゃったのかにゃん? 教える訳無いじゃん」
「その三人の精霊を、どうやって捕らえてるの?」
「……縄で、括り付けてるよ」
「縄?」
「メミたん達やってたじゃーん‼︎ レイジを捕らえた様な精霊を縛れる縄だよ」
「……チイナ、あれね? 大勢の精霊の衣服を少しずつ貰って作った縄なんだ。私達の人数、二十人くらい居たかな? それでも、一本の縄を作るのが精一杯だった。マイ? 前にも聞いたけど、あなた達、チイナに衣服の提供した?」
「してません」
「……だから? 殺した精霊の衣服剥ぎ取って作ってたの」
「レイジはあの縄初見だったみたいだけど?」
「はぁっ⁉︎ アイツに教えてやる訳無いじゃん? いつ裏切るかも分かん無いし、死ぬ間際裏切ろうとしてたし‼︎」
「あなた、誰も信じれ無いんだね」
「はっ?」
「縄なんか無いんでしょ? あったとしても、誰の事も信用出来無いあなたには必要無い」
「何、言ってる? 捕らえてた奴殺して欲しいのかなぁぁっ⁉︎ お前が、お前が殺した事になるんだぞ⁉︎ 恨みを、恨みを買う事になるんだぞ⁉︎」
「もう、みんな、死んでるんでしょ?」
「……はっ? はっ、はっ、はっ……何、言ってる?」
「まず、あなたは人質が居なければこのパーティーを動かせない。プレイヤーという人質は、ルイが死んだ時点で使えない。そこであなたが考えたのは、精霊を人質に取る事。ルイ攻略戦の時、どうしても私達に危害を加えられないパーティーメンバーを見て、その案を思い付いた。単独で行動するより、その方が有利に事を進められると踏んだ」
「的外れだよ」
「そっか、でも最後まで聞いて? でもあなた達に縄など無い。そこであなたは、三人の精霊を殺した。残った精霊に、本当は殺している三人の精霊を人質に取ったと騙った。その嘘によって、残った精霊を支配下に置く事に成功した」
「あぁぁあっ⁉︎ 妄想癖でもあるのかな? 良く出来たお話でちゅねぇ?」
「チイナの話しが本当で、人質が居るのなら、最低でももう一人は協力者が必要なんだよ。分かるかな? もうみんな、あなたに襲い掛かる準備は出来てるよ? どうしても自分の信用を勝ち取りたいのなら、そのもう一人の協力者に、姿を見せる様に促さないとね」
「信用⁉︎ 何言ってる? おいお前ら! 働けよ⁉︎ ずっと何してんだお前ら⁉︎ 一度も役に立ってねぇお前ら‼︎ 捕らえろ! この女を捕らえろよ⁉︎」
「働かなかった訳じゃ無い! みんな、お前の狂った思想には従えなかったんだよ‼︎」
「チイナを信じろ‼︎ チイナには、ちゃんと協力者が居る!」
「マイ?」
「はい! メミっちに、もしかしたらチイナには仲間居ないんじゃないか説言われて、二日前くらいからずっとチイナを張ってた! チイナは、アタシ達以外の誰とも接触しなかった!」
「アァァッ⁉︎」
「ボロが出たね」
「あっ? いや、違う‼︎ 良いのか? 殺すぞ捕らえてた精霊をよぉ⁉︎」
「私が提示出来る証拠はここまで、どっちを信じるのかは、あなた達が決めなさい‼︎」
「……殺す。お前だけでも、殺してやる」
良いよ。でも、あなたも殺さなきゃ。
「メミっち‼︎ お返しします‼︎」
マイがレイピアを私に放り投げた。
「死ね‼︎」
チイナは短剣を振り翳し、私に突進して来たのだが、途中で自身のパーティーメンバーに止められ、羽交い締めにされた。
「終わりだね」
私は、マイから放られたレイピアをキャッチして言った。
「どうせお前ら、殺せねぇんだろ⁉︎ 誰がアダヂを殺すんだ⁉︎ 言ってみろよ⁉︎ 腰抜けばっか集まりやがって、糞の役にも立たねぇ‼︎ アダヂは、誰にも殺せねぇ‼︎」
「ごめんね。あなたは、もう無理なの。ごめんね」
マイから受け取ったレイピアを持つ手が、大きく震えた。
「はっ、ハハッ‼︎ 震えてんぞ? 勝ち確、勝ち確定‼︎ 全員ごろじでやるぅぅう‼︎」
「あ、あ、アァァァァァァァァァァァァァァァアッ‼︎」
レイピアを両手でしっかり握り、チイナに駆け寄り、心臓を貫いた。
「アガッ……」
「もうあなたを、そこから導き出せる言葉は、浮かばなかったんだよ」
「い、いだぁい、いだぁい……」
「みんなも、痛かったんだよ……?」
「だ……ダーリン……」
ダーリン? そういえば、チイナはルイの事をダーリンって呼んでたな。
「もうすぐ、いくからね……」
チイナは、ルイ達が不利になった時、ルイを見捨てたのかと思っていた。もしかすると、違ったのかもしれない。
「……ねぇ? あなたにとってルイは、どんな存在だったの?」
「メミたん? ダーリンはねぇ? アダヂのねぇ? 王子様だっだの……やざじくて、まっずぐで、ア、アダヂの言うことを、ゆいいつ、ひでいしないで、ぢゃんとぎいてくれたの……」
「それが、嬉しかったんだね」
「うれじがっだぁ。だがら、だえられながっだぁ。ダーリンがじぬどき、なにもでぎないのがぐやじかっだぁ‼︎」
「みんな、人を殺したく無いんだよ? あなたはその、身に宿る殺人願望を、消し去らなきゃいけなかったの」
「うしやどりを殺すのと、なにがぢがうの?」
「えっ?」
「なにが、ぢがうの?」
「……現世の時、勿論私も牛や鳥を頂いていたよ。でも、それは、生きる為の事だった。私には怖くて出来そうに無いけど、牛や鳥を屠殺して消費者に送ってくれてる人は、あなたみたいに快楽で屠殺してた訳じゃ無いんだよ?」
「ア、アダヂも、ダーリンのために、そのだべに、ほがのぜいれいをごろしてたんだもん」
「でもそのせいで、周りからの怒りを買ってしまったじゃない。人の為じゃなく、陥れようとした事は、自分に返って来るんだね」
「ダーリンがじあわぜに生ぎるみぢを、アダヂがこわしたのか? ごめんね。るい……」
「…………」
チイナを殺した。レイジも殺した。その罪は、私にどう降りかかって来るのだろうか。