16 マイ
16 マイ
「わ、わたし、嘘なんて……」
リナは、顔面蒼白状態だった。
「にぁあお前? 話しを詳しく聞こうじゃん?」
「ついさっきです! 自分に協力しろと言って来ました。そうすれば、ワタシ達をチイナ様から解放すると言って来ました!」
そっちにも、徳無精の精霊が混ざっていたのか? いや、そうとは限らないか。
「へぇぇ……お前、にゃまえは?」
「ユズキです」
「よくやったよぉ。それじゃあその裏切り者を、捕まえろ」
近くに居たチイナのパーティーの精霊が、三人掛かりでリナを羽交い締めにした。
「チ、チイナ様! こ、この様に、何処に裏切り者がいるか分かりません! ど、どうかワタシに、精霊を殺しに行く役目を下さいませんか? あ、あなたの、お役に立ちたいんです!」
「ユズたんは、精霊殺したいのぉ?」
「は、はい! それに、ワタシは裏切り者を明らかにしました! 信用、してもらえますよね? どうか! ワタシに! 捕らえられた精霊を殺す役目を下さい‼︎」
随分とその役目に拘るな?
「そうかぁ、それじゃあ手始めに、リナたん殺ちて」
「えっ……」
ヤバいな。駄目だ、このままじゃリナが殺されてしまう。ステイも数が足りない。私が身を挺してでも、リナだけは守らなきゃ!
少しずつ、リナの傍へ寄って行った。
「ユズたん? 精霊殺したいんじゃ無いのかなん?」
「わ、分かりました! ワタシに、任せて下さい……」
ユズキは短剣をリナに向け、奇声を発しながら突進した。
「ラァァァァァァァァァァァァアッ‼︎」
ダメ‼︎ 間に合って……リナが殺されるなんて、嫌だ、嫌だよ‼︎
「オラァァァァァァァァァァァァァアッ‼︎」
「なっ⁉︎」
物陰に潜んでいたマイが、私が護身用にと持たせておいたレイピアで、ユズキの短剣を薙ぎ払った。
「バカヤロォ‼︎」
マイがユズキの頬を思い切り殴り、ユズキは地面に倒れ込んだ。
「お前は! 自分の恋人が助かりゃあ、他の精霊は手に掛けても平気なのかよ⁉︎ 心まで腐っちまったかオラァ⁉︎」
「マイ⁉︎ 死んだんじゃ無かったの⁉︎」
「てめぇの愚行に黄泉から蘇っちまったみてぇだなぁ! アァァッ⁉︎」
状況を、まずは理解したいのだけれど?
「はぁ? マイたん?」
まず、その場を見ては無いのだけれど、リナとマイが一芝居打って、マイはチイナの中で死んだ事になってる。だからチイナはハテナとなってる。
「メミっち! ここしか無いと思って出て来ちゃったよ!」
「うん! ナイスタイミングだよ」
ユズキがリナを刺そうとした所を、マイがレイピアで止めました。で、その後……
「コイツ、ユズキは、精霊と付き合ってたんです。その精霊が、チイナに捕らえられている三人の精霊の一人なんです」
「そうなのか! 説明ありがとうマイ。理解出来たよ」
力無く頭を起こし、ユズキが喋り始めた。
「不安、だったから。リナの言葉を、本当に信じて良いのか分からなかったから! ワタシが、この手で救いたかった‼︎」
「その為に、お前はリナっちを殺そうとしてたんだぞ⁉︎」
「あっ、あの、わたしを今羽交締めしてくださってる皆さんには、話しがついてるので、刃が迫った瞬間逃がしてくれる算段だったのですが?」
そうなの⁉︎ でも良かった。リナに命の危険はほぼ無かった訳ね。
「……もう、おしまいだ……きっとチイナは、許してくれない。捕らえられたユウゴを、殺すんだ」
ユズキがそう言うと、マイはユズキの髪を掴み、強引に立ち上がらせた。
「もうおしまいだじゃねぇんだよ。お前、自分がどんだけこの場荒らしたのか分かってんのか?」
「はぁっ? 綺麗事抜かしてんじゃないわよ。マイ、あんた、人を愛した事無いんじゃ無いの? 何したって、誰かを殺したって‼︎ どんな手を使ってでも守りたかったんだよ‼︎ ユウゴの事が心配で、心配で……きっと今頃、いつ殺されるか分からない不安で、恐怖で、震えてるんだ。ワタシが、ワタシが救ってあげたかった」
「あんたがしてんのは、愛でも何でもない。ただの一人よがりだよ」
「は、はぁっ? ひ、一人よがり?」
「ユズキお前、それでリナっちを殺して、ユウゴを助けた後、その事ユウゴに伝えられんの?」
「それは……」
「ユウゴとはよく喋ったりもしてた。お前はユウゴが、誰かの犠牲の上で生き永らえて、それで喜ぶ奴だと思うか?」
「ユウゴは……ユウゴは! 優しい人だった。だから、好きになった。そんな事知ったら、ユウゴは……」
「分かるか? 愛ってのはさ、自分の気持ちを押し付ける事じゃねぇ。相手の気持ちを慮ってやる事なんだよ」
「ワタシは、ユウゴを、愛して無かったのかな?」
「好きだったんだろ? 愛だろうが恋だろうが、それは素敵な事だと思うよ。ユズキの言う様に、アタシは誰も愛した事無いのかもしれねぇし。でもさ、誰かを殺してまで、不幸にしてまで手に入れる愛なんて、アタシは要らねぇ」
「マイ……ごめん……」
チイナ? 私やっぱり、あなたの事は、許せないんだ。
「なんだかにゃん。仕事出来る兵は残ってないのかにゃー?」
チイナは、大きな伸びをしてつまらなそうに言った。
「総司令、すいませんわたしのミスで……」
「ミス? そんなの無いよ。リナは、良くやってくれた」
「でも、このままじゃ、捕らえられている精霊の一人が殺されてもおかしくない! 防げ無いですよ……」
「多分、私の想像通りだから、大丈夫」
「えっ、そうなんですか⁉︎ 流石です総司令! それじゃあ、みんな助かるんですね! ユズキの恋人のユウゴも、みんな助かるんですね!」
「…………」
「総司令?」
私、こんな役嫌だよ。全ては、チイナを止める為。ミオナさん? この呪いを掛けたあなたの事を、少しだけ恨みます。でも、ミオナさんも、本当はやりたく無い事をずっとやっていたんですね。