13 石
13 石
「何処行ったか分かんなくなっちゃうよ? ナキ? ザリガニを追って」
ナキは、ザリガニが離れてしまってからも、私とルナの近くに居てくれた。
「だって……あたしのせいで……ユウヤ君とあたしのせいでアヤトは死んでしまったのに、放っておけないよ……」
「大丈夫だから。ナキとザリガニのせいなんかじゃないよ」
「でも、傷付いてるんだよね?」
「平気だよ」
そんな嘘、見透かされて当たり前だった。
「メミを、今のメミを一人きりになんか出来ないよ!」
「お願い……一人にさせて?」
「へっ……」
「一人になりたいの」
これだと何か、ナキが傍に居ても心の支えにはならないみたいに受け取られないかな? そんな事無いよ? 本当は、傍に居て欲しいよ? でも、ナキもパートナーの傍に居ないといけないと思うんだ。この気持ち、伝えたいんだけど、どうしてももう、言葉を出す事が出来なくて、ゴメンね? ナキ。
「メミ……電話、するから……」
ナキがザリガニの去って行った方向へ走って行った。ルナはまだ、アヤト君の亡骸を見つめ静止していた。
もう、私の声は、誰にも届かないよね?
「……う、う、う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」
抑えていた感情が爆発して、叫んで、喚いて、いつまでも、いつまでも泣き続けた。
どれほどの時間が経ったのだろうか? 泣き疲れて、ただ呆然と、アヤト君の亡骸を眺めていると、ルナがゆっくりと立ち上がり、アヤト君の亡骸を背負って歩き出した。
ゆっくりと、一歩ずつ慎重に歩いた。時に止まり、アヤト君を木に寄り添わせて休憩し、また背負って歩いた。
私は睡眠を取らなくても大丈夫だけれど、ルナは平気なのかな? 一人の時は洞窟で寝てたって言ってたし、寝ないといけないんじゃないのかな? ルナは、二日間眠らずに歩き続けた。この世界の遺体は腐敗しないみたいだ。それだけが、心を保っていてくれるものだった。
ルナの目的の場所に着いた。途中で気が付いてはいた。そこは、アヤト君とルナが初めて出会った、ルナが生まれ育った洞窟だった。しかし、そこはもうルイツーの大槌で破壊された後だった。
「うぅ……うぅぅ……」
ルナの、振り絞る様な泣き声が聞こえた。こんなの、見てられないよ。
もしかしたら、洞窟は壊されて無いかもしれないと思って来たのかな。自分の育った洞窟が壊された様を見たショックと、もう、アヤト君は助けられないという事実が、ルナにはのしかかっているのかもしれない。
その時、ルナの瞳が大きく開いた。
アヤト君を背負いながら、全速力でその場へと駆け寄った。
「アヤト……アヤト……? ありがとう。ありがとう」
良かった。見つけてくれた。
ルイ攻略の為の作戦会議で、この洞窟を囮に使う事が決まった後、アヤト君は一人その場から離れて、この洞窟まで来た。そして、ルナが毎日手を合わせていたというこの位牌の様な石を、離れた所へ移動させていた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ! ルナは! ルナは……どうすれば良いんですか? 教えて……教えて下さい‼︎ お願い、します」
ルナ……傍に居て、今はあなたの事を見守りたいのだけれど、私も、やらなければいけない事があるんだ。
リナから着信があった。私も、自分の位置を知らせる為の草笛を鳴らした。
しばらくすると、レイナが駆けつけて来た。
「メミ総司令! 時が来ました」
「レイ、ナ? 詳しく教えてくれる?」
「はい! 取り敢えず、場所へ向かいながらで!」
レイナで合ってた、のかな? 良かった。さすがに見分けつく様になってるね。
レイナの誘導する場所へ向かった。
「リナは無事?」
「はい! リナは本当に優秀なんで、心配なんかしなくていいんですよ!」
「それ、リナもあなた達に向けて言ってたよ? 凄い絆だね、あなた達」
「本当ですか? あの子、四人で居る時は、憎まれ口ばかり叩くのに……」
「そうなの? いつもは、こんな私を敬ってくれるのに」
「こんな私なんて、言わないで下さい! ミオナさんのおかげで、わたし達は腕を磨けました。そんなミオナさんが想いを託したメミさんを、信頼してるんですから」
「信頼なんて、しないで欲しいな……」
これから、チイナを殺しに行く。そして、私の取る行動で、きっとみんなからの期待を地に落としてしまうんだ。