12 絶望に抗え
12 絶望に抗え
「せめて、埋めてやってもいいか……?」
ザリガニの言葉に、異論を唱える者など居なかった。
辺りを見渡したザリガニは、この界隈で一番大きな木の下に穴を掘り始めた。トキオが手伝おうと近付いたのだが、ザリガニはあっという間に大きな穴を掘っていた。
その穴にマキナさんの遺体を埋めて、傷を負ったアヤト君にルナとザリガニが肩を貸し、トキオが先頭を歩いた。
もう、パーティーがどうのこうの言ってる場合じゃないよね。信用出来る人が、少なすぎる。
「あの……ザリガニ? その持ってる剣って、まさか……」
持ってる剣? あっ、それって……
「これか……? そう、ルイの持ってた剣だ」
魔斬ノ剣か⁉︎ 頭パンパンでそこまで目いって無かったよ! だからあんなに穴早く掘れたんだね。
「ルイが、その剣じゃ無いと魔王を切れないと言っていたよ! お手柄じゃないかリーダー!」
「その剣を、お前に向けてしまった……オイラ、最低だ……」
そうだね……とは思うけどさ、色々あった訳だし、アヤト君は無事だった訳だし、気持ち切り替えていかないと。
「お前らのパーティーの事だから、俺が口挟むべきじゃねぇのかもしれないけど、さっきの事、アヤトを斬った事、引き摺らない方が良いと思うぜ?」
トキオがザリガニへ助言した。
「そんな、お前の言う様に、簡単にはいかねぇよ……」
「取り込まれんなよ? さっきまでお前、危なかったんだからな? 今までのみんなの挙動を見てて分かったのは、目が黒くなると操られて、殺人衝動に侵される」
トキオ、意外と鋭いじゃん。
「はっ? じゃあマキナを殺したあいつらは?」
「負の感情に覆われて、殺戮兵器になった奴らだよ。ザリガニ? お前もそうなる手前だった。だから、自分のせいでとか背負って、負の感情に飲み込まれんなよ?」
それから、誰も言葉を発する事無く歩いた。そして、周りが木で囲まれる場所で腰を据えた。アヤト君が、もう限界だったから。
「……ザリガニ? 気に病まないでね?」
アヤト君を木にもたれ掛けさせ、ルナ、トキオ、ザリガニが、三方向に注意を配る体制になった。
「オイラ、オイラ‼︎」
アヤト君の傷は、深く無かった筈なのに、血が、止まらず流れ続けていた。
「ザリガニ! さっき言っただろ⁉︎ 心を持って行かれるんじゃねぇ!」
「……そうですよザリガニ。あなたが負に染まったら、味方が一人減って、敵が一人増えてしまいます」
「分かってる。分かってるけどよぉぉお! 何で、何で血が止まんねぇんだよぉぉお‼︎」
雨が、降って来た。ナキも何も言えず横に居るから、助かるな。もう泣いてても、気付かれないから。ここで泣いてるのバレたら、ナキに罪の意識を背負わせてしまうもんね。
「僕は、幸せだったよ。一人ぼっちだった僕が、こんな、素敵な仲間に囲まれて死ねるなんて、本当に、幸せだよ。だからザリガニ、気に病まないで? トキオ、残った仲間をよろしく頼むよ。ルナ、ごめん。君に、外の世界の素晴らしさを、伝えられたのかな……でも、傍に居てくれて、ありがとう」
「アヤトが死んだら、ルナを外の世界へ連れ出してくれたアヤトが死んだら! ルナはどうやって見たらいいんですか? この世界を、どう見ていけばいいんですか? 外の世界は素敵だって、それを教えてくれるって言ったじゃないですか⁉︎ 死ぬなんて言わないで下さいよ。いつもそうだ……いつだって命を懸けるじゃないですか⁉︎ ルナの気持ち、考えた事あるんですか……?」
アヤト君は、もう。
「応えてよ? 応えてよ‼︎ 何も……言わないなんて、狡いよ……応えないままでいるなんて、狡いよ……」
もう三人共、気付いていたと思う。
「オイラ……もう、みんなとは居られねぇ。トキオの話しが本当なら、オイラ、二人と居ると、後悔の念で染まっちまう」
「負の感情に、支配されんなよ? 俺はお前を、殺したくねぇ」
ザリガニは、魔斬ノ剣を置いて去って行った。
「二人きりになっちまったなぁ?」
トキオがうずくまったまま動かないルナに言った。
「うぅ……うぅっ……うぅ……」
「俺も行くぜ? お前を置いて」
「うぅ……アヤト……」
「俺は一人で残りの仲間を探す。お前はどうすんだ? ずっとその屍の前で泣き続けんのか? 報われねぇなぁアヤトも‼︎ ザリガニは腰引けて逃げて、お前はその死体の前で泣いてるだけかよ⁉︎」
ルナの瞳は真っ赤に染まり、トキオを睨み付け叫んだ。
「うるさい‼︎ あんたに何が分かんのよ⁉︎」
「分かったのは、ルナにまだ生気があるって事だな。ルナ、今までアヤトがしてくれた恩を、返さないといけねぇんじゃねぇのか?」
「恩を、返す?」
「そんな恩、貰った覚え無いなんて言わねぇよな? まぁいい。ルナは絶対防御あるから一人でも平気だろ?」
「はい……でもルナは、一人で何をすれば……?」
トキオには何かしらの、答えがある様に感じた。
「分かんね。ただ抗えよ。絶望に抗え」
「絶望に、抗う?」
戸惑うルナを置いて、トキオは一人、来た道を戻って行った。